■九時〇〇分
登場人物:キリ、ティユイ、ユミリ、ルディ、ケイカ、ベイト
ミキナが市街地からリーバで離れるのをベイトとケイカは見送ると話し合いをはじめる。
「ケイカ、お前は皇女を追え。俺は青い機体を相手する」
「いいわよ。ベイトおじさまの指示に従うわ」
「俺はまだ二〇歳だ」
地上に白い人型のロボットが降り立つ。その大きさは一五メートルほど。のっぺりした顔が特徴である。
「ごめんなさい」
「どうしてお前のような娘がこのメカに乗ることになった」
「少なくとも楽しくて乗ってるわけじゃない。弟――家族のためよ。この世界だと事情は違っちゃうけどね」
その言葉にベイトは少し目を細める。
「そうか。誰かのためか……」
「ベイトさんは?」
「俺の力は俺のためでしかない。ちっぽけなものだ」
ベイトは自嘲気味に笑みを浮かべた。
――◇◇◇――
ルディが空を仰ぐ。するとグラウンドの上空に青い人型機が巨大なバックパックを装着した状態で滞空している。
一目見てもどうやって滞空しているのか理解はしづらい。しかし、おそろしく静かなのは端からでももわかったことだろう。
「よし、蒼天龍はリーバを俺のいる地点に降ろしてくれ」
すると青い機体――蒼天龍の前腰部分が切り離されてルディのいる付近にくるとシートが下がってくる。
ルディがシートに背中を預けるとコックピット内へあがっていく。下部ハッチは閉じると黒い霧が充満していき、それとともに上空へ浮かび上がっていく。
「キリは先に烏丸通を使って軍港を目指せ」
『大通りから、九号線に出るルートでいいんだな?』
「そうだ。こっちは――」
足元の方――モニターに赤いマーキングが矢印となって現れて拡大され、コックピット内にレッドコールが鳴り響く。それは機体の近くに人間などがいると安全性を確保するために警報が鳴るよう設計されているためである。
そこにはルディたちを襲ってきたベイトがいた。
『どうした?』
「敵だ。悪いが、すぐに支援に向かうのは難しいかもしれん」
『……了解。こっちは何とかするよ』
「頼む」
グラウンドいっぱいに赤い線が浮かびあがり円方が描かれる。それに沿って文字のようなものがおこされて地面が盛りあがっていく。
そこから現れたのは文字を幾何学的にまとった拳で、その五本の指を広げながら蒼天龍を捕まえようとする。
「キリたちから距離を離させようとしているのか?」
つぶやくと同時に鴨川のほうへ追いやられていることにルディは気がつく。
――◇◇◇――
ルディと通信が切れた後、コックピット内は騒然となる。
「何ですか、あれは?」
由衣は興奮気味に上空へ向けて指を差す。そこには赤い鳥型メカの背中に乗った真っ白な人型ロボット。
由衣は素直に格好いいと思ってしまった。鳥型のメカは分解できそうな線が見える。そして白いメカにはところどころ何かと接続するための突起が見える。まるで何かと合体するかのように。
「……何やろ?」
友美里も首を傾げている。
『ティユイ皇女をただちで解放しなさい。そうでない場合、皇女の生命の可否を問われていない。よってあなたたちには死んでもらうことになるわ』
通信が入ってきて少女の顔がコンソールに映像として映しだされる。由衣はどこか聞いたことある声のような気がしたが、すぐには思い出せない。
「ケイカだな。悪いが、その提案は呑めない」
『交渉決裂の前に理由を聞いても?』
「ティユイ皇女は記憶を操作されていたうえに軟禁されていた。そのうえに出て行くなら命の保証はないという。そちらの提案を呑めというのほうに無理がある」
『それはあなたにティユイ皇女を守るだけの力があってこそ言えることでしょ』
「実力不足かは試してみればいいだろう」
するとケイカは大きくため息をつく。
『強情なうえに強気ね。あなたのこと嫌いじゃなかったけど――』
