表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていた。  作者: 綿木絹
ほーむめいどぱーふぇくとはっぴーえんど
181/184

ネタバレ解禁、そして女神は消える

 女神は自身のことをシクロと名乗った。

 そして、シクロがこの世界のことを教えてくれる。


「お主、一つ前の自分がやったことを忘れとらんか? そういう意味ではお主は前のお主に感謝すべきじゃな。」


 前と違うこと、それはあまりにも簡単な話だった。


「前の俺がしたことは簡単だ。そのせいで苦労したしな。前の俺は次のプレイヤーキャラにレイモンドを選択した。それで世界が変わっていったのか。うん、なるほど。」


 そこで再びコントローラーが鈍器となる。


「馬鹿者。早計にも程があるぞ。そもそもこのゲームは周回プレイじゃ。レイモンドを選んだことで何が起こったから。——まぁ、イメージとして描くならこんなもんじゃろう。」


 彼女はそう言うと、空中に真円の光が浮かび上がらせた。

 コントローラーを握っているので、それで操作しているのかもしれない。


「うんうん。終わったら最初から。でも、ルート分岐があるから……。なるほど、ちょっと幅があるってことか。」


 それは真円と言っても、横から見ると少し違う。

 帯のように幅があるものだった。


「うむ。それで今回のお主も、最初はこの帯のどこかにおったはずじゃな。」

「ん? じゃあ、レイモンド関係なくない?」


 ループモノだから、光の帯の輪。


「実際、お主がデスモンドで生き残れたら、実際にそうなっとったかもしれんな。じゃが、お主はあそこでルートを違えた。無論、それは本来あってはならぬこと。プレイヤー目線では追いきれぬ筈の魔族目線となった。じゃが、この世界にそれは描かれておらん。じゃから、この世界は円環の裏側に別の世界を描くことになった。」


 彼女がコントローラーのトリガーを引くと、光の帯の裏側にレイモンドをぬいぐるみにしたような、レイモンドくんが出現した。


「確かに。こんな設定だったのかよ、って考え始めたのはその時期からだな。当たり前だけど、そこはプレイヤー目線じゃないし。」

「それ以外にもNPCに成り下がろうとしておったが、それは結局表のルート。その程度でこの世界は混乱せぬ。……じゃが、お主も知っておるじゃろうが、このゲームは魔族についての資料がかなり少ない。」


 ニイジマになっても世界が変わらなかった理由。

 ヒロインのバックボーンは細かく設定されている。

 だって、ヒロインを攻略するゲームでもあるから。


「元々、魔族側に拘りがなかったゲーム。それなのに俺は介入しまくっていた。」

「その通りじゃな。そこでワシの登場じゃ。ワシがおらなんだら、ワシの知識と創造の力がなければ、あの時点で世界は壊れとったろう。そのついでにワシはこの裏側の世界に分身体を紛れ込ませた。表面は埋まっておるから無理じゃったが、空白の裏面ならばワシの欠片程度は潜り込ませるられる。」


 あの頃遭ったことと言えば。


「じゃあ、バグ祭りはシロのせい……」

「ワシのせいではない! ワシがどれだけ苦労したか。表面を見つつ、裏面もリアルタイムで創造しておったのじゃぞ。……まぁ、ある程度は世界の自動生成機能を使っとったから、やはり容量不足が原因じゃろうな。」

「そうそう。シロ様はなんーーーーにもしてなかったっすもんね。旦那のレイモンドスイッチ押して遊んでたり、入ったら面白かったつーんで、俺っちを呼び出してみたり——」


 シクロがコントーラーのボタンを押した瞬間、レイモンドくんが飛び出してイーリを吹き飛ばした。

 神だからなんでもありの世界なのだろう。


「楽しかったら、仕事より遊びを優先。当たり前じゃろ?」


 神に絶対に言われたくない言葉だが……


「その容量限界を利用してたのが、俺のデスキャッスルへの侵入か。なんかその自動生成機くんも大変だな。」

「ワシとしては面白かったがの。集合恐怖症の件はさておきじゃが。もう気付いておると思うが、このまま行ってもお主は円環の内側を回っておるだけじゃ。つまりはこれでも詰んでおる。」


