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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていた。  作者: 綿木絹
ほーむめいどぱーふぇくとはっぴーえんど
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世界を救う勇者たち

 魔王レイは自分を慕う者、そうではなくとも強者を集めていた。


 ここに居るのはゲームで言う主要キャラかもしれない。

 だが、共に新たな歴史を紡いできた存在でもある。


 王は薄目になり、口を噤み、その姿はまるで菩薩のようだった。

 その菩薩風魔王レイは軽く咳払いをして、こう言った。


「はい、10分かかりましたぁ。皆さんが沈黙してくれるまで10分かかりましたぁ。私はそれをずーーっと眺めていましたぁ。皆さん、分かってますか? これは世界存亡の危機なのですよー!」


 会場は「そんなこと言われたって!」という雰囲気ではある。

 なんせ緊急招集した題目が『この世界が滅びちゃう件』である。

 因みに参加メンバーは。


<人間>


アルフレド(エクレアで猥褻槍陳列罪で執行猶予中)、フィーネ、エミリ、マリア、ソフィア、アイザ、リディア


<魔族>


マロン、カロン、ボロン、エルザ、ゼノス(全地方で猥褻物陳列罪で執行猶予中)、ワットバーン、ドラグノフ、ベンジャミール


<半魔>


キラリ、サラ


<参加できなかった主要キャラ>

チューリッヒ(服役中)、オスカー(服役中)



 10分経過しても実は会場は騒がしい。


「ブーブー、僕たちを中途半端みたいに言うなー!」

「そうですよー。これはマイノリティに対する差別ですー!」

「レイ!どうして俺が犯罪者のような肩書きになっているんだ!」

「おねえたまと同じがいいのらー!」

「フッ。犯罪者か。ワルの俺には相応しい……」


 すると案内係のラビがスピーカーでこう指摘した。


「はーい、そこ。今日はそういうんじゃ、ありませーん。可能な限りボケないで頂きたいでーす。とにかくもうすぐ滅亡します。そこのところは専門家を呼んでますのでしっかり聞いてくださーい。では、滅亡研究家・アズモデ氏です!」


 アズモデはあの帰りに拾っておいた。

 力づくで連れてきたので、少々体に傷がついている。

 だが、あの程度で死ぬ魔族ではない。

 それに役割を告げたら、にっこにこでついてきた。


「くっくっくっく。こんな場を設けてくれるなんて、本当に僕は——

「はーい。そういうの巻きでお願いしまーす。時間、本当にないんで!」



 ラビが司会に回っているのは、彼女の正体を明かさないと決めたからだ。


 この世界の創造主たる女神がいては、誰しも混乱するし、何より本当にピンチになった時に『神頼み、ラビ様頼み』をする恐れがあった。

 目に見えてしまう存在になったメビウスは間違いなく頼りにされる。

 けれど、彼女の力では防げなかったから、今がある。


 それはレイ自身が一番知っている筈だった。


(それでも目の前に神様がいちゃ、頼ってしまうよなぁ)


 彼女はこの世界を短くても、深みが出るようにと、ゲーム世界にした。


 彼女の話では強制エンドの時はあのような苦痛を伴うものにはならないという。

 ただ、その代わり次のターンでは途中で世界が終わるのだという。


 つまり、彼女が勝手に名付けた『アンチ』という名の破壊神は、人間の時間でいう数年から十年くらい、かなり短い期間でこの世界を破壊する。

 そして、今回のレイの記憶が失われたのは、やはりゲームの仕様らしい。


 もう一つ分かっているのは、破壊神が破壊できるのはこの世界のみであり、外部異世界からやってきたレイの破壊は出来ないらしい。

 違う畑で生まれた者には手出しができないという理由で、レイだけがループのように生き残り続けているという。

 勿論、ここで得られたゴールドや経験値は全て奪われてしまうので、レベルは当然1に戻ってしまう。


 だから強くて新規ゲームとは無双するという意味ではなく、記憶を引き継げるだけだった。

 さらに言えば、最初は単なる新規にゲームを始めるという項目はなかった。

 あれは過去のレイの要望で作られたものだったらしい。

 レイの苦痛体験を消し去る為の装置であり、女神の優しさによって生まれたものだった。



 と、そろそろ専門家が話を始めるので耳を傾けるとしよう。



「君たちも、『闇が蔓延る時、光り輝く勇者現る。そして輝く姫と共に世界を照らすだろう』という言葉くらいは聞いたことあるよねぇ。これは有名な一説だ。そして実はちゃーんと続きもある。」


