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レイ子、再び

 あの頃は身分を隠していなければならなかった。

 その理由はどうしてだっけ、なんて考えてみる。

 それは当然、ゲームのシナリオを完璧に騙すためであって


「その結果、エクレアの街も被害が出なかった」


 だから、今現在、ほとんどの人間が仕事に困っている。

 思えば数々のバグをこの世界に齎したものだ。

 そして最後は放り投げエンド、無責任にもほどがある。

 これくらいの町おこしをしたくらいでは、背負った業は許してはくれないだろう。


「お、マジかよ。本物じゃねぇか。俺!俺だって!竜王ゼノス……、って、まぁ今は竜人族のトップじゃないから、ただの竜人だけどな。」

「お帰りなさいませ、ご主人様。ゼノスにゃんはこのエクレアを自分だけのハーレム王国に作り上げたかったのかにゃ?」


 ウサ子はにゃんにゃん!と手をくねくねしながら、話す必要のないゼノスに話しかけた。

 内心では、お前は喋んなよ!と思っているに違いない。

 ガノスが貧乏ゆする中、ゼノスが調子に乗る。


「おお、よく知ってんな。どうだ、ウサ子。俺の嫁になんねぇか? 俺、実はすっげぇ悪……。あ、なんだっけ。とにかくアレなんだぜ。なぁ、叔父貴殿。」


 ゼノスには申し訳ないが、ソフィアにお願いしてマーサ様に席のご移動をお願いしている。

 これ以上、ゼノスに与える尺はない。


「おひさしぶりっすぅ!ご主人様!イリ子だよー。」


 その隙にイリ子がガノスに話しかける。

 するとガノスの貧乏ゆすりがビタッと止まった。


「そ、その声……。それにその舐め腐った態度は……」


(お前、そういうノリでやってたのかよ。……でも、待てよ? そういう系のヒロインもありと言えばあり。これが伝説のメイドの接客か。)


 ガノスの手が素早く動く。

 そしてその手は箱へと向かい、そして彼女の元へ。


「ワシじゃ……。ずっと、ずっとこの日が来るのを待っていた。夢に何度もイリ子ちゃんが出てくるんじゃ。それに……」


 老竜人は、視線をウサ子へと向けた。


「ウサ子ちゃん。君もだ。君の夢は何度も……何度も見た……。君と——」

「ちょっと待った、叔父貴殿。竜人族の悪癖だぞ。すぐに口説こうとする。俺の目が光ってるうちは、ウサ子ちゃんには手を出させないぜ。」


(お前、目的。いや、そういう奴じゃなかった……)


「あー、すごく綺麗な指輪だにゃん。これをウチに?」

「だー、叔父貴殿!それは龍眼山でも希少って前に言ってなかったか?」


 早速、龍眼山の話題になった。

 これはゼノスのファインプレーと言えよう。

 それにしても、あの指輪?


「あら、あたしのにも同じものー。ってことはぁ、ご主人様はあたしに貢いで貢いで骨の髄までしゃぶりつかせてくれ……、痛っ!ウサ子ちゃん? お仕事ー!お仕事ー!」


     ◇


「リメイク前はエクレアは竜人族が支配して、魔族も人間も手出しが出来ない状況にあった。そしてたまにプレイヤープラス1という協力をしてくれる存在が竜人族ゼノス、その筈だった……」


 レイは仕事がないので、とにかくガノスたちがいる超VIP席に注目している。


「萌え萌えキュン!」

「萌え萌えキュン!」

「萌え萌えキュン!」

「萌え萌えキュン!」


 ウサ子とイリ子はガノスとゼノスを虜にしている。

 今のところは順調そのものだ。


「だが、新キャラゼノスの登場が彼らの立ち位置を変えてしまった。彼の根幹は『むっつりすけべ』だ。俺が過度にアルフレド達に注意をしすぎたから、今のゼノスはただの『どすけべ』になっているけれども!」


 支配人の頭から、先程の指輪が離れない。

 アレはエクナベル夫妻から貰ったものではなかったか?

 いや、それが言いたいのではない。あれは『プラチナ』製ではないのか?


