リディア姫の性格
双子を前にする魔王。
彼は今、魔法を使っている。
「そしてこのあとがスタッフロールが流れる。ちなみに最後の一枚絵は無事、子供が産まれて……、いや、結構子沢山になってて、その子達の誕生祝いで仲間達が集まった時の様子だと言われている。」
レイは会得した映像再現能力を使いながら説明をしている。
こうやって映像を見せるのはリディアとアルフレドが最初で最後だ。
「この家には高級なものは何一つなく、場違いな高級品を持ってきてしまったマリアの焦った顔が印象的だ。因みにこのルートではエミリとゼノスが隣に座っている。ゼノスはちゃんとモテるんだ。俺の代わりに入った癖に、だ‼レイモンドには幸せエンドは無いってのにな。」
「つーか、旦那、マジで死んだ方が良くないスか? 偉そうにのうのうと生きておいでですが。今からでも、フィーネっちとお姫様に惨い殺され方されるべきっすよ。」
「ウチらのご主人は、そんなこと一回もやってきてないでしょ? ウチらのご主人はDT魔王レイなんだからね。イーリ、不敬罪で今すぐ死になさい。」
「ちょっとぉ、ラビちゃん? そのゴツイ機械は一体。ついに完成していたと言うのか!俺に苦しみを与えながら殺す装置ぃ!今回が最後だから、それに合わせてマロン様達がぁぁぁ。」
相変わらずの二人はともかく、この映像で最も注目すべきはレイモンドの存在だ。
このエンディング映像では、レイモンドの罪が確定してしまっている。
因みに、フィーネとの強制イベントやリディアの秘密の塔のイベントと違い、先のエンディングムービーは好感度がマックスのリディアルートでしか登場しない。
つまりアルフレド達に見せるのは初めてだが……。
彼、彼女の反応は如何に。
今回のレイモンドは『察してね』演出を利用して、リディアには手を出していない。
だから『ifストーリー』が展開されているのが、今の世界線である。
っていうか、レイモンド、マジ最低。
死ねばいいのにと、プレイヤーレイも一時期思っていた。
作中で二回も死ぬんだけれど。
「これが世界の意志? 」
リディアはあまりムービーに慣れていない。
だからそう思われても仕方がない。
「ある意味ではな。こういう世界もあった。というイメージだな。そして察しの通り、アルフレドとリディアは結ばれている。だから、今回の世界とは関係ない。リディアはムービーに慣れていないから、一緒に見てもらおうと思ったんだ。」
すると、金色の彼女は頬を膨らませた。
「私にも記憶はありますわよ。私は何故か、このパツキン男とイチャイチャさせられたんです。しかも何度も何度も!その時の気持ち悪さったら、今思い出しても寒気がします。」
その映像はレイも知っている。
というか、一緒に見ていた。
リディアはギロリとアルフレドを睨む。
「ちょっと待て、リディア。あれは——」
それでも彼女は続ける。
今度はとてもしおらしく。
「——あとは、あれは不思議な現象でした。レイが死んでしまったという結果だけが残されたあの日。……そういえば、それが起きた場所は、このデスキャッスルでしたね。私、泣いてしまってのですよ? あれだけ、私の心を奪っておきながら、呆気なくこの世から去った貴方に……。何もできなかった自分が悔しくて……」
リディアは目溜まった涙を手袋で拭った。
そして、頬を赤く染めながら続ける。
「でも、ひどいではありませんか。私は本当に辛かったんですよ。そのすぐ後に、実は生きてましたって。嬉しいやら、恥ずかしいやらです。」
この辺りから、ラビとイーリあたりがヒソヒソと何やら話し始める。
「ですが、レイ。今の映像に私とあのパツキン男が双子という描写があるようには思えません。それに世界線が違うのですから、全く無意味なのでは?」
そして、ここで彼の登場である。
「なんだか散々の言われようだが、俺だって本意ではなかった。というよりそこまで言われる筋合いはないぞ。あれはちゃんとレイの指示に従っただけで……。それにこの城の話で言うなら重要なことを忘れていないか? あの浜辺の出来事をリディアも見ただろう。俺とレイは——」
「あれこそ、ただの世界の意志ですわ!レイは世界の意志に対してずっと立ち向かっていた、あなたも言っておられたのでは? あれだけで、レイの本妻を名乗られても何のことやら。寧ろ、私たちのレイを穢した罪をどうやってとって頂けるの? 死ぬの?今すぐ死にますの? あら、ちょうどステンドグラス。アルフレド、ちょっとそこに立ってくださる?」
ラビとイーリのヒソヒソ声がだんだん大きく変わり始める。
「あのお姫様って」「間違いないわね」と魔王の地獄耳はその内容まで拾えるのだ。
というより、魔王は『やっちゃいましたかね?』の原田の声に悩まされ中である。
間違いなく、アルフレドとレイのイベントも『察してね』演出であった。
何もなかったと信じてはいるが、ヒロイン全員の前でやってしまった事実は消えない。
因みに、現実世界でリディアを見ると、ここまであからさまなのかと思う。
確かに彼女のエンディングは儚げなものだった。
事実として、辛いものだっただろう。
だが、プレイヤー目線、神目線ではどうしても穿ったものの見方をしてしまう。
リディア姫の別名は『猫被り姫』だ。
考えてみて欲しい。
以前にも触れた通り、リディア解放後、リディア専用イベントが一気に解放される。
それは勿論、リディアの好感度を上げるチャンスをプレイヤーに与えるため。
一応、アイザも近い立場にはある。
ただ、ゼノスがその後加入する関係上、イベントは周辺にいくつも転がっている。
そして、アイザは別枠だろう。
警視庁の犯罪者予備軍に登録される……かもしれない時点でお察しだ。
(猫かぶりっていうか……。超積極的なんだよなぁ)
リディアは最終コーナーから一気に捲る差し馬である。
圧倒的不利、完全に出遅れた状況から、メインヒロインの座を掴み取れるキャラ。
彼女が儚くも愛らしい側面を見せるイベントは、彼女の完璧な計算の元で行われている、という噂まである。
因みに、ミステリアスなキャラとして設定されるオッドアイも、彼女にかかれば『しおらしい姫』と『獰猛な猛禽類』との二面性を表していると言われている。
考察スレからの抜粋ではあるが、最後のシーンの彼女、実はガラスが当たらない場所を見極めていたとも言われている。
ただ、流石にこの考察は「まとめサイト」によるアフィ稼ぎとの声も多い。
(っていうか、失敗した……。アルフレド、どうしてお前はそんなにまっすぐ過ぎるんだ!いや、真っ直ぐなのはいいことだ。でも、向いてるベクトルが違うんよ!そしてリディア、俺の前で二面性出されたら、それはもう、計算高いキャラではないからね⁉前回のシリアス展開はどうした?一旦、後ろに戻ってるぞ。仕方ないんだけれども!)
