ムービーzz
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ミッドバレーは魔族が現れる前は、それなりに人通りが多い村だった。
だから村というよりは町に近い。
理由は渓谷から険しい山道を登ったところに建造された、有名な修道院にあった。
そこには奇跡の少女と言われる、品行方正、そして優しさと綺麗さを併せ持った少女が見習いとして働いていた。
彼女がたまに慈悲をくれるので、噂が噂を呼んで貧しい人々も集まるようになった。
修道女の女「ソフィア、勝手に怪我をしてる人とか、体調が悪い人とかに魔法を使ってはいけませんよ。この修道院の格が落ちるというものです。あと、そもそも貴女は水門係でしょ。ちゃんと水門の鍵は身につけてる?」
ソフィア「す、すみません!マーサ様。はい。私の祖父が水門係でしたから、肌身離さず身につけています。」
マーサ「そう、もういいわ。今日も麓から相談したいって人がたくさん来ているから、今日は私がお手本を見せるわね。どうやったら適当にあしらえるか、ちゃんと見ていなさいよ。うちは由緒正しい修道院なのを忘れないように!」
少女は権力とか、お金とか、役職とか、そんなことには無頓着な性格だった。
けれど、だからこそ彼女は修道院の人間からは少し避けられていた。
それを見かねてマーサは彼女にお手本を見せることにした。
だから大人しく、少女はマーサの後に続いていく。
でも、その少女ソフィアは、自分が周りからどう見られているかは意識しない。
だって救いを求められたら、助けたくなってしまうから。
でも、そんな彼女も最近は頭を抱えていた。
そしてその頭を抱える理由とは、村の住民の諍いが頻発するようになったことだ。
こんなことは歴史書を紐解いても初めてのことだった。
マーサ「えっと、それじゃ、貴女は夫が自分の両親を殺した現場を見たのよね?」
村の女「間違いありません!」
マーサ「じゃあ、一応書き込んでおきますね? あとでご主人からも聞いてみます。」
最近では修道院とは名ばかりで村の相談所兼村の戸籍や、納税記録、それどころか治安維持までも一括で行っている。
だから修道院はこの街と呼べるほどに大きくなったミッドバレー村の中枢機関である。
そして最近は、頭を抱える事件が頻発している。
しかも大抵容疑者が二人いる。
そんな状況にソフィアは頭を悩ませていた。
何かがおかしい。
何かが狂い始めている。
そしてマーサが次の住民の話を聞いている時、村では大きな問題が発生していた。
人々が疑心暗鬼になり、挙げ句の果てに村に火を放ったのだという。
ただでさえ、火事は一大事だ。
それが一箇所ではないというのだから、村の存亡に関わる大問題である。
そんな時、修道服を纏った美しい緑色の髪の女性が、祭壇の奥からやってきた。
その女性は偶然にもソフィアと同じ髪の色をしていた。
更には容姿も同じ。
緑の髪の女「あらあら、人間ってのは醜い生き物ねぇ。」
マーサ「ん?ソフィアが二人いる?もうどっちだっていいわ。村に行って彼女の夫から話を聞いてきなさい。」
緑の髪の女「あら、そこのおばさん。何を言っているの?喧嘩両成敗って言葉を知らないのかしら。どっちの家も燃やしちゃえば、世界は平和になるのよ?」
そう言って、ソフィアと瓜二つの修道女は、鋭い爪でマーサの首をすとんと切り落とした。
マーサが痛みを感じる暇さえないほど、あっさりと。
緑の髪の女「さぁ、みんな! 疑わしきは喧嘩両成敗よ!ね……、君。そう、そこの君。修道士長さまがそう言ってたって村のみんなに伝えてきてちょうだい。ちゃんと家を燃やすようにってね。」
エミリ「ねぇ、なんか村中焦げ臭くない?」
フィーネ「あれ、見て!あれは火事よ。」
マリア「火事⁉大変じゃないですか! 消防隊員はいないのかしら!」
レイ「おい、勇者殿よぉ。自慢の正義感でパパッと解決しろよ。ああああ、俺は運転で疲れちまってんだ。本来なら、3秒でカタをつけるんだけどねぇぇぇ。」
フィーネ「はい、はい。3秒で貴方を片付けてやろうかしら。それで、アルフレド、どうする?」
村の女性「はぁ、はぁ……、どこ行っても火事なの。誰か修道院に駆け上がって、そこの水門を開いてくれないと、消化活動も碌にできないって……。誰か、体力自慢で山上まで駆け上がれる人、いないかしら……」
マリア「レイ、車の運転しかできないんでしょ? だったら車で行ってきてー。」
レイ「はぁ? この村に車が通れるような道があるわけねぇだろ。」
マリア「へー、そうなんだー。じゃあ、勇者様! 世界の平和を守るためですもの!大好きな大好きな私の勇者様。ここはマリアがいっちゃうね!」
