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リディアエンド、そして全員の勝利?

          ♧


 デズモアは一心不乱に走っていた。


 心臓が止まりそうになる、だが走らなければならない。

 今足を止めたら、おかしくなった息子に、ヘルガヌスに、三人の女悪魔に殺されてしまう。


(待て、これ……、誰のもの。誰を起点に……)


デズモア「結局、王の言った通りになってしまったじゃないか。そもそも、王が悪い。ドラグノフとかいう訳がわからない何かの言うことを信じてしまったからだ。そして妻と共謀して、息子が……ルキフェが……」


 デズモアはそこで思考を停止させた。


 おかしくなってしまったとはいえ、既にもう一人の妻がいるとはいえ、一番愛していた筈の妻を悪くは言えない。


 だから、彼女の野望に気付かなかった自分が悪い。

 どうして、ドラゴニアの血を濃く受け継ぐ者は、皆黄金を求め狂うのだろうか。

 全員がそうなる訳ではない。


 ——自分は違う。


 それは分かっている。

 だが、血を濃くしすぎたのだ。

 だから時々、異常なまでに黄金に固執する人間が現れる。


デズモア「あの日、あの本が運び込まれてからおかしくなってしまった。」


 彼の脳裏にその時の場面が浮かび上がる。

 そして、ドラグノフの生存確認がすべてを狂わせた。


 異形の姿に違いない。

 けれど、不老不死に違いない。


 どの時代のドラゴニアも、それを求めて黄金を飲んだ。

 でも、誤差の範囲の長寿命が確認できた程度だった。

 だから、いつしか王族も不老不死を諦めていた。


デズモア「でも、あると知ってしまえば、出来ると分かってしまえば……、私でさえ……、手にしたい。」


 そしてアーノルドは弟、デズモアに命じた。

 ドラグノフが飲んだ、プラチナメタルを探せと。


 だからヘルガヌスをあの領地の領主に任命した。

 あの男は魔道にしか興味がない。

 だからあの男が知らぬところで科学を使える。

 別に悪いことをしていた訳ではない。


 ヘルガヌスは被験体を確保する役目、そしてデズモアはダークメタルの科学的な研究をする役目。


 ザパン族の話とドラグノフの話は黒龍という一点で交わっている。

 ならば、ダークメタルは間違いなく、プラチナメタルへと変わる。


 ——光と闇、ゴールドとプラチナ。


 世界はその二つから作られている。

 なら、ダークメタルの純度を高めればよい。

 神が生み出したその濃度まで高めてやれば良い。


デズモア「ただ、あの本が……、あの本さえあれば良かっただけだった……」


 そして彼の視界にアーノルド王が映る。

 そしてすぐさま、彼は跪いた、というより力果てて、両腕を床についた。


デズモア「兄上。予言通りでした。やはり闇にしかなれぬ。闇ばかりが強くなる。」


 すると王は静かに頷き、こう言った。


アーノルド王「そうか……。では、蘇りの為の行動に移ろう。すぐに息子を最果ての地へ向かわせるしかない。その準備は出来ている。」


デズモア「分かっている。でも、せめて……、妻と息子を……」


アーノルド王「そう……だな。どちらにしても、同じこと……か。皮肉なものだ。どうして我らなのだと思ってしまう。もっと早く生まれておけば。まぁ、いい。全てを成し遂げれば同じこと。——こんなこともあろうかと部下をスタトに住まわせている。デスモンドは問題ないが、ミッドバレーは気をつけよ。ビア家の一部に話を通してあるが、行ってみなければ分からない。」


デズモア「あぁ。分かっている。この時のために私はこれを飲み続けていたのだからな。」


アーノルド王「済まない。では……、来世で。」


 その言葉にデズモアは深く頷き、光り輝く赤子、アルフレドを抱えた。


 そして疲れが取れぬ体で、オーロラウェディングキャッスル城から出ていった。


(な……、待てよ。なんで、そこにアレがあるんだよ!)


