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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていた。  作者: 綿木絹
ほーむめいどぱーふぇくとはっぴーえんど
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破壊神

          ♤


 ドラステサウンドトラックNo.14『後部座席は完全フラット仕様』が流れ始める。


キラリ「レイ、そういえば聞いたことあるよ。命の危機が迫ると人は合体したくなるって……」


 彼女がそう言った瞬間、黒い炎の勢いが止まる。

 そしてキラリ号がレイ号の底部にドッキングした。


(炎にもこの展開が通用する……?)


アルフレド「合体だと? ついにこの瞬間が来た……のか。レイ、肛門括約筋に集中しろ!」


 アルフレド号がレイ号の臀部にドッキングした。


リディア「レイ!私ね、よく分からないんだけど。私こそが、コウノトリさんだったみたいなの‼」


 リディア号はレイ号の右側面に。


(内容は無茶苦茶じゃが、黒炎も空気を読んでおるようじゃの)


フィーネ「そ、そ、そうよね。えっと……、私、 そろそろいいかなって。」


 フィーネ号は左側面に。


マリア「私は上からがいいの!」

エミリ「私も上がいい!」


 マリアとエミリは争いつつもレイ号の上部に二つ並んで合体した。


アイザ「わらわはおねえたまと一緒に」

エルザ「アイザ、魔王様よ。いくつも持っておいでです。」


 アイザとエルザはレイ号の前方に。


ワットバーン「ラブコミ粒子、30%充填!」


(ラブコミ粒子? なんじゃ、それは。)

(知らないよ。ワットバーン・ジョークなんじゃね?さっきまで俺たち忘れてたんだから、アイツのことをあんまツッコむなって)


ソフィア「私、待ってました。ふふ、今日は寝かせませんよ。割り込ませて頂きます!」

サラ「えー。まだ早くないですか? じゃあ、リディアちゃんの隣に!」


ワットバーン「ラブコミ粒子、60%充填!」


 無理やり左右からソフィアとサラが入り込み……


ゼノス「俺の立ち位置的に複雑……」

マロン「いいから、合体しなさい。ちゃんと見ててあげるから。カロン、ボロン」

カロン「うん!」

ボロン「私たちも!」


ワットバーン「ラブコミ粒子、90%充填!」


ガノフ氏「拙者、合体でござる!」

ベン氏「それがしも合体にござる!」


ワットバーン「ラブコミ粒子、100%充填完了……?」


(レイ、もしかして計算ミスをしたのではないか? あやつ自身も自分を数えとらんかったんじゃろ)


レイ「ワットバーン、大丈夫だ。こういうのは大抵120%充填くらいで撃てるんだよ!」


ワットバーン「はっ!では、私がイーリ殿の気持ちも含めて!——ラブコミ粒子充填120%‼」


 彼がグッジョブだったのは、アズモデが乗っていた機体のコア部分を、自身のドラステ号に強引に括り付けていたことだ。

 そういう意味で+20%なのだ!


(まぁ、合体中のセリフじゃないんだけどな。)

(うむうむ。)

(でも、このまま一気に駆け抜ける。俺が散々怯えていたことだ。)


『ムービー中の死は確定な死である』


(だから、勝利確定BGMを流した。これはラスボス、デズモアにとどめを刺す時に流れる音楽だ。)


 100m級の戦闘機が次々と合体し、機械的な部分がガチャンガチャンと変形していく。

 ジャキーンと足が組み上がり、ガシャーンと両腕が完成する。

 シュイーンと上部から音が聞こえ、青い牙が目立つ頭がそこから登場する。

 最後にドバキュイーンと背中から翼が生えて、全身がプラチナとゴールドの光に包まれる。


全員「RPG戦士ドラステワゴンダム・逆襲の愛・魔王拳十倍……、いや、百倍!ドラゴンの呼吸百の型‼」


(盛り過ぎだろ!っていうか、いけ……行けるんだよ!)


 数百mクラスの巨大ロボが髪を逆立ててプラチナとゴールドに光っている。

 ビーム兵器の威力も百倍。

 そして。


全員「いつもより二倍ジャンプ!そして両手ビームサーベルにする!さらには三倍の回転を加えることで百倍の十二倍!千二百倍ラブコミュビーーーーーーーム!」


 海底を全て照らすような金と銀の光。

 そして霧散していく黒い炎と大蛇。

 さらに勝利のBGMが大きくなり、錆の部分がピッタリと当てはまる。


(ラビ!)

(分かっておる!ここは見じゃ‼)


全員「更に効果抜群一億倍ラブラブビーーーーーーーム‼‼‼」


 そして見事に彼らは。


 レイ達魔王軍は!


 ついに勝利を掴……掴……つか……つか……つかつかつかつかつかつかかかかかかかかかかかかかか


(——は!?)

(なんじゃと⁉)


原田「あ、やっちゃったんすかね。これ。」


(は?なんだ? 何が起きている?なんでここで八番目のヒロインイベントの原田の声が?)

