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ステーションワゴン

          ▲


 佐藤「鈴木さん。ドラゴンステーションワゴン、発売おめでとうございます。初週の売り上げもいい感じみたいですね。」


 鈴木「いやぁ、みなさまのおかげです。それと協力してくれたスタッフに感謝ですね。」


 佐藤「それにしても、まさか中世ファンタジーで車、しかもステーションワゴンですか。」


 鈴木「科学と魔法の世界で車っていうゲームはあるじゃないですか。でも、一応リメイクなんで、その世界観は忠実に再現したかったんですよね。」


 佐藤「忠実……ですかぁ?(笑)中世だったら、ここは馬車ってなるのに、ステーションワゴンに行っちゃうのが鈴木さんっぽくて、僕はこれだよ!って思いましたよ。」


 鈴木「うーん、馬車だと……。やっぱりパクっちゃったぁみたいに思われちゃうじゃないですか。(笑)だからピーンと来たっていうか、パッと浮かんだんだよね。『ワゴン』って言葉。いいと思いません?」


 佐藤「時代はSUVの中で、敢えてのステーションワゴン。これ、愛のラブワゴン的なのとも関係してるんですか?」


 鈴木「(笑)。ノーコメントです。でもやっぱドラゴンステーションって言えばレイモンドですよね。だから彼にずーっと運転させて、その後ろで主人公がハーレム作ってわちゃわちゃやるってのが、拘ったポイントかなぁ。(笑)」


 佐藤「あ、それ!わかります。あんな展開になるのに彼、本当に頑張りますよねぇ。(笑)」


 鈴木「それが、ドラゴンステーションワゴンで完成したって感じなんだよねぇ!いや、マジで!」


(中略)


 佐藤「ということでね。今回はリメイクして大ヒットとなったドラゴンステーションワゴン、七人の花嫁の特集でした。鈴木さん、ありがとうございました。」


 鈴木「ありがとうございました。」


          ▲


「かっこわら、どんだけ出てんだよ!てか、ここは馬車でいいだろ!どうせ作中の進行速度変わんないんだからさ。っていうか車ないと最後の大陸でフェリーに乗れないとか意味わかんないから!!」


 レイは昔読んだインタビュー記事を思い出しながら、彼らに悪態をついていた。

 そもそも助手席がないということには、彼らの悪意しか感じない。

 さらに言えば、後部座席と運転席の間に透明な衝立(ついたて)があるのも許せない。

 つまり運転席からは後ろの皆んながワイワイと話し合っている姿しか見えない。


(あー、これが鈴木Pが見せたかった風景か?レイモンドの目に映るもの)


 実際、今も男一人、女三人がごった返している。

 何か喋っているのは分かるのに、その内容が分からないくらいに遮音できているのが、更に腹が立つ。

 しかも極悪なのは後部座席が前に設置されておらず、コの字型に配列されたソファ仕様に変わっている点だ。


(ここはあれか?キャバクラか?キャバクラ運んでんのか?それならいっそ、ここの衝立をマジックミラーにしてくれませんかね?勿論、こっちからは見えない方向で‼こっちが彼氏ポジションの奴!例の奴‼)


 文句を言えばキリがない。行き過ぎた文句も出てしまうというもの。

 今はアルフレドとフィーネが透明な衝立に張り付いているので、バックミラーが見えないどころか、変に面白すぎて後ろを振り返れないが。


 そしてレイは一発エンジンをフカしてから、右手、左手をそれぞれの位置へ。

 更にはクラッチを左足で操作……


「——って、なんでMT車? せめてここはAT車だろ!車のない世界でなんでレイモンドはMT乗れる免許持ってんだよ!」


 左手でシフトを1速に入れ、半クラをしっかりと決めて発車する。

 しかも謎仕様の6速MT車。だからバックシフトは手元をくいっと持ち上げなければならない。

 これはもはや世界観とか言っているレベルではない。

 スポーツカーもスポーツAT積んでる時代に敢えてのMT車。

 F1にクラッチペダルがついていない時代にクラッチ付!


