■出国
登場人物:スズカ、ユミリ、ルディ
王城の敷地には丘陵があり、今の季節は色とりどりの花が咲き誇っていた。
「お姉ちゃん、やっぱり私も残るわ」
ふわりとした髪が背中のあたりまで伸ばしていて、ぱっちりと大きな瞳が決意をもって姉を見つめている。
動きやすいようパンツ姿をしていて、それが彼女の胸とお尻のあたりを結果的に強調することとなっていた。
「それは駄目」
それでは意味がない。
「だからってお姉ちゃんを置いてなんてできるわけないやん」
姉は振り向き不安そうな表情をしている妹へと向き直る。姉は優しく微笑み諭すよう言葉を紡ぐ。
「ユミリ、これは逃げるわけじゃない。あなたには姫巫女としての責務があり、私たちにはあなたを守る義務がある。だから、彼にあなたと蒼天龍を託すの」
ふっと二人を影が覆う。見上げると青い人型のロボットが丘陵の上に降り立とうとスラスターで逆噴射をかける。すると強風が吹いて周辺に花びらが舞いあがった。
着地をすると直立のまま立っている。身長でいうと二〇メートルはあるだろうか機体を下から見上げた。その前腰部から三角錐型の飛行機械が切り離されて、ゆっくり降りてくる。
着地する際に両翼の先端翼が地面に向けて折れ曲がる。これで着陸時のバランスをとるようである。
着陸をしてから機体の下より座席が降りてくる。ハッチが開くと中から青年が一人。髪の毛を後ろで束ねて、どこか物静かな雰囲気であった。
「スズカ、待たせた」
「ルディ、よく来てくれたわ」
座席から立ったルディはスズカと軽い抱擁を交わすと、すぐに離れる。お互いの時間が押し迫っているということを現していた。
「ここまでは訓練通りだ」
「それでも大したモノよ」
ルディはあれからフユキ司令の計らいで、すぐさま長期休暇と密命を受けてハルキア軍を離れる手はずが取られていた。それとともに自己判断での交戦権の行使等も与えられている。
「ユミリ、行こう。時間がない」
ルディはユミリに手を差し出す。ユミリはその手を取るべきか姉の顔を見比べながら逡巡する。
「迷っては駄目。いまの私ではあなたを守ってあげられないのよ」
「お姉ちゃん……」
泣き崩れそうになるユミリを見かねて、スズカがルディに強引に連れて行くよう視線で促す。
ルディはそれに対して黙って頷くと、ユミリの右肩を叩く。
「行こう」
ユミリに映るルディの表情に動きはない。彼との付き合いの長い少女にとっては慣れっこではあった。それ故に彼の心情はある程度察することはできる。とにかく不器用だと常々思う。
「お姉ちゃん、無事を祈っとるね……」
「ありがとう。ユミリも元気で」
ユミリはその返答を聞いて、ルディの後ろをついて行く。
「悪いが、複座は仕様じゃない。俺の膝の上に乗ってもらう」
「うん」
ルディが座席に座るとユミリは指示通りにする。
「座席を上げるぞ」
ユミリが「いいよ」と答えると座席がエスカレーター状に上がっていく。
座席が固定されるとあたりの景色がキャノピーごしに見えるようになる。これが飛行機体兼コックピットとして機能する。
「ドッキングに入る」
ルディが操作をはじめると飛行機体はゆっくりと浮きあがり、前腰部分のところの接合部分とドッキングをした。
足下のほうに視線を下ろすとスズカが機体から離れつつも、こちらを時折見上げている姿が視界に入る。
それを見たユミリは感情が込みあげて、目頭が熱くなるのを感じていた。
「これより蒼天龍は飛翔をする。周辺にいる者達はグリーンゾーンまで退避をしろ。繰り返す――」
ルディの呼びかけの後、蒼天龍は言葉通り飛翔をした。背中に取りつけた飛行端末がなければ、その行為は適わない。
上昇していく蒼天龍の姿は速度をあげて、あっという間に彼方へと飛び去ってしまった。
咲き誇る花畑の花びらが爛漫に舞いあがる。スズカは長い髪を抑えながら、気が済むまで空を見上げていた。
「あなたがハルキア国王女スズカ様ですね」
背後から男の声で呼びかけられる。振り向くと黒い軍服姿に髪にグレーのカチューシャをつけた男が立っていた。
「あなたは?」
振り返ると自身の名を呼んであろう黒い軍服姿と髪にグレーのカチューシャをつけている男が同じく黒い軍服に身を包んだ複数の兵を連れだっていた。
「私はフユクラードの人機部隊隊長サカトモ・アズミと申します」
「私がハルキアの王女だとして、フユクラードの部隊長殿が何用でこちらまで?」
「我々はハルキア国の王族の保護を最優先に動いています。悪いようにはしません」
「今回の件、フユクラードがセイオームの梅雨払いをすると聞いていましたが、実際に先んじて到着したのはフユクラード軍です。セイオームにいらぬ貸しを作ったのでは?」
「違う国同士が連合を組むというわけですから、一枚岩になりようがありません」
たしかにそうかもしれないとスズカは心中で同意をする。
「ハルキア軍は善戦をしました。お互いともしばらく軍事行動はできないでしょう」
アズミの主張だろうか、それともフユクラード軍の見解なのか。それに対してスズカは反論する。
「セイオームの動きはそうでないと語っています。本国は法案を可決させて、軍事力を増強していますから」
「我々もセイオームの真意は計りかねているのが現状です。ですので、ハルキアの王族はフユクラードの庇護下に置きたいのです」
「フユクラードを信用しろと?」
セイオームと共に攻めてきた軍隊を信用しろというのは彼女からしてみれば暴論以外の何物でもない。
「耐えがたいことであるという認識はあります。ですので、我々はあなた方に最大限の敬意を示しましょう」
心意気だけは譲歩しようとこの男は言っている。呆れるばかりではあるが、冗談を言っている風ではない。
「わかりました。どのみち、私たちはあなた方に従うしかないのですから」
スズカとアズミが互いに視線を交わす。
それと時を同じくしてハルキアはフユクラードに対して全面降伏を認めた。和養一五年九月一日のことである。
後にセイオーム軍より第一三独立部隊が分離。
時のセイオーム国権力者であるソウジ・ガレイは皇位を乗っ取り権威と権力の双方を手中に収めようと画策していたからだ。
第一三独立部隊は男系による万世一系を崩そうとするソウジ・ガレイの一派と真っ向から対立することになる。その中心にいるのが第一三独立部隊の司令であるヒイラギ・レイアであった。
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