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■防衛戦 

登場人物:アズミ、ルディ、スズカ

 ハルキア国、首都カミト上空。

 降下してくる四機の機影が確認される。フユクラード軍である。

 四機の内、三機は同じ外見と武装をしている。


 全長は二〇メートルほど。朝日に照らされて黒光りするボディから明らかになる人型のフォルム。機体の所々にある隙間からは青白い光の粒子が噴出されており、手足を動かすたびに機体の姿勢が微調整される。


 ほっそりした印象でありながら、(たくま)しい(たい)()である。それを全身鎧が包んでいると表現すればいいだろうか。

 顔をフェイスバイザーが目の部分を覆っていて、口の部分には排気口が設けられている。機械的でもあり、のっぺりしたような印象である。

 武装はそれぞれ左手に盾、右手には剣、腰のあたりに弓と矢筒を下げている。これが標準的な装備ということなのだろう。


 だが、その四機の中で明らかに異彩を放つ存在が一機あった。

 黒を基調とした色彩は同じだが、意匠がまったく違っている。ついでに武装までもまったく違う。

 両肩のやや後方に球体が二つ。その球体からは銃砲のような突起物が一本突き出している。機体の駆動に対して邪魔にならないほどのサイズで、バックパックとアームは繋がっいて前後で動かせるようだ。


 左手には細長くて15メートル近くある六角形の巨大な盾。右手には槍を持っていた。

 口元はマスクで覆われていたが、顔つきはより人間に近く、両目があり、その瞳には意志のようなものが宿っているように感じられた。

 これこそが世界に幾つもないと言われる人神機(じんこうき)と呼ばれる――その名は嶺玄武である。


 地上へ近づくにつれて噴出される粒子量が増加し、徐々に減速していく。

 機体の上体を水平に保ちつつ、お尻から着地するように両脚をあげた。


 地上には踵から着地する。それから衝撃を緩和させるために両脚は折り曲がる。その際に体はやや前屈みになるが、すぐに直立姿勢へとなり、武器と盾を構え直す。


 降り立った場所は都市部より離れた場所にある平原だった。地形をよく調べればそこが緩やかな窪地となっていることがわかることだろう。


 その標高差はおよそ五七メートル。面積は六二二キロ平方メートル。

 巨大都市がすっぽりと入るほどの広さであるが、四機が降り立ったのは平原の北方。その先には都市へと繋がる幅三〇メートルほどの幹線道路が都市部へと繋がっている。つまり、幹線道路へ辿り着けば任務は成功となる。


 当然ながら、平原にはハルキア軍の最終防衛線が敷かれている。数は六。フユクラードと同型の人型メカだ。フユクラードの機体は基調色が黒なのに対し、ハルキアの基調色は青かった。


 量産機は人機(じんき)と呼ばれ、これは石汎機(マグ)という名称である。


 ハルキア軍は道路側から一、二、三で並列している。

 それぞれの黒い刃が白銀へ染まっていく。


 フユクラード軍の正面にいるハルキア軍の三機は槍を前面に構えて突きだし、もう片方の手には二〇メートルある盾を地面に突き刺して前面に押しだすように構えている。


 それに対してフユクラード軍は嶺玄武を先頭に縦列陣形を組んで、ハルキア軍へと向かっていく。

 嶺玄武は槍を地面に突き刺し、盾に収納されていた球状のもの――手榴弾をハルキア軍の足下に投げつける。それは宙で光を放ち爆音をあげながら地面をえぐって砂埃を巻きあげた。


 フユクラード軍は二機を二手にわけて、縦列のまま進撃する。三機の壁を斜めから攻めて端から崩そうというのである。

 フユクラード軍の動きを見たハルキア軍は後方に待機していた二機を前進させる。


 これで対比は四対五となる。数の上ではフユクラード軍が不利である。が、そういったものは状況によって瞬時に変動するものだ。


 嶺玄武は盾をずらして、敢えて相手が攻撃しかけやすくするように隙を作る。ハルキア軍の石汎機はその誘いに乗る形で槍の一突きを見舞おうとする。


 誘いに乗ってしまった相手はさぞ驚いたことだろう。攻撃はものの見事に盾で右方向にいなされて、体勢を崩した一瞬の隙に嶺玄武の一突きが持っている槍を弾き飛ばす。


 動きはそれで終わらない。向かってくる二機の片方に狙いを定めて、接近してきたところを見計らって盾を相手の腹に当てると足下まで滑り込ませて、そのまま担ぎあげて振り落とす。


