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四人目のヒロイン

 レイはしっかりとアレを見た。

 そして彼は戦慄した。


(強制ムービーイベントだ……! 忘れてた。これがあるから、俺、五日も悶々と森の中で現実逃避してたんだった! うー、気まずい。俺ってすげぇ仲間だったじゃん。レイモンドってやっぱ仲間だったんだ。でも、これでちょっとは話せるようになる……かな……? ……っていうか、今回のヒロインは旧作にいたヒロインだから、ストーリーも単調っていうか、このあとソフィアの姿のエルザと戦うのって心が痛むというか……。いや、あれだっけ。結局、巨大鳥が出て……。どっちがどっちだぁみたいな展開になった方が面白かったんだろうけどな。流石にメインストーリーは変えられないかぁ。……っていうか、暗転が解けないなぁ。)


 レイが現実逃避していた理由の一つに、村でのソフィアイベントがあった。

 どれだけ気まずくても平気な顔で仲間ヅラしなければならない。

 それほどの強制力がムービーシーンにはある。

 だから、これで少しでも分かってくれればいい。

 ただ、彼らと話す機会を逃してしまい、ソフィアという名前を出せずにいた。

 あの車のせいか、自分のせいか……。


『パオオオオオオオオオ』


「わ!なんだ⁉」


 レイは大きな音にびっくりして飛び上がった。

 どうやら、自分の腕でクラクションを押してしまったらしい。

 そして目の前に広がる光景を、ただ呆然と眺めていた。

 車の中で一人眠っていた自分。


 まだ車の中に自分がいる。


 けれど、目の前の村は火事で大惨事になっていた。

 人々もなぜ炎が燃え広がったのか分からない様子だった。

 そしてその前で、村人が誰かに刃物を向けた。


 だから、彼は車から飛び出した。


「おまえ!何をやってる。今はそんなことやってる暇ないだろー!」


 攻撃性を持った村人を次々に殴り倒していくと、彼らの姿はデーモンを思わせる魔族へと変わった。

 その光景に、人々が大混乱に陥る。


「みんな聞け! 悪魔が村人に成り代わっている。でも中身自体はそんなに強くない。自分たちしか知らない情報を合言葉にしろ。答えられなかったらそいつを殴れ!ちょっと、待て。刃物は禁止だよ!」


 そう言ってレイは斧を持った村人を殴る、するとその彼も魔族の姿になった。

 そして、その頭を踏み潰しながら状況を整理する。


「どういうことだ? 強制ムービーシーンの後、俺がここに戻ったってことか?」


 と、その時。

 レイは見つけることが出来た。


 街の掲示板に


『レイ、修道院で話を聞いてみる。落ち着いたらお前も来てくれ』

『私も言いすぎた』

『先生、そろそろ落ち着きましたか?』

『えっと、落ち着いたら一回話そ?』


 という元仲間の言葉としか考えられない添え書きが貼られていた。


 それはどれもレイが考えすぎていたと証明するもので、彼はどこか気恥ずかしくなった。


「うーん、くすぐったい内容だけど、 あいつらはここに来ている。そもそも、あの時はシームレスに現実に戻ったから本当なら俺も修道院にいる筈……」


 そしてその瞬間、レイの顔が青ざめた。

 そして、自分の体を触る。

 無かったものが無かった。

 自分はレザーアーマーを着ていない。

 勇者に勇者パーティとして買ってもらったものを、レイは持っていない。

 彼らはこんな書き置きを残してはいるが、仲間に戻ったわけじゃない。

 誰も「仲間に戻れ」なんて一言も書いてないのだからm当然と言えば当然だ。


 ——でも、そこは問題ではない。


 圧倒的な絶望の方が彼を襲っていた。

 だから、きっと大活躍している仲間のことは一瞬で忘れた。


「あれはただの夢かよ……。本当のムービーはカットされてたのか? あんな夢見るなんて、俺はどんだけ恋しかったんだよ。でも俺もちゃんとこの村にはいたし。いや、仲間じゃないんだから俺がいてもいなくても関係なかった……ってこと?けれど、……ムービーがカットされたとすれば、これって不味い。マジでヤバい。これはこれで詰み筋じゃねぇか!」


 そう、彼はこの村で起きるムービーシーンの夢を見ていた。

 なんでそんな夢を見たかは簡単に説明できる。

 彼は不貞腐れる前に、このイベントがあると皆に伝えたかったからだ。

 だから恥ずかしいというよりは、彼にとって悲しい夢だった。

 でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。


「刃物は禁止だっての!」


 彼は刃物を持っている村人を次々に蹴り飛ばしながら、考え続ける。

 そして……、最悪の結論に至った。


「もしも車が突然現れたみたいになっていたら……。あの茶番ムービーがカットされたとしたらどうなる? ……あいつらはのムービーを見ていないことになる。だとしたら、ソフィアがエルザの姿になった後から、突然物語が始まってしまう。」


 レイは刃物を持った村人を次々に踏みつけながら、その勢いで修道院に向かった。

 この街のムービーは修道院に向かおうとすると発動する。

 でも、その時にレイがいなかったから、マリアが仲間入りするのと同じようにそこが飛ばされた。

 本来ならば、その手前で「修道院に向かいますか?」という選択肢が出る。

 それがイベント開始の合図で、それがあるから手前の出店で装備を整えられる。

 けれど、それよりもムービーの切れ方が問題だった。


「こんなの初見殺しもいいとこじゃねぇか。人間と魔族がいきなり現れて、どっちを攻撃しようなんて発想にはならない。ソフィアが殺される……。プレイヤーには優しい設定の筈が……。『ヒロイン全員揃わないとフェリー動かないよ、ハーレムしちゃいなよ』設定が、ここにきて詰み筋を作っているのかよぁぁぁ‼……ソフィアは死んじゃダメだ。頼むから、間に合ってくれ!!」


