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アーノルド王

 バルコニーは本来アズモデが居座っている場所だ。


 レイは最後まで魔族と関わっていたリディアに問いかける。


 ゲームで言えば、彼女が登場するのは、レイモンドが彼女に悪さをしようとするシーンから。

 そして、設定資料にも閉じ込められている、ひどい食事を与えられている、という情報しかない。


 つまり、これもまたキツイ記憶に違いない。

 それでも、レイは聞かなければならない。

 女神の意志を知るために。


「教えてくれ。これが俺の使命なんだ。」


 そして、オッドアイ、金色の姫が語り始める。


(わたくし)は、あの部屋で何日も何日も同じ生活を強いられていました。……そうです。父が殺されたあの日。あの日? あれ、どうしてだろ。あの塔に閉じ込められる前……、私はあのアズモデという悪魔と会っています。そして——」



          ♧


 感謝をしながら何度も拳を突き立てた。

 それでも彼は納得できる強さを得られなかった。

 彼の名はドラグノフ。

 ドラゴンステーション族の孤高の戦士である。


 荒野では最強だった。

 海を渡った地でも最強……の、筈だった。


ドラグノフ「まだ至れぬ。これではアレには勝てぬ!もっと強くならねば……」


 そう言って彼は、若き日の自分。

 弱くて醜い自分がいた荒野を後にした。


(っておい!再生する歴史間違えてんぞ!これ、ドラグノフのヤツだから!ドラグノフの続きのヤツだから!)


 彼は感じていた。

 この破壊衝動を抑える術を。


 自分より強い存在と本能的に自覚してしまった。

 そんな情けない自分を何よりぶっ壊したい‼‼


ドラグノフ「また、ここに来てしまった。五年前に話にならぬ、勝負にもならぬとあしらわれてしまったというのに……」


 彼が何より許せないのは生かされてしまったことではない、負けという言葉さえ手にすることが出来なかったこと。


 山のような巨体。

 いや、その存在自体が山なのではないか、そう思ってしまうほどの硬い灰色の鱗。


ドラグノフ「ベンジャミール。何故、戦わぬ!前の我とは違う……。死んだ方がマシだというほどの鍛錬を積んできた。煮えたぎる黄金を飲んだのだ。初代ドラゴニアのようになぁ!」


 男は山に向かってそう叫ぶ。

 そして、今度こそ殺し合おうと言わんばかりに右拳を岩に突き立てる。


ベンジャミール「ほう。アレを成し遂げたのか。だが、お主のような若造を殺す権利など、我にはない。我は父と母の使命を継ぐことが出来なかった。我は逃げ出したのだ。大地の怒りから逃げ出した。父と母のようにはなれなかった我に、勝者という言葉は一番縁遠いもの。」


(ベンジャミール……。あの老龍にそんなことが……。って、これリディア回だよね⁉)


ドラグノフ「ふ、その程度のことか。ならば、我も同じ立場だ。我は子を捨ててきた。もう、顔さえも忘れてしまったがな。その時の辛さはなかったぞ。我はお主と戦いたいのに、黄金を飲んだ者の務めとして子を残さねばならなかった。戦いのみが生き甲斐の我が!妻を娶ったのだぞ。だから、出来た子に俺の国の言葉で『もう無理ー』という意味を指す、『モウムリー』という名を付けて、その場から逃げ出してきた。どうだ、最低だろう!」


(最低だよ!——って、そのまんまじゃねぇか!この世界は単一言語しかないって設定なんだよ!ってか、それ完全にブッダの逸話のパクリだよねー⁉)


ベンジャミール「フッ。家族を捨てたか。ならば、我と同じじゃな。では今度こそ死合おうか。もしも我が負けることがあれば、宝物をやろう。もはや我が持っていても仕方がないが、お主には必要なものであろうからな。」


ドラグノフ「要らぬ。そんなもの……。我にとっては、この死と隣り合わせの空気が世界の至宝なのだ!」


 そして一人の人間と一匹の龍が、殺し合った。

 最初は軽くあしらってやろうと思っていたベンジャミールも、ドラグノフの覇気に負け、全身全霊を持って彼に炎を浴びせる。


ドラグノフ「その攻撃はさっき見たぞ!」


 そう、ドラグノフは今まさに人間としての頂点に達しようとしていた。

 この戦いは彼は急成長を遂げていた。


 ファサッ


 その瞬間、彼の足に赤毛がパラパラと落ちていく。

 最強の名を手にした彼に頭部を守る髪など必要なかったのだ。


(って、そこ!アウト!アウトでーす。——って、あれ? あの赤い髪……、あの色を俺は知っている?いや、まさか。違う、『まさか』なんかじゃない。この世界は髪の色に一定のルールを定めている。モウムリーさんの子孫がギリーさんで、キリさんで、エミリ。だからアイツ、無意識的にギリー農場行ってたのか……。うーーん、なんかヤダ!エミリを見るとドラグノフのおっさんを思い出しちゃうじゃん!見るんじゃなかったわ、こんな歴史!ドラグノフのおっさんってただのスキンヘッド設定じゃなかったのかよ!)


