■クエタの海は戦場
『で、どうやって接近するつもりでいるんだ?』
ハクトはホノエに訊ねられる。
「それなんだが、紀ノの艦砲射撃許可が下りた。引き金を引く瞬間はこっちに任せるってよ」
『先ほどの繰者を狙った攻撃があったからか』
繰者を直接狙うこと自体が戦争犯罪の中でも極刑に値するものだ。当然、罰則も大きい。繰者に対しては速やかに捕縛――抵抗する場合は機体の破壊、殺害許可まで下りる。
「一門はお前が使えよな」
紀ノには二門の光弾砲が備えられている。光弾砲とはエーテル流を砲弾にして撃ちだす兵器である。発射から着弾まではΤの間――つまり発射と同時に着弾する。
着弾した箇所はエーテルの重質量に引きこまれて圧壊する。そのため機体へ直撃させるのはやむを得ない事態でないかぎりは避けるよう推奨される。
弾道軌道が発生するのはエーテル流といえども砲弾として物理的な動きに則しているからであるが、一方で観測できる事象が既に終わっているという人間の認識からズレたことが起こる。
『敵機から何かが射出されたのを確認した』
「全部捕捉できたか?」
焔朱雀から捕捉したデータが同期される。白い機体から射出された板状のものが六枚と同じく赤い機体から射出された六基の羽虫のようなもの。
おそらくこれが全方位攻撃を可能している端末であろう。
『誰に聞いている? あとは撃つ瞬間を同期するだけだ』
「……そうだったな。流弾は拡散させて目くらましをかけるぞ」
『了解した』
ハクトが引き金を引く。それと同時に敵の端末の銃口がこちらを捉える。しかしその群れことごとく頭上から降り注ぐ光のシャワーに貫かれて爆散をしていく。
シャワーは軌道を変えながら時に収束させて敵機から遮蔽となって砲撃を阻止する。
「このまま近づくぜ!」
白雫虎が翻って加速をかけると間もなくして赤い機体の右腕にめがけて金柑を投げると赤い機体は右手に持っていた銃が弾かれると同時に腹の部分からビームの束を撃ちだす。
ハクトは舌打ちすると金柑を手放して左肩から山茶花を抜く。
「盾をとられた……!」
――野郎ぅ! 意気込むハクトは懐まで斬りこむ。
白雫虎の光振刀は通常のものよりも少し短い。到達点は短かくも二本ある光振刀で牙の如く食いこませて、時に金柑を尾のように振りまわすのが白雫虎の戦い方である。
すると敵は盾から光振刀を抜き放って切り結ぶ。
「全身武器かよ!?」
人機に装備されている兵装は3種類ほどだ。これは盾と光振刀で二種類。さらに投擲武装を含めば三種類。
それに比べて赤い機体は砲撃武器だけでも二種類以上ある。他にも武装を持っていると考えるべきだろう。
『援護は必要かい?』
ハクトにホノエの声が響いた。
――◇◇◇――
「矢は回避されるんですか?」
月輝読が矢を放ったと同時にティユイはポリムに訊ねる。
「エーテル流弾は破壊力がありすぎて狙いも正確さを求められるからね」
――なるほど? 矢が白い機体から撃たれる銃撃で破壊される。
「動いて! 敵はいつまでも同じところにいちゃくれない」
「撃ち落とせるものです!?」
――しまった。しかし先ほどまでに白い機体がいた場所にはバズーカ砲のようなものが残っているだけ?
――どうして? そんな疑問は一瞬で吹き飛ぶ。バズーカ砲から弾が発射されて月輝読のほうへ向かってくる。咄嗟の判断でティユイは月輝読の弓矢を弾がくる軌道へ投げつけて退がる。
「敵はどこです?」
『……頭上です』
その言葉に従ってティユイが見あげるとそこには白い機体と焔朱雀の姿。
焔朱雀は背中に装填されていた投げ斧二本を投げつける。すると斧はくるくるとまわりながら白い機体を追尾するような軌道をとる。
それを白い機体は銃砲で弾きつつ回避運動を行っている。
焔朱雀は白機体の頭上から両手で槍斧――川蝉を振りかぶる。振り下ろされた刃はまっすぐに白い機体の銃砲を破壊するに至る。
白い機体は銃砲を手放して盾からミサイルランチャーを撃ちながら後退していく。
焔朱雀もミサイルランチャーを盾で凌ぎながら身動きをとれないでいた。
「全身武器庫ですね……」
「だけど、かなり武装を削ったはずだよ」
月読夜は盾を構えながらスラスターを噴かせて上方へ加速をはじめる。今度は白い機体を見逃さない。
「しかも二対一です!」
焔朱雀も頭上から追撃をはじめる。ちょうど上下から挟み撃ちする形だ。
すると白い機体を視認したときは盾がそこに設置してあっただけだ。そしてまた盾の先端から光弾が放たれてくる。
「……また!?」
――どこだ? 探すんじゃなくて予測しろ。……おそらく来るなら正面!
白い機体は光振刀を構えて斬りかかってくる。盾で刃を受け止めると滑らせて根元にまでくぐらせつつ刀拳を突きだす。
刃は脇腹に突きたてられる。
『お見事です!』
白い機体の頭上やや後ろより槍斧が振りおろされて一刀両断される。
それから機体が完全に沈黙したことを確認した二人はすぐにハクトの援護に向かう。
第一三独立部隊がターバ海域の占領を宣言したのは間もなくのことである。
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