     ◇


 アルフレドは自分がなぜ人間の少女と戦おうと思ったのかと困惑していた。

 そして部屋の隅では、女悪魔が怯えている。


「ねぇ、これ……。マリアの時と同じじゃない?いつの間にか、私たちがここにいる。それに今回は急に戦うって感じになってる。」

「あぁ、分かっている。また俺たちが世界の何かに触れたってことだ。」


 ひとまず、目の前は人間の少女だ。

 アルフレドたちはこの妙な世界について、ここならば何か分かるのではと立ち寄っただけだ。

 それに魔族は怯えているようで攻撃する様子もない。

 付け加えると、彼らの村を焼いたのがエルザの一味という事実をアルフレド達は知らない。


「ねぇ、あなた光の勇者でしょう? どうして戦わないの?」


 困惑しているのはエルザも同様だったりする。

 でも目の前に勇者がいる。

 まるで舐められたものだと、戦う意思を示せと彼らに問うた。


「勿論、戦う。魔族は許せないからな。」

「そう。それなら良かったわ。」


 そう、ここもおかしくなっている。

 彼女は一定時間戦う筈なのだ。

 けれど、エルザも何が起きたか理解が追い付いていない。

 だから彼女はあっさりと元の姿に戻って、こう言った。


「じゃあ、前のアズモデの時みたいにならないよう、卵型じゃないモンスターを用意したの。その子と遊んでくれる?」


 緑の髪の美少女は本来の姿に戻っていく。

 そして魔法石のような何かを空中に飛ばした。


「それじゃあ、せいぜい楽しんでね。もっと強くなったら戦ってあげるわ。」


 カラス型上級モンスター『ガーランド』が三体、ヒナではなく大人の鳥の姿、翼を広げれば5mはある姿で出現した。

 そしてエルザはアズモデ同様、コウモリの羽を羽ばたかせて、最後に勇者に振り返り、投げキッスを飛ばして、自分も飛び去ってしまった。


「とにかく、戦うしかないって感じだね。あたしたちだけでも頑張れる!勇者様、ご指示を。」


 エミリが斧を構えて、前衛に立つ。

 そしてマリア、フィーネもそこに並ぶ。

 前にしか敵がいないのであれば、前衛後衛は関係ない。

 アルフレドも色々と考えている。


「奥の悪魔はどうするの? ずっと蹲ってるけど。」

「勿論倒す。あいつが本体かもしれないからな。お前達は大カラスを頼む。ちょうど合計四体だ。」


 そして全員の戦いが始まった。

 大カラスはくちばしを開けて、そこから炎を吐いた。

 これはスキルであり魔法ではないため、詠唱は必要としない。

 それをなんとか掻い潜りながら、ちょこちょことダメージを与えていく。


「ちょっと!当たらないんだけど!」

「マリア!今、行くぞ!」


 飛んでいるから、得物を持たないマリアが苦戦している。

 だから、アルフレドはマリアが対峙している大カラスに何発か叩き込んでから、蹲っている魔族に向かって歩き始めた。


「おい、お前。お前が操っているんなら、今すぐ……って、お前はさっきの‼」


 蹲っているから分からなかったが、その魔族は今しがたこのモンスターを呼び出した人間に化けていた魔族の女だった。


「な、なんですか?」

「成程、逃げたふりをして、ここから操るのか。」


 同じ顔、同じ声、だから決まりだ。

 彼女を倒せば戦いは有利になる。

 指揮系統を潰せと昔の友人が彼に教えてくれた。


「わ、私は操ってません! ど、どうして剣を向けるんですか? 後ろに化け物がいるから……、お願いします。助け……て……」


 ソフィアも今、何が起きているか知らない。

 彼女の記憶でもムービーはカットされている。

 だから自分が悪魔の体になっていることに気づけない。

 落ち着けば、周囲を自分を見れば分かるのだが、今は顔をあげるのも怖い。

 そして、なぜか人間の男が剣を構えながら近づいてくる。


「さっきの勢いはどうした?俺が光の勇者だ。お前達が付け狙う勇者だぞ。」


 大ガラスが舞い、床は血みどろ、そして剣を構えた人間の男。

 その男は勇者と名乗っているのに、人に剣を向ける。

 それはどこまでも狂った世界だった。

 ソフィアはだからただ怯えていた。


「やめて!」


 涙を流しながら、片手を突き出して、「やめて!」と言った。

 だがそれが引き金となってしまう。


「クソ、攻撃か!」


 魔物との戦いは先制攻撃が基本。

 だから、アルフレドは先手を取られたと思い、悪魔の皮を被ったソフィアに斬りかかる。

 戦い方は知っている。

 人形ならば、首や心臓を狙えばいい。

 その為のレベル上げもやっている。

 だから、勇者は間違わない。


 ——そして、勇者は魔族の見た目の少女の首を狙い、一気に振り下ろす。


 ギュィィィィィィィィィィィィィィィ


 その時。


 彼の剣から発生した、嫌なスキール音が大きな部屋に鳴り響いた。


 銀の髪、金の髪が交錯する。


 そして、剣は悪魔の前で弾かれた。


「レイィィ‼お前、何を考えている‼」

「アルフレドォォ‼ソフィアはこんなに怯えている。お前こそ、何やってんだよぉぉぉ‼」


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