 表面のアルフレドくんと裏面のレイモンドくんは、同じ時間軸を表と裏で歩いているだけ。

 つまりはまた最初に戻る。


「元々ごっこ遊びするための世界っすからねぇ。別に世界を燃やす必要なんてなかったから、円環の世界。これはこれで良かったんすけど。」


 無論、それは俯瞰する側。

 ゲームをゲームだと思っている側の目線だ。


「良くはないだろ。俺は散々見てきたんだ。この世界の人間だって生きてるんだ。」

「それこそ、ワシだって中に入ってようやく気付いた程度じゃ。外から見ている者には気づけんよ。お主だってゲームで気軽にリセットするじゃろ?クロがお主に嫌がらせをしたとしても、そこまで考えての行動ではなかったということじゃな。許せ。」


 ゲームだから気軽にやり直せる。

 実際、神から見た人間なんて『こんなもの』かもしれない。

 それに今回のレイは似たような経験をしている。


「許せ……か。確かに神目線ってめちゃくちゃだもんな。簡単に設定を弄れるなんて神以外の何者でもない。勝手に人の歴史を作り変えるわ、後付けでなんでも足せるわで、正直怖かったよ。」


 そこまで話して、何も気付かないレイ。

 二対の神とそのペットは唖然とする。

 でも、唖然とされても仕方がないのかも知れない。


 ——その過去創造こそが、今回の解決の鍵だったのだから。


「レイ、まだ気付かぬか。創造神のワシの力を得たお主は、とんでもないことを世界に押し付けた。お主はメビウスが押し付けた過去創造だ、などと誰かのせいにして、ビックリしておったがな。」


 そんなこと言われても、という顔しか彼には出来ない。

 実際、当時のラビに教わらなければ、アレらを自分でやっていたなんて気付けなかった。


「はぁぁぁ。まだ分からぬか。お主はここにおった。ほれ、ここじゃ。」


 と、女神シクロはレイモンドくんを指さした。

 そして、宙に浮いた円環に亀裂を入れ始める。

 亀裂から悲鳴のようなものまで聞こえそうだった。


 ——いや、実際に悲鳴は聞こえていた。


「そんなお主が表の設定を弄り始めた。裏におるのにな。そして——」


 彼女の指先の亀裂が破けるではなく、徐々にひっくり返っていく。


「ついには表と裏を完全に繋げた。——それが、いつどこでどんなタイミングで起きたか。この図形、見覚えがあろ?」


 空中に浮かぶ光の帯、それが既視感のある8の横向きに捩れた。

 つまりは。


「これって……、メビウスの帯⁉」


 彼はそのタイミングで何が起きたか、はっキリと分かった。

 確信が持てる。


 だからあのタイミングだったのだ。


「俺がアズモデの話を聞いて、過去が完成した。そしてそのまま俺は暴走した。でも、同時に俺は過去の記憶をほとんど取り戻した。」

「記憶の殆ど全てを取り戻したのは、クロの炎に触れた時じゃろ?」


 記憶の断片があの炎には混じっていた。


「……そうだった。今までの世界はあの炎で燃やされたから……か。それはそれとして、ラビが正体を告げられたのはメビウスの帯が完成したから。」

「そういうことじゃ、愚か者。じゃが、愚か者のお主も、このメビウスの帯が何を意味するか、くらいは知っておろうな?」


 目の前で八の字を描く帯、流石に誰にでも分かる。


「勿論だ。『無限大』の象徴……」

「そう。神はその言葉、概念に支配される。それは、この世界も同じじゃ。ただの円環がメビウスの輪を描き始めた。つまり——」

「同じ円環でも意味が変われば世界も変わるっす。この世界の可能性は無限大。だから女神と俺っちは正体を明かすことが出来たし、旦那は無制限に世界を弄ることが出来たってことっすよ。」