 そして


ベンジャミール「——なぜ殺さぬ。お主が殺し合おうと言ったではないか。」


ドラグノフ「フッ。戦っているうちに気付いたのだ。お前と我は同じだということにな。」


ベンジャミール「そうか、我はお前と同じ……か。」


(最初からそう言ってたけどな。こいつら戦うたびにIQが下がってないか? )


 そして、ベンジャミールはそっと彼に宝物を差し出した。

 ただ、彼はそれが宝物とは気付かずに一気に飲み干した。

 その様子を見て、ベンジャミールは自分の目を疑った。


ドラグノフ「いやぁ、うまいなぁ。ちょうど喉が渇いていたのだ。しかし、これはなんだ?」


ベンジャミール「父の、黒龍のお小水……、お前たちの言うところの聖水じゃ。」


(普通はそう言わないからねー!しかも父親のって……)


ドラグノフ「なる……ほ……ど……、これは黄金を飲んだ……のとは違う……」


 そこで彼の体にマーベルを思わせる紋様が浮かび上がる。

 そして、そのまま異形の姿へと変わった。

 その様子を見ながらドラゴン、ベンジャミールは言った。


ベンジャミール「あぁ、それがプラチナメタルと呼ばれる代物だ。後の世を変える、我が父の体液であり、おしっことも呼ばれる。」


???「……おしまい。面白かったか?リディア。」


リディア「パパ、普通に引くんだけど。もしかしてパパ、私に飲ませるつもり?」


アーモンド「ち、違う。そういうわけじゃないんだ。そういうお伽噺があったというだけで、べ、別にそういうプレイが好きとかじゃないし……」


(——は? 今のってなんだ? さっきまでと雰囲気が違う。つまりアーモンド王がリディアにドラグノフの話を聞かせていた……のか。まさか、そんな……って、言いたいのに!普通に驚きたいのに!!父親のおしっこを飲ませる話を父が娘に語るな!)


アズモデ「お嬢ちゃん、アーノルド王が言いたいのはドラグノフの伝説が本当だってことなんだよ。ねぇ、王様。」


アーノルド「あぁ。三十年くらい前になるか……。ドラグノフという名の化け物が海で泳いでいる姿が目撃された。そしてこのお伽噺が真実であることが分かった。このお伽噺は200年以上前の話。つまり不老不死は存在したと、ワシは三十年前に浮かれていた……。」


アズモデ「ってことで、君はこの部屋で暮らしてもらうよぉ。ごめんねぇ。それが運命なんだ。」


リディア「え? 嘘でしょ? なんで? どうして? パパ、そんなの嘘だよねぇ?」


アズモデ「嘘じゃないよー。それに君のパパは先におネンネするんだよぉ。」


アーノルド「くそ……。もっと早く、あの本を見つけていれば……」


リディア「え?待って。あなた、近衛兵でしょう? パパは王様なのよ! なんで……なんでパパに剣を突き刺してるの!!」


アーノルド「だい……じょう……ぶ……だ。また、来世で一緒に……なれ……」


リディア「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼」


アズモデ「君のパパからの最後の願いを叶えたんだけど、そこまで泣いちゃうものなのかい? 嬉しいことじゃないか。僕はとっても優しいんだ。彼を殺しても良かったんだけど、今まで生かしておいたんだよ? それに最期の願いも叶えてあげた。娘と共に眠りたかったんだって。王様って大変だね。じゃね、君はここから出られない。でも、17歳になった年に何か起きるかも。楽しみにしててね。」


          ♧


「私……、目の前で父を……、なんで……、今まで忘れていたの?」


 リディアは泣き崩れた。


 そしてやっぱりそうなるのかと思ってしまう。

 エミリの話が聞けた。

 ドラグノフが全ての発端だった。

 そしてプラチナメタルはやはり、この世界の創造主が作ったものだった。

 エミリの話は想定外だが、あとは想像できるものばかり。

 答え合わせの為だけに、彼女たちにトラウマを植え付けている。


「ごめん……。リディア。辛い……よな。目の前で父親を殺されたんだもんな。」


 こうなることは分かっていた。

 でも、いざ見せつけられると、どう慰めて良いのか分からない。


「違うの!こんな大切なことを忘れていたことが……、一番……辛い。」


 彼女の言葉にハッとさせられた。


 サラも同じことを言っていた。

 大切な記憶をなくしていたことが、一番辛いと。


 でも、それは本来存在しなくて……、そしてそれは設定の穴埋めでしかなくて……。


 そんな言葉、言えるはずもない。


 女神メビウスのせいすることも出来ない。

 確かにあの時、脅された。

 でも、実行犯はレイ自身だ。


「レイ、俺とリディアは双子なんだよな。そして十七歳だと? 俺と同い年。……何故だ。俺はスタト村で育ったんだよな? レイ、お前がそう言ったんだよな? 俺は拾われたって……。今のが俺の父親とでも言うのか?リディアは父と共にいた。なら、俺は何故捨てられた?」


 まさか、アルフレドに胸ぐらをつかまれる日が、攻撃的な目を向けられる日がまたやってくるなんて……。


 でも、確かに彼の言う通りで……。

 レイ自身、王はもっと前に殺されているのかと思っていた。

 だが、彼はアズモデに生かされていた。


「そか……。すまない。アルフレド。俺の認識ミスだ。思った以上に魔族は慎重な生き物だっ——」


(いや、待て。どういうことだ。なんで王はあんなことを言った?次は誰の番だ?アルフレドか?リディアか?)


「済まないって、なんだよ! 俺とリディアが双子じゃなかったら済む話だ。じゃないと、俺は選ばれなかった方の子供になってしまうじゃないか……」


(アルフレドからは情報が出ない……ってことか? じゃあ、リディアか? ちょっと待て、俺! 量産型の俺みたいな思考になっているぞ! みんな、生きている人間なんだぞ!)


 けれども、やはり心がやけに静かになっている。

 レイは今、少しだけ答え合わせが楽しみになってしまっている。


 だから、アルフレドでないなら、リディアだ。

 そう、考える。


「リディア、もっと子供の頃の記憶はないのか? その……、例えばデズモア公の——」




 ——あれ?


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