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一人で考える

 仲間とのコミュニケーションタイムは設けてある。


 少しずつマリアが打ち解け始めているのが、レイにも伝わってくる。


「ね、レイ!」

「あぁ、ゴメン。運転、やっぱ疲れるんだ。俺はあっちで休んでおくよ」

「そっか。先生、また今度お話しよ!」


 彼は缶詰を受け取って、なるべく早くにその場を離れる。

 運転疲れはとても良い言い訳になった。

 だって、彼女達は誰も運転できないのだから。


(それに自分たちで考える癖を身に着けて欲しいしな。部外者になる俺は参加しないようがいい。)


 彼らにはデスモンドから先、アーマグ大陸で四天王らと戦って貰わないといけない。

 東の大陸、アーマグに行くことは出来ない。


 そして今日もレイの自由時間、すなわち皆の就寝時間がやってくる。


「俺を虐める為のラブワゴン、じゃあ行ってくる。」


 今日は大いに動いてみようと考えていた。

 そこまで遠いところには行かないが、明日のアドバイスを考えなければならない。

 コマンドバトルではないことも分かっている。

 だから、それを活かした戦い方だってある筈だ。


「さて、イエローコウモリん。ちょっと手合わせいいかな?」


 まるでマリアの家で、マリアに話しかけるように、レイはモンスターに話しかけた。

 当然、返事が返ってくることもなく、三方向から詠唱が聞こえ始めた。

 と言っても魔法名のみなので、ぱ、い、ろの三文字で良い。

 レイはコウモリん一体にはそのまま詠唱させた。

 でも、すでに二体目、三体目にはあらかじめ拾っていた石を口に放り込んでいる。

 卑怯の極みだが、これが戦争なんです!と心の言い訳は忘れない。


「さ、撃ってこい。」


 火の玉(パイロ)と器用に口を頑張って動かして魔法名を言い終えて、火の玉をレイに向かって放った。

 それをバックラーで受けてみて、革製品の耐久度の確認をする。

 燃え上がらないかどうかのチェックをする。

 耐久チェックは終了、棍棒でぽこぽこ殴って三匹ともを墜落させた。

 ただ、墜落した彼らが見つめてきた。


「え……、なんか助けを求めてる?いや、仲間制度はないから。……まぁ、いいか。助けてやるから、 デスキャッスル……じゃあ、怒られる。アーマグ大陸に帰れ。」


 レイはニイジマ時代に買っておいた薬草をちょっとだけ与え、彼らを逃した。

 怯えた顔で瞳をうるうるさせたら、こうなっても仕方ない。

 彼らはマスコットキャラなのだ。

 ただ、そのうちの二体は何かにぶつかって地面に転がった。

 そして、その様子を見ていたレイは頭を掻いた。


「なんか俺が撒き餌したみたいになってんじゃん。……おい、そこのブルーウルブス。お前に用があるんだよ。」


 アルフレドパーティがブルーウルブスの群れに遭遇しても大丈夫かどうか、そして毒毒スラドンはどんな戦い方をすれば良いのかの視察だ。

 アルフレドはステータス画面については分からないと言う。

 あれはプレイヤーに限られた特権なのだろう。

 だからアルフレド達のどれくらいレベルが上がっているかは、自分が同じモンスターと戦って決めるしかない。

 それが先のイエローコウモりん。


「車から眺めていただけで、レベルが上がるのか。答えはノーだったな。」


 今日の彼らは頑張っていた。

 彼らは魔法をすぐに覚えるので、レベル値が分かりやすい。

 そして結論から言って、経験値は存在し、レベルという突然強くなる現象も存在する。

 だから、眺めているだけだったらどうかを確かめたが、戦わないと経験値は入らない。

 そこはゲームシステムと変わらない。


「グルルルル」


 ブルーウルブス。

 どうしてそんな名前がついたのか。

 理由は頭が二つに足が六本あるからだ。

 さらには群れで襲ってくることもある為、なかなかに厄介なモンスターだった。

 今も地面に叩き落としたコウモリん二体を二つある頭でむしゃむしゃと食べている。

 レイがこのモンスターを厄介だと言った理由は簡単だ。

 この世界の戦いはターン制でも、コマンド制でもない。

 だから群れの場合、一気に一人に群がってくる可能性がある。

 特に野生の獣系モンスターや知性があるのか分からないモンスター。

 それらとの戦い方を知っておきたかった。

 かといって今のレイが強いかどうかは分からない。


闇闇(ヤミヤミ)闇闇(ヤミヤミ)闇闇(ヤミヤミ)闇闇(ヤミヤミ)!」


 レイお得意の不意打ち魔法連打。

 因みに先のグルル音は彼らが互いを牽制していた唸り声だったらしい。

 頭が二つもあって、群れで行動する。

 デザインで生まれたモンスターだが、凄く不憫に思う。

 だが、倒さなければ、倒される。

 戦わなければ、アルフレドにアドバイスが出来ない。

 二体のコウモリを奪い合う隙に撃ってみた。


「おし。動物系な。急所も分かりやすい。アンデッドでもない。ただ、発見はこれだな。」


 彼らにも流儀があるのかもしれない。

 ご丁寧にレイの視界内から襲いかかってきてくれる。

 

