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■故郷での戦い

「思ったんですけど、人型ロボットが動くのに規則が多くありませんか?」

 月輝読のコックピット内。ティユイはポリムと会話をしている。


 人機運用の際に規則が存在する。

 例えば稼働中に周辺から生命反応を感知すれば制限がかかり可動しなくなる時がある。


 あとはコックピットを狙うだけで殺意を持ったとして厳罰となる。だから人機戦では腕や足を切り離すだけで勝敗が決まるようになっていた。


「人間とはサイズが違いすぎるでしょ。人機なんて動いているだけで凶器なんだ。共生はできないよ」

 人機戦が人里離れたところで行われるのはそういった経緯がある。


「人型ロボット同士で戦わせている理由を考えたことはあるかい?」

「カッコいいじゃないですか」


 その返答にポリムは「そうだね」と残念そうな口調で返す。

 ポリムが言いたかったのは兵器という観点で見た場合の話である。


「そもそも兵器に求められるのは使用者を守ることと扱いやすさ。つまり勝敗の不確実性が増す白兵戦をお互い仕掛けるというのは、その観点からはナンセンスでしょ」


「人機戦は非合理的だと?」

「少なくとも本来なら人型に人型をぶつける必要はない。そこを敢えて人型にしているんだ」


「どうしてですか!?」その言い方だと人型ロボットは弱いとも聞こえる。

「戦争にここまで厳密に規則を施して、罰則を設けるには人型ロボット同士を戦わせるという前提があるほうがよかったんだよ」


 戦争は国家間で定期的に行われる。それも規則に則ってだ。例えば戦地指定に民間人居住区から相当距離を離す必要があるなどだ。他にも意図して相手の命を奪う行為は厳罰となる。


 おかげで戦争における死亡率は一パーセント付近まで抑えられるようになった。それも殺傷によるものではなく大半は事故によるものだ。


 この世界の住人は戦争を起こす必然性があると考えている。生命の生存と発展には衝突が不可欠があるからであると。繋がる手段は融和だけではないのだ。


 そして、これもこの世界で起こる衝突の一つである。


   ――◇◇◇――

   

 戦艦天神司令室内。

「戦艦藤子(レギルヨルド)より二機の人機が出撃しました。一機は石汎機、もう一機は人神機――一角獣(ナワール)です」


「相隊ね。こちらと条件は同じだけど」

 レーダー手からの報告を受けてレイアは「どう思う?」とシンクに視線を投げかける。


「考える必要はないだろ。こっちも同戦力をぶつけるしかない」

「それで勝てるかしら?」


「相手の繰者リストを見たか?」とシンクに敵パイロットのリストを渡される。こういった情報は公開対象になっているのだ。


「石汎機がサカトモ・アズミに一角獣がクラバナ・ニィナ――」

 サカトモ・アズミは一年前にあったハルキア国首都攻略戦における功労者だ。嶺玄武という人神機に搭乗していたはずだが、石汎機に乗っているところを見ると戦後に政治的な配慮で降格に遭ったということか。


「――ニィナって」レイアは考えこむような仕草をする。

「厳しい戦いになるな」とシンクは画面に映る機体を睨むように見つめる。


「ちょっと似てるわね、シャルナに」レイアはシンクに言ったつもりだったが、それについては何も返答はなかった。


   ――◇◇◇――


 月輝読と一角獣が対峙する。もういつ戦闘がはじまってもおかしくない。あたりは緊張感に満ちている。


「ティユイ、一角獣のパイロットから通信がきてるよ。無視してもいいけどどうする?」

「ポリムはどうするべきと考えますか?」


「話に乗ってみたらどうだろう。こっちも時間稼ぎになるし」

「極力戦闘を避けろというんですね」

「そういうこと」


 ティユイは一角獣からの通信を許可すると、ディスプレイに小さくキリと同じ年齢くらいの少女の姿が映しだされる。長い髪をなびかせてどこか見覚えのある姿。――見覚えがある? ティユイは違和感を覚える。


『はじめましてティユイ皇女。私はフユクラード軍藤子艦隊所属、一角獣パイロットのクラバナ・ニィナです』


 意志の強さが宿る双眸でティユイをまっすぐ見つめてくる。

「はじめましてニィナさん。如何様いかようで通信を?」


『モノベ一族でも随一の女傑と名高い母君のことは兼ね兼ね(かねがね)お伺いしています。その娘であらせられるティユイ皇女と手合わせいただけるということでご挨拶をと思いまして』


 それだけではあるまいとティユイは察する。どことなくはしゃいでいるような印象だ。戦闘前の高揚感からだろうが。これはあからさまな挑戦状である。


「私は最近までかつての記憶を失っていたようで同期も幾ばくか定かでないのです。どこまであなたのご期待に添えることか……」


 ティユイはティユイで何か懐かしい感覚を味わっていた。どことなく嬉しいのだ。

『それはお互いの勝負の中でわかることではありませんか』

「ええ、その通りです。じきにわかることです」


『では――』

「――尋常に勝負!」


 月輝読の可動スラスターの機動力は大したものだが、どうやら一角獣の直進速度はそれを凌駕りょうがするものらしかった。


 一角獣はランスの形状をした槍の切っ先を突きたててくる。それを月輝読は状態を右に逸らして、左方向へスラスターを噴かせて回避をする。


 背後を見せた一角獣の背後に迫るため加速をかけて剣を抜き放ちつつ、一角獣のほうへまっすぐ突貫していく。

 

 月輝読は反転しつつまだ体勢の整っていないところの一角獣に剣を突きたてる。それを一角獣が槍で打ち払い盾で押してくる。


 月輝読は盾を持っている左腕の角度のほうへ一旦後退する。だが、こんなものは時間稼ぎでしかない。


 間合いは槍の一角獣のほうが広いのだ。


 一角獣は槍を月輝読の盾にめがけて打ちこんでくる。それをいなそうと月輝読の盾で受けようとするが、それはフェイントであった。


 一角獣は少しだけ槍の速度を落としたのだ。それに一瞬だけティユイが戸惑い盾の角度を上向けてしまう。


 それが月輝読にとって隙となってしまう。一角獣はランスでパンッと盾を弾きあげる。それに引っ張られる形で月輝読は盾を手放してしまう。


 これはティユイにとって予想外だったようで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「……これはまずくないかい?」

「もちろん」


 空いた手からもう一本の橘を抜き放つ。防御が難しくなるなら攻めるまでということだ。


「戦闘は続行です」

 ティユイの宣言とともに月輝読は一角獣の懐へ飛びこんでいくのであった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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