■これからの戦いへ
登場人物:イオナ、キリ、レイア
街中はひっそりしており人通りもまばらである。それとなくピリリとした緊張がはしるのは、車道に軍用車両と警察車両しか動いていないせいもあるのだろう。
「セイオームは強引すぎませんか? フユクラードを巻きこむなんて」
走行している軍用車両の中、女性が重い沈黙の中で口を開いた。
「この事態を我々は常に想像していました。それが今日、遂にやってきたというところです」
向かいに座っていた男が応えた。
「和養の世で戦乱を引き起こすなんて……」
女性の声が震えている。俯いていたため男からその表情はうかがい知れない。ただ、自らの膝を支える両腕が見るかに震えていた。
「これから私はどこへ?」
「港です。イオナ様にはハルキアを離れていただきます」
「行き先は教えてもらえないのですね」
「私も教えてもらっていませんので」
イオナと呼ばれた女性は本当だろうかと眉をひそめる。
「つまり、今回の件はすべて偶然が重なった結果ですよ」
「……そういうことにしておきましょう」
ある程度、想定はしていたということだろう。それが不本意ながら的中してしまったというわけだ。
「私を逃がして、あなたは大丈夫なんですか?」
「私の任務はあなたを逃がすことと、ここに残ることです」
「それは身の保証があるからこそできる行動です」
「我々、軍人には規律と法があります。私は上官の指示で動いていますし、それ自体は合法なものです」
イオナはまっすぐに男の顔を見つめる。男が動じないのはこれ以上の答えを要求するなということだろう。
「港まで行けたとして、私がハルキアから脱出するのをセイオームが見逃しますか?」
セイオームがハルキアに侵攻をした理由について公開されているものはあくまで表向きのものだ。本当の目的はイオナ自身にあった。彼らは皇族を血眼になって確保しようとしている。
「幸いなことにフユクラードとの連携がうまくいっていないようです。損耗が想像以上に大きいので、追撃は厳しいと予想されます」
「そうですか……」
「それはソウジ・ガレイ閣下次第でしょう」
が、追撃を止めることはないと彼は確信したような口調だった。
「長い逃避行になりそうですね」
イオナは遠い目をして、何もない空間を見つめる。
ハルキアへ過ごす時間は悪くはなかったように思える。いまとなってはだが。もう平穏の時は終わったのだ。
「一人の女性に押しつけるにはあまりの大義です」
「すでにあの時から覚悟はできております。ソウジ・ガレイは私とメイナさまが一緒にいると思っているようですから」
イオナは気丈にも笑顔を浮かべる。
「敵は強大ですが、味方はどこにでもいるということをお忘れなきよう」
男が笑いかけてくると、イオナも笑顔で答える。
「さあ、港に到着しましたよ」
男から指示を受けて、イオナは軍用車を降りると自分が乗る艦に向かった。動きは教練で何度も叩き込まれたことである。
だから、自分がこれから乗艦する艦がハルキアのものでないこともすぐに理解できた。
「イオナ様、私はここまでです」
イオナがまだ先まで進めるところ。その途中で男はピタリと足を止めてしまう。
「ここまでありがとうございます。私のような者のためにハルキアの方々には何とお伝えすればいいやら」
イオナは立ち止まり男に対して、ここまで自分を連れてきてくれた人々に対して深々と頭を下げた。
「我々は当然のことをしたまで。旅のご無事をお祈りしております」
「ありがとうございます。縁があればいずれ」
イオナは振り向かず艦へ向かっていくのであった。
――◇◇◇――
暗がりの中、狭い室内に二人の男女がいる。
「レイア艦長、どうして戦域から離れたところで待機しているんですか?」
レイアと呼ばれた女性が答える。
「よろしい、キリ隊員。答えましょう。まず我々は状況に干渉するだけの戦力を有していない。よって戦域に接近すること自体が危険。戦域外で待機しているのはそれが理由。それを踏まえて戦域付近に出てきた理由は二つ」
レイアは二本の指をキリの目の前に立てる。
「一つは要人が脱出が無事完了するのを見届けること。もう一つはね――おそらくハルキアはこの戦争に負ける。その時にとある要人が脱出してくる手筈になっているわ。その人物は第一三独立部隊で預かることになっているのよ」
「……それと俺がここに連れて来られたのは何なんです?」
「いざという時に人機で出撃してもらうため。まあ、護衛ね」
「シミュレーションで三回程度動かしただけですよ?」
「知ってるわよ。それは表向き。襲われそうになったら私が出てあげるから安心なさいな」
要するにレイアは自分が人機に乗って戦うと言っているのだ。
「艦長は何者なんです?」
「それは以前に言ったわよ。第一三独立部隊の総司令だって。長生きしているから他にも肩書きはあるけどね」
「不老不死体だって言ってましたね。シンク副長もですよね」
「そ。だから、あいつとは長い付きあいになるわ」
相棒と言うだけではなく二人の関係はもう少し複雑なのだろうとキリは感じていた。
「さて、一つ目の任務は達成できそうね。あとは――」
レイアは浮かびあがる画面を見つめながら、ふとつぶやくのであった。
実はアスアの設定を変えています。
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