 懐かしい声が聞こえてくる。

 ゲーム本編部分でレイを救ったムービーシーン。


原田「やっちゃったんすかね」


 原田の声がだんだんおかしくなっていく。

 どうして、それがこんなところで。


原田「やっちゃたすか」


 そして文字が減っていく。

 あり得ない現象が起きている。


原田「やったすか」


 レイに戦慄が走った。

 彼は破壊神のその力を知ることとなる。


 そして、もうすぐやってくる。

 ムービーだから、分かっていても止められない。


原田「やったか」


 その原田の声に、全員が下を見てこう言った。


全員「やったか⁉」



          ♠︎



 下を覗き込む仲間達、レイも同じく霧散した黒い炎を見ている。


 だが、ラビだけはそこにいない。

 彼女は登場人物に数えられないからだ。


 ——そんなことよりも


「俺が作ったムービーじゃなかった……だと!?これは最悪の、……死亡フラグを言わせるための演出だ。」


 どれほど、この世界が憎いんだ。


 なんでそこまでして、世界を破壊する!?


「だめだ!全員、脱兎の如く離脱しろ!今すぐにだ!ファストトラベル、イツノマニマゾク、魔法を使ってもいい!とにかく地上へ戻れ!」


 死亡フラグ?


 そんなメタ的な言葉、この世界のキャラクターには通じない。

 そんな当たり前のことも分からないまま、レイは叫び続けた。


「ちょっと待てよ、レイ。俺たちは勝ったんじゃないのか?」

「どう見ても、我が軍の圧勝ですよ。魔王様」

「然り然り。大勝でしたなぁ。お主。」

「然り」

「うん、僕も棒人間の意見には賛成だよ?」


 彼らはそう言って、奈落の底を覗き込む。

 そんな余裕は絶対にないのに、彼の気持ちは伝わらない。


 ただ、そのレイ自身も奈落に目を奪われて行動できない。

 そこに白兎が混じって、こう言った。


「何もないのぉ。死亡フラグが空振りしているんではないか?」


 奈落の底は空間の底。

 先程の怨嗟の炎は全て消えている。

 だから鏡のように映り込む。


 ラビの顔も映り込む。


 仲間達もレイと同様にジッと奈落を見つめている。

 だから、そこに全員が映り込んでいる。


「私たち、本当にやったんじゃない?」


 なんて、誰かの口がしゃべっている。

 もはや、キャラ付けなんてどうでもいい。


 彼が考えていることは、ラビには筒抜けである。

 だからラビは少し前にラビの要素を無くしたのだ。


 なるほど、と思う。

 そうすれば、これからやる彼の行動の影響を受けないからだ。


 彼らにはもはや、助かる術はない。


 助かるとすれば、破壊神の気分。


 気分次第で、全員が怨嗟の炎に包まれる。



 ——ただ一つ。


 一つだけ、そこだけが、……どうしても気掛かりだった。


 どうして彼女はあの時、あんなことを。


 どちらにしても勝負は決している。


 だから迷う余地なんて一つもなかった。


 迷う時間さえ勿体ない。


 つまり、レイは勝利を諦めた。


「みんな、本当に悪い。先に地上に戻ってくれ。」


         ♤


 魔王レイは決めていた。

 最後の瞬間が来た時、世界の形を初期位置に戻すことを。

 街並みも全て元通り。

 海も全部元通り。

 この最終決戦のために変更したキャラのステータスも、キラリには悪いが全て元通り。

 仲間達も全て開戦前の初期位置へと戻される。


 彼は創造神の力を借りて、無茶ばかりを行う。


 そのツケを払う時が来たのだ。

 そして今まさにそのツケを払わされる。

 このゲームの世界を、ここまで無茶苦茶にした魔王レイ。

 彼がただで済むはずがない。


 彼はその報いとして


『レイはアイテム、装備、ゴールド、経験値、ステータスを全て失う。当然その中には好感度も存在するので、魔族を含め、全てのキャラとの好感度が0になる』


 という、恋愛RPGにおいて、最悪のペナルティを受けるものとする。

 彼のセーブデータを抹消する。


 ——これは確定事項である。



 そもそも、彼自身が最初にそう決めていた。

 大好きなゲームをここまで無茶苦茶にした報いは当然受けるべきであると。

 勝たねばならぬ戦いだが、勝っても負けても、こうすると決めていた。


 それが彼の罪と罰であると。


         ♤


 一瞬、世界が消えたように思えた。


 誰も彼もが、わちゃわちゃロボットも全てが煙のように消えた。

 そして海水が満たされる。


 彼も我ながら見事な完敗だと自覚している。

 そしてある意味、完璧なシナリオだったとも自負している。

 元々、最後にそう締めくくるつもりだった。


 こんなに世界をぐしゃぐしゃにして、と。

 だからその罰を自分は受けるべき、と。


 でも、この最終設定『リセット』を事前に考えていて良かったと自負している。


 破壊神の目的はレイ自身なのだ。


 ——ずっと思っていた。


 どうして、自分の家族から燃やしていくのだろうかと。

 そして何故、憎ませるのだろうかと。


 つまり、破壊神はレイが嫌いなのだ。

 レイに嫌な思いをさせたいのだ。


 だったら、好感度0のキャラなら、もしかしたら狙われない。


 地上の方が狙われない。

 つまりレイが先に死ねば、彼らは苦しまなくて済む。


 ……かも……しれない。



 いや、そんなことを考えている暇はない。

 早くしなければ、今のレイのHPでは死んでしまう。


 早くって何を?