 ここまではただの設定。

 寧ろ、説明書に書いてある文章だ。

 過去創造でレイが勝手に引用した文章を、偉そうに呼んでいるアズモデを見ていると、少しこそばゆい。


「そして、この先はご存知ない方もいらっしゃるでしょう。続きはこうです。『勇者はメインヒロインと共に邪神デズモア・ルキフェを撃つ。そしたら終い。また最初から。全く同じ世界が生まれる。今回は別のヒロイン、同じキャラで構成されておるが、違うヒロインを選んだ。まぁ、結局これでも終い。また最初から。えぇ、またソフィア?まったくソフィア好きめ。全く、あやつ、いつまで遊んでおるつもりじゃ』と、実は続きがあるんです。勿論、他にも『エミリのシーン、もうちょっと際どいっていうか、ポロリシーンとか無理?』 や、『フィーネを最初から好き好きモードって出来ないですか?』、『マリアが戦闘でうごくとき、あの服をもうちょっと柔らかい生地にして胸がぽよぽよ動く仕様って無理ですか?』、『リディアと俺は双子って設定を最初からオープンにしません?』、『キラリの胸ってもうちょっと大きい設定にできません?』、『ソフィアは文句なし』、『アイザは7歳で良くない?あとできれば——』などなど、実はあなた方の名前さえ、予言されているのですよ。あとそうですね、『レイモンドが毎回毎回ヒロインを犯すシーンを消してくれませんか』なんてのもありましたよ。」


 前半はメビウスの感想文。

 レイがその文章を見つけられなかった理由は、女神の言語で書かれていたから。

 そして、アズモデは邪神であり女神の外見の一部で作られていたから。

 本編ラストでレイも気付ける筈だったが、その発想がなかったこと、それから当時はまだ邪神の器が定着していなかったことが理由と考えられる。


 今後悔しても仕方ないし、実はあの時点で読まなかったから今がある。


 後半は完全にレイの恥ずかしい部分である。

 まったく、過去のレイはわがまま過ぎやしないだろうか。

 そこまで考えているなら、エロゲをやれば良かったではないか。

 でも、それは違う。

 それはなんていうか、なんか違う。

 それはそれ、これはこれなのだ。


 当然、会場はざわついている。どうして女神の書に自分の名前が……、という戸惑いと……。

 いや、ざわつきと言うより壮大な白目。

 ここにいる者は皆、デズモア戦にいたメンバー。

 つまり、レイが無理難題を要求したと、先に白状している。


(そこ、読むの? ってか、過去の俺! ソフィアに対しては文句なしって辺りが、まじで生々しいけど。——って言っても、アズモデが何をどこまで覚えているか、なんて分かんなかったし、原本は俺が破棄したし。)


 そして、何より魔王を苦しめるのはその話を、彼自身が聞いている時、ずっと真顔でなければならない。

 これは自分の罪ではない……筈と思い込む。

 アルフレド・レイの罪なのだ。

 レイモンド・レイの自分とは関係ない。

 それにほら、俺、ヒロインが乱暴されるシーン消したがってたでしょ?

 俺、全然悪くないよアピールが必要だ。


 これは本当に真面目な話なのだから。

 ほぼ全てのキャラがもともと決まっていた、と彼らにしっかりと理解してもらう必要がある。


 ——そしてついにアズモデが『あの部分』についてを語る。


「僕の本来の役割はすでに終わっていました。なんせ僕を倒すことが引き金になっていましたからね。でも、こんな文節を女神は残しています。『たとえどんなに人気があるものであっても、必ずアンチが湧いて炎上する』とね。この中には僕を倒さなくても、という意味である、邪神の傀儡(くぐつ)を倒さなくても、なんて記述もあるんですよ。更には『何もしなくても』なんてのもありましたね。」


 その瞬間に、漸く空気が重くなった。

 不安の声はしないが、不安な目が一斉にレイを射抜く。

 そして、それを待っていたように、アズモデは間を置いた。

 何秒もその様子を楽しんで、この一言を付け加えた。


「でも……、ご安心を。」


 救世主の如く、アズモデは語る。

 堂々と両腕を広げて。

 そして愉悦の笑みを浮かべて。


「良いですか、よく聞いてください。『必ず、世界は炎上して滅びる。そして結局は光の勇者が誕生する場面から作り直すのが、女神の勤め』です。どうですか? これが復活の予言書、女神の予言書に書かれていた言葉です。」


 会場の反応を見るに、アルフレドとリディアから一応聞いているというヒロイン達と、聞いていないという者達で二分する反応になる。


 この言葉のせいでこの世界は——、いや、ちょっと待って欲しい。


 ——本来のこの世界はもっと別の形で存在している。


 そもそも、その女神の書はアズモデが持っているだけに過ぎないし、アーノルド王だって存在しない。

 王族が魔族と協力したなんて事実も基本的には存在しない。


 あったのは、ただのゲーム設定のみ。

 当然、アズモデも母に会うことは無い。

 王と姫の悲しい別れが存在する筈もない。

 フィーネの両親は始まった瞬間にはほぼ殺されているのだ。


 そういう意味でもこの世界線は歪になってしまった。

 在り得るを在らざるにかえ、在り得べからざるを在り得る存在にさせた。


 歪にさせたのは、プレイヤー・レイ。

 邪神になるなんて、レイモンドでなければ不可能だった。

 