「モンスターも横向き画面の俯瞰を意識しているのか。人間もそうだし、多分間違いないな。イエローコウモリん、次からは気をつけろよ。仲間の二人、助けられなくて悪かったな!」


 言葉は通じないのは分かってるけれど、かわいいものはかわいい。

 悔やまれるはこの世界にはモンスターを仲間にするシステムがないことだろう。

 それにもしも手懐けられたとしても、車に入るかどうか分からない。


「っと、そんなことはさておき、俺が強すぎるということが分かった。いや、自惚れているわけじゃなくて、やっぱりそういうことなんだな。 」


 そのことに関しては、かなり前から考えていた。

 モンスターを倒す、もしくは無力化すると経験値という目に見えないものが、体に溜まっていく。

 それはゲームのシステムだから、間違いない。

 モンスターを倒すたびに勝手にアルフレドの腰につけた布袋にGが入ってくるから、同じ現象と見るべきだ。


「うーん。プレイヤー目線と現実がこうもかけ離れているとは……。プレイヤーだったらなんでもありだもんな。」


 ゲームとはプレイヤーが楽しむものだ。

 だから、ご都合主義は当たり前。

 レイモンドでなければ、最高の空間。


「 例えばヒロインの装備を敢えて宿屋の前で脱がして、全裸状態にしてから泊まる。そういう妄想が膨らむのもゲームの良さだ。ゲームのムービーだと毎回同じ服着てるから関係ないのかもしれないけど。中学生の頃にそういうのやったな。このゲームのヒロイン、全員分やったわ。全員全裸状態にして、宿に一泊。ゲームの宿って絶対に一部屋しか借りないもんなぁ。それとレイモンドを全裸状態にして街を寝る歩かせるとか……」


 妄想の中では何をやっても自由だ。

 しかも一人で黙々とやるゲーム内の話だ。

 別にそれくらい誰でも、……いや、誰でもは置いといて、きっと誰かはやっている。


「って、それはこの世界じゃ、いやアルフレドなら可能か。でも、俺には無理そうだから……、って、俺何一人で盛り上がってんだよ。そうじゃなくて、経験値の話。つまり一個体のモンスターに対しての貢献度で経験値量が割り振られる。」


 レイが強い理由が実はそれ。

 そしてゲームと決定的に違う部分。

 いや、ゲームに寄せる為に作られたと考えるべきだ。


「そう考えるべき。だから序盤なんて地上のモンスター縛りで俺だけ戦闘とかしてたから、ごっそりと経験を貰ってしまったんだろう。中盤以降も補助魔法を多用していた。アシスト経験値が入ったと見るべきだ。だから全裸状態の俺が武道着を来ているマリアと互角以上に渡り合えたってか寧ろ勝っていた。」


 おそらくマリアは全員のレベルの平均、もしくはアルフレドと同じレベルだったに違いない。

 つまり効率プレイのお父さんは経験値までゴッソリと貰っていた。


「そしてついさっきもそうだけど、ロケハン中一人でモンスター狩りしてたしな。イエローコウモリん三体もさっき一人で倒したし……。でもあれ、どうなんだろ。助けてあげたのは倒した判定でいいんだろうな。あの後、ちょっと強くなった気もするし。群れもなんだかんだいけたな。なんかあったら闇魔(ヤミマ)で逃げるつもりだったんだけど。一匹当たり、アルフレド達の四倍経験値貰ってるんだよなぁ。強キャラ、ブルーウルブスも一体倒した瞬間にこの地域にしてはかなり多めの経験値をもらえたのか。二匹目が頭部への攻撃とはいえ、スキル・シールドバッシュで会心の一撃入ったのも、その間にレベル上がったのかなぁ……。さすがにそれはないか。」


 ふむふむと顎に手を当てながら、レイは毒毒スラドンに小石をぶつけて、観察してから逃げた。

 正確には、倒した後に近づくのが嫌だったから、その後で逃げた。

 流石に毒は怖い。

 あの時の出血によるスリップダメージの恐怖が、後からトラウマレベルになっている。

 結局、今日はかなり遠出したロケハンになったが、アルフレドには皆にしっかりと睡眠をとるように伝えている。


「アルフレドがリーダーという認識をつけさせるべきだ。だから多少遅くなっても問題ない。何か怪しまれても、レイなんだから怪しいに決まってると片付けてくれるだろう。けれど、それに相応しい収穫はあった。というより、確かめることが出来たな。」


 そして彼は一度大きく深呼吸をした。

 ロケハン、ロケハンって言っても、大体同じことしか考えていなかった。

 

「やっと方針が固まった。」


 今日は一日中、レイの様子がおかしかった。

 その理由は、そのストレスの影響。

 彼は真実を話す決意を固めていたが、ずっとうじうじとしていた。

 その決心がなかなか付かなかった。


 ——どう、伝えればよいか。


 正しいのかも分からない。

 でも、ムービー死についてを話さないと、彼らは絶対に納得しない。

 一番なのは、嘘を吐くことなのは分かっている。


 だけど、どこかで無理が生じるに決まっている。

 今度の今度は本気で、本心を話す。

 信じてくれないかもしれないけど、きっと彼らなら信じてくれる。


 そして、彼はついに決意した。


「——きっと分かってくれるさ。俺には死ぬ勇気がないんだ」

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