 転かされた機体の喉元に槍の切っ先を当てると嶺玄武の瞳が点滅をする。それに対して転かされた機体は持っていた武装を全て手放した。降参ということだろう。


 これでハルキアに残っている機体も四機。数の上では拮抗したということになる。

 嶺玄武は道の手前で通せんぼしている機体に顔を向ける。


 数あるハルキア軍の中であきらかに外見が違っていた。基調色こそハルキアを象徴する青色であるが、そもそもとして全体的に形状が違っていた。そして嶺玄武同様に意思の宿った双眸が前方を見据えている。。

 決定的な違いは武装だろう。あちらは両手に鉄扇を構えていた。


 何より嶺玄武に比べて身軽と言えばいいのだろうか。素早く動けそうな印象である。

 その機体が姿勢を低くして両膝に力を溜めこむ。それから後方で砂煙が大きく舞いあがるとともに走りだす。


 ただまっすぐではなく、狙いをつけさせないよう蛇行するような軌道。まさに疾風の如く速度で相手に迫る。それにスラスターなどの動力を使っている様子はなく、純粋な脚力のみで成し遂げている。

 フレームに人体の骨格がつま先の方まで完全に再現されており、見た目の機械じみた感じとは裏腹に滑らかな動きだ。


 嶺玄武は槍の射程内に入ったことを見るや、相手が正面に来た瞬間に突きの一刺しを入れる。

 相手はそのタイミングを合わせるかのように上体を反らしてかわしながら、槍の柄に鉄扇を滑らせながら距離を詰める。だが、接近させまいとすかさず大盾を突き出すことで防がれる。


 弾きとばされそうになる瞬間で鉄扇を奮う右腕を止めて右足を一歩引く。

 それ以降はお互いの仕留める間合いを作れずに我慢比べのような状態が続く。


 この戦況を注視していた管制室で動きがあった。


「フユクラード軍の進行が劇的に遅くなりました。水母外のセイオーム軍も戦況は膠着しているとのことです」

 椅子にかけていた女性士官から報告が入る。


「……わかった」

 帽子を被った男が神妙な口調で返答した。状況は相変わらず悪い。フユクラード軍は無傷の四機を残して水母外に待機しているからだ。

 この四機が防衛線に投入されれば潮目は一気に変わる。無論、不利な方向にである。


「司令、フユクラード軍のサカトモ・アズミ機兵士隊長より暗号文が届いています」

「嶺玄武のパイロットか。読みあげてくれ」

 女性士官は頷く。


「“ハルキア軍へ告ぐ。我々、連合軍はこれ以上の戦いを望まない。貴国は降伏勧告を早急に受け入れよ。武装解除後はフユクラード軍サカトモ・アズミの名においてハルキアの保護を全面的に約束しよう”以上です」

 これをどう捉えるべきかと司令は考えこむ。


「副司令、水母外の戦況はどうなっているか?」

 セイオーム軍の士気は低い。フユクラードの勝手をここまで放置していることからもあきらかだ。彼らはこの軍事作戦に当初から懐疑的であるということだろう。


「現在、ハルキア軍は六機損傷。セイオーム軍は九機損傷で数の上では拮抗している状態です」


 戦況は現在、(こう)(ちやく)状態ということになる。だが、それも間もなく崩れる。これから防衛線へ投入される四機の増援によってだ。

 そこで女性士官からさらに報告がくる。


「フユクラード軍からハルキア軍とセイオーム軍へ公開入電です。“たった今よりフユクラード軍は中立になり、どちらの軍にも与しないものとする”とのことです」


 これでフユクラード軍が中立化したことによりハルキア軍は防衛線に四機と水母外に六機の合計一〇機となり、数の上ではセイオームよりハルキアが上回ることになる。中立となったフユクラード軍の八機が首都に居座ることとなり、それがどう動くか読めなくなってしまった。