 だから、ここからが魔王・邪神・神の化身レイの出番である。


「アズモデ、お前がどう思おうと構わないし、それは紛れもない事実だから、ここは素直に礼を言っておく。教えてくれて、ありがとう。」


 彼はゆっくり頭を下げた。


 その行動にも注目が集まる。


 今までも今回も彼らはレイに対して、何一つ不安そうな目を向けていない。

 どの周回目でも、レイは優秀だった。もてはやされた。

 未来予知にも……というか未来予知が出来るのだから当たり前の話だ。


 でも、それ故に最後に出た言葉が、『嘘つき』だったのだろう。


 どれだけゲーム内で活躍しても、世界の終わりには勝てる筈もない。

 世界は救われてなんかいなかったのだから、間違いなく彼は嘘付きである。


 そして、今回だってそうならないとは限らない。

 少しぐらい疑ってくれた方がまだ助かる。


「レイ!」「レイ!」「レイ!」「レイ!」「レイ!」「レイ!」「レイ!」「レイ!」「レイ!」


 けれど、今回も彼は結局ヒーローだった。

 それは仕方のないこと


 ——ただ、一つを除けば


「皆にも一つ言っておく。その最後の一節が完全な意味で適用されるのは俺だけだ。俺の中の潜在意識、いや魂が教えてくれた。我が子が燃えているのに何も出来ない俺を、妻が助けを呼んでいるのに何もしない自分を。そして全てが燃えているのに逃げ出した主人公を。そして、皆言っていたよ。誰も疑っていなかったんだ、当たり前なんだけど、俺は『嘘つき』って最期に言われた。アルフレド、スタトで俺の頭を殴った時を覚えているか?フィーネもその時の俺の行動を覚えているか?」


 全くひどい話だ。

 自分だけ助かることが約束されている。

 けれど、いざその時にならなければ、誰も本気になってくれない。


 そもそも彼女達が助からない理由とは何なのだろう。


 だから、レイはアルフレド、そしてフィーネに話を振った。


「あぁ。覚えている。お前が立ち塞がったあの時だ。お前がタイミングを見計らってくれたおかげで、間一髪で救えた村人も多い。」

「そうね。正直、私は頭打っておかしくなったのかと思ってたけど、あなたの行動が正解だったわ。こっちの大陸のモンスターが跋扈してきていたんだもの。エルザさんとかね。レイの判断が正しかったってことよね。」


 それについて、褒めてもらおうなんて思わない。

 だから軽く手をあげるだけで対応する。

 そして、同じように仲間たちに問う。


「エミリ、両親を助けたな。」

「うん。レイが言ってくれたんだよね。ちゃんと覚えてるよ。」

「マリア、俺に祈ってくれたな。」

「ええ。運命的な出会いよね。」

「ソフィア、俺が魔族に変化させられたお前を助けたな。」

「はい。白馬の王子様のようでした。」

「キラリ、あんまり絡みがなかったな。」

「え、僕だけひどくないです?」

「アイザ、あの家で一緒に過ごしたよな。」

「そうなのら。わらわ、最初はきんちょーしてたのら。」

「リディア、最初は怖がらせたな。」

「でも、そのあと癒してくれました。」

「エルザは俺に弱音を吐いてくれたよな。」

「だって……。颯爽と助けて下さいましたから……」

「マロンさんとカロンさんとボロンさんは俺がいやらしい目を向けた時……かな。うーん。これは流石にちょっとあれだけど。」

「元気なのをみせてくれた時ね!」

「もっと元気な時ね!」

「私が……、アレした時よね。」

「気まずい。でも事実だから仕方ない。んで、サラは俺と初めてあった時。」

「あ、あの時ですか?」

「んで、ゼノスは多分メイドカフェ前後で、ワットバーンは俺が助けた時、ベンジャミールはあった時で、ドラグノフは俺と戦った時だ。」

「何故、勇者メンバーの俺をひとまとめにする!だが、確かにあれは良かった!なんか、たぎる何かを感じた瞬間だったな。」


 各自にそれぞれ、場面を思い出してもらう。

 正直チューリッヒ、ジュウはごめんとしか言えない。


 そしてここからが大切なのだ。

 ちゃんと脳裏に焼き付けて聞いて欲しかった。


「各自、そのタイミングからが各々の人生のスタートだ。プレイヤーである俺に認識された時点から、みんなの人生、そしてこの世界は始まっている。これは比喩でも何でもなく、紛れもない事実だ。絶対に覆らない『設定』という世界のルールだ。だからアズモデの復活もまた、その時点のことを言う。それを踏まえて、今から——」


 レイが一番言いたいことは、まだ言えていない。

 ただ、運命の瞬間はたった今、終わりを告げる。



「ご主人!——来ます!」

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