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ネクタ前の休憩ポイント

 レイはフィーネに続き、何もない空間に攻撃魔法を仕掛ける。


「ヤミマ、ヤミマ、ヤミマ、ヤミマ!」


 この先に休憩ポイントがあるからできる、補助魔法の連続使用。

 待ち構えている敵がいた場合は効果を発揮する。

 だからレイは四方に闇魔法を連続で放っていた。


「先生!いっくよー!」

「俺も続くぞ!」


 そこからエミリのブーメラン殺法、アルフレドの2段回目の炎魔法火球弾(パイロン)を繋げる。

 ブーメラン殺法で敵にダメージが入るかどうかは運次第。

 でも、そこで刈り取られた腰丈以上に伸びた(あし)に火がつき、それが周囲に弾け飛ぶ。

 森での大火災を草原でもやってしまう辺り、人間のやって良い所業ではない。


 レイは「きっと他の街に入ったら元に戻るから」という謎理論を自分に言い聞かせ、己を含めた全員を説得していた。

 命は一つしかないと考えるべき、だったら必ず不意打ちが取れる状況を狙いたい。

 これはゲーム上、5分と掛からずに来る序盤の敵だから可能だろう、というレイの監修と判断の下で行われている。

 彼が昨日一日で感じ取ったことは、急所攻撃が絶大な威力を発揮するということだ。

 因みに今の彼は棍棒なので刺殺ができない。

 常にサポート役に徹するつもりだった。


 あのトリケラビットを見るまでは。


「お前、ここは物理法則破れよ。なんだその、ひっくり返ったら動けないっていう頭デカすぎキャラ。それ出オチってやつだぞ。で、お前はそれを狙うなぁ!」


 横から弓持ちコブリンがそのトリケラビットを狙っているのが見えた。

 だから、レイは棍棒でコブリンの頭をかち割った。

 予想通り、レイモンドの大きな体には棍棒がしっくりくる。

 それに昨日よりも断然戦いやすかった。

 元々、レイモンドは器用さのステータスが低い。

 だから棍棒が最適なのだろう。


「アルフレド!ちょっと指揮を頼む!」

「分かった!練習だな!」


 レイは「攻撃力より防御力」と言ったが、彼がさらに重視したのは「俊敏性」だった。

 フルプレートアーマーくらいの装備をすれば別かもしれないが、クリティカルが起きやすいと分かった以上、ヘッドショットをされたらそれで終わりだ。

 胴体への損傷は回復魔法でなんとかなる。

 それはエミリの父、フィーネの魔法で確認済みだ。

 だから、心臓や中枢系の即死レベルの攻撃を喰らわない限りはどうにかなる。

 それが、以前にも触れた『HP』という体力に見せかけた魔力(・・)の真骨頂だろう。


(ヘルスポイントでもヒットポイントでもない。ハビタブルポイントというべきか?生存できるか、できないかだけが問われている。)


 今の敵のレベルでは、硬く加工された牛皮で急所をカバーしてくれるレザーアーマーがちょうど良い。

 それなりに軽くて動きやすいので、敵の照準を狂わせられる。

 元々、当たりにくくするバフ(補助魔法)はフィーネから貰っている。

 加えて、どの辺りまで効果があるかを確かめるために、闇魔法闇闇(ヤミヤミ)の方も連発していた。


「ほら、お前を狙う悪いコブリンはいなくなったぞ。よし、このまま草原地帯の奥に逃げろ。ついでに仲間を見つけたらこの辺に出てくるなって伝えとけよ。悪い人間も多いからな。」


 レイはこの辺りから、自分より周りを優先している。

 どうやら自分の方が圧倒的にステータス以外の戦闘スキルが高い。

 だから、可愛そうな魔物は解放する余裕さえある。


(仲間になるシステムはないんだけど。一応、やっといた方がいいよな。)


