破壊の炎とゲームの崩壊
ラビが何かを察して、上官に報告した。
何かが来るらしい。
(子供がいた回もあったのにあまりにも早すぎる気がするけど。ラビの言った通り、アンチが来た。)
正直、まだまだ話し足りない。
でも、前の回想だってそうだ。
どれだけ準備をしていても、必ず漆黒の炎に焼かれてしまう。
だから、どれだけ皆を説得しても意味がないのかもしれない。
(でも、成功するかどうかなんて分からない。だって初めてこんなことをするのだから。記憶の断片が魂に残っているからか?)
女神メビウスは首を傾げながら教えてくれた。
因みにヴァイス砦で見た悪夢は、メビウスの記憶が流し込まれたものらしい。
つまり、彼女は常にプレイヤー・レイの目線で世界を見ていたということだ。
だから、それ以外の出来事はレイの魂からの叫び。
そして今からすることが、自分でも初めてだと何故か確信できる。
「チッ、全部話せていないんだけど。とにかく、俺は絶対にお前達を守る!アズモデ、お前もな。……やってやる。なんだってやってやる。クリア後の世界で俺が何をやったと思っている‼」
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『実は王族と魔族は第三国の介入に備え、全ての建物を地下へ移動できる仕組みを構築していた。』
アーノルド王「魔族以外の何かがやってくるとでも?」
ヘルガヌス「そうじゃ。そうなったら興覚めじゃからな」
アーノルド王「ならば、仕方ないか。こればかりは共闘作業だな」
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「レイ、何が来るの? そのアンチってやつ?」
フィーネは話が途中で終わった気持ち悪さから、レイ、いや司令官に質問をした。
ゴゴゴゴゴ
その瞬間、激しい音が聞こえ、地面が揺れ始めた。
天井や壁の一部がポロポロと崩れ落ちる。もはや大地震レベルと言える。
ただ、こんなものはただの前準備でしかない。
あの炎は突然現れる。
地下に移動した程度で防げるものではない。
「レイ、これ……、どういう——」
これはバトルフィールド作りである。
問題はアンチが何か分からないことだ。
もしもアンチが巨大な何かなら、山や町があると戦いにくい。
「この地震がもしかして?」
なんて戸惑うのも無理はない。
でも、さっさと出ないと閉じ込められてしまう。
「話は後だ! みんな俺についてこい!総員、脱出だ!この後、戦闘員として働いてもらうからな、気合い入れろよ!——んでもって、これも必要だな」
デスキャッスル入り口、つまりドラグノフの間に全員を集めて演説をしていた。
ドラゴン、ベンジャミールは頭だけデスキャッスルに入っていた状態。
この演出がやりたいが為に、デスキャッスルで演説をしていた。
意味がないと分かっていても、やっぱり怖かった。
だから、ホームからスタートしたかった。
「これだけじゃない。我が軍は最強だ——」
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マロン「ちょっとやり過ぎたかしらね。」
カロン「うーん、途中から意味が分かりませんが、これくらいやっておけば?」
ボロン「光のメビウスの勇者だけじゃなく、第三国も手を出せないんじゃない?」
『さらには魔道と科学を融合させ、量子力学をも上回る超技術の開発に成功していた。空間を自在に分断するその力は『絶対防壁』とも呼ばれた。そしてそれを局地的に生じさせたのが、四天王やデスキャッスルに張り巡らされていた『見えない壁』である。——そして、こんなこともあろうかと、王族と魔王軍はこの世界を破壊する第三者侵入時にのみ展開される『アンチ湧くなフィールド』、略してAWフィールドさえも開発していた。』
♤
デスキャッスルが地下に格納される前に、全員を外に連れ出していた。
アズモデは勝手についてくるので気にしなくても良い。
だが、どうやら彼も外の景色に目を奪われているらしい。
そしてなぜか感動しているようだ。
「すごい!これが、世界の終わり! 芸術的なアートのようじゃないか。」
