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■開戦

登場人物:アズミ、ルディ、スズカ

 君にだけ世界の真実を伝えよう。


 きっと君はこの世界に違和感を覚えているはずだ。


 自分の居場所は本当にここなのか、と。


 君の持った違和感は世界の真実に近づきつつある兆候だ。


 君がいるのは数多ある世界の一つにすぎない。


 あるいは世界が君に嘘をついているのかもしれない――。


   ――◇◇◇――


 シキジョウ・キリはコックピット内で息を潜ませていた。慣れない環境に先ほどから目がキョロキョロと揺らめく。


 この一五歳になる少年にとっては初めての体験である。

『そう力む必要はないわ。今回の仕事はあくまで待機だから』


 女性の声が聞こえる。

「……要人の保護と、別の要人が無事に国外へ逃げられるよう補助する、ですよね」

『そうよ』


 抑えきれない感情から思わずため息が漏れる。

 ――どうして繰者なんだ? やれるわけないだろう。


『ちょっと。やめてよね』

「自分は繰者でなくて、整備士希望でしたよね?」


『仕方ないでしょ。我が隊は繰者が不足しているんだから』

 それがどうして自分なんだ? この問いにこの女性は果たして答えてくれるのだろうか。


『そろそろはじまるわよ』

 女性の声に緊張が奔る。夜明けが近づきつつあった。


   ――◇◇◇――


 (ほの)(ぐら)い海中に(うごめ)く人影の群れ。背後に巨大な魚影の群れ。


 そのすべてが機械仕掛けのものであると理解するにはかなり接近する必要があった。

 人型の瞳がギラリと光を放ち、魚影も光が先ほどから点滅している。この暗がりでは細かい形状や色まではわからない。


『セイオーム軍・三部五機大隊、並びに我々フユクラード軍・二部四機中隊の陣形配置が完了しました』


 男が「了解」と短く返答する。

 目の前のディスプレイから立体の部隊配置が浮かびあがっている。

 一五本の黄色いピンと八本の黒いピン。後方には五機の艦影。相対するのは青いピンが一二本。

 そのうち黒いピンが一本点滅している。それが自身の配置を示していた。


 フユクラード軍はセイオーム軍の「進軍」という号令を待つ立場にある。フユクラードという国家はセイオーム国との同盟により軍を派遣したという形を取っているためだ。

 この場合の指揮権は呼びかけた側にあるというのが慣例である。


 二三本のピンは黄色いピンを中心としてアーチ形を保ったまま並列していて、一方で黒いピンはその両翼に四本ずつ配列されている。


 方角にして東方より。輝光(きこう)が一閃のごとく射しこまれて扇状へ広がっていく。(つつ)(やみ)は徐々に退き、(こう)(みよう)が世界を照らしはじめる。


 その世界では海がどこまでも果てしなく広がっていた。ただし、ひどくいびつな形で。


 泳いでいるのは全長で数百キロあろうかというクラゲに三〇〇メートルはあるであろう鋼の魚と二〇メートルほどの大きさの機械仕掛けの人形たちだ。


 その機械仕掛けの人形たちが夜明けとともに動きはじめる。

 フユクラード軍とセイオーム軍の目標地点は海中を漂う巨大クラゲだ。拡大してみると傘の中に建造物の群れが目で見える。それはクラゲの傘内で人間が生活をしていることを示していた。


