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ヴラシオの世界より~遙かなる時空の彼方に新人類はクラゲの中で揺蕩う~  作者: あかつきp dash
第六話 雪原より芽吹く蕾は東風に撫でられて
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■会戦準備

 ハルキア国領水母ターバにユミリは半ば幽閉に近い形で連れて来られていた。

 あれから天神はどうなっただろうか? 情報も遮断されていて現状を把握する手段が限られていた。


 その中で聞いたのはソウジ・ガレイが外遊で真っ先にここへ向かっているということらしいのだ。

 それを考えただけでも頭痛がする。


 ルディは行方知れず。せっかくハルキアへ戻ってきたのにカミトへ戻れずにいる。スズカとも連絡を取れていない状況だ。


 そんな中、最近のターバ内がやけに騒がしい。

 戦争になるかもしれない、と――。

 

   ――◇◇◇――


 セイオーム国領水母ブカクは第一三独立部隊の拠点となっている。軍港には天神、紀ノ、藤古の三艦が着港しても余るほどの規模でセイオーム軍が所有する軍港でも最高位のほうに位置する。


「はじめましてレイア艦長。ユミリの件ではお世話になりました」

「そう言ってもらえると嬉しいわ、スズカ王女」


 ブカク軍基地の賓客室にてレイアはハルキア王女のスズカを歓待していた。レイアは微笑んだ後にソファに座るよう促す。部屋には二人しかいない。


「どうしてこの時期に亡命を?」

 スズカは長い髪をふわりとなびかせてソファに座り、レイアも続く。


「ソウジ・ガレイ閣下がはるばるにユミリに会おうとターバに来ようとしているのです。放っておけません」


「それでこちらが圧力(プレツシヤー)をかけて面会をご破算にするのね」

「はい。それでレイア艦長がハルキアからセイオーム軍を追い出すという話を耳にしたものですから。宣戦布告をするなら大義名分は必要かと思いまして」


「あなたが旗印になると?」

「はい。私が軍艦に乗ってハルキアへ帰還しようとすればセイオームは軍を動かさざるをえないでしょう?」


「そうね。私たちはあなたをハルキアへ送り届けるという理由ができるわ」

 ――それでいきましょう。


 話はまとまりつつあった。

 

   ――◇◇◇――


 ブカク軍港の桟橋から少し離れたところに休憩所がありティユイは仮面をつけたアズミと一緒にいた。


「アズミさんはどうして仮面を?」

「藤古が後方支援のためにフユクラードで待機になりましたから。私はお忍びで戦列に参加するという体をとるためです」


 だから偽名がシノブなのかと妙に納得する。こんなバレバレの変装が役に立つのかとティユイはさすがに首を傾げる。そもそも仮面をつけて量産機に搭乗してくる人物は好敵手ポジションではないか。何だか納得がいかない。


 さて、ティユイはそんなモヤモヤを吹き飛ばすがごとく外に目を向ける。

 よく晴れているとは言え立春を迎えたばかりで外にいるのは肌寒い。それで二人は室内でもう間もなく着港する紀ノを待つことにした。


 いつまでもこんな話をしていても仕方がないとティユイは話題を変えることにした。

「スズカ王女、綺麗な方でしたね」


「はい。ハルキア滞在中は彼女に世話になりました」

 アズミは懐かしむような表情でしみじみとした口調で語る。


「ルディ先輩とは恋仲でしたよね?」

 ルディが年下なのはわかっている。が、もはや抜けるような認識でもない。なので諦めて学生のときに倣って先輩呼びをしていた。


「ええ。もともとはスズカ王女が姫巫女に選ばれる予定であったと聞いています」


「そうなんですか?」

「スズカ王女とルディくんの仲をよく知っていたユミリ王女が自ら名乗り出たと聞いています。姫巫女は海皇以外の男性との関係を絶たねばなりませんから」

 

 まあ、これも表向きの話なのだが――。そこから先を言うのをアズミは口を噤む。元来は海皇の側室という意味合いもあったのだが、それも現在は形骸化しつつあったからだ。


「やっぱりユミリ先輩はルディ先輩が好きだったんですね」

 たまにそうかなと思わせる仕草があったと記憶している。ほぼ独り言のようにティユイはつぶやいた。


「姫巫女が選定される基準とかあるんですか?」

「まずは王族であること。基本的には進んでやりたがる者はいませんから。ですので王族の中からくじで選んだり、王の娘がなったり――いろいろです」


 くじで選ぶときもあるのか……。

「アークリフ国は数年前に姫巫女が航海中に亡くなっており不在の状況が続いています。選ばれた者は終身制ですから。こういった不慮の事故が起こると次の選定に時間がかかります。代行というものではありませんから。一〇年以上空位も決して珍しいものではありません」


「困ることはないんですか?」

「職務や儀礼などは代行が可能です。それだけに姫巫女の空位についてはあまり問題視されません」


「形骸化しているんですね」

「ですが天玉照を目覚めさせるには必要なのですよ。形骸化を悪く言う者もいますが、型とは守る意識がなければあっさりと崩れるもの。継続とは手間がかかりますし、人々の意識も移ろいでいきます。その度に必要性を誰かが訴えるというわけです」


「リーダーシップの発揮というわけですね」

「誰かが常に引っ張ってくれるのを期待しているのが人間です。その時代はいつ久しく変わりません」


 会話がそこで一旦止まると紀ノが到着したという報告がくる。

 あたりに警報が鳴り響き潜水艦の(かん)(ぱん)が海を掻き分け盛りあがる。


 それから安全確認が為されて艦と桟橋の間に橋が架けられると乗組員が降りてくる。その中にキリの姿がないかティユイは目で追いかける。


「……了解した」

 誰かと会話をしていたのだろうかアズミが返答をする。


「ティユイ皇女、状況が変わりました。キリ隊員は先にレイア艦長と面談をするとのことです。たったいま、あなたにも待機命令が出ました」


 ――妙だ。何だかざわつくものが胸を障るのだった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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