フィーネ「マリア、そういうの、いいから。とにかく全員で向かうわよ。レイ、貴方もよ。あなたとエミリの力で水門を無理やりこじ開けて。」
レイ「仕方ない。エミリ。俺と一緒に新しい門をあけようぜ。」
エミリ「きも、顎しゃくれてるし……。ほんと下品なこというときは絶対顎しゃくれてるよねー。運転手さんって。」
レイ「ちがうだろうがぁ。俺が勇者かもしねぇだろぉ。なんかそう呼ばれた気がするんだって。あの悪魔、俺のことを光の勇者って呼んでたんだぞ。俺が世界を救う存在なんだよぉ。」
アルフレド「レイ、分かった、分かった。お前も勇者だ。でも、今はそれどころじゃない。修道院の水門か。全員で向かうぞ!」
そして勇者たちは駆け上がった。
流石に体力に優れているのか、10分もかからなかった。
本当に全力疾走だったので、皆、はぁはぁと息を整えている。
そして勇者は門の前に立っていた女性に話しかけた。
アルフレド「なぁ、水門を開けたいんだが……。」
修道女「水門……。あぁ、水門娘ね。緑の髪の子が中にいるわ。その子に聞いてちょうだい。」
そして勇者一行は鍵を持つ緑の髪の子を探し、修道院に入ってみた。
ただ、そこで五人は見てしまった。
五人の顔がアップに切り替わる。
最後にちょこっとだけレイが一瞬映ったが、悪意のある演出で彼の顔は一瞬、しかも見切れている。
そして場面転換され、凄惨な血塗れの現場が視界いっぱいに広がる。
大きな部屋にも関わらず、中には緑の髪の少女が二人しかいなかった。
床一面の血溜まりがあり、一人は血溜まりの中で蹲っている。
彼女は血に染まり、壮年の女性を触っている。
そしてもう一人の緑の髪の少女はこちらを見つめている。
アルフレド「な、何があったんだ。これは一体……。」
マリア「何……ここ……。血塗れじゃない!あなた達、大丈夫?」
フィーネ「ここも何かあったようね。でも、まずは今にも焼け死んでいる火事の方をなんとかしなきゃ!」
アルフレド「エミリ、ここで倒れている方を見てまわってくれ。まだ息があるかもしれない。そして、少女、今、村で火事が大発生している。水門をあけてほしいんだ。」
ソフィア1「え、ええええ、あなた……誰? たす……助けて!水門の鍵は私が持ってる。でも、マーサ様を……、マーサ様を助けて!」
ソフィア2「ゆ、勇者様ですか? 村でも何か起きているんですか? 私……どうしたら……。」
エミリ「アルフレド、だめ。みんな、死んでる……」
ソフィア1「あの……、だめです。その人が殺したんです。 マーサ様を……殺したのも……。」
勇者アルフレド達は混乱していた。
下は大火事、上は殺戮現場。
そして同じ顔をした少女が二人。
とその中で、アルフレドは違う人物の声が聞こえた。
アズモデ「おや、またまた趣味が悪いねぇ。エルザは村を焼くことしか興味がないのかい?」
マリア「あ、あいつは……。勇者様、あの魔族、あいつですよ!」
アルフレド「分かっている。アズモデ、お前の仕業か!」
勇者パーティはあの悪魔を知っている。
けれど悪魔は勇者など、まるで眼中がないように緑の髪の少女と話し続ける。
エルザ「はぁ?あたしの仕事にケチつけんの?役立たずのあんたに指図される覚えはないんだけど?」
アズモデ「やれやれ光の勇者アルフレド。僕はこういうのは趣味じゃないんだ。だから今回も僕はやっていない。それにしてもエルザ。僕は君の本来の姿の方が好きなんだよねぇ。エルザは美人だからねぇ……。だから僕は本当の君に戻って欲しいんだ。変化魔法!うーん、僕っててんさーい!」
すると、血塗れの少女の姿が濃い紫色の髪、褐色の肌、紫の唇、そして羊のツノを持つ魔族の姿へと変わった。
そして背中からズバッと音を立てながらコウモリの羽が生えた。
エルザ「美人だなんて……、ま、その通りだけどね。いいわ。どうせ殺すし……、その美人で美しい羊のツノの少女も……って!あんた、あたしそっちじゃないからね! おまえあとでぶっころしーーー!」
アズモデ「え……、そっちだったの。うーん、やるじゃないかぁ。なんていうか化けるの上手いね。んじゃ、勇者くん、健闘を祈ってるよ。エルザ、まだまだこの勇者は青い。これでは魔王様を楽しませることはできなんじゃないかなぁ。……それだけは忘れるなよ。んじゃねー!」
エルザ「分かってるわよ、そんなこと。上司だからって偉そうに……。軽く遊んであげるだけよ。」
そう言って、アズモデは前のように姿を消した。
そしてソフィアの皮を被ったエルザは恭しく、勇者に一礼した。
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