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アイザのエピローグ

          ♡


 薄紫の幼女は目を黄金色に光らせていた。

 それだけではない。

 目は血走り、髪の毛も逆立っている。

 幼女の風貌を残したまま、鬼の形相になる。


 想像もできないほど、幼女の心は激流に飲まれていた。

 彼女は1007歳とはいえ、見た目はどう見ても七歳の幼女だ。

 本来ならば、そんな彼女を止めなければならない。

 それが大人の務めかもしれない。

 けれど……


薄紫の幼女「それくらいで死なないで。でないともっと苦しめられないじゃん。」


 幼い喋り方はそこにはない。

 間違いなく、邪神デズモア・ルキフェは息絶えようとしている。

 間違いなく、これは七歳児にさせてはいけないことだ。


薄紫の幼女「だったら、一度回復してあげる。そしてもう一回殺すの!何度でも何度でも殺してやる‼‼」


光の勇者「アイザ!もういい!…………もう……いいんだ……。」


 幼女の目が光るその瞬間に、勇者はアイザを抱きかかえた。

 そして、そのまま抱きしめる。


薄紫の幼女「離して!離して!こいつは、おねえたまを殺したのよぉぉぉぉ!これくらいじゃあ、わらわのおねえたまはずぐわれないの!」


 彼女の姉、エルザは彼女の目の前でアズモデに殺された。

 あの時は、怖くて怖くて隠れていた彼女。

 目の前で姉を殺されても、何もできなかった幼女。

 こんな小さな体のどこにそれだけの力があるのか、もしくは彼女の姉と一度は敵対した勇者の罪悪感が邪魔をしているのか、幼女は簡単に勇者の腕をすり抜ける。


 ——そして、彼女は落ちていた身の丈に合わない長剣を拾い上げ、それを邪神に向けて振り下ろす。


 ザシュッ


 あまり大きな音ではなかった。肉を切る音、骨を砕く音。

 そんな鈍い音が幼女の耳に届く。


 その小さな音に見合わないほどの赤い液体が、彼女の顔を濡らす。


 そして彼女の黄金の瞳は輝きを失った。


アイザ「な、なんで? なんで……ゆうしゃたま…………」


光の勇者「俺も罪を背負っている。俺が弱かったから……、エルザの心を救えなかった。いや、救える資格なんてないのかもしれない。でも、俺はアイザが好きだから……、これ以上、アイザを失いたくない……。俺はアイザを守りたい……。そんな資格はないのかもしれないけど……」


 悲痛な勇者の声。

 アイザの剣を左肩にまともに受けた彼は、肉が裂け、骨が砕けている。

 でも、彼は痛がる様子はなかった。彼女の心の痛みに比べれば、これくらいなんてことはない。


アイザ「わらわは……、わらわはあいつを……、殺したいのに……、そんな目で見られたら、わらわは……わらわはぁぁぁぁぁ」


 勇者の顔はどこまでも優しく、どこまでも慈愛に満ちていた。

 そして、真っ直ぐに幼女の黄金の瞳だけを見ている。

 邪神など最初からいなかったかのように。


光の勇者「アイザ……。アイザは俺のこと、憎いか?」


『憎い』、その言葉はアイザの心に深く突き刺さった。

 そしてこれまでの彼との冒険が次々に蘇る。

 最初は憎かった。

 寝首を掻こうと思っていた。

 それでも……、彼はずっと優しくて、守ってくれて、いっぱいいっぱい愛情をくれた。


 だから……


アイザ「憎くない……。だって、大好きだもん!アイザと勇者たまはけっこんするのら!」


デズモア「ガハッ……、こ、これが……、真の愛の力…………、なるほど、私にはない人間の力……か…………」


 邪神は頭からチリとなって消えた。


 金色の勇者は薄紫の幼女の両脇を持って抱え上げた。


アイザ「い、いたくないのら? アイザ、今からかいふくまほうを————」

光の勇者「いや、いい。痛くないって言ったら嘘になるけど、今はこのままでいい。このままアイザを見ていたい。」


 その言葉にアイザは頬を染める。そしてだんだん恥ずかしくなってくる。


アイザ「わらわは、わらわは……、胸もぺったんこだし、背もちっちゃくて……」


光の勇者「でも、俺よりずっと年上だろ? それに、ぺったんこだっていいじゃないか。俺はアイザの全部が好きだ。」


アイザ「わらわも!わらわも勇者たまの全部がすき!!」


 そして勇者と幼女はキスをした。甘くて濃厚なキス。


 見かねたフィーネが目を瞑りながら回復魔法を唱える始末だ。

 それほどに大人びたキス。

 でも、アイザの年齢を考えれば、本当は遅すぎるくらいかもしれない。

 だから仲間も皆、視線を逸らし、何やら居た堪れない雰囲気を醸し出し始めた。


光のロリコン「あぁ。こんなにも小さい。ずっとこうやって抱きしめたかった。あぁ、ここも。こんなにも——」



 ——その瞬間、女神が祝福の鐘を鳴らした。



 そしてパラパラと乾いた拍手が二人に浴びせられる。



フィーネ「あのぉ、そういうのは私たちの目の前でしないでくれる? 女神様も「分かった、分かった」って言ってるわよ。ほんっと、世が世ならどうかと思うけど。でも、良かったわね、アイザちゃん。それにしてもアルフレド……、幼馴染ってこと、なかったことにしてくれる?」