 彼はその車に乗り込むと、クラッチを踏み、ギアを1に入れる。

 それだけで、視界がくらくらする。


 このドラゴンステーションワゴンという乗り物はダークメタル、プラチナメタルの力で動いている。

 だから操縦士はプラチナメタルを飲み続けなければならない。


デズモア「流石に完全には染み込まぬか。私も黄金を飲めば良かったな。」


 車を走らせる彼を見よ。

 この記憶を読み取っている者、お前もよく知る光景のはずだ。


(な……。今、俺に語りかけた⁉)


 そして、彼はエクレアの街で一度車を停めたのだ。


デズモア「ココア、私は……」


 すると、そこには青い髪の長身の女性が立っていた。

 デズモアは老齢に差し掛かっている。

 ただ、その女はまだ見た目には若く見える。

 彼女こそ、デズモアの二人目の妻である。

 前妻とはまるで違う生まれの美しい女だ。

 

ココア「えぇ。この子を連れていかれるのなら、私も行くに決まっています。」


 彼女は二歳か三歳くらいの幼児を抱いていた。

 その幼児は柔らかな銀髪で、その一部分黒い髪が混じっている。

 我が子を抱いたまま、ココアは後部座席に乗り、ゆっくりと瞳を閉じた。


ココア「予言通りなら。また、いつか、ここに……」


 車は少し前に王が研究所に依頼をしたものだ。

 ビア家が生んだ才女、ポリーンが開発責任者である。

 国内随一の科学研究所が開発したばかりの自動で動く車。

 全ては風の如く、伝説の勇者を西に送り届けるため。


(待てよ。なんだよ、これ。俺の考えていた筋書きと違う!このままじゃ……)


ココア「スタト村は大陸最西端の村なの。祖先はジャックというなんでもない若者。勿論、ジョンだけではなく複数の民がいたわ。ドラゴンステーションを名乗って東へ向かった民とは違い、どちらかと言えば人口増加によって土地を求めて西に向かった民なの。そして——」


 彼女が幼い我が子に教えているのは、いつか彼が語るストーリー。

 それを彼がちゃんと覚えるように、ココアは何度も何度も我が子に語り続ける。

 そして、まだ言葉もはっキリとしない幼児は、母の優しい笑顔にただ、ただ、笑顔で応えていた。


「クソ。この船はもっと速度が出ないのか。急がねばならぬというのに……」

「貴方。——が起きてしまいますよ。」


 フェリーに乗り、大陸へ渡り、デスモンドを抜ける。


 そこで、デズモアは慎重な運転に切り替えた。

 そうでなければ、ここを乗り越えなければ、伝説の『蘇り』はやってこない。

 ただ、そこで壮年のデズモアは笑顔になった。


デズモア「なるほど、アーノルド。うまく躾けたな!」


 ヘルガヌス派の多いミッドバレーを華麗に抜けられたのは、アーノルド派のビア家が道を切り開いてくれたから。

 エメラルドグリーンの髪が映える男がずっと頭を下げている。


デズモア「あとは、ネクタで車を隠す……か。エクナベルが味方というのはありがたい話だな。」


 黒服の男たちが先導し、彼は無事に車庫入れに成功する。

 ただ、プラチナメタルの飲み過ぎ運転により、彼の足はもうふらふらだった。

 だから長身の妻が、ココアが夫を支えた。


デズモア「済まない。後はゆっくりでいい。ここまで来れば安心だ。ありがとう、ココ——」


デズモアの妻「まだ気を抜かないで。光の勇者でなければ、蘇りは起こらない……でしょ? そうね、ここからは、カカオとお呼びくださいませ。」


カカオの夫「そうか、カカオか。うまいこと考えたな。ならば、今宵よりアーモンドと名乗ろう。我が兄、アーノルドに似ていて些か恥ずかしいがな。」


カカオ「レイの名前は隠さなくていいですよね。この子のことはあまり知られていないしね。」


アーモンド「……済まなかったな。ザパンの血を隠しておきたかったのだ。この子は将来、光の勇者を助ける存在となるだろう。ザパン族の君とドラゴニアの血を引く私。そして、たっぷりのプラチナメタルを受け継ぐ男児だ。」


