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■捕虜

 戦艦紀ノ。格納庫で石汎機がハンガーに固定されるとキリはケイカを連れて機体を降りる。ついでにケイカの拘束具も解く。


「いいの?」と不思議そうな顔で訊ねてくる。

「むしろ拘束したままでよかったのか?」


 キリは特殊な趣味を持っているのかと怪訝な視線をケイカに向ける。

「私、暴れるかもしれないでしょ」


「君はそんなことしないし、この艦でそれはできないだろうよ」

 ――どういうこと? とケイカは首を傾げながらキリの後ろをついていく。


 扉を開けると男性が二人、直立不動で立っていた。一人は案内役だろうが、もう一人は繰者だろうか。


「私は先ほど君と戦った焔朱雀の繰者、クラシノ・ホノエです」

 ホノエはキリに対して握手を求めてこられて、キリは慌てて握手を交わす。


「勝負は終わってしまえば過去の出来事。であるならば、お互い過ぎ去ったことで禍根を遺さないようにしなければなりません。ところで……」


 ホノエの視線がケイカに移る。

「彼女は君の恋人かい? 機体内まで連れて行くなんて、よほど大事にしているんだろうね」


 それを聞いたケイカは目だけ笑いながらキリの足を踏む。もちろん八つ当たりだ。

 もちろん、ホノエは全部わかったうえで言ったのだろう。


 背後を向いたあとも時折肩が小刻みに動いている。


 ただ、ケイカはホノエの姿を見てからあきらかに意識をしているのがわかった。おそらくホノエの技量に気がついたためだろう。


 だからケイカは隙を見せないように終始振る舞うのであった。


   ――◇◇◇――


 戦艦天神、艦長室にて。


「レイア艦長、いいか?」

 レイアは隣にいる男から声をかけられる。年齢で言えばレイアと同じくらいだろうか。


「何かしら、シンク副長?」

「交渉場所はハクヒでということだ。返答はどうする?」


「そちらの意向に従うでいいわよ」

 ――どうしたものかしら。レイアはため息をつく。


「キリが捕まえた少女を重要参考人としてナーツァリ軍が引き取る代わりにキリと石汎機は返却する、という内容をそのまま受容するのか?」


「こっちは最初から妥協してもらっている状態からはじまっているのよ」

「台所事情が厳しいのはあちらもってことじゃないのか。人質もそうだけど、結局は人機を抱えていると整備もしないといけないだろ」


 紀ノが抱えている人機が一機のみだったのは配備が間に合っていないのもあるかもしれないが、他にもマンパワーが不足している可能性が十分に考えられる。ということは、使える資金も多くはない。


 事情は同じということだろうか。

「世知辛いわねぇ」


「軍事費を湯水のように使えるってことは侵略を疑われるってことだからな。審査が厳しいってだけだ」

「こっちの問題はそれにかこつけてって感じでしょ。むしろガレイが軍事費を湯水のように増やしている。ハルキアへの侵略は最たるものだしね」


「その監視役って意味でも設立されたのが第一三独立部隊だからね。当時、権力の掌握を疑われていたソウジ家はその法案の設立を呑むしかなかった」


 だからこそのあの演説である。案外と追い詰められているのだ、ソウジ・ガレイは。


   ――◇◇◇――


 ナーツァリ国にハクヒと呼ばれる水母がある。その軍港に紀ノは寄港したところだ。そしてキリとケイカは軍港の一室に連れて来られていた。


 二人は席に座っていて、小さな机を挟んで目の前にはホノエと紀ノの艦長を名乗るオノヤマ・マコナが座っている。


 これはケイカの面談という側面が強い。キリは同席を求められたのでそれに答えた形だ。

「――そちらの事情は理解しました。ですが、あなたの行動は軍隊として看過できないことをまずはご理解ください。あなたには近日に軍事法廷への出廷を求めます」


「拒否したらどうなるんですか?」

「それは弁明の機会を放棄するということになります。あなたはそれでいいのですか?」


「それは……」

 ケイカは言い淀む。困っているようだ。


「大丈夫だよ。どっちかというと罪状が軽くなるって話だ。今回の件で人命は失われていない。まあ、建造物なんかの被害は結構でかいけど」


 最後の言葉でフォローも台無しだ。マコナは「そういうところですよね」とばかりキリに半目を向ける。


 一方でケイカの左手がキリの手に乗っている。随分と懐かれているようだ。

「キリさんは年下が好みですか?」


「はい?」

 キリが質問意図が理解できず首を傾げる。これはまずいと察したのかホノエが咳払いを一つする。


「それではケイカくん。君はセイオーム国が設立した特務隊に所属していたということで間違いないか?」


 ケイカの話から様々なことがわかってきた。おそらく指揮系統がブラックボックスになっている。それを暴けば今回の暴挙の首謀者を明るみにできるかもしれない。


「それはそうと本当ですか、ティユイ皇女の件は?」

「事実です。彼女は記憶を操作されて二〇二七年の京都だと認識していました」


「記憶操作、監禁罪……かなり無茶な罪を重ねていますね」

 ただ内容としては政治問題に発展するだろう。事は重大だ。これからティユイ皇女を招くことにもなる。


 ハルキア侵略の一件もある。果たしてナーツァリ国がどのような判断を下すのか。それはマコナにも判断しかねた。


 ただ、事態が大きく動くのかは理解できた。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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