■静やかに目醒める
「テンガクとサワオクは赤と白い機体を抑えろ。あの黄色い石汎機は儂が相手をする」
『承知しました、ヒズル様』
白い機体――テンガクが返答をする。
水母の傘から侵入したヒズルたちは落下しながら目的地へ向かっていた。それは三機が待ち構えている場所だ。
『黄色い奴はヒズル様が相手するんだ、さぞ強いんすよね?』
感情が奔るような声。これがサワオクなのだろう。
「それを確認するところだ」
下で待ち構えるキリの石汎機をヒズルは静かに見据えていた。
――◇◇◇――
ヤシロはキリの膝に乗って石汎機に乗機することになった。
「キリ、頼むよ」
「女の子を膝に乗せるだけで戦力アップはあり得るのかい?」
「君が記憶を同期するのに手助けになるはずだよ」
本当かねとキリは首を傾げてしまう。半信半疑というところだろう。
「三機だったな……」
上空からやってくる機影にキリは視線を向ける。そのうちの一機がまっすぐキリの方へ向かってくる。
――黄色い石汎機。爺ちゃんか……!
キリの石汎機はマントをはためかせて光振刀を抜き放つ。
「すぐ格闘戦になるぞ」
「君なら大丈夫だよ」
『少しは記憶の同期が進んだようだな』
初老の男――ヒズルの声が響く。
「通信か」
「ヒズル様の声だ」
どうして様づけにするのかと聞きそびれる。ヒズルの機体が着地して戦闘準備が完了しつつあり警戒を高める必要があったからだ。
「着地点はわかっているんだ」
頭の中でカウントが反響する。これは敵機が踏みこんでくるであろう予想の時間を逆算した数字。
敵機の右脚が現れると同時に剣の切っ先が突きたてられるのを盾で受け止める。
「何とか!」
たまに誰かが戦っている姿がフラッシュバックする。おそらく記憶の同期が進んでいるせいだ。だとすれば、此は彼の記憶か?
盾で弾ききったあと、キリのほうが剣を横に薙いだ。
しかし、そこには石汎機の姿はなく空を斬っただけである。
『攻撃は当てなければな』
男の声とともに敵機が剣を振りおろしてくる。それをキリは盾で防いで、剣で反撃をするも敵機は間合いをとって後ろに退がる。
キリは追い打ちをかけるために接近していく。
「大丈夫かい?」
「わからないけど」
こうしたほうがいいと思ったとしか言いようがなかった。
剣と剣がかち合うとお互いはまた離れる。
『わかってきているな』
「爺ちゃんは何を狙っているんだ?」
戦闘というより、やっているのは教練のそれに近い。
「くるよ」
ヤシロの声がすぐ傍から聞こえる。戦闘はまだ続くのだ。
――◇◇◇――
「私は待機でいいんですか?」
ニィナは繰者の待機室にやってきたマコナに訊ねる。ニィナの傍にはリルハが寝ぼけ眼をしながらあくびをしているところだった。
「はい。敵の機影は三機のみですが、彼らを乗せてきた艦が一定距離を保ったまま待機して動きを見せていません。こちらは警戒する必要があります」
――とはいえ。ニィナを人機に乗せて待機させるほどの状態でもないのだ。何せ敵艦は水母の外である。つまり相手が動きを見せてから動いても何ら問題はない状況だった。
――揺らぎもない。工作員を派遣したような形跡はない。侵入に乗じて拐かしでリルハの拉致を警戒したが、その様子もない。
リルハをこのテントに待機させているのはそれを警戒しているためだった。
「リルハ王女、しばらく我慢をお願いします。何せこちらも急な襲撃でしたので態勢もままならない状況です」
「りょーかいしてます」
「もう。軽いんだから……」
ニィナは呆れ気味だ。しばし戦況を一同は見守ることになるのだった。
――◇◇◇――
『私の名はテンガク。我々が君たちの相手をしよう』
『俺の名はサワオクだ。てめえら覚悟しな!』
キリとヒズルの戦いを邪魔させまいとするかの如く名乗った二機が立ちはだかる。
「生体反応がねえな」
ハクトは二機に誰も乗っていないことを確認していた。
『いわゆる自律型人工知能というやつかもしれんな』
ホノエが答える。
「じゃあ容赦はいらねえってことになるな」
ハクトは白雫虎に光振刀を抜かせて盾を前面に掲げる。
「金色のヤツは俺が抑える。白いのはホノエが相手しろ」
『了解だ』
応答が返ってくると二機はそれぞれの動きをはじめる。
サワオクが大きな鎚を振りあげて、こちらへ向かってくる。
「一撃必殺タイプだな」
渾身の一撃で白零虎を粉砕と言ったところだろうか。ならば、ここでやるべきは白零虎の機動性を生かして避けることではなく、この細身の機体でその一撃を受け止めることであろう。
サワオクの足元へ盾の金柑を投げて、もう一本の山茶花を抜いて二刀流にする。それからサワオクに向かって走りはじめる。
『小細工をするんじゃねぇ!』
サワオクは叫びながら金柑を蹴りあげる。
「動きは止まったろうが!」
白零虎は跳躍して距離を詰めるのに対して、サワオクはまっすぐ鎚を振り下ろしてくる。
跳躍した状態で白零虎は鎚頭を山茶花で受け止める。しかし、勢いのついた鎚の重みと勢いに圧されていく。
そこからもう一本の山茶花をクロスさせる。二本の腕で受け止めるためだ。さらに着地して一旦深く沈みこませて右脚を軸にまっすぐにする。
『潰れねぇだと!?』
「さっき立ち止まっただろうが。勢いを殺していったんだよ」
そこから勢いづくまえに跳躍して山茶花で鎚頭に接着させて勢いを殺したところをもう一本の山茶花で受け止める。
あと接地したとき衝撃を逃がして現在の体勢へと持っていったのである。
「とあるヤツを倒すために編みだしたとっておきを披露してやったんだ。感謝しろよ」
ハクトは不敵に笑みを浮かべるのであった。
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