空からは既に漆黒の炎が舞い降りていて、それが付着した部分が黒く塗りつぶされている。
そして予想通り、それが集まって小規模な火災のようなものが起きていた。
至る所に小さな黒い炎がへばりついているのが、あの現象の始まりだろう。
屋内にいた方が安全だったかもしれないが、どこから始まるのかさえ分からなかった。
だから自動的にAWフィールドが起動するようにしていた。
今回は女神メビウスが気配を察知してくれる。
いままで傍観者だった彼女が側にいてくれる。
それが何よりも嬉しかったし、心強かった。
もっとも、彼女はアーマグに来てからこっち、ずっと側にしてくれたのだが。
「素晴らしい!これ、絶対に終わりますよ!感動しました!生きていて良かった!」
そんなことより、アズモデはとても嬉しそうに走り回っている。
そして、アズモデと同じように、科学少女も興味深そうに炎を観察していた。
「この炎……、浮いてる?くっついているように見えて、くっついていない。だから、この世界にはまだ燃え移っていない。見えない壁、ここまで完成されていたんだ。レイ、これってそうだよね!」
キラリが何故かそんなことを言う。
本来の彼女は知らないはずの技術だ。
でも、世界にそんな歴史があったのだから、彼女は間違いなく知っている。
「あらあら、本当ね。私たち頑張って開発した成果があったじゃないの。」
「量子魔法学、複雑すぎて未だに私はわからないんですけどー。」
「カロン姉様はどちらかというと化学実験の方がお好きですもんね。」
なんて、MKBも自分たちの研究成果を誇らしげに眺めている。
「なんだって? この炎はアンチの炎じゃないというのか……」
そして、そんな彼女達の言葉にアズモデが錯乱していた。
彼は自殺願望持ちという、やっかいな設定を踏襲している。
その炎をたぐり寄せようとするが、自身にも張られた見えない壁のせいでそれには触れない。
「間違いなく、アンチによる炎上だよ。しかもこの空の色。どうやら今回のは特大級らしいな。今回はそうなることがなんとなく読めていたけど。……人気があればあるほど。今回は正にそうだもんな。ラビ、まずはこんな感じだ。」
そんな感じにラビに話をする、それには訳がある。
「ふむふむ。まずは……なんですね。でも……。ウチのドラステが……」
「うん……。ゴメン……」
民家が、木が、山が。全てが何故か地下に沈んでいく。
この世界に存在してはいけない、近未来的な地下空洞に全てが格納されていく。
これは完全に作画崩壊状態である。
中世ヨーロッパ風魔法剣戟はどこへやら。
古民家までが超科学技術で地下に収納されていく。
これはシュールというより、馬鹿げている。
「これがアンチの炎というのなら、もしかして、メビウス様が私たちを見守って下さっているということでしょうか。そして私たちをお守りしてくれている?」
ソフィアがそう言った。
すぐ目の前にメビウスはいる。
そしてまさに、今、メビウスの力が使われいる。
でも、皆がメビウスに頼るでは、おそらくダメなのだ。
だから彼女達に分かるか分からないかのニュアンスでしか伝えない。
「それはたぶん違う。キラリの言っている通り、この世界は元々そうなっていたんだ。アンチ程度の力でゲームをボツにさせないため。ちゃんと対策が取られていたってことだ。」
——女神メビウスの力、という認識では戦えない。
彼女は創造神である。
だから破壊神の攻撃に為す術を持たない。
破壊神が世界を壊してくれるから、彼女は新たに創造ができる。
メビウスには何も出来なかったから、彼女はあの夢の中で泣いていた。
(本当にそうだ。どうして忘れていたんだ。俺は夢の中で彼女に……)
「我が知らぬ技術だと?いや、知っているようにも思えるな。」
「ふふ。当たり前ですよ。レイが率いている魔王軍です。見えない壁の応用くらい、彼ならば簡単に出来ますよ。」
と、ドラグノフとエルザ。
二人は今回の世界線で、見えない壁を肌で感じたことがある。
その経験が活かされているのだろう。
(そういえばドラグノフって、意味不明な力で見えない壁を消失させてたな。これはこれで不味いな。)
♤
