リディア姫のエピローグ
魔王レイは椅子に座り、ため息を吐いていた。
この世界は放り投げエンド。
だからこんなに安寧の日々がおくれている。
何度もため息を吐く。
肺の中が空っぽになるんじゃないかと思うほどに、ため息しか出てこない。
「ご主人、まーだ夢の話を気にしているんですか?そもそも夢じゃないですか。それに、ウチ達はその困難を乗り越えてここにいるってことでもありますよ!」
「そうそう。考えても仕方ありませんってぇ。俺っち達は今を生きている。そんな気概を持ってたじゃないっすか。」
実際にその通りで、アレはレイがネタバレをした罰なのだろう。
彼自身そう思っているのだが、だとすれば、結局例の『七並べ』を再開しなければならない訳で。
でも、あの光景がまだ目に焼き付いている。
例えば、自分がアルフレドだったとして、いや、アルフレドだったのだ。
だから、あれは本当にあった出来事だ。
ゲームクリアした後のことを考えてもいなかった。
この世界はレイが自我を持った瞬間に生まれる。
そこから先はレイモンドだろうが、アルフレドだろうが同じ冒険が待っていたのだろう。
つまり、どの世界でも彼女達はちゃんと自我を持っていた。
世界の終わりを止めるために冒険に旅立つが、ゲームである以上は必ず終わりがやってくる。
そして結局世界は終わるのだ。
意気揚々とこのゲームは隅から隅まで知っているぞ、と旅立つ勇者は心強いだろう。
でも、ゲームをクリアしたら世界が終わるなんて、仲間の誰が信じるだろうか。
何度も経験した筈だ。
レイモンドで生きたこの世界でも、彼は経験している。
NPC達にこの世界はゲームがベースなんだ、と自覚させることがどれほど難しいかを。
さらにバッドエンドがこれ見よがしに襲ってくる。
そしてアノ行動。
一定の刺激を受けると勇者アルフレドなら彼の行動を、レイモンドならレイモンドの行動をしてしまう。
——でも、彼らが生きていると知ってしまったら
「ご主人‼」
頭が揺れるほどの爆音が左の耳から右に貫通した。
「旦那、もう来てますぜ。最後なんでしょ。しっかりしてくださいよぉ。」
すると目の前にお化粧をしっかりと決め、きれいなドレスに身を包んだ美少女が立っていた。
いや、立っていて当然なのだ。
レイ自身が彼女を呼んでいたのだから。
それなのに、不意にやってくるあの映像の恐怖。
あれがレイの心に突然、恐怖のナイフを突き刺してくる。
「あ、あの……。やっぱり、私はそこまで貢献できてないから……、あまり乗り気でないのでしょうか。」
とまで、客人に言わせる始末である。
「ほら、ご主人が悪夢に怯えているってこと、バラしちゃいますよ。」
「てか、ラビっち、それ、もう言ってるのと同じっすよ。」
その言葉にレイは素直に頷いた。
ラビとイーリなりの気遣いなのだ。
それは素直に受け取るべきだ。
そして、このままではリディアに対してあまりにも失礼過ぎる。
「その、本当に悪夢で最近眠れなくて……」
すると彼女は優しく微笑んでくれた。
「ふふふ。それでは、まるで出会った日の私と同じですね。でしたら、私があの日の貴方のように恐怖を取り除かねばなりませんね。」
オッドアイの美しい瞳を細くさせ、母性に満ちた雰囲気を醸し出す彼女。
彼女の言う通り、リディアはいつ来るかも分からない死の恐怖、そして孤独に怯えていた。
勿論、その恐怖を煽ったのがレイの役目だったのだが。
「ただ、どうしてあの人も呼んでいるのですか? 勿論、私としては認知するつもりはありませんけど!」
すると颯爽とあの男がやってきた。
「俺もだ。レイには悪いが納得が出来ない。リディアはその……、良い奴だが、なんというか、恋のライバルだ!」
「え? うーん、なるほど。レイ、やっぱりその設定はなかったことにして頂けません?」
楽しそうな二人、とは言えないが、元気そうではある。
だから癒される。
放り投げて良かったとさえ思える。