 奈落の先を目指すのだ。


「やったか?」はやっていない。


 さっき、ムービーを逆に利用された。

 ならば、あの先に彼女はいる筈なのだ。


 どうして彼女?


 アズモデも言っていた。——「母さんがいる」と。


 そして、彼女が空間の壁に映っていた

 今、隣にいる「ラビの形から女神」に戻った彼女が居る。


 彼女は白髪の少女、少女は女神メビウスである

 それならば、空間の壁に映ることはない

 レイが通り抜けたのと同じ。


 空間の限界はキャラクターのみが適用される。

 それに彼女はあんなに睨みつけてはいなかっただろう。

 壁の向こうにいる彼女も、きっとゲームがとっても好きな神様なのだ。


 ——だから


 レイは奈落のその先に行く。

 じわじわと漆黒の炎が滲み出てくる空間の向こうへ。

 レイモンドの体、キャラクターの体はそこに行くと表示バグで消える。

 これは空でも経験したことだ。

 でも、あの時だって意識は残っていた。


 だから、その意識だけで、空間の向こう側へ。

 意識だけ、魂だけで突き抜ける。


 ——破壊神と「もう一度」会うために



「俺がここまで来れたのも、君がゲームを知っていたからだ。」


 その瞬間にレイの魂にヒビが入る。

 彼女は本当に怒っているのだろう。


 ゲーム好きの女神様。

 そうだと分かったから、レイは確信を持って『リセット』を押した。

 自分だけペナルティを喰らうという、別の意味での好条件付きだったが。


「やっと、分かったよ……」


 その言葉にレイの魂は、さらにひび割れる。


 彼の視線の先にいるのは、——真っ黒の髪の真っ黒な瞳の少女だ


 創造神メビウスがラビの体で言ったこと、それがずっと引っかかっていた。



『レイの魂は、異分子だから破壊されない』


 そんな馬鹿な話がある筈がない。

 レイは意図的に生かされたのだ。

 だから今、魂を削られている。

 だから今、少しずつしか削られていない。



「やっと出会えた。破壊神……、いやゲーム好きの万能の女神メビウス」


 彼がその言葉を発した時、彼の背後に別の者がいた。


 ラビだった何かもそこに立っている。


 レイを挟んで同じ距離に二人の女神が立っている。


 考えてみれば、当たり前の話だった。



 ——『破壊と創造』は合わせ鏡。



 そして分かりやすく、この世界も正義と悪の二つで一つ。


 そう考えると成程と思う。


 偶然そうだったのか、そうなるように出来ていたのか。


 光と闇、人間と魔族、金と白金、白と黒、経験値とゴールド、男と女


 レイが創造しなくても、元々この世界は二対一組で成り立っていた。


 目の前にいる黒髪の少女が本物のメビウスか、後ろにいる白髪の少女が本物のメビウスか。


 そんなことはどうだって良い。

 あの夢の中で、レイは朧げに少女を見た。

 でも、それはとてもぼやけていて、彼が間違えるのも無理はない。


 あの輪郭さえも朧げな少女は、何をしていたのか。


 ——ずっと創造と破壊を繰り返していた。


 そしてレイは白い髪と赤い瞳しか見ていない。


「だから、俺は気付かなかった。……なんて、あまりにも酷すぎて。……俺、なんて言ったらいいのか」


 白い髪と、赤い瞳しか見えなかった。


 なら、黒い髪と黒い瞳ならば。


 後ろに立っている白い髪のメビウスが創造神なら、彼女は破壊神。


 でも、本当は逆だったかも知れない。


 逆とか本当とか、そんなことさえ、どうでもいいのかもしれない。



「ゴメン、君を無視して。……もう一人とだけ、遊ぶ約束をして。あの時、君もそこにいたのに……、俺……、鈍くて……」


 暗闇の中に少女が二人いたとしたら、もしくは重なっていたかも。


 ラビはイーリという眷属を作るような存在だ。

 とっても寂しがり屋なのだ。

 いや、寂しがり屋とか関係ない。


 その場に二人いるのに、片方だけとしか遊ぶ約束をしない男がいる。

 怒って当たり前だ。


 嫉妬の炎、アンチが湧く。

 その全てがそういう意味だった。



「今なら……、いや、時間かかりすぎだよな。あの時、君に気付けなくてゴメン。」


 本当にひどい奴だ。

 だから、心の底から、魂から。

 今、魂だけだから、きっと嘘は吐けない。


「今更だけど、俺……、君とも遊びたい。」


 暗闇の中で、体があるのかないのか分からないまま、彼は黒髪の少女に頭を下げ、そして手を差し出した。


 すると。


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん、やっと気付いて貰えたよぉぉぉぉぉぉ」

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