金魚と三日月と彼女
なろうラジオ参加作品のため短いです。
雨。
水面に滴が跳ねる。
優美な鰭と尻尾を持つ金魚が水の中、優雅に泳いでいる。
夜なのに元気ね。
私も金魚だったらよかったのに。
このひらひらな赤いドレスが尻尾で、ストールが鰭で、優雅に舞うことができたら。
ねぇ、そうしたら……
三日月の浮かぶ水面に滴が落ちてその形を崩した。
いくつもの滴が水面に落ち、波紋を描き、三日月を揺らす。
今日は精一杯お洒落してきたの。
彼と一曲でも踊れればと思って。
それなのにーー。
彼の隣には綺麗な女の人がいて、二人で幸せそうに微笑み合っていた。
とてもよくお似合いの二人で。
憎たらしいほど幸せそうで。
お互いを想っていることが嫌でも伝わってきて。
私の入る隙なんてどこにもなかった。
ーー大きくなったら踊ってあげるよ。
幼い頃の約束をずっと信じていた。
四つ上の彼にとってはすぐに忘れられる程度の戯れの約束。
少しだけお兄さんの彼に憧れただけ。
そうこれは恋じゃない。
恋なんかじゃない。
だから私は失恋したわけではない。
ぽろぽろと涙が頬を伝い、水面に波紋を起こす。
いくつもの波紋に揺れる水面では自分の顔も見えない。
それでいいわ。
私は微笑って見せた。
ぽろぽろと涙をこぼしたまま。
だから笑顔も、泣き顔も、見えない。
もういいわ。
ゆっくりと立ち上がる。
さようなら。
ちょっぴり好きだった憧れの人。
私はここで一人踊るわ。
満月のように明るくはない、細い三日月のささやかな光のほうが今の私には相応しい。
ひらりひらりとスカートを翻し、ストールを鰭のように優雅に舞わせて。
誰も来ない池の畔で。
水の中で優雅に踊るように泳ぐ金魚のように。
読んでいただき、ありがとうございました。