■戦より始まり出づる
「一緒に来てもらう、リルハよ」
ヒズルはリルハに目配せをして付いてくるよう促す。
「久しぶりに出会ったと思ったら、強引だね」
リルハは肩をすくめる。
「あいつがくる」
ヒズルがいうあいつについて心当たりはある。
「キリがくるの?」
ヒズルは答えなかった。代わりにただ一言を言い放つ。
「ここにて待つ」
――◇◇◇――
「さて、集まってくれたわね」
レイアが咳払いをして一同に「注目」とばかり呼びかける。
彼女の目下にはシンク、ティユイ、それにクワトとアズミもいた。
「セイオーム軍に仕掛けるわ」
「ソウジ・ガレイの護衛として、その息子でありセイオーム軍総司令のソウジ・ダイトが先遣隊の指揮官としてやってくるんだったか。仕掛ける理由はどうするつもりだ?」とシンクから問いかけられる。
戦闘をこちらか仕掛けるのであれば大義名分は必要だ。第一三独立部隊がセイオーム軍所属であれば尚更である。
「ティユイが天神にいると言えば無視はできないでしょ」
「リスクが大きくないか?」とシンクが疑問を呈する。
「ついでに人機戦も仕掛けるんだからリスクは承知よ。そのリスクを軽減するためにクワトに力を貸してほしいのよ」
「アズミ隊員を貸せというのか?」
「察しがよくて助かるわ」先回りした物言いのクワトにレイアがにんまりと笑みを浮かべる。
「しかしアズミ隊員の人機はどうするつもりだ? フユクラードの色のままでは都合が悪いだろう?」
「色はARで貼りつければ何とかなるでしょ。問題はパイロットのほうね。表立ってアズミ隊員のまま受け入れるのはまずいわ」
――そのあたりは後から考えようとレイアは言ってシンクに視線を向ける。これからのお互いの行動指針を確かめるためだ。
「まず第一三独立部隊にフユクラード軍の藤子艦隊が合流する。しかし、それは表向きには伏せていくことになる。なので当面は別行動だ」
「とりあえず天神は囮になるわ。藤子はコーシュクへ行き、キリたちを回収してアークリフ国へ向かう。こっちもセイオーム軍を正面突破した後に同じくアークリフ国へ向かうわ」
以上が作戦内容となる。
「アズミ隊員と乗機の石汎機はこちらで預かるということだな?」
シンクの問いにレイアは頷く。
「高速戦闘になるから石汎機にはブースターが必要よ」
「了解した。手配しよう」
「それじゃあクワト、キリを任せるわね」
「ああ、任されよう」
レイアはそこで話を一旦打ち切り、キリへ心を向けるのである。
――◇◇◇――
キリが狸の置物にポインターを当てると次々に瓦解していく。
(順調すぎて怖いくらいだ)
足はリルハがいるであろう広場へと向かう。
「……きたか」
「ヒズル爺ちゃん、どうして?」
リルハは拘束されているわけではない。だが、ヒズルが放つ威圧感に身動きできないでいる。
「言ったはずだ。敵対関係になるとな」
ヒズルの投げ放ったモノが地面に突き刺さる。それは一振りの剣であった。
「抜け。娘を取り返したければな」
「ヒズル様!」リルハが悲痛そうに名を呼ぶ。
「本気なのか?」
「儂を言葉で屈服できるのであればそうすればよい」
ヒズルは剣を鞘から抜くとゆっくりとした足取りでキリの方へ向かってくる。その歩みに隙は一切ない。おそらくキリが剣を抜いたとて――。
(勝機はない)しかしヒズルはそういった打算を求めているわけではないのだろう。力でもなく技でもない。違う何かを振り絞らないといけない。
キリは震える手で剣の柄を握る。
その時であった。ふと目の前にいる剣を持ったヒズルに既視感を覚える。かつてこんな場面に幾度も遭遇した気がするのだ。
不思議と剣の構えもできていた。いままでまとも握ったこともなかったはずなのに。自分はいったい何なのか。
それからキリは考えることもなかった。剣を振りあげてヒズルにまっすぐ向かっていく。
キリがヒズルの胴にめがけて剣を振りおろすとヒズルは剣の腹の部分で受け止める
「軌道さえ見えていれば受け止めるなど動作もない」
キリは何とか力をこめて押しこめようとするが、徐々に刃が先端のほうに滑らされていく。
(技量が違いすぎる)と絶望的な状況をキリは自覚する。
「どうする?」と聞かれてキリは目を細める。
キリは剣を弾き飛ばされる前に後退して、右足を後方へ滑らせて体を沈みこませる。そして剣を突きたててヒズルへ向かっていく。
それをヒズルは剣で受け流すだけでなく絡めとるようにして剣を上方へ突きあげるとキリは持っていた剣が手を離れて弾き飛ばされて、すれ違いざまに足を引っかけられて転倒させられる。
「っ痛……」とキリが呻くのに対してヒズルは冷たく言い放ちながら、刃をキリの首筋に当てる。
「勝負あったな」
「お爺ちゃん!」とヒリルが悲痛に叫ぶ。
すると何をするでもなくヒズルは剣を引いて後ろを振り返る。
「剣を交えるまでもなかったな」
がっかりしたとかではなく冷淡な感情のこもっていない口調。リルハは無事を確認するためかキリに駆けよってくる。その間にヒズルの姿は消えていた。
ニィナが姿を現したのはそれから間もなくである。
――◇◇◇――
セイオーム軍第一艦隊。旗艦司令室内。その中心に口髭を蓄えた三〇代半ばの男がいた。被っている帽子は艦長のものとは少し意匠が違う。
「ダイト司令、セイオーム軍第一三独立部隊を名乗る一団から宣戦布告の声明が送られてきました」
ダイトは艦長からの報告にフムと顎に手を当てる。
第一三独立部隊旗艦天神。そこにはティユイ皇女と彼女が駆る月輝読があるはずだ。こちらは三艦で五機大隊をそれぞれ三つ擁する。
これほどの大部隊を相手にするのは普通なら躊躇するだろう。
「天神が現在擁する人機の数はどうか?」
「二機です」と短い返答がくる。
「二機に対して一五機の人機をぶつけるのはさすがに受けが悪いな」
「どうしますか?」
「受けがいいほうを選ぶさ」
ダイトは軽口のように答える。
「私が単機で出る」
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