エピローグ?何それ、美味しいの?
リディア編も無事に終わった。
——本当に無事に?
ただのおまけ、ただのエピローグ作りなら、無事に終わったかもしれない。
でも、これはまだまだ続く本編なのだ。
——だから、これで完結なんて認めない。
ここに関われる者がまだいるではないか。
だから、彼は現れる。
もともとバルコニーで過去創造をやろうとしたレイが悪い。
「つまりは母親違いの兄弟、ってことだよねぇ。僕たち。なら、最後の最後まで見るべきじゃあないかなぁ。」
バルコニーに立つ金髪の道化師。
彼は丁寧に羽をたたんでお辞儀をした。
レイの中では、彼はネタキャラに成り下がったラスボスである。
それに力を失った、かわいそうな魔族でもある。
そんな彼がゲーム本編の如く、不気味なまでに口角を上げて、キラキラと目を輝かせている。
「なるほど。裏切り者の居場所が今更分かりましたよ。どうやら、気が付かずに殺してしまったみたいですけどね。」
既にお気づきだろうが、魔族が探していた裏切り者とはルキフェの父親であり、光の女神のカケラ濃度の違いで王位を授かれなかったデズモア公である。
歴史創造で彼の名は出なかったので、彼の本名は分からない。
でも、彼が名を変えたアーモンドという言葉は、最初からゲームに登場している。
「アズモデと親戚……、と言っても世代が離れすぎてる。俺の中ではあんまり親近感は湧かないな。しかも、ほとんど面識はなさそうだし、遠くの親戚より近くの他人ってやつだよ。せっかくのエピローグに口を挟むな。」
あくまで強気なレイに対して、アズモデは「はて?」と首を傾げる。
「魔王様そして邪神様としての貴方様。そのような高貴なお方と僕が同列な訳ないじゃないですか。僕はただ、お手伝いをしたいだけです。だって僕は君が一番欲しい内容を知っている筈、ですよねぇ? ちなみにリディア姫。あそこで待った甲斐は十分にあったでしょう? 僕も今ならお姫様の気持ちがよく分かる。ずっと待ってて良かった。君に会えるなら……ってね。」
——まるで意味が分からない。分かる訳がなかった。
——だから、彼は真実を知ってしまう
♧
ルキフェは若いうちに母・フェルーラを亡くした。
どうして彼らはこんなにも、こんな黄色い金属が好きなのだろう。
これが光の女神のカケラだから?
彼は指でくるくると自分の髪を絡めとった。
ルキフェ「子孫がこんなに金色の髪になるほどに金が好き、金が好き、黄金が好き。母さん……、どうして……」
彼には耐え難かった。
こんな狂った民族に生まれてしまったことが。
そして母もまた同じで、それでも母を死にたくなるほどに求めていた。
もっと甘えたかった。
もっと話をしたかった。
そして、もっと親孝行したかった。
父、ガスモンドが悪いわけではない。
彼は比較的まともな方だ。
ただ、まともが故に王になれなかった。
でも、それで良いとルキフェは思っている。
ドラゴンステーション族が異常すぎるのだ。
だから彼はいつも周りの貴族を下に見ていた。
ルキフェ「僕はまともじゃないんだよ。だから、失礼なことがあっても指摘しないで欲しいな。マリーネ。」
近い世代の貴族とは社交界というヤツのせいで、必ず会わなければならない。
その社交界というのも馬鹿げたイベントだ。
器の大きいヤツを探すため。
ルキフェ「うーん、この言い方だと、あいつらがまともに聞こえちゃうな。正確には『神のカケラを受け入れるだけの器』の大きいヤツ。つまりどいつもこいつも黄金中毒なんだよ。」
マリーネ「別にいいじゃない。それが私たちドラゴンステーション族が今ここで繁栄している理由なんだから。」
結局同じだった。
やっぱり彼女もドラゴニアの血を引いている。
ルキフェ「光のメビウスはカケラをばら撒いて、この世界を作った。そして僕たち人間により多くのカケラを与えた。——なんて、言うけど、それって魔法の金属ゴールドを飲みたいっていう狂った口実。あれは人を人じゃなくする。母さんも……、結局同じだったし。」
——母さん、会いたいよ
彼は気づいていた。
自分も結局、あの眩い光の金属を欲し始めていることに……
それから年月は流れ、彼の耳にもドラグノフの噂が聞こえてくる。
そして暫くして、父は何かを始めた。
勿論、何かを始めるのは良い。
ただ、母さんじゃない誰かを母さんと呼ばなけれならないのが、苦痛だった。
しかも、自分よりも随分年下の女を。
日がな一日を過ごすしかない彼にとって、本を読むことが全てだった。
そうでもしなければ、頭がおかしくなりそうだった。
時折、幻聴のように聞こえてくるのだ。
『女神のカケラを飲めば救われるのに……』
と。
そんな時、彼はある本を見つけた。
これはかつてミディアポリスにあったと呼ばれる『女神の書』。