 因みにこの戦いも後の戦いに於いて有意義だった。

 レイはグループ魔法と全体魔法の意味を理解していなかった。

 そんな彼にとって、とても勉強になる出来事があった。

 コマンドバトル方式でヤキモキした気持ちがすっきりと解消したのだ。

 人間に置き換えればよく分かる。

 A組とB組の組員が対立していました。

 そこに敵国が侵略に来ました。

 普段はいがみ合っている二つの組織も異国からの来襲が怖かったのです。

 だから共に戦いましょうと手を結んだ、……的な目で勇者パーティを見ているのだろう。


「呉越同舟って言葉で片付けられるけど、どう考えても勇者なんて黒船、いや戦闘宇宙民族レベルだよな。つまりグループで分かれているあいつらは別に仲が良いってわけじゃないのか。知性があればまた違うんだろうから、先を進めばこんなことも……。いや、知性があっても一緒か。人間もそうだもんな。」

「あれ、先生。今の逃しちゃったんですか? モンスターに対して容赦ない先生にしては珍しいですね。」


 あらかた片付いたのか、エミリが隣に走ってきていた。

 モンスターに情はかけるべきではないし、これはあくまでゲームだ。

 だから普段は命を守る為に、経験値を稼ぐ為に、モンスターに対して容赦はしない。

 エミリの言葉は間違っていない。


「ま、あれだ。俺の……、いや人間のエゴだよ。」

「ほぉぉぉぉ、さすが先生! よく分からないけど、なんかすごい気がします!」


 デザイン重視で生き物としての特徴を無視したキャラクターを作り出した人間のエゴ、そしてちょっと可愛かったから逃したという色んな意味のエゴ、そして彼のエゴだ。


「でも、エミリは考えなくていい。お前はセンターを張れる逸材だ。さ、掃討戦に移ろうか、アルフレド!でも、トリケラビットは逃して欲しい。あいつらの体じゃあ人間は襲えないだろうしな。」


 エミリはセンターという意味不明の言葉を貰って、正直嬉しかったのだろう。

 ブーメラン殺法を連発して、葦の原は一斉に血の果実を実らせた。

 アルフレドは剣と魔法を駆使しているし、フィーネも今覚えている攻撃魔法、大鎌鼬(カマイターゼ)を駆使して悪魂ホビットを切り刻んでいる。


 ゲームの話に戻ると、今のパーティはバランスが悪い。

 前衛と後衛で二人ずつに分かれるバトルシステムなのに、前衛が三人と後衛が一人というのが今の編成だ。

 アルフレドとエミリの方がレイモンドよりも強いので、レイモンドはその巨体を活かすことができない後衛に回される。

 そして、次の街では後衛キャラが仲間になるので、いよいよレイモンドの行き場がなくなる。


「レイ、そろそろ大丈夫そうだ。北の休憩所に向かおう。」

「了解、これからもパーティの指揮はアルフレドにお任せし…………。ぐ……。ぐへ、ぐへへ。フィーネ、休憩だってさ。休憩に行くか? フィーネは鎧の手入れ、俺は棍棒の手入れを……」