 ——これがお前が見たかった過去だ。

 ——そうでなければ、ならない筈だ。


(嘘……だ。だって、俺は。俺はこんなこと考えていない。だって、俺の記憶がそのままだったのは、マロンが『重要な検体』『慎重に扱った』って言っていたから、だから記憶が残っているんだって、俺は考えていたんだぞ。)


 ——本当に?まぁ、いい。話を続けよう。


 最果ての村に夫婦とその息子が到着した。

 王族から派遣された者たちは、女神の予言書に記された内容を忠実に再現するため。

 王命において、先にスタトで暮らしている。


アーモンド「えっと君達は……」


男「パピルスです。」


女「マーマレイドと申します。」


(どういうことだよ!その名前はフィーネが適当につけた名前だぞ! それに……、それに……)



 アーモンドとカカオ、そしてパピルスとマーマレイド、そしてその村の長老には約束事があった。


アーモンド「カカオ、レイには厳しく当たりなさい。辛いだろうがそれが、私たちの使命なのだから。」


カカオ「それに、それがあの子が生き残る唯一の道、だものね。」



 最西端、この村ならアズモデには気付かれまい。

 いや、気付いていても行動を起こせない筈だ。

 根回しは万全。村人の殆どが、もはや王族関係者である。

 そして、皆で勇者アルフレドを大切に育てるのだ。


 アーモンドとカカオ、そして村人全員で行う。


「辛いだろうが、それが生きる道なのだ」


 アーモンド夫妻、村人は総出で、レイを挑発してアルフレドを妬むように誘導した。

 そして、戦うなら村の外でやれと強く言った。


 ——全ては、魔族が村を焼く日に、運命の三人が少しでも遠くにいるように。


(フィーネの両親も知っていた⁉だから、フィーネの父親がカフェで俺に自分は死ぬはずだったと言った?どこだ。どこから決まっていた⁉ これは俺が思っていた答えじゃない! これじゃ……、レイモンドが……、俺がバカみたいじゃない……か)


アーモンド「レイ、アルフレドを見習え!フィーネが好きなんじゃったら、あいつよりも強くなってみせろ!」


カカオ「アルフレドちゃんみたいに、強かったらねぇ。喧嘩するならもっと遠くでやりなさいよ。村の人に見られたら恥ずかしいわ。」


          ♧


 レイは呆然としていた。


 一体どう言うこと?

 記憶が上書きされた?

 それとも最初から決まっていた?

 むしろ、歴史が上書きされたのか?

 いや、それだとおかしいから、本当は……、本当は……


「レイ、今の……、本当? だったら、全部全部計画されていて、お父様も帰ってくるということ?」


 オッドアイの瞳がレイの瞳を覗き込んでくる。


 なんて返したらいい。

 あの本が分からないから、どうにもならない。

 でも、分かっていることはちゃんとある。


(もしかしたら、その為に俺にあれを見せたのか?)


 つまり、これは——


「あ、え、えと……、リディア。もし、父親が帰ってきたとして、その中身が別の人間だったらどう思う? 記憶問題と同じだ。しかも、この場合、失った記憶は戻ってこない。全部……、アルフレド、いや、俺を憎んで死んでいた。リディアも俺をすっごく憎んでた。意味……分かるか?分からない……よな。」


 分かる訳がない。


 結局、今までの世界は失敗に終わっていたのだから。

 そしてずっと同じことを繰り返してきたのだから。

 だから、この記憶は結局、どの世界線でも通用するものだ。


(俺が運転出来たのにも理由があった。誰も運転できないことは決められていた。……いや、運転できる人間がいるとしたら。ザパンの純潔、キラリだ。なんだよ、設定のままじゃないか……)


