■次の国へ
セナがテントから出ると体を大きく伸ばす。振り返るとテントの隙間からルディの寝顔がかいま見える。もうしばらくは起きそうになかった。
本来ならもう少し寝顔を見ていてもよかったと思ってしまうが、何せ二人しかいないのだ。いつまでもというわけにもいかない。
――おや? もう一つの簡易テントに設置した受信機が点滅していることに気がつく。これは某かの信号を受信したことを示している。
つまり発見してもらえたということである。ルディも起きたのか外に出てくる。
『やあ、ルディ君。生きていてよかったよ。休暇は楽しめたかい?』
「……グラード・エリオスか」
「知り合いかい?」
「ああ、厄介なヤツに発見されたな。……歓迎すべきなのか。とりあえず遭難生活は終わりだ」
『ふふ。心配することはないよ。予定通りにハルキア国へ連れて行ってあげるよ』
「君の味方というわけじゃないんだね」
「ユミリが人質にされている。現在は従うしかない」
『人聞きが悪いな。助けに来たのは本当だよ。仲良くやろう』
それからしばらくして合流ポイントの座標が送られてくる。港の方だった。荷物をまとめてそこまでやってこいということだった。
神妙な表情のルディを見て、単純に一安心というわけにはいかないとセナは実感させられるのであった。
――◇◇◇――
焔朱雀が盾を地面に突き刺すと盾に装填されたクナイを取りだして、それをテンガクに投げつける。
それをテンガクが剣で薙ぎ払う。若干、投げるときに軌道を変えたりして一薙ぎでは捌けないようにしたにも関わらず対応してきた。
「やるな」
勢いを殺さず接近してくるテンガクに対して焔朱雀は得物である槍斧の川蝉を手に取り、盾は置いたまま後退する。
『勝負!』
テンガクは地面に刺さった盾を体を捻りながら横薙ぎで吹き飛ばしつつ、勢いを保ったまま真っ向唐竹割りを仕掛けてくる。
「ならば!」
焔朱雀は左前足を踏みだし逆袈裟で川蝉を振りあげる。
刃と刃がかち合って反発する。
『やりますね』
「お褒めの言葉どうも」
お互いに後ろに退がって睨みあう。
「我々の世界で勝利となる条件が二つある。一つは四肢の一部を分解されること。もう一つは相手が負けを認めること――例えば自身の決め技が完封されたときがそれに当たる。先ほどの一撃はどうであったか?」
『……先ほどの技は渾身の一撃ではない』
「なるほど。では続行しよう」
焔朱雀は川蝉をくるりと一回転させて横薙ぎできるよう構えを取る。対してテンガクも上段の構えを取るのであった。
――◇◇◇――
キリの石汎機の手持ち武器は光振刀一本になっていた。盾は先ほど弾き飛ばされたところだ。
「どうして盾を真っ先にやられるんだ?」
『お前が未熟な証拠だ。精進しろ』
「ヒズル様は相変わらず厳しいね」
キリのぼやきにヒズルとヤシロが反応する。
するとヒズルが急に光振刀をしまう仕草を見せた。
『……引き際だな』
「どういうことだ?」
『奇襲というのは隙を突くという意味合いもあるが、その実は注意を逸らすのが一番の目的だ。お前たちのように部隊が拡大して連携が十分でないときには特に有効だ』
「俺たちはまだ戦えるぞ」
『貴様たちが捜索していた行方不明の仲間は我々が確保した。これ以上の戦いは無意味だと言っている』
「何だって?」
おそらくルディのことだ。それにリルハの姉であるセナも一緒ということだ。
『……取り返したければハルキアへ来ることだ』
それはハルキアへ来いと言っているようなものだ。
『テンガク、サワオク、退却だ』
『俺はまだやれます!』
サワオクが熱くなっているのがよくわかる。
『勝利とは個人ものにあらず。我々は目的を既に達成した。これ以上欲をかくならば相応の損害を被ることになる』
『サワオク、ヒズル様がこうおっしゃっている。従うのだ』
『……ちっ。わかったぜ』
三機は武装をしまうと港へまっすぐ向かっていく。どうやら通常の手続きで水母から出るようだ。
「追撃はいいのか?」
『追撃はこちらに圧倒的なアドバンテージがある場合に有効だ。イーブンの状態で行うとこちらが被害を被る。このハクトが大人しくしているんだ。推して知るべしじゃないかな?』
ホノエが諦めろとばかり肩をすくめる。
『……ちげえよ。あのヒズルとかいう男の存在のせいだ。何者だあの野郎? ホノエは奴から停戦が持ちかけられて安心をしなかったか?』
ホノエはふむという表情を浮かべる。実は優勢とは言い難い戦いだったのかもしれないと底知れぬヒズルという存在にようやく畏怖のようなものを一同は抱くのであった。
――◇◇◇――
マコナとクワトはレイアと通信で会話をしているところだった。
『ヒズルはハルキアへ来いと言ったのね』
「はい。おそらくルディ隊員とセナ隊員も抑えられたかと」
『……厄介ね。それにしても二人とも未登録の水母に流れ着いていたなんて。なかなか見つからないわけだわ』
「未登録の水母はどうしたものでしょうか?」
『微妙なところね。偶然とは言えハルキア軍人とフユクラード軍人が最初に足を踏み入れたんだからね』
どこの領地とするかはもう国同士の問題だ。今後、協議してもらうしかない。
「それでこれからどうするおつもりですか?」
『せっかくなんだから招待を受けましょう』
「ハルキアへ行くと?」
クワトが問いかける。
『ええ。ユミリもいることだしね。とりあえずブカクで合流しましょう。準備をしないと』
不敵な笑みを浮かべるレイアを見て、クワトとマコナは彼女の考えを察する。
『会戦よ。ハルキアからセイオーム軍を追い出しましょう』
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