 人型機械が朝日に照らされる。黄色を基調とした一五機と黒を基調とした八機。それぞれが盾や弓矢を構えていた。


『各機に告ぐ。進軍せよ』

 その合図で全てのピンが動きはじめる。しばらくは均整のとれたアーチの陣形であったが、端の方から徐々に乱れはじめる。


『フユクラード軍、どういうことか。陣形を崩すな』

「我々が先行をする。たったいま作戦変更の計画をそちらに送った」

 男が答えると、八本の黒いピンが先行をはじめ綺麗なアーチの形は崩壊する。


『フユクラード軍に告ぐ。作戦に変更は認めない。陣形を戻せ。繰り返す――』

「今さら止まれるものか」

 乱れた陣形は相対する青いピンを中心へ押し込めるような動きを見せる。


『セイオーム軍は第一部を中心に密集せよ。陣形を立て直す』

 切り替えが思うより早かった。そもそも損害は最小限に抑える必要がある。そういう意味で彼らは軍の意向に忠実と言えた。セイオーム軍はやはり優秀と言えるだろう。


 だからこそフユクラード軍は裏をかく必要があった。同盟とは単純な友情で結ばれたものではない。

 セイオーム軍の行動に対してフユクラード軍は懐疑的であった。


「先陣はフユクラードが務める。私、サカトモ・アズミの嶺玄武(ベルティワイザー)に続け」

 各機から『了解』という返答がくる。

 青い機体たちをすり抜けて黒の軍隊は水母のほうへ突き進んでいく。


『アズミさま、本当によかったのですか?』

「副長か。こうでもしなければ、次の標的がフユクラードになる可能性がある。それにセイオームがハルキアへ攻めこむ理由……貴公は納得できたか?」


『他国へ侵攻準備をしているということでしたが……』

「だが、実際に軍備を増強して先制攻撃を仕掛けているのはセイオームだ。警戒するなというほうが難しいな」

『証拠を探すために侵攻するということでしたね』


 そのセイオームの動きに各国が理由を問いただしても納得のできる回答は得られていなかった。


 今回の侵攻は各国の制止を振り切って断行したものだ。つまり、政治的な意図が強い。

 その中で同盟として追随したのがフユクラードであった。


『間もなく、ハルキア――カミトの水母くらげへ接近します』

 クラゲの傘が間近に迫る。


「時間差で攻勢をかける。第一部が先行して傘から強制突入を敢行する。第二部は二〇分待機。何も連絡がなければ続けて強制突入をかけるよう。よろしいか副長」


『了解です』

「よろしい。第一部は我に続け。これよりハルキア首都を攻略する」


   ――◇◇◇――


 少し時間は遡る。まだ夜も明けない頃だ。暗がりに男女の影があった。

 男の方は長い髪を後ろで結ってアップしている。青基調の軍服を着ている。対して女の方は長いふわりとした髪をなびかせている。


「ルディ、まずはおめでとうよね。蒼天龍(ジルファリア)の繰者として選ばれたこと、さすがカナヒラの一族」


「本当に褒めているのか、スズカは?」とルディの口の端があがる。

「さあ、どうでしょうね」とスズカは意地悪く笑みを浮かべる。


「まさか、そのまま初陣になるとは思わなかったがな。セイオームの狙いはユミリか?」

「おそらくね。私の大事な妹を振ったんだから、しっかり守ってやること。いいわね?」


「それをお前が言うのか」とルディはため息をつく。

「きっと、あの娘なら素晴らしい恋ができるわ」

「慰めにもならんだろうに」


 するとルディは頬をつねられる。

「口答えしないの」


 それからルディの顔を引き寄せて口づけをして、一言告げる。

「あなたの無事を祈ってる」

ほぼ同じ内容となります。が、徐々に設定や展開が変わっていくことがわかるかと思います。二周目の人もぜひに読んでみてください。

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水中戦を舞台にした重厚な軍事SFでありながら、登場人物の心情描写や会話も丁寧に織り込まれ、戦火の中にある人間ドラマの温度が伝わってきます。アズミの決断、ルディとスズカのやり取りには信念と感情の交差があ…
セイオーム軍とフユクラード軍の駆け引きがリアルで、戦略的な思考が伝わってきます。特にサカトモ・アズミのリーダーシップが光ってました。青い機体と黒の軍隊のビジュアルも、頭の中で鮮やかに浮かびましたね。ル…
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