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ねえ、先生?  作者: 京野 薫
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たまらなく嫌

 それから私は男の子になった。

クラスの男子と同じような格好をして、同じ口調でしゃべった。

すると今までからかってきたのが嘘のように仲良くしてくれるようになった。

つくづく子供は単純。

その変わり身に呆れたけど、それが嬉しくて4年生になるとさらに周囲の男子の真似をするようにした。

女子をからかったり、時には先頭に立ってスカートをめくったり、体を触ったりした。

本当はそんな事をしても少しも楽しくなかった。

でも、楽しもうとした。

逆にプールの時に男子の裸を見たりするのは信じられないほどドキドキしたし、自分の裸を見せるのがたまらなく嫌だった。

ましてやみんなが好んで行っている下腹部を意味も無く見せ合う遊びは信じられないほど恥ずかしかった。

でもみんなはお互いの海水パンツを下ろしては大笑いして楽しそうだ。

じゃあ自分もやらなくちゃ。

私は男の子なんだから。


ぼんやりと覚醒した私の目に飛び込んだのは、いつもの見慣れた天井だった。

いつの間にか寝てしまったらしい。

そうだ、パパが改めてママと出かけた後緊張が解けたのか、どっと疲れて横になったんだった。

嫌な夢を見た。

小さい頃の夢はたまに見るけど、そのたび胸の中にゴリゴリした異物が詰まったような嫌悪感を覚える。

吐き出してしまいたい。

パパとママは私の居ない間に何かを話し合ったのか、あれ以来二度と少なくとも私の前では感情をぶつけ合うことは無くなった。

いつも快活に笑うママと穏やかな笑顔のパパになり、あの時のような顔は見せなくなった。

内心はどうか分からないが、平穏は保たれている。

私はと言えば、あれからしばらくして夜にどうにも気分が悪くなってはトイレにこもって、戻してしまうようになった。

何かが胸に詰まっているような違和感や不快感。

それを吐き出そうとするかのように戻したけど、中々スッとしない。

そんな小学校5年生のある日。

学校の図画工作の授業でお互いの絵を描く事になった。

私はペアになった女の子の絵を描いたが、その時驚くことが起きた。

胸のつかえが綺麗に消え去ったのだ。

何故だろうと思った。

家に帰ってからも理由を考えたが分からず、代わりにたまらなく絵が描きたかった。

彼女の絵が。

どうにも耐えがたくなった私は、ノートに先ほどの子の絵を描いてみた。

すると、理由が分かった。

書いている間、その子になりきっていたのだ。

目の前の子の髪や瞳や肌。

それらを見て、自分の感覚を込めているうち、目の前の子と自分を重ね合わせていた。

これだ。

まだ、自分の中の女子に対する不安感は強かったが、この頃にはある程度分別が付くようになっており、言い訳も出来るようになった。

両親やクラスのみんなに男の子と思われていれば良い。

そうすれば康輔君にならない。

その事実を自覚した事は私にとって、世界がひっくり返るほどの衝撃だった。


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