■戦いのはじまり
雨が止み、雲の合間から月が顔を出す。
港までの公道にて黄色い石汎機の姿があった。
「機体にマントなんて、これが対策になるのかよ?」
キリは石汎機に黄色いマントが取りつけられているの確認した。
「衝撃の吸収と拡散か」
――これが有効なのか? ケイカ戦を元に取りつけられたマントである。見た目通りのただの布きれなどではない。エーテル鋼を糸状にして編みこんだという、恐ろしく手の込んだ代物だという。
ルディとユミリは無事らしいが、蒼天龍も確保された状態で身動きできない。よってキリはこの場を一人で切り抜ける必要があった。
「起動確認。……異常なし。これより持ち場で待機――」
『その必要はないわ。私の方から来てあげたから』
ずんぐりむっくりという表現が適切だろうか月光の下、青を基調とした機体がキリの前に現れる。その右手には槍。
その声には聞き覚えがある。ケイカである。
『二回戦目、受けてもらうわよ』
――◇◇◇――
「艦長、コーヤへ接近する艦を一隻確認しました。照合の結果、艦名は紀ノです。現在の艦艇速度を比較した結果、紀ノの到着が若干早いようです」
――どうしますか? レイアは判断を仰がれる。艦長の証である帽子を深くかぶりつつも眼光は厳しい。
「どうしたものかしらね、シンク副長?」
レイアの横に控えている男に視線だけ向ける。
「どうしたもないだろう。このままだと月輝読を抑えられることになる。となれば、やるべきことは一つ――」
「キリに頑張ってもらうしかないわね……」
狭い縦長の薄暗い小部屋でレイアは思わずため息をついた。現在も一〇人くらいが縦一列に座って、しきりに手や視線を動かしている。
座席の配置は左手の壁沿いにあり、椅子は両肘つきに直径30センチほどの作業台が一つ。おそらくマリモを置いたりする台ということなのだろう。
右手の壁面が屋根裏部屋のように斜めになっており、それが巨大なディスプレイになっている。おそらく小さい映画館のスクリーンくらいのサイズくらいの大きさだ。
ディスプレイにはこの艦船の姿と、あと地図だろうか。他にも数値やグラフが映されてずっと変動している。
「速度を上げてっていうわけにはいかないのよね?」
「速度を上げた分は減速しないといけないのはわかるだろ。相手はそれも折りこんでの行動だと思った方がいい」
「そうなるとどうしてコーヤへ向かっているんだと思う?」
「わからないな。情報が少なすぎる」
レイアは発令所の少し間の空いたところに杖をついて立っており、右手人差し指で持ち手の部分をトントンしている。
「まずキリには現状の戦闘を切り抜けてもらう必要がある。指示はそれからだな。場合によっては別プランも検討する必要がある」
「……最悪の場合よね。立案は任せてもいい?」
「了解。直ちにかかる」
右手のディスプレイに映っている画像は奥行きがある。表現としては立体視しているような感覚だろうか。
しかも光源はディスプレイの光くらいのもので室内は薄暗い。彼らはそれでも作業に差し支えはないようで手が止まったりする様子が一切ない。
レイアは眉間にしわを寄せながら、ディスプレイを睨んでいるのであった。
――◇◇◇――
「そこをどけ、ケイカ。さもなくば……!」
キリはケイカに対して呼びかける。これは一種の確認のようなものだ。これが拒否された場合、直ちに武力行使が可能となる。
『悪いけど、こちらも仕事なの。どくわけにはいかない』
「そうかい!」
前回とは違ってペルペティの足まわりが太い。背中に翼もないとなると飛行するような機体ではないのだろう。胸板も分厚い。おそらく装甲が厚いということ。
「合体していたんだよな。ということは――」
状況に応じて形態を変えるということだろう。おそらく前回の戦闘データは役に立たないだろう。
石汎機はペルペティと距離を詰めながら光振刀を抜き放ち、黒い刀身が白銀に染まっていく。制限を即座に解除したのである。
さらに右脚を摺り足で前に出し、槍の柄を両手で握った状態で穂先をこちらに向けてくる。槍の先端がしきりに動くのは迫ってくる石汎機に狙いを澄ましているためだ。
――外さないだろうな……。というのを理解しながらもキリは石汎機の前進を止めさせなかった。
ペルペティの間合いに入ったと同時に槍が突き出される。しかし踏みこみは浅く一撃は軽い。その先端を盾に当てながら踏みこんでいく。
石汎機は左足を軸にして右足を踏みだして光振刀をペルペティの脇腹に向けて突きだしてくるのに柄をくるりとまわす。
すると光振刀の刃の腹に柄の部分を当てられて上に持ちあげられて、石汎機は手放すことになる。さらにペルペティは槍をそのまま上空へと放り上げる。それにキリは釣られて視線を追ってしまう。
そのわずかな隙に突きだしていた右腕を掴まれて石汎機は背負い投げで投げ飛ばされる。
『ほんっと学習しないわね』
そういえば彼女の戦法は武器はあくまで補助だというところだった。これも類に漏れずということなのだろう。
「そっちがそういう戦い方しているからだろ……!」
投げ飛ばされて背中から道路に激突するのをマントで衝撃を和らぐことに成功する。おかげでダメージは少ない。
キリは何とかすぐに立ち上がって態勢を立て直すもペルペティが迫ってくる。こちらは一番リーチのある武器を取りあげられた形で痛手となった。
「捕まったらやられるってことか」
現在、槍は持っていない。よってリーチは互角。しかし相手は無手がもっとも得意である。
石汎機をペルペティから距離をとらせようとする……が、おそらく足運びなのだろうか。おそらく摺り足で片足だけ後退させたり前進させたりしているようだ。
おかげで相手との距離感が狂うとキリは感じていた。しかも距離を取ろうとすると絶妙に詰めてくる始末だ。
『逃げるばかりじゃね』
ケイカは挑発してくる。そしてたまにわざと隙を見せて手を出してくることを狙ってくる。
「そんな挑発には――」
キリはハッとなる。少し前にペルペティが放り上げて、上空から降ってくる槍を掴み取ると同時に石汎機の盾を槍の穂先で引っかけて弾き飛ばす。
『相手の集中を乱す効果もあるのよ』
槍の穂先を天上へ向けると左足を踏みこんで、柄の腹で石汎機を押しだそうとしてくる。
ペルペティの関節から漏れる光量が増加したような気がした。
――そろそろか?
ケイカの技量は極めて高い。キリでは現状勝負にならないだろう。隙を作るとすればむしろ機体のほう――ペルペティからだ。
あとはこのマントが耐えられるかどうかだろう。
槍の穂先が三つ叉に割れて、光がバチリと稲妻の如くほとばしる。
『標的認識。……チャージアタック発射!』
前回は光弾の一種という認識であったが、今回は光の剣という表現がしっくりくるところだろう。
「耐えてくれよ!」
石汎機はマントで全身を覆い、振りおろされる光の剣を受け止めようとするのであった。
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