ゼノス「え⁉え⁉お、俺の姫……は? あれ?俺ってなんでここにいるんだっけ。ん?そもそも俺ってだれ?」


エミリ「あーあ。ゼノスがショックすぎて記憶喪失になってるじゃん。」


マリア「うーん。私たち、もう行こっか。なんかお邪魔みたいだしぃ。」


キラリ「これは完全に犯ざ——」


リディア「キラリちゃん、それはまた今度お話ししましょ! 今はただ女神様からの祝福を喜びましょう!」


ソフィア「そ、そうですね。女神様が許してくださったのですし、えと一応年齢的には問題ないですし、魔族ですし、そ、そういえば私、甘いお菓子持って来てるんですよ。外で食べません?ここ、なんか臭いですし。」


ゼノス「あれは星雲かな?いや、違うな。星雲はもっとぼやぁって……」


フィーネ「はーい。みんな撤収ー!!もう、ここに用はないわよ。世界も平和になったんだしね。ってか、ここって教会だったの!? あちゃー、なんか夢に出て来そうだわ。だいたい彼は昔から——」


 そして、勇者とアイザ以外、誰もいなくなった。


アイザ「アルフレド、わらわのどこが好き?」


勇者「そうだなぁ、例えば——」





 そして数日後……



 という言葉がこの後に現れる。

 アイザと勇者は小高い丘にいた。

 そして二人の目の前にはエルザと刻まれた墓標がある。

 二人は一番に彼女に報告に来たかった。

 ただ、鬱陶しいパレードのせいで数日かかってしまったのだ。


アイザ「きゃ、ゆうしゃたまのえっち!おねえたまの前なのらよ!」


勇者「いやいや、お姉様の前だからだよ。ほら、新婚なんだし……、その……色々バタバタしていて初夜もまだだし、俺、そもそもアイザの裸、ちゃんと見たこともないし。ちょっとくらい触らせてくれてもいいだろ?」


アイザ「えっちなのはだめなのら!おねえたま、アイザは幸せになります。だんなたまと一生仲良く暮らします。だからおねえたま、ずーっと見守っててね。」


勇者「お姉様、今日俺はついに念願の合法ロ」



          ♡


「いや、ないわ。ありなんだけど、ないわ。公式には『デズモアっている?エンド』と呼ばれているけど、『犯罪エンド』の方が知名度が高いからね。っていうか、アルフレド、完全にやべぇやつじゃん、これ。なんかの参考になるかと思ったけど、思い出すんじゃなかったわ。確かにアイザルートはエルザの死が大きく関わっている。だからあれだけアズモデを憎んでいるのも分かる。でも、それはもう関係ないんだよなぁ。」


 基本的にエンディングのムービーはリメイク後に追加されている。

 だからものすごーーく話題になった。

 例えば、これを動画サイトに投稿すると即BANされるとか、このエンディングに辿り着いたユーザーは警察に登録されるとかいう都市伝説まで生まれるほどだった。


「このあとがスタッフロール。ちなみに最後の一枚絵はアイザのお腹が大きくなっているという、ガチヤバ画像だった。確か、海外だとこれが原因で発売できなかったんだっけ。んで、改訂版でアイラとかいうモブっぽい少女が……。そもそも何がやばいってこの後、ピローンって右上に出る『合法ロリ』獲得というトロフィーだ。それはもう違法なんよ!やば、マジで何の参考にもならなかった。っていうか、エルザ生きてるし、このエンディングはもはや意味をなさな……。いや待てよ。最後の一枚絵、そうだ、思い出した。俺がアイザとあったあの家だ。あれが背景にある。……っていうことはやはりこの世界に存在するってことだ!」


 そこでレイはしばしの沈黙の時間を過ごした。

 そして……


「いや、それは分かってるんよ! それがどこかーーって話だからね!ちょっと待って⁉俺、あんなにカッコつけて飛び出したのに、最初の話がこれってこと⁉もー、絶対にあれじゃん。詐欺じゃん!これが終わっていなかった世界すとか、言ってたやつがどっかにいたよなぁ! ったく、どう考えてもアイザのエンディングはやばいって分かるだろ。え、あれだよ?俺は、トロフィーが欲しくて、アイザルートをクリアしただけだからね? たぶん、警視庁とかに登録はされてないからね? あれ、多分嘘だから……、あれ?俺、ここに来る前、アイザのポスター部屋に貼ってなかったっけ?」