(っていうか、ここ!プレイヤーには全く伝わらないから!設定資料にも載っていないから‼)


 確かに車の内部が写っているイベントスチルはある。

 でもそれは全部後部座席のハーレム状態の勇者、というよりヒロイン達の姿だけ。


「なんか、俺の中のレイモンド株が爆上がりしている気がするんだが、全くプレイヤーに伝わらないという……」


 ただ実際のところ、かなりの速度が出せた。

 こればかりはゲーム内にいなければ体感できないことだった。

 そして快適でもある。

 なんせガソリンという概念がない。

 どういう構造なのか、これは愚問だろう。

 魔法の世界だから、魔法の設定という言葉で済ますつもりだろう。

 なんせ、ピーンと来ただけだ。

 パッと浮かんだだけだ。

 ただ、快適に運転出来すぎて、どうやら今日は講習が出来ないらしい。

 一応ライトは付くが、車の概念がない世界の街乗りは、街の住民的に危険すぎる。

 だから早々に諦めてマリアの家のガレージに停めた。


「アルフレド、明日から運転の練習だ。朝六時集合な。みんなも一応運転できた方がいいから、一応来てくれ。じゃ、解散。」

「レイ……、本当に申し訳ない。」

「いや、いいって。ここまでが俺の仕事だったってことだからな。むしろ謝るのは俺の方だ。ゴメンな。」


 元仲間達の視線が痛く感じるのは気のせいではないだろう。

 でも、流石に命は惜しい。

 だから敢えて気にしないフリをした。

 けれど、今度はレザーアーマーが消えなかった。

 決してキツくない筈なのに、何故だか胸が締め付けられた。


「あ、あのね……。マリアも、その……レイって呼んでいい?二人の時だけ! 」


 マリアは帰りも手を求めて来た。

 まだ仲間と打ち解けられないのだろう。

 自分のせいだと感じているし、実際にその通りだろうと思う。

 だから、ちゃんと握り返した。


 ——今だけ


 彼女の手の震えが止まらないうちは、ちゃんと握っておこうと思った。

 彼女はレイの命の恩人でもあるし、雇い主でもある。

 今はそれ以上考えてはダメな気がしていた。


「アルフレドが運転を覚えるまでだったら、たぶん……大丈夫だ。」

「そっか。ありがと!レイ。それにしてもレイがレイだったのかぁ……。そりゃ、強い筈だよね。だって勇者様のお師匠さまなんでしょ?」

「いや、ポテンシャルは全然違うからそうでもない。俺の限界ってもうすぐなんだよ。」


 こういう話をされると辛い。

 だから、バラしたくなかった。

 結局、レイの正体は裏切り者なのだ。

 だから、今日は早めに寝ることにした。

 起きていると、どうしても考えてしまう。

 いつか、みんなを本当に裏切る日が来るのではないかと考えてしまう。


     ◇


 次の日の朝、レイは妙な感触を味わって目を覚ました。

 背中に何かが当たっている。

 勿論卑猥な意味ではない。

 けれど彼女の体の一部なのは確かだった。


「おーい、マリア起きろよ。これは流石に良くないと思います!」

「ん……。ふぁぁぁぁ、おはよぉぉ、れひぃぃぃ。だってしょうがないじゃん!マリアが寝坊しちゃったら、あの輪には入れないもん!」

「あ……、うん、確かに」


 マリアの答えは実に簡潔で、想像しやすいもの。

 だからレイは言い淀んでしまった。

 でも、とりあえずこれだけは言わなければ、と頑張って口にする。


「そもそもどうやって入って来たんだよ。これ、バレたら俺が即クビだからね。」

「それはぁ、大丈夫なの!ほら!」


 収納を開けるとそこには穴が空いていた。

 来た時には空いていなかった、それは間違いない。

 それが誰が、何のために空けたのか、それを聞く勇気はレイにはなかった。

 マリアが命令したのは間違いない。

 エイタさんとビイタさんが関わっていたらと思うと首が絞められる思いだし、バレたら彼らの首が飛んでしまう。


「まぁ、いい。早く着替えてこい。んで自分の部屋から出るんだぞ。」