 この状況でハルキア軍は降伏勧告を受け入れるべきかの決断を迫られていた。状況は刻一刻と過ぎていく。


「副長、ハルキア軍は十分な戦果を得たという認識で構わないな?」

「セイオーム軍の損害は甚大です。この状態ではカミトへの入場も適わないでしょう。我々は結果的にセイオーム軍を退けました」


 フユクラード軍の中立化が一気に戦況を変えたのだ。司令官は一瞬だけ俯き、誰にも表情を見せない。


「……そうだな」

 司令官はつぶやく。敗北は敗北だが、最悪の状況は免れたと言えるかもしれない。

「ハルキアはフユクラードの降伏勧告を受け入れる。最終防衛線は戦闘を停止するよう指示を出せ」


「了解。水母外の戦闘はどうしますか?」

「……先史時代、早期の武装解除を受け入れたために第三国から侵攻を受けたという事例がある。複数の国から侵攻を受けている状況で安易に武装解除を認めるのは危険だ」


「では、水母外の戦闘は継続ですか?」

「セイオーム軍がまだ仕掛けてくるのであれば戦闘は続行する。そうでない場合は撤退するまで警戒に留める」

 これで勝敗は決したことになる。


「失礼します」

 管制室に一人の女性が入ってくる。スラリとした体型と長い髪を後ろで束ねて、強い意志を感じさせる顔つき。軍服は着ておらず、紺色のスーツ姿であった。左胸にはハルキアを象徴する青い龍の紋章が刻まれたバッジが付けられている。


「姫様、お待ちしておりました」

 司令はかしこまって姫君を迎える。

「申し訳ありません、司令官殿。いまがどういう状況であるか、私もわかっているつもりです。ですが、どうしても叶えていただきたい願いがありまして」


 姫君の立場で管制室へ来るのは余程のことであるに違いない。それでも司令官に直接出会って話がしたいとのこと。本来なら軍事関係者しか入れない管制室へ入れたのはそのためだ。


「どういったことでしょうか? いまの我々にできることはかなり限られてきますが」

「妹を連れて逃げていただきたいのです」

 姫君の顔は真剣そのものだ。

「ふむ」

 司令が考えこんでいると急に座標の位置が送られてくる。送り主は姫君であった。


「幸いに妹はその座標にいる艦が保護してくれます。名は明かせませんが、信頼できる方々です」


 名は明かせないと言っているが、艦はあきらかにセイオーム所有のものだ。つまりハルキアが現在戦争をしている相手ということになる。


 だが、気になることはある。一つは単艦であることだ。艦隊を組まずに単独で動いている部隊があるということか。


 配置からして交戦しているセイオーム軍を援護しに来たわけではないだろう。距離が離れすぎているためだ。だから連携を取っている様子もない。


 セイオーム内部で何かが起こっているということと捉えるべきか。

「姫巫女様は国内でお守りできないと?


「可能性の話です。ソウジ・ガレイ閣下はその姫巫女も狙っているというではありませんか。どういった体制であれ、この国は他国に占領されるのですから」


「出奔するほうが大変かも知れませんよ?」

「ですから、護衛をつけたいのです」

「ルディですか?」

 姫君の願いを司令は察した。だが、これは彼女にとってもつらい決断のはずだ。


「身勝手なお願いであることは重々と承知しています」

 姫君は深々とお辞儀をした。


「了解しました。これからルディに指示を出します。姫様はすぐに支度を」

 姫君を促すと司令官は彼女に護衛を付けて退出させた。彼はこれから司令官として最後の指令を出さねばならない。


「聞こえるかルディ。君にこれから任務を与える」

 それから間もなくセイオーム軍は損害が大きくなり戦線を維持できなくなり撤退。それから間もなくしてハルキア軍はフユクラード軍からの降伏勧告を受け入れた。

構成として敵サイドの話の際にも味方サイドの視点を交互に入れるようにしようかと。あと人機の武装については大幅に見直しています。

銃を持たせるのをやめて、飛び道具は投擲を使うことにします。光弾銃が強力すぎるので、より強力なバリアで防ぎつつ最後は格闘戦に持ちこむというスタンスでしたが、やっぱり単調になるのとアイディアを挟みこみにくいということでそのように変更しています。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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