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■流れ着いた先

 龍の通り道の中は激流である。通常で巻きこまれればひとたまりもないが、六方鱗を張っているとなれば話は別だ。


 六方鱗(ろつぽうりん)の正式名称は六方鱗領域(ろつぽうりんりよういき)という。機体の関節などの隙間からを衝撃を六方向に拡散させる膜のようなものを幾重も照射して拡散させるというものだ。


 普段は使用に制限(リミツター)がかけられているが、繰者(パイロツト)に生命の危機が起これば解除される。それがまさに現在ということだ。


「二本の旋風(つむじ)紛失(ロスト)、か」

 蒼天龍は武装がなくなり、戦闘続行が不可能ということになる


「嶺玄武はどうだ?」

 六方鱗で機体を包みこむように張っていれば無事のはずだ。しかし、激流の中では機体の位置の把握もままならない。


 それにしても龍の通り道というのはどこから現れるのだろうか。実はその原理はあまり知られていない。クエタの海に蓄積された情報を整理する際に起こる現象などと言われたりもするが、それはあくまで仮説の域を出たわけではない。


 蒼天龍のスラスターを噴かせながら渦の中心から徐々に動く。龍の通り道に巻きこまれた際の脱出法は教練を受けている。


 実践する機会は極端に少ないし、基本的に行われるのはシミュレーションだ。実践で行うにはあまりに危険な行為であるからだ。


 渦を何とか脱出するとまずは位置の確認である。人機内に携行食を入れたサバイバルセットは常備されているが、それはあくまで最低限のものだ。


 現在のルディはいわば漂流者であり救援を必要とする立場にあった。


『こちら嶺玄武。聞こえるか、こちら――』

 オープンの通信を蒼天龍のほうでも受信する。


「こちら蒼天龍のルディだ。聞こえるか、嶺玄武のサカトモ・セナ」

『こちら嶺玄武。蒼天龍の音声を受信した。こちらの現在位置を送る。合流がしたい』


 ルディは「了解」と音声を送る。

 それから合流した二機は近くの水母に向かうことにした。生活空間が存在しない人機内での長期滞在は厳しいためだ。


 彼らがたどり着いたのは名称のない水母だった。人工建造物がどこもかしこに見受けられるものの住宅などの人口が密集する生活空間が存在していない。


 つまり無人の水母である。


「生まれたての水母だというのか……」

 水母式居住与地(くらげしききよじゆうよち)――これが水母の正式名称である。ある年齢に達した水母は産卵をする。産卵した水母が育てば、傘の内部に生物の生活空間が生まれる。あと成長するに従って傘も大きくなって生活空間が広がっていく。


 そうすれば生命が生活できるようになっていく。現在、ルディたちのまえにある水母は無人であるものの生活するには十分な環境が揃っていた。


「とりあえずあの水母に降りよう。動けるか?」

『こちらは大丈夫だよ』


 二機は連れだって無名の水母へと向かうのであった。


   ――◇◇◇――


「ダイトよ、リルハ王女の件をどう始末するつもりか?」

 来賓室のようなところでガレイとダイトは二人で会話をしていた。


「閣下の命を思えばこそです」

 ダイトの艦隊が第一三独立部隊所属の戦艦天神から奇襲を受けたために外遊に訪れていたガレイはフユクラード首都のダイツで待機せざるを得なかった。


 その合間にリルハ王女は第一三独立部隊の別働隊にさらわれたということだ。ガレイの握る手に自然と力が入る。


(これではリルハを隔離した意味がないではないか!)

 机を叩きつけたくなる衝動を何とか抑える。


「まだハルキアへの外遊が残っています。ユミリ王女が歓待してくれるのでは?」

「おお、そうであったな」


 ガレイの鼻息が荒くなるのが端から見てもわかる。

「王女とは二人で話したいものだな。いままで第一三独立部隊に拉致されていたのだ。ぜひ慰問に行かねば」


 もっともらしいことを言っているようだが、ダイトはそんなガレイを無表情に見つめている。


 一方でダイトは第一三独立部隊の動きに注視をしていた。彼らは現在、アークリフ国へ向かったそうだ。


 見る限り各国の協力をとりつけて戦力を順調に強化している。このまま放置しておけば驚異になるのは間違いなかった。


(あの老人が何を考えて動いているのか見極める必要がある)

 ふとダイトはヒズルの顔を思い浮かべるのであった。


   ――◇◇◇――


 アークリフ国領ナリョウのとある回顧都市。

「シカがいっぱいだ」


 ケイカがシカの頭を撫でるとたしかに感触がある。

「これ本当に映像なの?」


「そうですよ。生命維持って大変ですから」

 カリンが答える。触れる映像というものがあるとケイカは聞いていたが、こうして実際に目にするのははじめてだった。


 ティユイはふとため息をつく。

「どうしたんですか?」とカリンが気になったのか振り向いてくる。


「キリくんたちと合流するの時間がかかるそうです」

「それで落ちこんでいるんですか?」


「キリくん幼馴染みと娘と一緒なんですよ。それも二人いるみたいなんです」

 またティユイはため息をつく。


「でも、キリさんとティユイさんはお付き合いされているんですよね?」

「そうなんですけど、何か……なんですよね」


 口にはできないモヤモヤがもどかしい。

(早く会いたいな……)


 ケイカの姿が見えなくなっていることに気がついたのはそれから間もなくである。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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