 マリアは「はーい」と生返事をして収納の奥に消えていった。

 そしてレイは頭を抱えた。


「また、やってしまってない?」


 彼女は完全にレイに懐いている。

 しかも今回はエミリの比ではない。そして、今回は自作自演だ。

 だからこそ罪深く感じてしまう。

 そして期待に応えられない自分がまた悲しく思えてしまう。

 だから、彼女に甘くなってしまうのだが、それが(かえ)って物事をややこしくする。

 今日はいよいよ腕を絡み付かせてきたマリア。

 彼女に向けられる目線は、まさにヘイトと呼ぶに相応しいものだった。

 これもレイが彼らとの関係性を示さないまま、マリアと会わなかったことが原因だ。



 ——勇者様じゃなくて、良かったかも!


 マリアはどう考えているのか。

 彼の想像の通りにしっかりと勘違いしていた。

 マリア加入以前の三人はアルフレドが光の勇者と知らない状態で冒険をして来た。

 でもマリアはアルフレドが光の勇者だからという理由で加入した。

 それが大きな誤解を生んでいる。

 つまりマリアはフィーネ、エミリは勇者に憧れて付き従っていると勝手に勘違いしている。

 実際の設定がその通りだから、今回に限っての勘違いで通常は勘違いではない。


 だが、それ故に歪んでいる。


 マリアはレイに甘える行為が、誰の邪魔にもならないと考えている。

 だから人前で全員から頼りのされている人間を独り占めしようとしている。

 それが彼女を独善的に思わせているのだから、レイの間違った行動が原因なのは言うまでもない。

 あと少し、離脱を遅らせていたら、こうはならなかっただろう。


「マリア。そろそろいいかな。」

「うん!」


 レイは自分に対して好意を持たれているか?実際はそうでもないのか?までは分かっていない。

 けれど、冒険の道標として頼りにされているという自覚はある。

 でも、それ以上考えると確実に死への階段を自ら昇ってしまう。

 だからこれも考えないフリ、後回しにしてしまう。

 そして、ただ現実逃避の時間が始まってしまう。


「アルフレド、エンジンをかける前に一旦車の周囲を確認しよう。車という存在はこの世界でのオーパーツだ。だから一番恐るのは人身事故だ。車は凶器、これはみんなも覚えておくように。もしも勇者が交通事故を起こしたとなれば、世界平和が脅かされるかもしれない。もう一度繰り返すが、車は乗るだけで凶器だ。バフ効果やデバフ効果が掛かっている時は運転しないこと!眠かったら、休憩ポイントまで行って、睡眠をとること!」


 下手をしたら、現時点の勇者アルフレド、つまり人間の誰よりも車が強い。

 プレイヤーとしての記憶を辿ると、この街はレベル10もあれば到達できる。

 だから、彼らはまだ人間離れしていない。


(ゲーム内だと、人間にぶつかってもドンドンって音がして、人間硬い!ってなるんだけど、これは普通に車の方が危ない。それに多分、車が壊れることはない。壊れたらゲームオーバーだ。)


 レイモンドはデスモンドで死ぬことが確定している。

 デスモンドは東の大陸に進む為に必ず経由しないといけない街であり、そこでこの車はフェリーに乗る。


(ここがポイントだ。)


 それならば、おかしなことがある。

 唯一運転できるレイモンドが死んだあと、車が運転できなくなる。

 だからこそ用意されたブッコミイベント。

 それがデスモンドで必ず起きる。

 このイベントこそ、リメイク後にマリアと共に投入された新ヒロインの登場イベントだ。

 古の自動車整備士が現れ、無人で運転できるようになる。

 デスモンド近くであれば、故障してもなんとかなるかもしれない、

 だが重要なのは、彼女がレイモンドと入れ替わりで仲間になることである。


 ——つまり


『古の自動車整備士・キラリが現れるイベントがレイのデッドラインである』

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