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水面下で蹴りあう仲間たち

 ヒロインの共闘。


 そんなやりとりがあったとは知らずに、レイは二人の所に走っていった。

 待ちくたびれて顰めていた顔も、仲良しになった二人を見て、ちょっとだけご機嫌に傾く。

 あそこが仲良しさん、だったらレイモードプロレスは卒業できる。

 無論、ただ待たされているだけで、顰め面になっていた訳ではない。

 彼はエミリ登場シーンのイベントカットを経験している。

 あれは恐らく時間が関係していた。

 結果オーライだったエミリの出会いだが、ネクタで同じことが出来るとは限らない。

 次のヒロイン・マリアが現れるネクタの街は広い。

 しかも彼女は街一番のお金持ちのお嬢様。

 イベント無しでお近づきになれるかは分からない。


「二人とも準備はいいみたいだな。 それなら、直ぐに出発する。イベントが待ってくれないんなら、魔族だって待ってくれないかも。最悪、そのイベントを逃すと深刻な問題が発生する。だから今日の夕刻までに必ずネクタに辿り着くぞ。」


 いきなりそんなことを言われて、女性同盟は目を白黒させている。

 だが、レイはそんなことを知らないから、普通に話しをする。

 大丈夫になっている筈なのだから、普通に話す。


「ネクタは重要ポイントなんだ。」


 けれど、自分がいなくなった後の事も考えなければならない。

 まず、次のヒロインがいなければステーションワゴンは手に入らない。

 このゲームの売りは、多くのヒロインと勇者がきゃっきゃうふふしながらドライブをすることである。

 前作は四人でフィールドを歩く普通の冒険だったが、リメイクでステーションワゴンという意味の分からない設定がぶち込まれた。

 馬車システムと同列の扱いである車システムがなければ、今後のシナリオが全てカットされる可能性がある。

 それで魔族による侵略イベントも止まれば良いが、その確証はどこにもない。


「俺は次の街で降りるから、これが自分本位な考えだとは分かっている。エミリ、お前の戦い方はそのままで良い。だから街まではアルフレドと前衛に行ってほしい。本来ならそれが一番効率的な編成なんだ。だからフィーネは俺と一緒に後衛な。魔法について、俺が気付いたことを教えたい。」


