表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/82

■ケイトヘ

登場人物:ルディ、ユミリ、レイア、キリ、ティユイ

 蒼天龍が格納庫に入ると誘導されてハンガーへと納まる。それからコックピットだけが分離されてルディとユミリが降りてくる。すると、しばらくしてから人気のない格納庫に人影がいくつか現れる。


 そのうちの帽子を被った一人の女性が前に出てくる。スラリとした長身と意志の強そうな瞳をたたえている。

「ようこそ。我らの旗艦音羽(おとわ)へ。私は艦長のヒイラギ・レイアです」


「自分はハルキア軍人機隊……先ほど部隊長を拝命しましたカナヒラ・ルディです。こちらはユミリ王女です」

 歓迎の意にルディは敬礼で返す。敬礼は万国共通の意味を持つ。


「早速ですけど、二人には第一三独立部隊に所属してもらおうと思います。なので、同意のほうだけ後ほどお願いします」

「あのぅ、それって拒否権があるってことですか?」


 ユミリが遠慮がちな声音で訊ねてきた。するとレイアは少し困った表情を浮かべる。

「そうね。でも、同意してくれると助かるわ。保護というより護衛のために所属してもらうってことだから。カモフラージュにも使えるしね」


「……わかりました」

 ユミリは理解したかわからないという表情で頷く。


「それで早速なんだけど、二人には任務にあたってもらうわ」

「もうですか!?」


 ユミリが思わず声を張りあげる。

「ええ、ケイトにいる要人の保護よ」


「私、そんな大それたことできへんよ……」

「大丈夫よ。モニタリングが主体になるから。それともう一人連れて行ってほしいのがいるのよ」


 ――きなさい。そう呼ばれて少年が一人やってくる。それはユミリはもちろん、ルディよりも年下の少年であった。

 レイアと並んだ際にどことなく似ているようにユミリは感じた。だが、それ以上にユミリは胸のあたりがざわつくのを感じていた。


「自分はシキジョウ・キリです」

「彼を同行させるわ」


「シキジョウって、あのフユクラードのシキジョウですよね?」

「そうよ。第一三独立部隊は国籍をこだわらず、一つの目的のために結成された部隊だからね」


「そうなんですか……」

 先ほどまでハルキアを攻めてきていた国の人間とこうして早速顔を合わせるというのだからわからないものだと、ユミリはルディの顔を一瞥する。その表情からは彼の感情は伺い知れなかったが。


「あなたたちにはまず要人と接触してもらうわ。それから、そうね……一年くらいは滞在してもらうことになるでしょうね」


「結構、長いんですね……」

「すぐよ。すぐ」


「それで、その要人とはどんな人なんですか?」

「現在、海皇陛下と皇后陛下がお隠れになっているのは知っているわよね」


 一同は頷く。

「両陛下には二人のご息女がいてね。二人とも消息が不明だったんだけど、内の一人が見つかったのよ」


 三人の前に映像が現れる。そこには旧時代――たしかセーラー服というのだったかを着た少女の姿があった。


「彼女がティユイ皇女よ。まず、あなたたちは彼女と接触をして仲良くなること。注意点として彼女は記憶を失っていること。それと既に使わなくなった西暦でいう二〇二〇年代――私たちでいうところの令和だと思っているわ」


 いまのケイトの街並みがまさしくそれである。たしか京都と言ったのであろうか。当時を再現した街並みを作るというのは世界各地で行われているので、それほど珍しい話でもない。何より問題はそこではない。


「思考操作を受けているのですか?」

 ルディの問いにレイアは神妙な表情をして首を縦に振る。


「接触して、事実をいきなり伝えるのは厳禁。それより彼女の信頼を得ることを優先とします。なので――」


 レイアはどこか面白がるような表情で三人ににじり寄る。

「こちらからあちらに合わせるということで、あなたたちには当時の生活様式を再現してもらうから。それに相応しい振る舞いを覚えてもらうわよ」


 これからどうなるのか。それはユミリにも想像できない。だが、音羽はブカクヘの航路を確実に進んでいた。


   ――◇◇◇――


物部(ものべ)()()さん、いまは授業中ですよ」

 肩を揺さぶられて寝ぼけ眼をこすりながら顔をあげる。


「……あれ? 巨大ロボットが戦っていたんじゃないんですか?」

 まわりからくすくすと笑い声がもれる。


 ここは戦場でも何でもなく、教室だった。

「何を言っているんですか。寝ぼけないでください」


「はい……」

 巨大なロボットは存在しない。

 人間が巨大なクラゲの中で住んでいるなどファンタジーもいいところだ。

 どうやらただの夢だったらしい。少し残念だった。


 スマホのディスプレイには二〇二六年九月一六日と表記されている。少し強めの陽光が窓から射しんでくる。


 少しだけ顔を振り向けると呆れた表情の友人の姿があった。授業が終わればきっとからかわれることだろう。


 由衣は思わずあくびをしてしまう。昼下がりの授業のせいだろうか。油断をすればまた眠気が襲ってきそうになる。


 ――我慢できるかな?

 視線は窓のほう――空の彼方へ。

追加話となります。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

感想、評価、お気に入り登録も今後の励みになりますので、ぜひお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