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■ハクヒの回顧都市

「一九九六年ねぇ」

 パラソルの下でキリはぼやく。水着姿で上着を羽織り、サングラスをかけてビーチチェアに寝転んでいる。


 ケイトでは二〇二七年という時代設定であった。そこから数えて二〇年くらいまえの風景が広がっているということになる。


 比べると少し懐古的(クラシカル)かなという印象はあるが、どことなく田舎然とした風景がそう思わせている節もある。


「いきなり寝る?」

 不満そうな顔でケイカが近づいてくる。もちろん彼女も水着を着ている。セパレートの動きやすさを重視したものだ。

 右手にはビーチボールを抱えて、左腕には浮き輪。水中メガネも抜かりはない。


(遊ぶ気満々だな……)

 一二歳という年齢もあるが未成熟さを感じさせる体型ながら引き締まっているのは見てとれる。


「似合う?」

 ケイカの水着は黄色を基調にしたもので、よく似合っていると思った。


「文句なしだよ」キリは右手親指を立てて答える。

「なんか反応がおっさんぽいよ」ケイカはくすりと笑顔を浮かべる。こんな表情ができる娘なんだとキリはむず痒くなる。


「もうすぐ夏祭りがあるらしいよ。楽しみよね」

 ここに来てからどことなくケイカは楽しそうだった。彼女が生きた時代がちょうどこの風景と合致するそうだ。そんな少女の姿を見てキリも気分 は悪くない。


 とりあえず付き合うかとキリは立ちあがる。そんな時にふとティユイとできれば来たかったなという考えが頭をよぎる。


 すると何かを察したケイカが不服そうな表情を浮かべるのであった。


   ――◇◇◇――


 クラシノ邸へ向かう車内。カリンのホノエの姿があった。

「ケイカという娘は私と同じ年齢なんですよね?」

「ええ」とカリンの問いにホノエは肯定で答える。


「軍は彼女をどう処するつもりなのですか?」

 この質問にどこまで答えていいかホノエは一瞬迷った。だが、彼女の要望には察しがつく。


「ヨリミズ・ケイカはセイオーム軍の所属です。現在のところセイオーム軍から捕虜解放の要請はきていませんし、あちらから捕虜の扱いについて返答ももらっていません」


 ケイカの件はナーツァリ軍にボールが留まった状態という認識だ。

「では、王族が彼女に恩赦を与えて保護という筋は通りますか?」


「恩赦は無用ですよ。ヨリミズ・ケイカは軍事法廷に出廷しており罪状はあきらかです。その罪状とは彼女は上層部の命令により強襲をかけたものです。物的被害はありましたが。人的被害は軽微です。またコーヤでの襲撃について彼女は何一つ知らされていませんでした」


 おそらくセイオーム軍は最初からケイカを切り捨てる気でいたという見方が有力であった。

「ソウジ・ガレイ閣下の演説といい、セイオーム国は秘密を増やそうとしすぎませんか?」


「はい。秘密は必ずほころぶもの。ソウジ・ガレイ閣下はあれで自身の野心を隠し通せていると信じている男なのです」


 手段を選ぶことはないだろう。そしてカリンもソウジ・ガレイに狙われている少女の一人だ。対策は必要だろう。


 故にホノエもケイカを味方に引き入れてカリンの護衛につけられないかと考えていた。そのためにキリという少年を使っての説得を試みを行っているところだ。


 うまくいけばいいがとホノエは感慨に耽るのであった。


  ――◇◇◇――


 クラシノ邸に案内されたレイア、シンク、そしてティユイは客室へ通される。

「立派なお屋敷ですねぇ」とティユイは月並みに関心しながらレイアの後ろをついて行く。


「この屋敷は宮家であるクラシノのものよ。セキュリティが抜群でね。会談なんかにもよく利用されるわ」

「ということはここでレイアに会いたいという人物は――」


「あなたの予想通りでしょうね。カリン王女がここにいることが証左だわ」

 シンクとレイアは二人で勝手に納得していくので、ティユイとしては会話について行けない。


「ようこそクラシノ邸へ。私はクラシノ・ネアと言います。レイア様にシンク様、ティユイ皇女ですね?」

 ノックと共に客室へ一人の女性が名乗りながら入ってくる。それに対して三人は肯定する返事をした。


 するとしばらくして口髭をたくわえた男が入ってくる。厳かな雰囲気にティユイは思わず息を呑む。


「レイア様、初めてお目にかかります。私はナーツァリ国の王です」男はそう名乗り恭しくレイアに向かって一礼をした。


「奥の院はもうないんだし、いまの私は一軍人でしかないわよ。だから、そういうのは不要よ。で、この場は謁見ではないという認識でいいのよね?」


「ええ。非公式なものです。私とて堂々とレイア様に会うわけにいかない立場ですから」

 要するにこれから話す内容とは公にできる内容ではないのだ。


「ソウジ・ガレイの目的が皇家簒奪なのはあきらかです。しかも四国の王女に狙いをかけてきています。それは先のユミリ王女拉致の件からはっきりしています。彼はもはや自らの野心を隠せなくなっている」


「ソウジ家は皇家から女児しか生まれない状況をずっと待っていたわ。ただソウジ家が想定していなかったのはガレイが不老不死体になるということね。ガレイはソウジ家としてではなく自身に権力と権威を治めることにこだわっているのよ」


 不老不死体となった者が権力や権威の中枢にいることは忌避される。なのでソウジ・ガレイの現代の役職名は首相相談役であるし、宮内庁長官相談役だ。


 宮内の相談役は奥の院が務めていたが、組織のスリム化を理由に統廃合が行われて官邸が請け負う形になった。


 つまりガレイが皇家に影響力を及ぼせるよう規則を変更したのだ。


「この状況を私は捨て置けません。万世一系の維持は四国の王族も望むところ」

「それについては理解しているわ」


「こちらは第一三独立部隊へ戦艦紀ノと焔朱雀を出向させることを検討しているのですが、その意向をできれば受け入れていただきたい」


 レイアとシンクは顔を見合わせる。

「それって大丈夫なの?」


「私は軍に願い入れるだけですよ。カリン王女の護衛も紀ノのほうで任せるつもりでいます」


「私たちはユミリの護衛には失敗したわ」

「では、次も失敗するのですか?」


 その問いにレイアは苦笑する。

「いいわ。詳細を聞こうじゃない」

 支援の申し出はありがたい。受けない理由はなかった。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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