 彼は淡々と次の予定を説明していく。

 気楽に話せるようになったからこそ、情が湧いてしまう。

 アルフレドにはここに来るまでに色々教えた。

 エミリには最初から教え続けている。

 だから、残るはフィーネのみだった。

 そしてフィーネはメインヒロインであり、最終的には賢者へとプロモーションする。

 レイがこのゲームをプレイする時、エミリの採用率は50%程度だったが、フィーネの使用率は90%以上だ。

 だからフィーネへのアドバイスは自分の身の安全の為だけではない。

 この世界の平和には彼女の存在が不可欠なのだ。

 だから、フィーネにも教え込まなければならない。


 だから、彼は彼女に真剣な眼差しを向けた。

 すると彼女の肩がビクッと跳ね上がる。


「……はい」


 冒険に出た後のレイの行動は、はっきり言って神懸かっていた。

 彼女の目には、彼が間違った発言を一つもしていないように思える。

 勿論、それはレイモードを除いた話だが。

 けれど、フィーネはそれがただの演技だったことも知っている。

 レイの話は意味が分からない表現が多かった、だがその全てが真実だと思えてしまう。

 そして、実際にレイは性格を含めてフィーネよりもフィーネを知っている。

 だから、彼女が気圧されて頷いてしまうのも無理はない。

 ただ、そのフィーネの表情を、……エミリは半眼で睨んでいた。


「フィーネは魔法中心に教えようと思う。さっきの続きだ。まずは戦闘用魔法とフィールド用魔法について説明する。それと全体魔法とグループ魔法、これらは——」


 レイモードではなく、まともな喋り方で。

 彼自身が魔法を使って気付いたことや、それがどのくらいダメージを与えるものなのかを説明していった。

 レイモンドは攻撃魔法を殆ど覚えない。

 だから、彼は最後の方は見に徹していた。

 そして、フィーネの魔法とモンスターの被害状況を鑑みた実践的な話をする。

 コマンドバトルの仕組みやダメージ計算というゲーム要素から、オープンワールド化、現実に落とし込まれたが故の新要素までを説明する。


 因みに神目線で言わせると、レイの分析力は異常である。

 こんな彼がどうして前世でうだつが上がらない生活をしていたのか。

 それこそ、神のみぞ知ることだろう。


「フィーネの実力は本来俺の5倍、いや10倍と言っていい。」

「そんなことない。レイが一番魔物を倒してるじゃない。」

「俺は戦いのコツを掴んだだけだよ。それを今教えている。」


 これまでレイが生き抜くために、半分命がけで掴んだ戦いのコツ。

 フィーネはまだ冒険に出て二日目である。

 無論、それはレイも同じ。

 けれどレイは元々設定を知っている。

 だから、たった一日と言えど、彼女よりも有意義な戦い方をした。

 現実世界に落とし込まれた世界の仕組みを、中の人と外の人目線で考えていた。


「……そうだったのね。だからあそこで魔法を……。でも、モンスターはレイの言う、決まった動きで動いていて……。——えぇ!私、そんなすごい魔法を覚えるの?——そんな敵とも戦える。レイはホント、なんでも知っているのね。」

 

 この世界にはそんなことが出来る魔法があるのか、そんなモンスターがいるのか、そして自分は賢者になるのか、色々と言われた。

 だが、もしもそうなら、彼は大賢者だ。

 しかも、彼の話はとても聞きやすい。

 それに。


 ——彼は私のことを理解してくれている。


 だからフィーネはレイに心酔していく。


     ◇ 


 二人の様子はエミリから見れば、午前中の再来である。


 午前中はアルフレドがまさにこんな状況だった。

 勿論、真面目な話をしているのは分かる。

 それは隣を歩く男を見れば一目瞭然である、というかこの勇者のマップに書かれている内容がその証拠なのだ。

 レイはアルフレドにマップの移動方法や敵との遭遇の仕方、さらには追加ヒロイン情報まで、全体をバランスよく教えていた。

 だから彼が彼女にあったレクチャーをしていることは分かる。


 だが、レイは大きな思い違いをしている。


 彼の行動からは、宿屋での経験が全くと言って良い程感じられない。


「フィーネの奴……、あの顔はもう……」


 彼らはキャラクターではないのだ。

 ちゃんと意思を持つ人間なのだ。

 だから前衛の二人は、フィーネの顔を伺いながら、こんな会話をしていたり。


「エミリ、悪いことは言わない。フィーネは頭のいい女だ。そこが彼女の魅力でもあるのだが、今はそんな悠長なことを言っていられない。何を吹き込まれたのか話してくれないか。」


