表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねえ、先生?  作者: 京野 薫
1/56

変身

自らの性への違和感と、愛する相手への葛藤を書いてみました。

自らの状況や気持ちに折り合いをつけることは中々難しいですが、その苦悩も含めてご一読頂けたら幸いです。

【変身】

 雨降りの日と言うのは何故か嫌われることが多い。

遊びに行く予定が潰れた。

好きなスポーツの試合が中止になった。

体育の授業が中止になる。

お気に入りの服が汚れてしまう・・・等々。

でも、私は雨降りがたまらなく好きだ。

この世界で自分だけになるような感覚。

余計な物から隔絶されるような、澄み切った空間の中に居るような。

子供の頃からそんな独特な感覚にたまらない心地よさを感じていた。

なので、今日は日曜日で朝から雨降りでさらにパパとママも夜まで帰ってこないため気分良く、鏡に向かっていられる。

鏡の中の自分をじっと見て、皮膚の僅かなデコボコを無くすためファンデーションをつける。頬・鼻・顎に点で乗せた後伸ばしながら塗り広げる。

それからはアイブロウで眉を描き、アイシャドウで目に立体感を出す。

アイライナー、マスカラで目を引き立たせて大きく見せる。

ただ、元々目は大きいのでやりすぎにならないように。

チークを付けた後は、最後に口紅を。

私は肌がイエローベースのため、サーモンピンクの口紅を使っている。

この色を使うと、唇がまるで蜜を含んだようなプリッとした感じになるので、非常に気に入っている。

そして完成した顔をしげしげと眺める。

うん、今日は顔の出来バッチリ。

むくみや肌の微妙な変化によるんだろうけど、日によってはどうにも良い感じにならず、のっぺりしたような顔に見えて、気分が沈んでしまう。

だが、今日みたいな出来の良い日は自分の魅力を引き出せたような気がして、何とも言えない充実感に包まれる。

自分で言うのも何だけど、容姿はかなり整っていると思う。

だから、化粧していてとっても楽しい。

今は中学2年生だから、これから年齢を重ねるときっと今のようには行かないはず。だから出来るところまで楽しみたい。

そんなことを考えながら、鏡を見ていてふと思い立ち服も着替えてみようと思った。

せっかくだし、この前ネットで注文した服を着た姿を確認してみたい。

そうと決まれば、居ても立っても居られずクローゼットの奥から先週購入したフリルトップスとスカートをそっと取り出す。

両親が勝手にクローゼットを開けることはもう無いけれど、万一のため箱に入れて奥にしまってあるのだ。

箱を開けると白のフリルトップスとバックにリングをあしらった黒のスカートが目に飛び込む。

ワクワクしながら服を脱ぎ、袖を通していく。

着終わった自分を見て、可笑しくなるくらい胸が高鳴っているのが分かった。

高かったけど買って良かった。

思わず顔がほころんでしまう。

そして最後に、クローゼットからポイントウィッグを取り出し髪に付ける。

これで出来上がり。

鏡の中には何とも儚げな美少女が立っていた。

そんな事を考え、自分で吹き出した。

自分で言うか、鈴村 昭乃あきの

だけど、見惚れてしまうものは仕方ない。

客観的に見ても容姿端麗だと思うんだから。

この姿を見たら、男性はどう思うだろう。

顔を火照らせ、胸を高鳴らせてくれるかな。

そして一緒に道を歩きたいと思ってくれるかな。

そして・・・彼女にしたいと思ってくれるかな。

その言葉が浮かんだとき、鏡越しにも分かるくらい顔が赤くなっているのに気づき、大きく息を吐いた。

何をやってるんだろう。

自分をたしなめるように苦笑いを浮かべた時、玄関で鍵の開く音が聞こえた。

えっ、嘘!

鍵が開いたと言うことはパパとママが帰ってきたんだ。

嘘でしょ、早すぎる。

私は慌てて、ウィッグを外し服を脱いだ。

そして、順番を一瞬迷ったが化粧を先に落とした。

間が悪い。

あの足音は私の部屋へ向かっている。

何とか化粧は落とし終わって上はパジャマも着れたけど、下はパンツ一枚。

仕方ない、パパだったら絶対部屋に入れずドア越しに話ししよう。

親とは言っても、よりにもよってパパにこの格好を見られるなんて冗談じゃ無い。

そのすぐ後にドアを開けてママが顔を除かせた。

「ごめん、昭乃。買ってきてくれって言ってた参考書ってなんだったっけ?見せてくれない」

私は聞こえるような大きなため息をついた。

そんな事ラインで連絡してくればいいのに。

「ん、これ」

ママは差し出した参考書を携帯のカメラで撮る。

「ゴメンね、用はこれだけ。じゃあ行ってくるから」

私は憮然とした表情で軽く頷いた。

ママはそんな私を見て、軽くため息をついて言った。

「あなた、いくら男でもパンツ一枚はどうかと思うよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