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■探索

 ルディとセナは口の方から水母内へ入った。生まれたばかりの水母には港が整備されていない。当然ながら人機を整備するような設備はなく、いまは可動チェックをするくらいしかできない。


 それを終えた二人は人機から降りていた。


「救難信号は出しているか?」

「もちろんだ。あとはいつ救援が来るかだね」


 こういった状況でなければ足を踏み入れる機会はまずないだろう。土地の隆起は少なく木々がまばらに生えて小川が流れている。


「野宿というわけか。経験は?」

 どう呼んでいいのか迷った挙げ句にルディは名を呼ぶのをやめた。それにセナは思わず苦笑いする。

 

「名を呼ぶときはセナでいい。その代わり私もルディと呼ばせてもらう」

「承知した」


「それと先ほどの話だけど、一年前に実地訓練はしている」

「救助がくるまで持ちこたえないといけない。食糧の備蓄が確認からはじめよう」


 お互いの協力は不可欠だということである。

「雨風はテントがあるから問題ないとして。食糧のほうはどうしたものだろうね?」


 セナは(ひよう)々(ひよう)とした仕草を見せる。おそらく平常心を装うための彼女なりの処世術なのだろう。

「確保をどうするかだな……」


 これからこの水母の生態のデータをとる必要があった。場合によっては狩りをする必要がある。

「そのあたりはあなたが頼りだと思っているけど」


「俺も経験では君とそうは変わらない」

 ――まずは野営に適した場所を探そう。


 こうして二人は活動をはじめるのであった。


   ――◇◇◇――


「まさか探検家をやらされるとはな」

 ハクトは少しうんざりしたような表情だ。その前をキリが歩き、ホノエがハクトの後ろにつく。


「封印が解けたという意味が気にはなるがな。ここは五〇〇年前の建物――いわば遺跡だ」

 ホノエは左右を見渡している。興味があるのだろうか。


 驚いたのは遺跡から生命反応をキリの機体が感知したことだった。というよりもキリが感知したのに機体が反映したというのが正解かもしれない。

「ここは無人の水母だって聞いていたけど、遺跡内に生体反応なんてどういうことだろう?」


 キリが首を傾げる。

「さあな。それを調べるのも俺たちの仕事ってことなんだろうよ」


 せいぜい生体反応といっても魚などの野生生物がいるくらいのはずだった。だが、いま感知しているのは人間のそれである。


「ここに住んでいるのかな?」

「そういった形跡は認められなかったがな」


 遺跡といっても管理はしっかりされているので自動ドアなんかも通常通り可動はしているし、灯りも点灯する。


 生体反応がする部屋の前に一同は到着する。ドア一枚の向こうに誰がいるのかはわからない。


 三人は互いに頷きあうとドアが開く。

 そこにいたのは白いワンピースを着た裸足の少女であった。


 少女は駆けだしてくるとキリの胸に飛びこんでくる。

「大きくなったね」


 キリはわけがわからないという表情だ。しかし、隣にいたハクトは驚愕の表情を浮かべていた。

「姉上……?」


「僕は君のお姉さんじゃないよ。君たちの感覚でなら五〇〇年前の人間になるから」

 五〇〇年……? と三人の男たちは互いに顔を見合わせる。


「この部屋はまわりより時間の流れが遅いんだ。だから僕の体感時間は一時間くらいしか経っていない」

 その機能をいまは切っていると少女は説明する。


「時間庫か」

 キリがなるほどと手をぽんと叩く。時間庫というのはこの少女が言ったとおりのものである。


「あれって人間にも有効なんだな。食料保管庫くらいにしか使ってなかっただろ」

 思考同期のおかげで子供の代にまで自身の記憶が引き継がれるというのもあるので、長生きすることはあまり重視されていない。


 ただし食料保存に関しては極めて優秀で重宝されていた。ハクトの発言はこれに依るものだ。


「僕には目的があったからね。それが君さ」

 少女は体をキリから離しながら指をさす。


 ショートボブの髪がふわりと舞う。年齢でいえば一四~五歳くらいだろうか。不思議な雰囲気の少女だといまさらながらに思う。


「ああ、名乗りが遅れたね。私はヤシロ」

 指さす方向をキリからハクトに移す。


「君はヤマシロの一族だよね。僕もその筋なんだよ」


「姉上に似てるのは……」

「たぶん、そういうことだと思うよ。できれば君のお姉さんの話を聞かせてもらえるかな。記憶の同期できるかも」


 遺跡の中にいた少女の話は意外は展開を見せようとしていた。


   ――◇◇◇――


 アークリフ国領キーノ水母内。港内は整備されているものの建物はなく閑散としている。その一角にいくつかテントが設営されており、いまも最中だった。

 指揮官用テントにマコナとクワトが二人でいた。


「ここは禁則地だという話だが?」

「その通りです」

 

 クワトが口を開いてマコナが答える。

 紀ノと藤子が合流するために着港した水母がキーノである。これにクワトは驚いていた。

「ここは皇族が最期を迎えるための水母ですから」


 普段は無人の水母である。たまに手入れのために人が訪れるが、それはあくまで滞在のためである。現在、港が閑散としているのは時期ではないということだ。


「どうしてそんな場所で合流を?」

「戦艦紀ノはアークリフ国とナーツァリ国が合同で運用する艦なのです。故に独自の判断で行動するよう指示されています」


 ――つまり。とマコナは溜めを作ったあとに続ける。

「必然的に両軍から雑用をもらうことが多いのですよ。自由が利く代償とも言うべきでしょうか」


 もったいぶった言い方になったが、マコナはキーノへ調査を依頼されたのだ。それはここにいるハクトと合流も兼ねてであった。


 ハクトはもともと紀ノの一員なのだという。マコナやホノエとも既知の存在だという。

「それで調査の内容というのは?」


「このキーノは連峰になっていまして、奥地に大きな神社があります。そこにある建屋の封印が解けたと報告がありました」


 その封印について調査のために軍が派遣されたということらしい。

「その封印されていたものは危険なものなのか?」


「わかりません。ただ八岐災禍(クーゼルエルガ)のことも過去にありましたから」

「災厄が眠っている可能性を考慮してか」


 するとテントに紀ノの副長であるスナオが入ってくる。

「マコナ艦長、調査に行った隊員から報告です。一人の少女を発見したとのことです。……それともう一つ。こちらは緊急を要します」


「何でしょうか?」

「セイオーム軍の艦が一艦でこちらに向かってきています。こちらの呼びかけには応じません」


 テント内に緊張が奔った瞬間である。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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