「そのエノキ、引っこ抜かれたいのかしら?」


 レイは普通に会話をしようとしたが、横にエミリがいるのを忘れていた。

 エミリに脇腹を小突かれ、レイモンド・モード略してレイモードに切り替わったのだ。

 エミリもレイという先生で遊んでいる。

 フィーネに追撃の罵声を浴びながら、レイはエノキをしまう。

 いや、そもそも出していないから、心のエノキをしまう。


 そして、この全員が状況を理解しているプロレスは誰得なのだろうかと、心のエノキに問いかけた。


     ◇


 澄んだ泉が湧く幻想的な空間、ここにも例のオブジェが鎮座する。


 女神を象ったオブジェは、このゲームの世界観の一つだ。

 女神メビウスは魔王の出現に危惧して、光の勇者をこの地に遣わした。

 そしてエンディングで勇者、そしてそのプレイヤーに向けて祝福のメッセージを送ってくれる。

 確か、それくらいしか登場しない。

 そもそもプレイヤー目線では魔王を倒すことよりも、推しのヒロインと結婚ができるか、はたまた他のヒロインが来てしまうのかの方が重要なのだ。

 ステータスに好感度が表示されないので、発生したイベントで鑑みるしかない。

 つまり、メインヒロインは最後の最後にならなければ分からない。

 この設定は、攻略本、攻略サイト、ネタバレを絶対許すまじ勢にとっては苦痛でしかない仕様だった。

 レイはそんなことを思い出しながら、女神像に触れる。

 だがやはり、女神は光を放たない。

 無論、セーブ画面への移動もない。


「レイはよくそのオブジェを見ているが、それほど重要なものなのか?」


 アルフレドが後ろから話しかけた。

 そして彼は振り返りながら首を横に振った。


「いや、これは癖みたいなもんだよ。これに触っておかないと……」


 レイはそこまで話して言葉を失った。

 オブジェは最初の村、そして途中の休憩ポイント、宿屋にも存在していた。

 それはこのゲームがオプションや設定からセーブが出来ないからだ。

 そしてもう一つ触る理由が存在する。

 これに触っておかないと、瞬間移動魔法(ファストトラベル)ができないからだ。

 だからセーブがないのだとしても、一応は触れておかなければならない。

 だから触る癖がついたのだが、彼は自分の馬鹿さ加減に呆れていた。


「触っておかないと……なんだ?」


 アルフレドが怪訝な顔をして、彼の言葉をおうむ返しした。

 レイが見落としていたこと、主人公以外は広義でも狭義でもNPCノンプレイヤーキャラクターなのだ。

 NPCがセーブポイントに触れてセーブするなんて、滑稽を通り越してクソゲーだろう。

 マルチエンディングを謳っているくせに、一つしかセーブスロットがない状態で、その辺の村人が勝手にセーブをしたら、プレイヤーが発狂してしまう。

 だから、レイが触れても意味がないに決まっている。

 つい、自分目線で世界を見てしまっていた。

 そこまで辿り着いてみれば、女神を象っている意味も理解できる。

 これは光の勇者にしか反応しない、だから彼に触らせる癖をつけさせないといけなかった。


「アルフレド、この女神像に触れてみてくれ。」


 今やアルフレドはレイに全面的な信頼を置いている。

 だから彼は何の疑いもなく女神像に触れた。

 すると女神像は光り輝き、無機質な石像が奇跡の機能を取り戻す……、そう思ったが、何も変化は起きなかった。


「アルフレド、どうだ?」


 彼には特殊なユーザーインターフェースが見えているかもしれない。

 バタバタとここまで来て、やっとその確認が出来る。

 だから、レイモードではないキラキラした瞳をアルフレドに向け続ける。


「なんと言うか、懐かしい……気がする。それに気持ちが洗われるような……。レイが触っていた理由がなんとなく……分かる気がする……かもしれない。」


 どうみても気を遣っているアルフレドの顔にしか見えない。

 でも、それは彼がゲームを知らないからかもしれない。

 たとえセーブできなくても、何かの役には立つかもしれない。


「えっと、なんかさ。視界に文字が浮かんだとか、四角い枠が出たとか、そういうのが起きるかもって、俺、どっかで聞いたことがあるんだよなぁ。これは女神像なんだし。奇跡が起きるかもしれないし。アルフレドは神に愛されている筈だし。ちらぁぁぁっと、四角い何かが見えた気がしたんだけどなぁ。もしくはなんていうか、ちょっとだけいつもの自分と違う……みたいな、そういうのない?」


 もしもコマンドウィンドウが現れたとして、彼はどう思うだろうか。

 ゲームの知識のない彼のことだ。

 きっと目の錯覚か何かだと思ったかもしれない。

 もしくは仲間のステータスを見てしまい、個人情報を覗いてしまったと隠しているのかもしれない。

 でも、それは普通のことなんだよ、という雰囲気で聞いてみた。

 今までは気を使って聞けなかったが、今ならちゃんと聞ける。

 そして、アルフレドが嘘をつくとは思えない。


「レイには何か見えているのか? すまないが、俺には何も見えない。だが、レイがそこまで言うからには、何か変化が……」

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