「とにかく、そういう世界の意志があったと考えてくれたらいい。あっちのリディアは別のリディア。あっちのアルフレドも別のアルフレドだ。そして今から、この世界の二人の歴史を見に行こう。」
——それをする為にこの力はあるらしい。
◇
彼はリディアとアルフレドを伴って移動する、という漠然としたことしか考えていなかった。
ただ、それはあまりにも考えなしすぎる。
フィーネの時はスタト村、エミリでもスタト村そしてギリー農場。
マリアはネクタの街、ソフィアはミッドバレー村。
キラリの時も彼女の実家に行ったし、なんなら過去創造で散々研究施設が登場した。
そしてアイザはエクレアの街に始まり、最終的にはヴァイス砦まで行った。
「なるほど。ムービーシーンをつなぎ合わせて考えると、そういう意味か。俺は浜辺で、そしてリディアは……。つまりそういう意味での兄妹……。穴……」
「アルフレドも一旦黙ろうか!」
「いいえ、その理屈だと順番的に姉弟になるわね。ふっ……。ざっこ。」
「リディアもちょっと落ち着こうか⁉」
その瞬間、リディアは肩を飛び跳ねさせた。
そして顔に影を落としてこう言った。
「は、はい……。私、少し動揺してしまったみたいです……。そ、その……、レイが手を繋いでくだされば、この気持ちも収まるかもしれません。あ……、違うんです。その……、私怖くて……」
恐る恐る手を出したり、引っ込めたりしているリディア。
あのムービーを見せてしまった手前、仕方ないから手を繋ぐ。
手は二本あるので、もう一本でアルフレドとも手を繋ぐ。
「落ち着いてくれたか、二人とも。とりあえず、今は絶賛悩み中なんだ。リディアのエピローグに相応しい場所ってどこだろうって思ってさ。んで、過去創造を想定すると、どう考えても今立っているこの場所、デスキャッスル、オーロラウェディングキャッスル跡地なんだよなぁ。それでちょっと疑問に思ったんだけど、リディアは今、どこで寝泊まりしているんだ?」
その言葉に少女は頭をコテリと傾けた。
更に言うとアルフレドも可愛らしく首を傾げている。
ん?
そういえばこの質問、今までしたことがなかった。
他のヒロイン達もどこで暮らしているのだろうか。
フィーネはスタト村かもしれないし、エミリはギリー農場かもしれない。
マリアはネクタの実家かもしれないし、ソフィアはマーサの手伝いをしているのかもしれない。
そしてキラリは研究所、アイザはエルザと……
「レイ、結婚しているんですよ。同じ屋根の下に決まっているじゃないですか。」
「レイ、結婚しているんだぞ。同じ建物に決まっている。」
「そっか、確かにそうか。だから色々と準備を——」
だが、ここで双子の実力が発揮される。
「同じ屋根の下に決まっているじゃないですか。」
「同じ建物に決まっている。」
「——は⁉」
正に、この世界の見落としである。
レイは落ち着かないという理由で、元々MKBがいる筈の部屋を自室にしていた。
そこからドラグノフと戦った広ーい玄関ホールから外に出ていた。
あんな巨大な本会場、奥の方にぽつんと椅子が置いているだけの部屋で、落ち着ける筈がない。
それになんだかんだ、移動を繰り返していたから、そんなに城というか式場を歩き回っている訳じゃない。
つまり。
ごくりと唾を飲む魔王。
そして、魔王レイは恐る恐る本会場の巨大な扉を開けた。
圧巻である。
「なん……だと……⁉ いつの間にか改造されている。っていうか、巨大施設だったとはいえ、なんで、建物の中に建物があるの⁉っていうか、植林されて、知らない舗装道路が出来てない?あと、天井が変わってる。開閉式になっている……だと? 確かに戦闘中に穴が空いたから修理したいなとは思ってたけれども!もはや小洒落た貴族街かお金持ち御用達のアーケード街みたいになってるんですけど!」