女神の書と呼ばれる本は壁一面の本棚でも足りないほどたくさんあるのだが。
少し昔、ミディアポリスがミッドバレーと名を改めた時、服従の証に大量の本が送られてきた。
どうやら、黄金は手放したくなかったらしい。
もしくはこれを読んで感化された若い貴族を大修道院へ勧誘する為だったのだろう。
そんな本を馬鹿にしながら、彼は読んでいく。
頭を文字だらけにしないと、黄金の声が聞こえてしまう。
だが、その日だけは違った。
ルキフェ「……え?これって」
彼が見つけたのは偶然でもなく、運命。
そう思わせるほど、その一冊だけは何かが違った。
その日から彼の行動は変わっていく。
まずはココアと仲良くなることからだった。
初めは気味悪がられたが、彼女の素性を知っていることと、それを同情的に思っていると演技をしたら、アレは簡単に騙されてくれた。
ルキフェはドラグノフの体の研究を買って出るようになった。
科学、魔道、黄金学。興味がない本でも、読む本がなくなれば手に取ってしまう。
だから彼の知識はいつのまにか、誰の手にも届かないところにあった。
そしてそこにザパンの、いやロータスの学問が加わることで、彼はドラグノフ研究の第一人者となっていた。
ルキフェ「ふーん。黒龍……か。つまり油田ってのはダークメタル。いやもしかしてそれを更に錬成すれば……。でもこれだと……、君、はっキリ言って馬鹿でしょ。君のせいで君の家族は王族の派閥争いから追い出されたんだよ。——まぁ、いい。君の生き方だ、好きにしたらいい。それに、僕がするべきことも分かり始めたしねぇ。」
——死の国にいる母に会いに行くための勉強だった
でも、その為には手順がいるらしい。
まずはダークメタルの秘密を父に教える。
そして彼の目から見て、研究者として優秀と思えた三人に研究をさせる。
暫くした後、さりげなく王に『あの本』を見つけさせる。
するとどうだ? 急に焦り始める。
あの本は『破滅の書』
そして『再生の書』
無論それは、人間のとか、人類のとか、国とか、そんな矮小な話ではない。
この世界そのものの話。
そして、今のこの国の現状が、まさに破滅の時だと分かってしまう。
おそらく、もっと後に見つかれば、その時代が破滅の時になっていただろう。
ルキフェ「いや、それはないなぁ。だって、必ず僕が見つけてしまうんだろうからねぇ……」
そして彼はここで思わぬ奇行に走る。
ガスモンド「ルキフェ、お前は一体何を!!」
ヘルガヌス「ルキフェ君、そんなに急がずとも、マリーネ達が必ず、いや、もう間も無くそこに至れる筈なのです!」
ルキフェ「何を言っているのですか。父上もチビチビとですが、飲んでおいでではないですか。」
その言葉に父は言葉を失う。
ダークメタルをプラチナメタルにまで昇華させたのは紛れもなく、ルキフェの功績だった。
そのプラチナメタルに秘められた『力』の利用方法の基礎を構築したのも、彼である。
そして、同時に練度の高い黄金の錬成。
それさえも彼の功績だった。
そして、王に経済の活性化を進言したのも……
全てがルキフェなのだ。
いつのまにか、世界はルキフェ中心に回っていた。
だから父には疑問だったのだ。
——どうして今更、ダークメタルという不純なものを体内に注入するつもりなのか。
ルキフェ「これが一番最後まで見届けられるから……ですよ。父上。ほら、鋼だってそうでしょう?鉄だけでは案外脆いものです。それに……。もう、いいでしょう。実験体が必要なのは知っています。では……、父上。ご武運を……。そしてお母様、もうすぐ会えますから……」
ルキフェだったものは、巨大な化物になった瞬間だった。
そして父とヘルガヌスが慌ただしく動くのをニヤニヤと眺めていた。
ご丁寧にも、もうすぐ完成するという研究施設へ案内してくれるのだという。
彼はそこで目にした。
完成間近……と呼ばれている『魔族』生成器を。
まずは誰かに魔族になってもらおう。
どうやら彼女を招集したのは正解だった。
きっとこれからも、存分に働いてくれることだろう。
ただ、彼にも誤算はある。
どうやらこの魔族生成器はまだ不純物を残しているようだった。
次々に大切な記憶を失った悪魔が誕生していく。
「やれやれ、こんなものか」と、彼は思ったが、この動きにくい体よりは幾分マシだろうと考え直した。
ドラグノフのような体になってしまったが、正直言って鏡を見るのも嫌だ。
それにどう考えても動きにくいし、喋りにくい。
そして、マリーネが悪魔になった。
つまり、あの濃度がこの魔族生成器での自分自身への適正濃度に近い。
多分、としかいえないけれど、それでもマシにはなるだろう。
——そして、アズモデは生まれた。
