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■強行突破

「よくやった、ダイトよ。それでこそ我が息子だ」

 ガレイは満足な笑みを浮かべている。ダイトは口を真一文字にしたまま必死に唇の震えを抑えていた。


「これで八岐災禍(クーゼルエルガ)はより強大な力を得た。そしてお前は永遠の生命で持って俺を支え続けるのだ」

 ガレイの背後には漆黒の紋様が炎のように蠢いていた。


「これで八岐災禍とソウジ家の絆はより深まった。天玉照が何するものぞ。すべてこの黒き炎に取りこんでくれよう」


 暗い地下室では野心を隠す必要もないとばかりガレイは大笑いをする。その隣でダイトは体の芯が冷めていくようだった。


「来るべき時にダイトよ――お前が八岐災禍を駆り障害をすべて蹂躙するのだ!」

 ガレイはたからかに宣言をする。


 自分の妻と子供は八岐災禍の黒き炎に取りこまれる――そして自分に助けを求めながら黒い炎に包まれてもがき苦しむ場面がリフレインして吐き気を催す。

 そこからダイトはふと見あげると黒い虚像がそびえ立っていたのである。


   ――◇◇◇――

 

『ティユイ皇女、よろしく頼む』

 画面に目の部分だけ覆った仮面の男が映りこむ。だが、声ではっきりとわかる。アズミである。


「でしたら皇女はやめていただけると助かります。ティユイと呼んでください」

 それからティユイは耐えきれずに思わず吹きだしてしまう。


『了解した、ティユイくん。……ところでどうかしたか?』

「普通、仮面は敵側が自分の正体を隠すためにつけるものですよね。でも、こうして本当に付けてくる人が味方にいるのはおかしいですよ。名前はそのままなんですか?」


『たしかにな。……では、シノブと呼んでくれるといい。謎の戦士だからな』

「了解です、シノブさん」


 そこで通信が一旦終わる。

「敵の数は圧倒的なんですよね?」

「でもセイオーム軍のダイト司令は自ら石汎機を駆って一人で君たちを相手すると言っているそうだよ」


「それって敵にとってメリットがないと思うんですが?」

「戦いは公開制になっていて多くの人が見れるようになっている。その状況で数の暴力で一方的にやられるのを見せるよりダイト司令が自らの強さをアピールするほうがいいと判断したのさ」


「一応、これも戦争になるんですか?」

「そうなるね。悲惨でない戦争であるなら公開しても問題ないと人類は考えている。戦争での虐殺を否定して、暴力装置としての戦争は肯定しているということだね」


 ――闘争本能を適度に解き放つことで暴発を抑える。これはそういったものらしい。人型ロボット同士で戦わせるのも流血を抑えつつも肉体同士でぶつかり合うような姿を再現するためなのだという。


「戦艦はビーム砲を使うのに人機は投擲とか弓矢を使うのも関係があるんですか?」

「戦艦のはビーム砲じゃなくてエーテル弾だね。エーテルの情報を確定させずにエネルギーのまま撃っている。エーテル弾は武器としては強力だから人機同士の戦いでは使用に制限を設けたんだ」


 だからこれを戦争行為と呼ぶのだ。より肉体同士のぶつかり合いに近づけるために。

『再度、作戦行動を伝える』


 シンクから通信が入る。

『ソウジ・ガレイとリルハ王女の接触を遅らせるという最大の目的は既にこの戦いがはじまった時点で達成された。あとは戦闘行為をしつつ戦線を離脱することになる。尚こちらの敗北条件は月輝読が鹵獲されることだ』


「私が捕まるとダメってことですか?」

『そうだ。月輝読を餌にセイオーム軍を惹きつけたんだから、もちろんティユイは狙われる。ティユイが捕まるとこれからの行動に大変な支障が出る』


「わかりました。肝に銘じます」

 シンクと通信が切れるとポリムが話をはじめる。


「高速下での戦闘になる。戦うことに集中するといけないよ。逃げる隙を作るんだ」

「了解」

 月輝読は少しずつ速度をあげていくのであった。


   ――◇◇◇――


「何ですか、あれは?」

 セイオームの艦隊の全面に黄色い石汎機の持つ巨大な剣をティユイは指す。


 機体ほどの巨大な剣の先端の方には金属の塊が嵌めこまれている。

「あれは重眼剣(ヘヴィアイソード)だね」


「そんな名前なんですね」

 その一振りが当たりでもすれば機体は一撃で粉砕されるのではないか。


「あと盾とかで受け止めるのも危険だよ。距離をとるんだ」

 月輝読の背中についた二つのスラスターから光の粒子が噴出されて、進行速度があがっていく。その斜め後ろにアズミの石汎機がついてくる。


「月輝読ってひょっとして人機の中では足が速いほうだったりします?」

「二枚の背面スラスターは伊達じゃないよ。クエタの海内であればトップクラスの速度じゃないかな」


 それに付いていくために石汎機にはスラスターを追加したのだ。

「梓で牽制します」


 月輝読が弓矢を構えてダイトの石汎機に向けて撃ちだす。それを刀身の腹で弾きながら前進をしてくる。


「足止めにはならないみたいですね」

 振るわなければ盾にも使えるということか。こちらも高速で前進をしているので相対的に接触するまでの時間は短縮される。


『ティユイくん、私が前衛を引き継ぐ』

 アズミから通信が入る。


「アズミさんといえどその盾であの大剣を受け止めるの無理では?」

 アズミの石汎機が持つ盾は一般に支給されているサイズの物である。なので重眼剣の一振りに耐えられないのではという指摘はかぎりなく正しい。


「あるもので何とか切り抜けるのが戦いだよ」

 アズミ機に対してダイト機が大剣をいつでも振るえるように構える。

『私が肉薄するのと同時に矢を放て!』


 大剣が胴を横一文字に真っ二つの軌道をとる。それをアズミ機はスラスターを噴出して体を上体反らししながら刀身を盾で滑らせながら前面に押しだして軌道を反らす。


 月輝読がその間隙を縫って矢を放つ。標的は――右肩である。

「戦線離脱します」

『了解した』


 矢がダイト機の右肩に刺さる。それから月輝読とアズミ機は一気に加速をかけてダイト機の横をすり抜けていく。


 それに合わせて天神もセイオーム軍艦隊をすり抜けていくのであった。

『お二人ともお見事です』


 ダイトから賛辞の言葉が贈られてきたのはそれから間もなくである。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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