「新キャラゼノス。彼の登場はプレイヤーにストレスを与えるものだった。銀髪のお邪魔キャラが加入してくる。明らかにレイモンドを意識したキャラクターだった。だからこそ、ゼノスは女好き。とにかく好感度が上がっていないヒロインを口説きまくる。そして気がつけば逃避行で、ゲームオーバー。厄介この上ないキャラだが、その影響で竜人は人間の女が大好物というレッテルが貼られてしまう。そこで思いついた作戦だったんだけどな。レイモンドのようなお邪魔キャラ。そして髪色が同じ……、でも、レイモンドには竜人なんて設定ないしなぁ」


 彼が考察の迷宮に入り込んでいると、突然スタッフルームの扉が開いた。


「ご主人! ガノスが暴れ始めました……。如何されます?」


 ラビ、いや、ウサ子が控室に飛び込んできたのだ。


「なんていうか、三人じゃなきゃダメって駄々こねてるっつー感じっすね。ってか、タッパのある子が好きなんじゃって言ってるっすよ?それってつまり……」


 そこでなんと新情報が得られてしまう。

 この変化魔法(メイクアップ)キャワキャワスティックには身長の調節機能はないらしい。

 つまり。


「レイ子ちゃん、出勤ですよ!」

「え⁉俺、ほとんど接点なかったんだけど⁉」

「見てたってことっすよ。ゼノスも言ってたっしょ? 女性、全員を把握してるって。あいつらの異能力っしょ、どう見ても。」


(そんな異能力は嫌だ!……というよりも)


「電池がないんだ。お前達だけでなんとか抑えられないか? ほら、電池交換ランプが点灯して……」


 事実、ここでこれを使うことになるとは思ってもいなかった。

 それに変身能力はエルザに返している。

 では、彼女から借りれば?

 いや、実はそうではないのだ。

 この激レアスティックは超激レアであり、コラボ特典でもあり、これでなければ魔法少女チックにはなれない。

 普通に変化しても、ただのメイドになってしまうだけ。


 だから、それは出来ない。

 だが。


「ご主人——」

「旦那ぁ——」


「日和ってんすか?」


「はぁ? 日和ってねぇし‼‼プチプチ食感、ぶどうはパープル! 俺はキャワキャワ!キャワグレープ‼‼‼」


 レイ子はマダラ模様の光に包まれていた。

 そして光が収まり、レイ子のシンデレラタイムの始まりを告げる鐘が鳴る。


 右手良し、左手良し、右足良し、左足良し、と彼女は勇ましく控室を出ようとした時。


「ププッ」


 と、何故か笑い声が聞こえる。

 これはおかしなことが起きたものだ。


 そしてその笑いの主は、当たり前のようにそこに座っていた。


「笑ってないのら!わらわ、絶対に笑ってないのら!支配人たまが女装してて、びっくりしただけなのら!」


(忘れてたーー!アイザは今、ケーキか何か食ってるんだった!ってか、この一連の流れ、全部見てたの!?)


「アイザちゃん、今見たことは全部内緒だよ。魔王様の言いつけは絶対だからね!」

「分かっているのら。旦那たまとの秘密のきょーゆーなのら。わらわはりょーさいけんぼなのらよ!」

「ぷっ……ぷははははは。いや、これは仕方ないっすよ。」


 一体何がそんなに面白いのか


「だ、大丈夫ですよ。ご主人!ここ、これくらいなら、あのお爺ちゃん、気づかないですから!」


 魔王が姿見で確認すると、切れかけの電池のせいでとんでもない状態になっていた。


「大丈夫じゃないだろ、ってか、ウサ子、お前も目が笑ってるぞ。これ、ただ俺が女装してるだけじゃん。一応、牙はなくなってるけれども‼‼」

「とにかくタッパがあればいいんすよー。ウサ子、いくわよー!」


 電池切れには注意しよう。

 人間レイが女装をした姿でVIP席に一人、突き飛ばされた。

 さすが、魔王の幹部二人。

 もしかしたらNo.2、No.3くらいの実力者なのかもしれない。

 そして、嫌がる女装レイを強引に押し出せたのは、完全にファインプレイとなる。


「おお!待っておった、待っておった!」


 こいつ、ただタッパのある奴が好きだったらしい。

 だったら、他の誰かでも良かったじゃんと思いながらも、2mの身長は意外と少ない。

 5mなら心当たりはあるけれど。


「おお、おおおおお! な、なるほど。やはり叔父貴は見る目だけはある……か。」


(って、お前は気づかなきゃダメだろ!こいつのストライクゾーンどうなってんだ?)


