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ヴラシオの世界より~遙かなる時空の彼方に新人類はクラゲの中で揺蕩う~  作者: あかつきp dash
第六話 雪原より芽吹く蕾は東風に撫でられて
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■戦いがはじまる

「間もなくターバ水母領海内に侵入します。敵機を確認したところ人型が二機ですね。艦影はないそうです」


「セイオーム軍の正規軍の機影はないのですね?」

「いえ。あの二機はセイオーム正規軍の識別信号を出しています」


 紀ノの司令室内で艦長のマコナと副長のスナオがやりとりをしているところだった。

「……この戦闘でセイオーム軍はこれ以上の消耗を抑えたい。一方でターバの占領はセイオーム国がハルキア国への侵攻が失敗することを内外に認めることになる。この二つは行動として噛み合うでしょうか?」


「ですけど、ハルキア各地に駐留しているセイオーム軍は出港準備をしていますよ」

「だったら、どうしてターバに艦影がないのかです。我々の戦力は決して多くありませんが、それにしても防衛が手薄すぎるように感じます。これは思惑が交錯しているように感じますね」


「この防衛網ではターバを守りきれないと?」

「はい。個々の実力差はありますが、それは戦術に影響を与えることはあっても戦略への影響は軽微でしょう。結局のところ数で優勢なところが勝ちます」


「退却に労力を割いているセイオーム軍はターバへ部隊を向けられませんね」

「本来セイオーム軍はおそらくハルキアに駐留する余力を既に失っているのでしょう。一方で政治的な配慮から駐留をせざるを得なかった。ですが、今回でターバを取られると退却する理由が作れた」


「最初の話に戻りますが、政治的勝利を手放すことになりませんか?」

「その通りですが、勝利とその維持よりも決定的な敗北を避けるほうがコストは安くつきます。おそらく損切りかと」


「しかし政治的に敗北を認めるのは失態となりませんか?」

「権威主義的国家であればそうなります。幸いセイオームは権威主義国家ではありませんから。議会立法主義の中にあって権威主義的な振る舞いで国民を煽ったソウジ・ガレイ閣下の面子が潰れたに過ぎません」


「なるほど。一人の政治家の面子が潰れるくらいですむなら、ですか。どのみち私たちの行動はセイオーム国を利することになりますね」


「これから開かれる五カ国会議のことを考えればハルキア国に他国の軍が駐留している状況はよいとは言えませんよ」


 ――それに。それに勝利が必ずしも後々よい結果を与え続けると考えない方がいい。それは常に歴史が証明をしていた。


   ――◇◇◇――


「どうして銃砲があるのに人機が使う射撃武器は弓矢なんでしょうね?」

 これでは盾と剣がすぐに使えないとティユイは嘆いた。


「古来から肉体を使って戦うのを人型のメカで実践するという主旨のせいだね。だから飛び道具は弓矢とかになるんだ」


「筒に矢は五本」他に弓の梓、刀拳の橘を二本、盾の玉藻は腰後ろのアタッチメントに付いている。

 ティユイは周辺の確認をする。現在、月輝読は焔朱雀と白雫虎の間、アーチ型陣形で前面に配置されてクエタの海を機行していた。


 目標はターバだが、その前に二機の人型機が敵性行動をとっているということだった。

『皇女さん、お互い訓練はそこそこだが俺の指揮でやれそうかい?』

 ハクトから声がかかる。


「はい。お二人が私の動きを合わせてもらってますから」

『それで俺たちの実力がわかってもらえるとありがたいね』


 月読夜のスラスターは他機体に比べると大型で少しでも噴かせてしまうと両機を置いていってしまう。加減はしているつもりだが、それでも陣形を一切崩すことがないのはさすがだとティユイは感じた。


「敵機が砲撃兵器を持っているから武器射程の一番長い私が先に前面に出るんですよね」

『そろそろ敵機の射程に入るぞ!』


 白い機体と赤い機体が待ち構える。

『各機、散会!』


 砲撃がくると同時、月読夜たちは回避運動をして前進していく。月輝読の弓矢も間もなく敵機を射程圏内に捉えられる距離だ。矢を射る構えをするべきと考えていると後方、足下……複数の位置から殺気を覚える。


「ティユイ、全方位攻撃だ!」

 ポリムが叫ぶと共に足下から光が突き抜けていくのを仰け反る形で躱すと、続けて頭上と左手方向から同様に攻撃を仕掛けてくる。


 当てるためというよりは避けさせるための砲撃のようにあった。

(この状態でガラ空きになっているのは……)


「ティユイ、正面!」

 月輝読は腰後ろの盾がアタッチメントから外し、足のつま先を持ち手の部分に引っかけるてコックピット付近まで引っ張り出して、同時に盾が遮蔽となって光を弾き飛ばすのがチラリと見えた。


「コックピットを狙ってきましたよ!」

 体が敵機の正面にくるように全方位攻撃して、コックピット部分が敵機の射線軸からガラ空きになるよう計算したのだ。


「でも、反応できたじゃないか」

「でなければ死んでましたよ! ハクトさんとホノエさんは大丈夫なんですか?」

 月輝読は盾を回収して再び弓矢を構える。


『各機、損傷報告してこい』

 ハクトから報告指示がくる。


「こちらは損傷なしです。でも、コックピットを狙われました」

『確認している。無事で何よりだ。おかげで制限解除が下りちまった。……殲滅戦になるぜ』


「相手のコックピットに生命反応はないようですけど……」

『とはいえ人型を一刀両断するのは忍びないね』


 ホノエが肩をすくめている。本来であれば四肢をもげば終わる戦いがそうでなくなったということだ。こちらの命を狙ってくるような輩はもはや容赦する必要はない。


『ホノエ、お前は白い奴を詰めろ。赤いのは俺が狩る。皇女は敵機が連携しないよう牽制。行くぞ!』


 敵機から月輝読への射線軸を塞ぐように白雫虎と焔朱雀が軌道を変えながら動く。月輝読は一方で弓矢を構える。


「次はこちらの番ですよ!」

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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