『この緊急AWフィールドは魔族、人間のみならず世界全てに共通で与えられるもの。個人の考えなど無視して、自動的に展開されている。特にドラグノフのような、斜め上の発想をする者からの影響を受けないように設定することも出来る。』
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(おし、これで良いか。)
すると才女フィーネが勝ち誇った顔をした。
なにやらお気づきのご様子で。
「なるほど。この感覚は経験あるわ。実は、そうだったのって驚いてしまった感覚。スタト村で起きた現象自体とは似ても似つかないけれど、感覚は同じだわ。つまりレイが言っていたっけ。歴史が生まれたって。でも、貴方はこれを女神メビウスの力って言ってなかった?」
ちょっと前までそう思っていました。
彼も自分で過去を作っていたなんて、考えてもいませんでした。
そして、それをそのまま伝えたい。
けれど、これはなんとも答えにくい質問だった。
彼女達の過去を作ったのが、彼レイだと分かれば、彼女達はどう思うだろうか。
——レイが気を遣って作った過去
そんな風に思ってしまわないだろうか。
もしくは傲慢なやつ、嘘つきなどなど。
「うむ。そんなこともあったか。」
ずっと勘違いしていたことも恥ずかしいし、何よりメビウスの力でもレイの力でもない。
女神メビウスの創造神としての力を、レイが無意識に使用し、更に今は悪ノリで使用している、が正解だ。
(マジ、なんでもありの後付け設定なんよ!完全にご都合主義なんよ!ってか、俺の妄想なんよ!この力を得る為に、エピローグ作りをしていた訳じゃないんだけどな。ただ……、うん。多分そう。きっと……、これは……)
「フィーネの指摘通り俺はそう考えていたよ。でも、どうやら違ったらしい。な、ラビ。これは、この世界がそうしたいって思っているんだよな。」
なんでレイがラビに気を使うか。
それは彼女の力を無断使用しているから……ではない。
「うーん。なんとも難しい。アリといえばアリ。ナシといえばナシ。でも、ここまで来たらやっぱり……。そうかもですね、ご主人!」
女神メビウスはドラステワゴンが好きで、この世界を作った。
レイもドラステワゴンが好きだから守りたい。
——でも、こんな世界はドラステじゃない。
だから、レイとラビは自身の首を絞められる思いなのだ。
そんな彼女の大切な世界を冒涜しているレイ。
ただ、白兎はどうにか許してくれたらしい。
すると今度は。
「ねぇねぇ、なんかレイとラビってすごく仲良くなってない?ちょっと前まではラビって従者に徹してたよね? ま、まさか……、その関係性を利用して……」
「エ、エミリ。違う。違うから。」
「そうですよー。やっと気付いちゃいました?遅すぎるくらいです。ウチ、職権濫用しちゃいましたー!」
「ラビ、やめろ!今はそんなことを言っている場合じゃない!」
「えー、なんでですかー。ウチもヒロイン回やりたかったのにー!約束してくれたのにー。ウチとは遊びだったってこと⁉」
「え、……それじゃあマリアも遊ばれて」
確かに、そんな約束をした気もする。
でも、その前に世界は終わりを告げた。
「エミリちゃん、今はグッと我慢をしましょう。私も我慢してるんだし。っていうか、この見えない壁って、何をやっても攻撃が当たらないやつだよね。じゃあ、私たち、これで助かってたりして⁉」
マリアがエミリに「どぅどぅ」と気を休めるようにと気遣ってくれた。
世界の終わりにヤンデレなんて相性が良すぎてしまう。
ただ、落ち込み屋のマリアにも申し訳ないが、これで終わり?
そんな筈はない。
(あるわけがない。あったら、四天王やデスキャッスルは無事だった世界線が存在する。つまり——)
「残念ながら、気休めだよ。フィーネにはあぁ言ったけど、世界の意志というのは創造神メビウスの力を利用したものだ。この黒き炎は全てを無に帰す者、破壊神の攻撃。神対神だからいずれは燃え広がるよ。」
「そうなんですか。僕達の研究もやはり神の力の前では無意味と……」
それでも、仲間の皆はこう言うのだ。
「でも、レイには!ちゃんと秘策があるんですよね!」