アズモデ「ヘルガヌス王、もう一人はどこに行きました?」
ヘルガヌス王「ぬ? そんなやつおったかのう。」
マロン「えー、いたような気がするよー。」
カロン「うんうん、いたいたー。」
ボロン「銀髪のおじさんがいたー」
彼は、ニヤリと笑った。
なるほど、記憶を失ってくれた方が助かる。
簡単に彼らを動かすことができる。
アズモデ「ヘルガヌス王。彼奴は僕らの邪魔をしようとしていたんですよ。始末すべきです。」
ヘルガヌス王「なぬー。それは許せん。殺しに行くぞぉ!」
記憶がなくなってくれて助かる。
アズモデ「いえいえ、貴方様は王なのです。ここは私が……。それにマロンさん、カロンさん、ボロンさんはこの辺りの資料の焼却を。あの男が何を仕込んだか分かりません。僕たちを殺すための罠かも……」
マロン「うんうん。分かったー。えいえいえいえいー!」
ヘルガヌス王「わしもやってみたい。えいえいえいええい!」
この体になってみて、なんとなく分かる。
記憶部分が程よく分解再構築されているだけで、根本的な部分は変わっていない。
彼らは今、ある種の混乱状態にあるだけで、知性は時期に戻ってくる。
さすがは『女神の書』だ。
あの書物に書かれた通りの世界が作られていく。
そして、アズモデは敢えてゆっくりと歩く。
親父殿には親父殿であの計画を実行してもらわなければならない。
だからあの男を監視する為に、最初に押さえるべきはミッドバレー。
ヘルガヌス派に邪魔をされては困るが、動向を監視する役目を担ってもらう必要もある。
アズモデ「アーノルド王? 気分はいかがですか?」
アーノルド王「貴様……、なぜ私の名を……」
アズモデ「その辺の衛兵を脅して聞いただけですよぉ。この辺りで一番偉いヤツを教えれば、命は見逃してやるってね。」
アーノルド王「……、全く。まぁ、良い。それで、神とやらになった感想はどうだ?」
アズモデ「くくく、知っているくせに。僕は神じゃない。悪魔だ。親父殿は無事に旅立ったようですねぇ。予言通りに。僕の目的も貴方と同じですよ。貴方も王ならば、読まずとも言えるでしょう?」
そう言った瞬間に『女神の書』は、アズモデの手に握られていた。
アーノルド王「貴様……、やはり人間では敵わぬか……。だが、これも予言書通り……か。確か、『闇が蔓延る時、光り輝く勇者現る。そして輝く姫と共に世界を照らすだろう』だったか。」
アズモデ「続き、あるでしょう? あまりにも文体が変わってしまったせいで、その一節を隠す為と思われていた良く分からない言葉が。そしてそれこそが、復活の予言だった。僕が分かりやすく線を引いておきましたからねぇ。」
アーノルド王「あれは……、先人が書いたものではなかったのか。全く、どこまでお前は……。そうだ、それが我々の共通の目的のはずだ。」
アズモデ「勇者はメインヒロインと共に邪神デズモア・ルキフェを撃つ。そしたら終い。また最初から。全く同じ世界が生まれる。今回は別のヒロイン、同じキャラで構成されておるが、違うヒロインを選んだ。まぁ、結局これでも終い。また最初から。——ずーっと同じような誰かの言葉のようですが、まぁ、これ、女神のものですよねぇ。ですが、この最後の文節が非常に面白い。」
『たとえどんなに人気のあっても、必ずアンチが湧いて炎上する』
「——だってぇ!炎上するんだって‼」
アーノルド王「必ず、世界は炎上して滅びる……。そして結局は最初から……。だが、それが我々にとっての復活の予言。もう一度、やり直せるのだから……な。」
アズモデ「ええ。その通り。では、ここから先は僕に任せてください。きっと、このやりとりも何度も……」
♧
レイは目を剥いた。
そしてアズモデが居た場所を即座に確認した。
だが、すでに彼の姿はなかった。
「……つまり、アズモデは記憶を失っていなかったってことだよね、レイ。」
周囲を見渡すと、仲間が全員バルコニーにいた。
「そして……。お父様も、この一件に協力していた……」
「私のお父さんもお母さんも……、だからあの時あんなことを……」
「私んとこなんて、車の存在ひた隠しにされてたのよー。ひどくない?」
「わらわ達は……そんな予言書のせいで……。おねえたま……」
「確かに、レイが言っていた通りですね。この世界は流転している。でも、それって……」
「あぁ、レイの言葉が正しいんだろう。俺たちは結局死んでいた。そして代わりの俺が生まれるだけ。」
「だから、レイはあたし達の為にがんばってくれてたんだよね!」
仲間達の優しい言葉を聞き、レイは笑顔でこう言った。
「そういうことだ。俺たちは大成功した。お前達のおかげだよ。さ、中に入ってこれからのことを考えよう!」
レイは彼らをバルコニーから追い出して。
——バルコニーから飛び降りた。