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■ナーツァリ国の姫巫女

「私が一五歳ではない……ですって?」

 ティユイは愕然とする。頭から血の気が失せていくのがわかった。


「実年齢でいえば今年で一九歳になるわね。いいじゃないたかだか四歳くらい。サバ読んでたわけじゃないんだから」


「レイア艦長と一緒にしないでください!」

 その言葉にレイアがムッとした表情に変貌する。


「……私のことを若作りのクソ(ばばあ)とでも?」レイアのこめかみに青筋が浮かぶ。それにシンクが「誰もそこまで言ってないだろ」とため息をつきながらレイアに釘を刺す。


「つまり大学生くらいってことですよね。この年齢で学生服着てたらコスプレですよ!」

「ユミリも年齢一緒くらいだし問題ないわよ。それ言ったら回顧都市の存在そのものがコスプレとその会場みたいなものじゃない」


 レイアは手元にあるティーカップに手を取って口に含む。回顧都市とはかつて存在した都市風景を当時の通りにかぎりなく再現するというものだ。


 実際に人も住まわせて当時の生活を送らせる。それを記録として遺すという取り組みを企業含めて行っている。


「……何でそんなことを?」

「記録活動の一環よ。新人類にはそれくらいの余力があるの」


 たいしたことではないとレイアは言いのけるが、十分にすごいと思ってしまう。

「そういえばレイア艦長はキリくんとはどんな関係なんですか?」


 シンクが咳払いをして視線をそちらに向けさせる。

「どうしてそう思ったんだ?」


「何かキリくんとレイア艦長って似てますよね。あ、そういえばシンク副長って私と会ったことありません? 他人感がないっていうか――」


   ――◇◇◇――


 ケイカは軍事法廷に出廷後、保護観察となった。現在はハクヒにはクラシノ本邸で生活をしている。


「それでどうしてあなたがいるのよ?」

 ケイカは中庭のベンチに座っており、同じく横に座っているキリに訊ねる。


「俺も捕虜扱いだからな。しばらくはここでお世話になる」

「こういうのって普通は独房とかに入れられるんじゃないの?」


「どういう普通だよ? ま、ケイカが暴れまわっているとかならあり得るけど」

「私そんなことしないわ!」とケイカは怒鳴る。


「だから、クラシノ邸内で自由にさせてもらえるんだろ。君には分別がある。法廷内での態度はよかったし、正直に話したじゃないか」


「って言っても私も大したこと教えてもらってないのよ。役に立ったの?」


「ソウジ・ガレイの名前が出てきただけで十分だよ。まあ、本人は認めないだろうけどな。それに法廷では君の責任能力と被害状況の確認が主だったろ」

 ケイカは首を縦に振る。


「罪状を明らかにして罰則を負うことが軍規を守るってことだ。二〇メートルもある人型ロボットなんていれば街中を歩くだけで被害は出る。人死にがなかったのは幸いだ」


 ケイカは膝に乗せた両手をぎゅっと握りしめていた。

「これからは無理に戦う必要はない」


「でも、私これから何をすればいいの? 自分の世界に帰る方法もわからないのに……」

「自分の世界だって?」


 どういうことかとキリは詳細を訊ねることになった。


   ――◇◇◇――


『どうしたんですか、突然?』

 エリオスの顔がモニターに映る。如何にも面倒くさそうない表情を浮かべている。だが、ヒズルは気にすることはない。


「貴様、オーハンの工場(ラボ)を抑えているだろう。そこで開発しているモノをこちらにまわせ」

『困るんですよね。そういうの。私に何のメリットが?』

 

 そういうのとは無駄に壊されることを指していた。

「運用できる資金を増やせるようガレイに言ってやる。それに運用試験をしたいだろう」


『……そこまでお膳立てしてもらえるなら、こちらも出さないわけにはいきませんね。とびっきりの人型機動兵器を三機ほどまわしましょう』


「わかっているな。ワシが動けないことを」

「もちろんですよ。オーハンをいつ発たれるのですが?」


「……三日後だ」

『これまた随分とじゃありませんか。ま、そんなこともあろうかとすぐに動ける機体を用意してありますので。ただし選別(セレクト)は私の方でさせてもらいますので。お楽しみに――』