「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

「ふむ。思ったより低い声じゃったのだな。でも、そういう声もかわゆいぞ!」


(声変わってねぇのかよ! )


 ——そして、十数分間、ガノスもゼノスも夢のようなひとときを楽しんだのだった。


「龍眼山? あー、東の方にあった気がするのぉ。随分昔じゃ、場所なんか覚えとりゃせんわい」

「えぇぇ。そこをなんとかー。」

「そう言われてものぉ、ココアちゃん。ココアちゃんと初めて出会ったのは……」

「ココアちゃんって誰……。いや、じゃなくて、あたしとの出会いは何回も話してくれたでしょう?」


 ——そして、数分後


          ♤


 金色のお姫様は今日は実はお忍びでここに来ている。

 侍女からメイド服を借りて、そのままメイドカフェ店員になりすましているのだ。

 ここは彼女が気になる彼、というより旦那様がオーナーを勤める店。

 彼にはたくさんの妻がいる。

 それこそ男女問わず、人間も魔族も関係ない。

 だから心の中はいつも戦場だ。

 でも、今日は彼女にとって、とても嬉しいことがあった。


サラ「ごめんね。私、そんなにお金持ってなくて、あんまり注文できなくて。」


リディア「ううん。いいのよ。サラちゃんと会えただけで、私は嬉しいから。」


サラ「でも、リディアちゃん。叔父様に幽閉されてたんでしょ? 私、魔力が小さいから、助けることもできなくって……」


リディア「それこそ、気にしないで。おかげで私は運命の人に出会えたの。あ、人ではなくて、魔王様だったけど……」


 その言葉に薄クリーム色の髪の少女は、複雑な笑みを浮かべた。


サラ「あ、あの……、その素敵な人って、その……、実は。わ、私も結婚してるんだよね。な、成り行きで、だけど……」


リディア「うふふ、知っているわよ。あの人は全ての上に立つ存在。王とか姫とか人間とか魔族とか……。全部全部超越した方だから、女神様もお認めになったんじゃないかしらね。でもー、やっぱり悔しいから、ぼったくることにします。」


サラ「え⁉リディア様? あの……、ウチの領地にはもう殆どお金が」


リディア「ふふ、冗談だから。ほら、噂をすればよ。」


支配人「ご注文は決まりましたか?」



          ♤


「レイ子ちゃん、今度こそ、ちゃんと想いは伝えられた?」

「ウサ子ちゃん、そんなに急に聞いたら悪いわよ。レイ子だって頑張ったのよ。前は他の女に邪魔されただけじゃない。今回は私たちがちゃーんと根回ししたんだし、ちゃんと伝えられたって。それに好きって気持ちが伝わってから、恋愛は始まるの。そうよね、レイ子ちゃん!」

「そ、そかな。私、どうしてもあいつの顔を見ると、頭が真っ白になっちゃって……。ちゃんと好きって伝えられたかどうか……っじゃねぇよ!天丼ネタ、絶対やってくると思ったら、案の定やってくんのな! っていうか、ここまでやって収穫0ってどういうこと⁉」


 支配人にして魔王レイは慌てて厨房の裏に滑り込んでいた。

 

 ——これはどう考えても自分のミスじゃん


「 マジでそうじゃん!俺、なんでサラを呼ばなかったの? ヘルガヌスの姪にして、記憶保持者サラ。今回のこと、一切合切、彼女に聞くのが一番早いじゃん!だから、ガノスのイベント、あんなにグダグダだったのかよ!」

「噂の彼……、今日はちょっとスベってますね」

「超越したから、笑いが分からなくなってしまったのかしらね。」

「いや、ここはもう厨房裏だし。俺の変身解けてるし!なんで、ゲーム終わってるのにムービーシーンが連発すんの⁉」

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