 エミリ目線では「何言ってんだこいつら」状態だった。


 けれど目下で気になるのは、やはり後ろの二人だ。


 アルフレドとフィーネ、順番が逆だったなら違ったかもしれない。

 けれど、流石にフィーネの行動は目に余る。

 あれだけ嫌いと言っておきながら、あのキラキラ顔である。

 純粋でまっすぐなエミリだからこそ、「フィーネ、嘘は良くないよ!」と思ってしまう。


「アルフレドが師匠を連れて行こうとしてるって話してた。でも実際にアルフレドは、レイを連れて行きたいんだよね?」


 エミリがアルフレドに白眼を向ける。

 清廉潔白、誰しもが憧れる容姿をしているアルフレドだが、その容姿と言動が一致していないのだから、エミリは口を尖らせる。

 レイが助けたエミリの父も、男の外見に騙されるなと口酸っぱく言っていた。

 現在、どっちに父性を感じるかと言えば、圧倒的にレイである。

 アルフレドはどうにも子供っぽい。


「バカを言うな。レイは俺の親友だ。親友をわざわざ死地に連れて行くわけないだろう。」

「そうかなぁ。レイってアルフレドの先生でもあるでしょ?だったら、頼れる先生も一緒にって思っちゃうんじゃない?」

「俺はレイから冒険のいろはを教わった。あいつは天才だ。道のりどころか、モンスターの特性まで熟知している。しかもこれから先のモンスターもだぞ?魔王軍と戦える仲間についてもだぞ?俺が知っていたボンクラなレイはもういない。魔族が攻めてきた時もそうだ。あいつはあれだけ強いのにわざと俺に負けた。そして結果的に俺やフィーネ、さらには村人の多くを救ったんだ。分かるか?数秒間の駆け引き、それで多くの命を救った。エミリだって分かるだろ? 」


 熱く語り始めた男、アルフレド。

 ただ、彼の話す内容は確かにその通り。


「だから俺はあいつの思いを引き継ぎたい。あいつのようになりたいんだ。いつまでもおんぶに抱っこじゃあ、俺は男になれない。だから俺はあいつの願いを叶える。これは絶対なんだ。」


 レイの厭らしい顔つきを除けば、彼はヒーローである。

 何より、戦えることを教えてくれた先生だ。

 だからこそ、恩を返したいと思っている。


「分かるけど……。じゃあ、みんな思いは同じってことですよね?」


 フィーネが疑っていたアルフレド、だが彼が言っていることは、エミリの気持ちを代弁したものだった。

 だったら、何故こんなカオスな状態になっているのか分からない。

 でも、そこでアルフレドは少し苦々しい顔になった。


「いや、どうだろうな。俺はフィーネを小さい頃から知っている。あいつは頭のいい女だ。だから基本的に頭の悪い人間には靡かない。だが、今はどうだ。レイの話に聞き惚れている。そして何より。エミリ、お前なら分かるだろう。フィーネはあの日、レイに両親を救われている。だったら分かるだろう。そして俺もフィーネのことを一番理解しているから分かる。フィーネは間違いなく、レイに惚れている。」


 エミリの肩が跳ねる。

 やはり、自分の直感は正しかったのだと。


「じゃあ、フィーネがお師匠と一緒にいる状況って……」


 レイが知っているエミリの情報をもう一度繰り返そう。

 エミリは攻略しやすいキャラ、それは彼女がとても素直な性格だからだ。

 何も考えないでクリアするとエミリがヒロインになると言われるほどちょろい女だ。

 そして勇者アルフレドは仲間の為に命を投げ出せる、正義が皮を被っているような人間だが、中の人がいない彼は馬鹿が付くほど正直者、——いや馬鹿と言って良い。


「あぁ。俺が世界で一番信頼しているのはフィーネだが、世界で一番敵に回したくないのもフィーネだ。はっきり言って俺一人で立ち向かえるか、正直言って怖い。それに、今は真面目な顔をしているが、レイは昔からフィーネのことが好きなんだ。だが、ネクタの街で別れが待っている。最後のひとときをフィーネと過ごしたかったんだろう。だが……」


 エミリは今まで素朴に、素直に両親と生きてきた。

 そして、彼女は人間が如何に不安定な存在かを知った。

 『疑心暗鬼』という意味を言葉よりも先に彼女は理解した。


「正直、どっちを信じたらいいのか分からないけど……。でも最後の瞬間を二人で過ごすってちょっとムカつきます!」

「ふっ、どっちを信じるかか。だが、やるべきことは決まっている。フィーネは賢い女だ。だからフィーネに直接言ってもはぐらかされる。」

「はい。とりあえず私のやるべきことは決まりました……」

「そうだな、俺を信じる必要はない。エミリ、お前はお前が信じる道を進め。 今からモンスターが出没しやすいエリアにわざと侵入する。そこからが最後の戦いの始まりだ!」

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