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■コーヤと呼ばれる水母

「妙だな。案内されたドックが当初聞いていた場所と違う」

 ルディが顎に手を当てて考えこむような仕草を見せる。


「そういうのって理由あるもんなん?」

 ユミリはルディに訊ねる。


「いや、理由が説明されないのが引っかかっている。キリはティユイを連れてリーバ内でスタンバイだ」


 ルディは有無を言わせない口調で指示を出してくるので、キリは驚きつつも「わ、わかった」と答える。


 それからティユイを連れてキリは人機のある格納庫へ向かう。

「ドック内で戦闘行為は禁止やろ?」


「ドックで艦船は固定されると身動きできなくなるだろう。この状態で襲撃されたら一溜まりもない。何より非戦闘員もいる。だから国際軍規でもドックでの戦闘は禁じられている」


 ――にしてもだ。この妙に張り詰めた空気は何だと。ルディは自然と持っている剣の安全装置を解除していた。


「襲撃があるん?」とユミリは不安げだ。

「ここで襲撃してくる連中は怖い。なり振り構うつもりがないからな」


 ――対応は自分とユミリで行う。そう言うとともに艦船に桟橋が架けられた。

「行こう」と呼びかけられ、ユミリは口を真一文字に締めて頷いた。


   ――◇◇◇――


「ベイトさん、何をしているの?」

 道路にキラキラと輝く白い土山が築かれていくのをケイカは眺めながらベイトに訊ねる。


「エーテル(こう)を混ぜた土ということらしい」

 素材について詳細までは知らないという。ただ、この世界ではもっとも固い金属なのだそうだ。

 

「待ち伏せなんて、何か退屈じゃない?」

「俺たちは誰に待たされているのか、だな」


「どういうこと?」

 ベイトの問いかけの意味が理解できずに問い返す。


「俺たちにまわってきている情報がすべてではないはずだ。この場合、別働隊がいると考えるべきだろう」

「どうしてそう思うの?」


「俺たちにまわってくる情報が少なすぎる。前回、俺たちは敗北した。それは戦力差からだという判断であるならば、敵戦力を分散させる必要がある。であるのに、出ている指示は二人ともここで待機だ。何故だと思う?」


 あきらかに自身の命がかかっていることであるにも関わらず、その裁量権があまりに少ないということをベイトは訴えている。が、ケイカにはどこまで伝わったことだろうか。


「でも、対策できていないと勝てないってことだよね?」

 勝利を確実なものにするにはという韻を踏んだ上での話だ。


「信じられる人間は存在などしない。いるのは信じたい人間だけだ。……要するに誰も信じるな」


「それって人生経験から言ってるの?」

 だとしたら随分と苦労しているんだとケイカは感じた。時折、孤独感というか寂しさが宿っているのはそのせいなのかもしれない。


「……好んで集団行動をするほうだと思うか?」と問われたのでケイカは迷うことなく首を横に振った。


「強いっていうのも考えものだね」

「……まったくだ。話を戻すとおそらく別働隊がいると思っていい。俺たちには一切知らされていないな」


「どうして味方同士なのに黙っているのかな?」

「俺たちにそういう疑問を持たれても支障がないということかもしれん」


 ――そうなると。いや、これ以上は口にするまいとベイトは口を噤む。そして、視線は自然と港の方へ向いた。


   ――◇◇◇――


 ルディが桟橋を出るとそれに続こうとするユミリを手で制止する。

「はじめまして」


 桟橋の先に違う男が現れた。わかりやすく優男という風体だが、その表情から伝わる飄々とした雰囲気はつかみ所がなく感じる。


「どこの部隊だ? ドック内での戦闘行為は厳罰だぞ」

 ルディの問いかけに「くくく」と男は笑う。


「私はエリオス。セイオームの特殊部隊です。別名、特命隊とでも言いましょうか。ケイトで君たちを襲撃した者と所属を同じくする者ですよ」


「この港に民間のスタッフが駐在していたはずだ。彼らをどうした?」

 怒気を含んだ声でルディは問う。


「そこまで非道はしないよ。無駄な殺しはしない主義だ。虐殺は命令の失敗から起こるものだろ。君の考える蛮行とそれは別ものだと思ってほしいな」


 ――仕事を増やすのは嫌だしね。そう言ってエリオスは銃口からルディに向けて発射する。


 ルディは剣の柄に手をかける。すると向かってくる銃弾が弾かれて地面に落ちていく。

「ほう」と感心した表情をエリオスは浮かべる。


「どういう手品だい?」

「飛び道具対策くらいはする」


 ルディはそれから走りこみ、エリオスの懐まで接近して剣を振るう。

「やるね」


 それを紙一重で体を後ろに反らして躱す。

「だが、私の勝ちのようだ。よかったのかい――彼女から離れて?」

「何?」


 エリオスはルディのさらに背後を指さす。その方向にはユミリがいるはずだ。まさか――と背後を振り返る。


 ユミリは緑色の粘液によって両腕から胸周りをぐるりと拘束されていた。

「なんやのこれ?」


 引き剥がそうにも腕は満足に動かないし、体から離れようともしない。

「知ってるよ、彼女はハルキアの姫巫女なんだろう? そして君はその守り手だ」


「別に隠していたわけじゃない。むしろユミリを抑えることを理解した上での行動か?」

「私は任務を遂行したまでだよ。それより武装を解除してもらえるかい? あとはティユイ皇女を確保するだけだ」


 ルディが剣を地面に置く。それから格納庫の上部が展開していく。

「実は先手を打たれたというわけか。それにしても自分たちを囮に使うなんてね」


 リーバが浮かびあがって、その場をすぐに飛び去っていく。エリオスはその光景に呆気をとられた様子であった。


「この場は掴まってやる。ここで二人を捕まえられなかったのは致命的だったな。おかげでお前たちをここで釘付けにできる」

 だから、これで手仕舞いだとルディは視線で投げかける。


「ここはナーツァリ国だ。セイオーム国じゃない。馬鹿な真似はしないことだ」

 ルディは澄ました表情をしている。これではどちらが有利な立場なのかわかったものではない。


「やれやれ。まあ、君とユミリ王女。あと君の機体は押収させてもらうよ」

「それは俺に言ってもな。お互いの指揮官と交渉することだ」


 あくまで強気な態度のルディにエリオスは肩をすくめる。

 それにしても「なるほど」とエリオスはつぶやきそうになる。もう自分には一切の裁量権がないのだと今更ながら気づかされる。舞台は政治のほうに委ねられたのだと。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ルディとユミリは捕まえましたが、まだまだ油断できない。続きを楽しみにしています!
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