 レイモンドが車を運転できたのは、父親からプラチナメタルを引き継いでいたから。

 そして、プラチナメタルとは結局のところ、経験値だ。


(だから、レイモンドのレベルは上がりにくいという設定があったのか。——ゲーム設定を現実にするとそういうリアルが……)


 ステータス画面が見えないから出来た芸当。

 女神メビウスは、意味不明な設定を、そんな理屈で通したらしい。

 レイモンドのレベルは上がりにくい、それは最初にレイ自身が言った。


 強さが上がりにくいのもそれが理由だった。

 ドラゴンステーションワゴンは魔法の車じゃない。

 常にレイの力を吸って動いていた。


(なるほど。だから石油……か。俺が考えていた『丁重にあつかったから、記憶が消えなかった』というのも成り立つ。アルフレドスタートのレイモンドは今回ほど記憶を持っていない設定なのかもしれない。だから、フィーネではなくリディアを襲うのか。)


 今はレイモンドなのだから、関係のない憶測だけれども。


 幸いにして、この世界線でのレイは単独行動が多く、アルフレド達よりも数倍、いや数十倍の経験値稼ぎをしていた。

 もしかしたら、記憶が鮮明に残っていたのはそういう理由かもしれない。

 プラチナコーティングの成果が発揮されたわけだ。


(勿論、プレイヤーだったから、という理由でも説明が付くんだけど。これを見せたということは、これが正しいって言いたいんだろ?)


 つまり全ての理由、どんな理由でも成り立つようにこの世界は造られていた。

 そんな悲嘆に暮れるレイの肩にどっしりとした何かがのしかかる。


「私の勝ちー。アルフレドはそこで待ってなさい。——レイ、そんな悲しそうな顔をしないで。レイは言ったじゃない。(わたくし)たちは、ちゃんと考えることができる。運命を乗り越えることが出来る、凄い存在だって。だから、レイの言ったこと、ちゃんと考えるよ。私だってもうすぐ18になる大人の女性です。レイだけに責任は押し付けない。」


 実際に胸は押しつけられているのだが、それよりも暖かさの方が嬉しかった。


「レイ、なんというか。すまない。オレも熱くなっていた。レイの言った通りだった。そして……。俺たちはこの世界全てからお膳立てされていた、そういうことでいいんだよな?いや、もう、認めざるを得ないか。とにかく全ては過去の話ってことだよな、レイ。」


 そう、全てが過去の話。

 予言だかなんだか知らないが、実際に蘇りは何度も起きていた。


 ただ、今は彼らが望んだ形ではない。

 蘇りを願ったとて、その連鎖は断ち切られている。

 もう、彼らの願った蘇りは起きない。


 だから、満足すべきなのだ。


 成功だ。


 大成功だ。


 そんなことを思っていたら、アルフレドが突然背を向けた。


「なるほど、よく分かった。リディア、双子なのだから、今日のところは君に譲るよ。」


 やはり、この世界線のキャラクターは特別と言っていいのではないだろうか。


「いいえ。そうはいかないわ!」


 と言って、リディアはアルフレドを捕まえて、彼まで引き寄せた。


「だって、レイもほとんど家族だったってことでしょ。だったら、みんなで倫理の壁を越えましょうよ!」


 初心忘るべからず。


 レイは彼らを信じたからこそ、放り投げたのだ。

 だから辛い過去だってなんだって乗り越えられる。


 本当に、彼女達は逞しい。


 でも、レイにも考える力は残っている。




 ——だから言ってやるのだ。




「 俺はギリ、倫理の壁セーフだから!父親が兄弟で、その子供。つまり従兄弟!従兄弟はセーフなんだよ!」




 そう、今いる全員が勝利する予定だった。

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