 そこでレイはしばしの沈黙の時間を過ごした。

 そして……


「あ!抱き枕カバー!まずい……、あれ、非公式のやつだからガチのやつだ。いや、違うから!日替わりでたまたまあの日がアイザの日だっただけだから!裏面とかは絶対使ってないから!いやいや、使うとかそういう意味じゃなくて、普通に使————。いや、まぁ、それはそれとして、一応このムービーを見る限り、アイザは魔族って感じではある。だからセーフ!俺はセーフ!小児性愛者じゃあないと証明されたわけだが……」


 その時、レイの後頭部に衝撃が走った。

 ただ、その瞬間にレイは前方に緊急回避したので、痛みは感じていない。


「なんだ、ちょうどよく死なないかなと思っていたのになぁ。魔王様は魔王様ってことかよ。」


 レイは振り返り、その声の主を睨みつける。


「んだよ。久しぶりってのにいきなりだなぁ。ってか、なんでそんなに苛立ってんだよ。」


 その声の主とは勿論、銀髪の竜人ゼノスである。


「いねぇんだよ!最近、全然いねぇの!マロン様もカロン様もボロン様も!いったいどうなってんだ、この店はぁ。お前が支配人だろうが!このロリコン野郎!」


(あぁ、そうだった。こいつ、そういうので寝返ったゲス野郎だった。確かにMKBは今、キラリと過ごすことが多いからなぁ。——って、今こいつ、なんつった?俺のことをロリ?)


「はぁ?お前に言われたくないんだけど⁉お前の方がよっぽどロリコンだね。それに全裸で研究室行くとか、露出狂まで入ってんじゃねぇか!」

「な!?あれは支配人のお前がやっていいって言ったからだろうが。お前だって実はやってんじゃないのか? 最近、アズモデの野郎もよく全裸でうろついてるぞ。お前が流行らせてんだろ?これからの魔王軍はそういう、……!」


(いやいや、妙なとこで止まって、「!」とかするな!絶対に碌でもないこと考えてるだろ。)


「ま、魔王様。なるほど。そういう……、まずは我々からそういう文化を定着させると。分かる。既に動物型には浸透している。考えれば分かることだった……」

「って、マジで考えてんじゃねぇか!動物型は元々そう‼ってかお前キャラがブレ過ぎだぞ!」

「あら、大変仲が宜しそうで、微笑ましいですね。お久しぶりです、魔王様。このエルザ、久しぶりの魔王様に少しばかり緊張しております。」


 っと、紫髪のエルザが慎ましい服装でお辞儀をした。

 そして隣になぜか小さめの箱が置いてある。

 これはあれか、魔王への献上品ということだろうか。

 さすがにちゃんとしている。


(さすがは俺認定ヒロイン。ゼノスと仲が良いってのは、生まれの影響だな。でも、なんていうか、俺自身が楽しい?俺、ここ最近、魔王って立場だったから、こういうの久しぶりなのか。)


「久しぶり、エルザ。そういえば、お姫様は見えないけど。」

「アイザですか?ふふふ、どこにいると思いますか?」


(どう考えてもあの箱の中なんだろうけど、どうすれば自然に——)


「おい、エルザ。裸王の前でゴミを捨てんじゃねぇぞ。」


 そう言って、ゼノスはその箱を数十m蹴り飛ばした。

 そして箱は途中で空中分解され、たくさんのリボンに包まれたアイザが現れる。

 はっきし言って、台無しの展開である。


「ゼノス!バカ!嫌い!だいっきらい!せっかく旦那たまのために用意したのにぃぃ!」


 その瞬間、ゼノスの時が止まる。

 そして魔王の時も止まる。


「あれは星雲かな?いや、違うな。星雲はもっとぼやぁって……」

「もういいって、その流れ!……いや、ちょっと待て。今までは人間相手だったから、レイモンドの服着てたけど、今の俺は魔族スタイル。……だから、裸王‼」

「わらわ、だんなたまにおんぶしてもらいたいぃぃぃ!」


 と言いながら、すでに背中にいるのだが。


(ゼノスが言っていたことが正しいじゃん!俺、何も考えずに上半身裸にマント羽織って、良しって思ってたよ‼)


「アイザ、代わりばんこって言った筈でしょ?魔王様は……私の旦那様でもあるのですから……」


 その瞬間レイの脳裏にとある黒髪の少女の顔がチラついた。


『レイ、姉妹ものとか、好きですもんね』


「って、違うから!」

「だ、駄目ですか?」

「駄目じゃないです!今日の目的はいつもと違うって言ったんだ。とにかく行こう、アーマグの東だ。アイザのハッピーエンドの回収を最優先にする、二人にも手伝ってもらうからな!」

「ほう。姫のハッピーエンド。ならば、俺も気合を入れる必要があるな。汚名挽回だ!」

「汚名なら何度も挽回している気がするのだけれど。アイザの為ならあたしも頑張ります。」


 そしてついに六番目のヒロイン、アイザのエピローグが始まる。


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