 通信はそこで終わった。


   ――◇◇◇――   


 天神がハクヒに停泊して数日が経ち、ようやく格納庫と港に桟橋が架けられる。これにより物資の手配や機体の整備(メンテナンス)ができるようになる。


「人機を運用する戦艦は最大で五機まで収納が可能だ」

 五機編成を大隊、四機になれば中隊、三機は小隊、二機は相隊(あいたい)と呼んで区分けしているとシンクから説明が続き、ティユイはそれを話半分くらいに聞いていた。


「もう少し収納できそうですけど?」

「規格が決まっててな。たとえば待機時はハンガーで固定が義務づけされていて、そのハンガーの上限が五つなんだよ」


「だから五機なんですか」

「他にも色んな制約がある。その中で運用が義務づけされている」


「色んなロボットを集結させて夢のロボット軍団を作るというわけにはいかないんですね」

「人間には生活がある。生活領域を守るための軍隊だからな。必然的に資源(リソース)は限られてくる」


 案外夢のない話だなとティユイは少し残念な気分になる。

「それで今日はどうして格納庫のほうへ?」


「月輝読の装備の説明が第一」

 その言葉にティユイは目を輝かせる。説明としては光振刀が二振り、振断盾に弓矢が装備されることになった。


 光振刀の銘は(たちばな)。盾を(たま)()。弓を(あずさ)と呼ぶ。

「なかなか主人公メカって感じですね。でも、ロボットっていうよりあるゲームの主人公みたいじゃありません? 月輝読は緑じゃなくて金ですけど」


 何の話だとシンクは首を傾げる。すると月輝読の反対側のあたりに作業場が設けられていて何人か整備士が集まっている姿が目に映った。


「あちらで何をしているんですか?」

「蒼天龍の武器だよ。試験で問題なければすぐにでも運用できる」

「へえ」とむしろそちらの方に感心が行ってしまうティユイであった。


「今日、君をここに連れてきたのは理由があってな」

「理由ですか?」

 それは何か訊ねようとした。するとシンクが格納庫へ入ってくる車両へ視線を向ける。


 車両はこちらまで近づいてきて停車すると赤い軍服を着た青年が付き添う形で癖っ毛のミディアムヘアの少女が降り立つ。


 しかしティユイが驚いたのはその衣装だ。この場にあきらかに似つかわしくない。白衣に緋袴と如何にも巫女衣装という風体だったからだ。


「シンク副長とティユイ皇女ですね。はじめまして私はナーツァリ国の姫巫女を務めておりますホノカ・カリンです」

 ――姫巫女? ティユイの中に疑問符が浮かぶ。


「私は付き添いで護衛のクラシノ・ホノエです。先日はそちらの石汎機の繰者と手合わせをした焔朱雀の繰者でもあります」

 恭しくホノエは一礼をする。


 ティユイはどう対応していいかわからず、とりあえず軽く一礼を返す。

「どういうことなんです?」

 それから小声でティユイはシンクに耳打ちをする。するとシンクは「そうだった」とばかり頷く。


「すみません。実は皇女に何も伝えていないのです」

 その返答にカリンは「まあ」と少し驚いた表情で口に手を当てる。


「そうでしたか。記憶を失われていると聞いていますし、無理もないですね」

 それでは「早速」とカリンは一礼して月輝読の御前に立つ。


「何がはじまるんですか?」

「とりあえず見ていてくれ。説明はあとからする」


 カリンが両手を合わせると緋色の燐光が体から発せられ月輝読のほうへ延びていき、月輝読と絡みあう。まるで祈りを捧げているようだった。

 それが数分続き、カリンが一息つくとともに燐光は消える。


 するとカリンは祈りの姿勢を解いて振り向いてくる。

「終わりましたよ」


 何か神々しい不思議な光景を見たティユイは「ほぅっ」と恍惚としたため息をつく。

「副長、あれは何が起こったんですか?」


「月輝読は特別な機体でな。皇家の系統を証明する役割もある。だから皇機(こうき)と呼ばれたりもするんだ」


 五国にはそれぞれ国を象徴する人神機が存在する。それがホノエの駆る焔朱雀であったり、ルディの蒼天龍であり、セイオーム国を象徴するのが月輝読だ。

 

 海皇とは五国を単一を証明するいわば象徴とも呼べる存在だ。故に月輝読の存在は人神機の中でも違う意味を持っている。


「セイオーム国以外の四国にはそれぞれ一人ずつが姫巫女が立てられる。それぞれが周期的に月輝読に祈り捧げることでやがては天玉照(ヴラシオ)になると言われている」


「天玉照?」

「巨大彗星が地球に落ちてから世界はクエタの海がどこまでも広がる世界。太陽はないのに何故か明るくなり、やがては暗くなる。これは現象だ」


 太陽は依然と失われたまま。シンクはそう語った。


「だから現象ではなく物語としての太陽が必要なんだ。そのための天玉照だ」

「太陽を失った民……」とシンクが頷く。


「天玉照が覚醒するとき民族が復活し、日出ずる国が再興される――と言われている」

「その手段が祈りなんですか? 月輝読に特に変化はないようですけど」


「岩戸鎧の鎧が外れることで枷がなくなった。変化はこれからなんだろうな。それに祈りの力なんて抽象的な言葉を使ったりはしているが、姫巫女の生命力を月輝読に注いでいるんだ」

 生命力とは即ち情報であるとされている。つまり生命力を捧げるということは自らに刻みこまれた情報を捧げるということである。


「それって大丈夫なんですか?」

「やりすぎると生命に危険が生じる。命がけの儀式だよ。だから選定の儀式が必要なんだ」


「選定ってどうやるんですか?」

「秘儀になっているから俺もよく知らないんだよ」


「そうなんですね」

 わからないことばかり。とティユイはこちらへ向かってくるカリンを見つめながらぼやくのであった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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