「な、それはワシが言おうと思っておったのに!このイーリめ。お主だけはずっとイーリのままじゃからな!」


 彼女たちの言葉はあまりにも簡単て、あまりにも壮大すぎた。


『無限の可能性』


 そんな壮大なモノを自分の思考一つで自由にしていた。

 そんな全知全能をあの瞬間に味わっていたなんて。

 今、考えてもゾッとする。


 しかも、世界の意志というか、世界に無限を強要したのも自分だった。

 この旅の中で散々、他人の器を、役を拝借してきた。


 ——でも、流石に万能の神の器は無理だ。


 ただ、その寒気の中、彼はどこか落ち着きを取り戻していた。

 だって、彼の選択は間違っていなかったのだから。


「なら、俺はそれを手放せて良かったよ。流石に俺の手に無限大の可能性が握られてるってのは、荷が重すぎる。キャラを動かして、その世界を堪能するのはゲームだけで十分だ。」


 そんな彼の言葉に、女神は優しく頷いた。


「そうじゃな。なんでも出来るとは、それ以上のことは、なんにも出来ないということじゃ。ワシは暇で暇で仕方なかった。じゃから、難儀で窮屈そうな人生を送るお主に目をつけたという訳じゃな。はーーーー、すっキリした。ようやっと、真の意味でのネタバレが解禁できたのじゃからな。」


 少女の女神は両腕をすーっと持ち上げると、くーーーっと伸びをした。

 そして半分あくびをしながら、こんなことを告げた。

 そういえば、そうだった、という話。


「さて、ワシももう行くかの。ゲームもひと段落したことじゃし、新作ゲームもチェックせねばならんからな。——それでレイ。魔王レベル1のお主はこれからどうするつもりじゃ?」


 彼女はゲームが終わったら消えると宣言していた。

 レイが持っていた無限大の器も、今は彼女が抱えている。

 彼女が息をするだけで、大厄災がこの世界に降り注ぐかもしれない。


 ——だから、彼女とはここでお別れだ。


 そう考えると寂しくもあるが、彼にもやり残したことがちゃんとある。



「俺はしばらくぼーっとしたい。そして、静かにこの世界を堪能してみるよ。ずっと走りっぱなしだったからな。立ち止まったら、やる気なしエンドなんてルールを誰かさんが作ったせいでな。」


 すると、少女はニコリとほほ笑んだ。


「当たり前じゃろ。かくれんぼしとるのに、鬼が別の遊びを始められては困るに決まっとる!」


 その言葉になんとなく納得させられた。


 クロはずっと待っていた。

 ずっとかくれんぼしていた彼女を、待ちぼうけさせる方が悪い。


「あぁ、そうだな。ま、そんな感じで、誰一人、俺に興味無くなった世界をゆーーーっくり探訪するよ。夢にまで見た世界だからな。」


 その言葉を聞いた少女とペットは軽くため息をした。


 ——そして、こう言った。


「お主はワシのモノじゃ。いつかまた、訪ねることもあるじゃろうな。——じゃが……、全く。……お主は本当に愚鈍なやつじゃな。」

「全くっすね。」



 そして、その愚鈍というワードを使いすぎだと、彼が注意しようと立ち上がったが、……すでに二人の姿は消えていた。



「愚鈍、愚鈍、うるせぇんだよ。神の視点で人を語るな。……ま、いいか。本当に言うだけ言って、消えちまったな。」



 そして、彼も盛大に伸びをして、ボフッと魔王の椅子に座った。

 やはり寂しさはある。

 けれど、目の前には憧れていたゲームの世界が広がっている。


「どこに行くかなぁ……、って、その前に……、やっぱ眠い。長い戦いだったんだから、一週間くらい寝てやろう……か……な」



 誰も自分のことに興味がないから、誰も来ない。

 そんな静かな魔王の城で、彼の寝息だけが音を奏でる。


 この寝息こそが、戦いの終わりを告げるエンディング曲——





 ——彼の中ではそう決まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