あんなのが繰り返されたら、狂うに決まっている。
だからこそ、この世界を完成させる必要がある。
「そうだな。そろそろ俺も勇気を出さなきゃな。おし、それじゃあ、恒例のやつをやってやろう。リディアで最後だから、ちゃんと二人にも分かるようにするからな!それを見てから、兄妹かどうかは決めたらいい。」
♡
金色の髪をだらりと前に垂らし、その隙間から緑の瞳と青の瞳が覗いている。
彼女は父親を魔族に殺されている。
そして魔王によって塔の一室にずっと閉じ込められていた。
理由は単純なものだった。
彼女のみが光の女神メビウスのオーブの在処を知っていたから。
金色の姫君「女だから?それともお姫様だからかしら? 嬲り殺すつもりだったのでしょう。でも残念です。光の女神は勇者を使わしました。それでどう?嬲り殺される側になるのは。ねぇ、ねぇ、今、どんな気持ち?あんな小悪魔レイのせいで私はぁぁぁぁ!」
彼女を知っている者がいれば、皆こう言うに違いない。
「アレがあのお姫様?」と。
それほど、今の彼女は怖い。
彼女はデズモア=ルキフェが瀕死になるや否や、一人で突っ走り始めた。
そして邪神が男型であると分かるや否や、股間相当部をヒールで踏みつけ始めた。
光の勇者「リディア。気持ちはわかる。だが、一人では危険だ。」
流石に瀕死の邪神といえど、何をしてくるか分からない。
それに今の暴走している彼女を見ていられない。
彼女の暴走は勇者の元友人でもあるのだから。
リディア「勇者様。私はもうダメなんです。私は純潔のまま貴方に会いたかった。でももう……、汚れてしまっています。だからいいんです。このままでいいんです。だから、私は……」
彼女は天を仰ぎ見て悲しそうに笑った。
そこには皮肉にも光の女神を表すステンドグラスがあった。
彼女は光の使徒。
だから女神に懺悔したかったのか、それとも……
そして、その一瞬の隙に邪神デズモアは最後の魔力を天に向かって打ち上げる。
パリーン!
簡単に音を立てて割れるステンドグラス。
そして無数に落ちてくるナイフのようなガラス片。
光の勇者「危ないぞ、避けろ!!」
すぐに彼女に指示を出す勇者。
けれども金色の少女は動かなかった。
そして優しい笑みを浮かべた。
フィーネ「リディア!ちょっとなんで……」
リディア「今までありがとう、皆様。私は私を許せない。でも、ちゃんと頑張ってたでしょう?全てが終わったら、……私、死ぬつもりだったんです。もう……いいですよね?」
そして皆の目の前で雨のように降り注ぐガラス片。
——彼女は両腕を掲げ、光の女神のカケラを受け入れる
ザッザッザッと音を立てて突き刺さるガラス、パリーンとさらに粉々に割れるガラス。
ただ、不思議なことが起きる。
一体どれくらいの確率なのだろうか。
無数のガラスが落ちてきてた筈なのに彼女には一欠片も当たらなかった。
それに気がついた彼女は目から涙をこぼし始めた。
そして駆け寄る仲間たち。
リディア「どうして……。女神様は私をお救いにならないの?あの小悪魔レイに私は穢されているというのに……」
泣き崩れるリディアの衣服だけはガラスが通過したらしく、少しだけ彼女の肌が露わになる。
だから勇者は自身のマントで彼女の体を覆った。
光の勇者「女神様がリディアは穢れてなんていないってさ。それにもしも今のでリディアに何かあったら、俺が女神様に喧嘩を売らなきゃならなくなる。俺はリディアのためならなんだってやる。前にも言った筈だろ?あの記憶がなくなるまで、俺色に染めてやるって。」
リディア「それは……、勇者様があの者の罪は自分の罪だと気遣って……」
その言葉に勇者は言葉を詰まらせる。
レイモンド、いつか改心してくれるものだと思っていた。
だからそういう意味では自分のせいだ。
信用しすぎる性格のせいで、彼女を酷い目に遭わせてしまった。
ただ、今日ばかりは違う。
だから彼は、優しい顔で首を振った。