由衣の予想は果たして正しいことが証明される。鳥形のメカは分解すると脚や腕の形に変形しながら分かれていく。そして、それが白い素体に合体してくのだ。
「すごいですよ! 合体してます! 合体!」
由衣は興奮気味にはしゃぐのを友美里は顔を引きつらせて見ている。
「大丈夫なん、この娘……」とキリに訊ねる。
「いや、それ以前にだな。あのデタラメなのをどう対処するかだぞ」
合体が完了すると白い素体は一回り大きくなっていた。基調色は赤になり背中には鳥の翼、腰まわりはスカートのようなものを纏い、右手には剣、左腕は小盾が装着されている。
「王道ですねぇ」
由衣は目をキラキラと輝かせながら、ほうっとため息を漏らす。
『名はペルペティ。この姿になったからには容赦しないから!』
ペルペティが翼を羽ばたかせて少し上昇してから、こちらにめがけて剣を振りかぶりながら急降下してくる。
「速い……!」
桐はそう言うと同時に左手で盾を前面に構えながら右脚をやや左方向へ下げる。斬撃は右方向から左へ横一文字へ一閃されるのを斬撃の方向に合わせながら盾で防ぐ。
その間に右手の剣を腰から抜き放つと黒い刀身が白銀へと変わっていく。
「よっしゃ! よう防いだ! そのまま反撃やよ!」
「相手は空を飛んでるんだ。追撃ができないだろ!」
「押せ押せ」と言わんばかりの友美里の勢いに桐は一撃を防いだ後に距離を離された状況をそのように説明する。
「まず、相手の動きを止めないといけませんね」
由衣は冷静に分析した上で一言添える。
「あのペルペティが動くたびに関節からバチって白い光が出ているの何なんだ?」
桐はペルペティを凝視しながら訊ねてくる。由衣には当然答えられないので、答えるなら友美里だろう。
「私もわからんよ……」
むしろ言われて気づいたくらいだと友美里は言った。
「石汎機は飛べないんですか?」
「人機は端末を装備しないと飛べないし、あんな風に空中を動くのは無理だ。基本は地上戦がメインになる」
となると制空権はペルペティにとられた状態ということになる。
再びペルペティは降下して、こちらへ向かってくる。桐は何とか相手の動きを止めようと正面に向かって盾を構える。
だが、ペルペティは予想外の行動にでる。そのまま突っこんでくるのかと見せかけて一旦地面に降りたつとふわりと舞いあがり、由衣はその姿を見失う。
気がつけば石汎機の目の前――。そのペルペティの足が見えた。それと同時に右足のかかとを引っかけるようにして石汎機の盾を上方から弾き飛ばすとさらに宙返りをして少し離れたところで舞い降りる。
盾を弾かれたことで石汎機は防御手段を失ってしまった。その事実に桐は戸惑ったのか動きが止まり隙を作ってしまう。
対してペルペティは間髪入れずに剣を突きたてながら、石汎機の視界から足の運びを隠すようにして走りながら向かってくる。これでは桐は相手の動きが読めないだろう。
「くそ!」
桐は思わず剣を横に薙ぐ。が、タイミングは少し早かったようでペルペティは体を反らしてかわしつつ、さらに体をひねりつつ深く沈めながら石汎機の懐へ潜りこんでくる。
そこから足払いで石汎機の踵が浮かされる。おかげで重心から崩されて、お尻は地面に叩きつけられる。
「してやられた!?」と桐が叫ぶ。
『悪いけど、塵も残さないから。――エネルギー充填一〇〇パーセント』
ケイカは抑揚のない声で通信を入れてくる。別れの言葉とばかりに。
それから翼を羽ばたかせてペルペルティは宙に浮かんでいく。同時に左腕の盾が弓の形に展開していくのが視認できる。そして関節から発せられていた白い光が稲妻のようにほとばしりながら右手指先に集中して矢の形を形成していく。
『標的認識。……チャージアタック発射!』
石汎機のコックピット内で警笛が鳴り響く。それはロックオンされたことを意味していた。
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