光の勇者「今は違うんだ。それにリディアの気持ちにはとっくに気がついている。」
彼といると、どこか懐かしい。
そして不思議と彼の気持ちはスッと自分の心に入ってくる。
だから、あの時は気を遣っているのだと分かってしまった。
でも今は……
リディア「勇者様、勇気をお持ちの方という意味ですよね。でしたら、先に私への気持ちを教えてください。」
光の勇者「う……。俺、そういう勇気はないんだけど……」
エミリ「そうだよ、リディア。勇者様、そういうのからっきしだから。」
ゼノス「俺には分かるぞ。無論リディアの気持ちだがな。さぁ、俺の胸に……」
フィーネ「ゼノス、前に私に言った言葉、今ここで行ってもいいのよ?」
ゼノス「あ、あぁ。そうだったな。すまん。俺が出しゃばるべきではなかった。」
ソフィア「どちらにしろ、女神様にはお見通しのようですよ。」
——その瞬間、女神が祝福の鐘を鳴らした。
そして、パラパラと拍手が二人に浴びせられる。
彼らの愛の力にデズモアはチリになって消えた。ただ、その時に彼は間違いなく、こう言った。
デズモア「もっと早く気がついていれば……、無念……だ……」
ただ、その言葉は祝福の鐘の音と祝福の拍手に掻き消された。
リディア「本当に……、本当によろしいんですか?私は……」
勇者はしつこいくらいにリディアにキスをした。
光の勇者「リディア、俺に気を使うな。俺がリディアが欲しいんだ。」
アイザ「ねー、ねー、今の鐘の音ってなーに?」
マリア「女神様がね、二人の永遠の愛をお認めになったの。ま、結婚が認められたってことね。」
アイザ「なぬ……。わらわも姫であると、ゼノスが申しておったのに⁉」
その姫という言葉にリディアが反応した。
リディア「すみません。もう、私は王政には散々です。出来ればみんなで話し合って、より良い世界を作りたい。レイとならば、きっとそんな未来が作れると思うんです。」
フィーネ「えと、その話、あとにしない? なんか天井ごと崩れそうなんだけど。」
そして、避難した勇者一行は崩れゆくデスキャッスルを清々しい笑顔で眺めていた。
光の勇者「これで王政を続けるのは不可能っぽいな。」
リディア「はい。」
マリア「ってことはぁ、これからは商人の時代だね。リディア、勇者様にやっぱり逆たまに乗ればよかったって思わせないように頑張んなきゃだめよ!」
リディア「えと……、頑張るというのは、その……、教えてください、マリアさん。殿方を喜ばせる方法を‼‼」
マリア「ちょ……、えっとね、私たちもそれは知りたいんですけどー。リディアの旦那、リードはからっきしっぽいしね。」
フィーネ「えぇ。剣ばかり振ってたからね。」
リディア「…………、い、意地悪しないでください。侍女の話では、確か男性はお布団の中で剣を振る——」
エミリ「お姫様!!それ以上喋っちゃダメ‼‼」
そして数日後……
という言葉がこの後に現れる。
リディアは正式に王政廃止を宣言し、自らはしばらく休養に入るとも宣言した。
『私と勇者様のことは探さないでください。心配しりません。私たちはコウノトリを探しに行くだけです。後のことはそれぞれの町長、村長に任せます。絶対に私たちを追ってこないでください。』
という、看板が城跡地に建てられていた。
キラリ「うーん。これは子作りしてますって言っているようなものなのでは?」
マリア「うん、リディア。あれじゃない?やっぱりお姫様の周りって本当はドロドロ……ね。」
フィーネ「でも、光の勇者様、アルフレドは絶対に何もわかってないわよ。ほんとに大丈夫かしら。」
アイザ「ん?子作りするのか?子供はどうやったらできるのら?」
ソフィア「アイザちゃんって1007歳でしたよね。じゃあ知ってないのは流石に良くないですね。まずですね。殿方の————」
エミリ「ソフィアちゃん⁉ ここ、外だからね‼‼」
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