まだ終わっていない
(あんま印象に残る感じじゃなかったんだよなぁ、女神メビウス)
女神の顔を思い浮かべてからレイは続ける。
「勇者パーティは元々、女神の欠片、つまり金の含有量が生まれた時から高い人間だ俺が適当に話した神話もある意味では正解だった。この世界での金は光の女神メビウスの欠片。彼女が作り出した人間はそもそも女神の欠片から作られている。そして例のドラゴンステーション族の逸話。黄金を飲んだ当時のドラゴニアの話な。まぁ、石油を飲んだやつもいたらしいが、石油の方はダークメタル。いや、その出がらしだから、人体に影響はほとんど出ないんじゃないかな。それこそ髪の色をちょっと変える程度の。だからそっちは置いといて、とにかくドラゴニアは異常なまでの黄金を体内に溜め込んだ。しかも、黄金はドンピシャに女神の欠片の結晶だった。」
それが引き起こしたのは
「一族が皆、髪の毛が金色になってしまうほどに。黄金を飲んだのがドラゴニアだけとは限らない。何故かここに来て登場したドラゴニア、エクナベル、ベルの話。貴族制にも似た世界。それが過去創造で急に設定が作られた。彼らが血統を重んじていた描写もしっかりと描かれていた。ドラゴニア直系であるアルフレドとリディアは勿論、エクナベル家のマリアも十分にその可能性がある。キラリが半魔というのは、そもそもの設定だから置いといて、フィーネ、エミリ、ソフィアも先祖を辿れば、って可能性は大いにある。女神がゲームに合わせて、彼女たちの金の含有量を予め高めに設定しておいた可能性は捨てきれないが。」
全くもって遺憾である。
キラリエンドはこのゲームの根幹そのものだった。
お気楽ハーレムどたばた劇はどこへやら。
それにこれだけ話しても足りない設定がまだ残っているという、途方もない話だった。
「メビウスのやつ、俺に何をさせたいんだか……」
ついつい愚痴が溢れてしまう。
そんなレイの気持ちを汲んだのか、ラビが恐る恐る魔王の顔を覗き込む。
「あのぉ。ご主人、いいですか?」
ラビに当たっても意味はない。
だから魔王レイは彼女に発言を促す。
「今の勇者パーティの話を纏めるとですね……、アルフレドさん達も魔族ってことになりません?その……、ウチたちよりも強くなっちゃうわけですし。結局、マロンさんの実験と同じこと?みたいな?」
「いやいや、どう考えても俺っちたちとは外見が違う……、あれ?アイザちゃんは魔族だし、キラリッちも半魔?」
ちょっと情報が先出しになりそうだ、とレイは慌てて彼らの話に答えていく。
「ラビが言っているのが近いかな。原料を一気にぶちこむか、それを奪い取って急襲するかの違いだろう。だから俺が言った魔族の定義の答えは、『人間と魔族はほとんど同じ』ってことになる。動物からモンスターになった奴らもいるから、それは別勘定だけど。今言えるのは、人型の魔族とその魔族に対抗し得る力を持った人間はどちらも同じ存在、神のような何かってことだよ。それにイーリ、忘れてはいないか? そのアイザもキラリも……もっと言えばゼノスもアーマグ生まれの種族だ。これっておかしくないか?」
その言葉に、ハートフル・ソウルフル・ラブアンドピース・イエバーは目を光らせた。
「えぇ。流石の俺っちも気付いてますよ。どう考えても……
——1000歳は盛りすぎ、ってね。」
「バカかよ!それは今、言っちゃダメだなやつだろ! 最後のオチなんだから空気読めよ!ラビもずっと気付いてて言わなかっただけだからな!あーあ、お前のせいでオチがなくなったー。こいつ、やっぱり生ゴミにしてやろうかな。——って、それは後で触れるとして、その三人は何故勇者パーティに加わると経験値を得られる? レベルが上がる?って方だよ。俺が適当に話した神話に捕捉された話があっただろ。アーマグ大陸でも実は人間が誕生していた。そしてそれは闇のメビウスの力によって行われたってとこだ。」
光と闇のメビウス。
その設定を作ったのはレイ自身だが、その設定が皆目見当がつかない。
勿論、それは女神の遊び。
考えるだけ無駄なのかもしれない。
「えっとぉ、それ、別に関係なくないっすか? 俺っち達魔族のダークメタルを吸収してレベルがあがってるってだけっしょ?」
「うーん、確かに普通にレベル上がってましたよねぇ。でも、ご主人はそれがおかしいと……。えっとぉ。確か報告書ではぁ……。ご主人が仰った闇のメビウスが闇のエネルギーを使って……、ってことはエステリア大陸と真逆のことが起きているってこと⁉」
そのラビの言葉に魔王はパチンと指を鳴らした。
「そう。これだけ散々闇エネルギーだの、闇のメビウスだの、ダークメタルだのが登場しておきながら、光の女神メビウスと同様の人間が生まれる筈がない。だが、実際はどうか。彼らもゴールドを取得しているが取り込む様子はない。それに何より、アイザの故郷に関しては、真実味を帯びた考察がしっかりとされている。ゲームの作り手も意識していない筈がない。」
——何度も言う。このゲームは日本製だ。
アイザが和服を着ていたのも、日本を連想させる。事実としてリメイク前はエルザとアイザは姉妹ではないし、アイザは人間。しかも和服を連想させる服をしている。ただ、リメイク後にとある条例の影響でアイザは千七歳に、さらには魔族にさせられた。
そこまでなら、どうにかなったかもしれない。
「でも、そこに黒髪の少女キラリが追加された。レイモンドをパーティから抜けさせて、裏切らせる口実としてだ。無論、恋愛要素増し増しRPG、ヒロインの参加は歓迎すべきだろう。ただ、なぜか黒髪を選択してしまった。デザイナーも思っただろう。『あれ?これならアイザが黒髪の方が良くね?』、だが、リメイク前のキャラを変更するのは容易ではない。そして、結果的に考察ではキラリも同郷であり、しかもキラリの方が血が濃いのでは?となっても仕方がない。」
レイは語る。
ラビとイーリが呆けていても構わない。
ここはきっちり語らなければならないのだ。
「二人の出身は日本風の村という説がほとんど常識となった。さらに言おうか?どうして、このエピローグ回でゴールドの要素がこんなに出てくるかを。理由があるとすれば、敵が強くなると貰えるゴールドが多くなるからだ。しかもそのゴールドが人間世界で使えちまうんだぜ!さらに行こうか!どうして、王様はあんな北東に城を構えた? 普通に考えたらもっとマップ左下くらいだろ。でも、なるほどと思えることがある。元々この地には金鉱があり、資源が豊富にあった。さらに王族は科学と魔法の両面から世界を掌握しようとしていた!」
熱くなるレイには、「え?どうしてゴールドの話?」「知らねぇよ。それよりなんでデスキャッスルの話が出てくんだよ。」「それこそ知らないわよ。今ってザパン村の話?それともアイザちゃんの話?」という二人の会話が聞こえない。
いーや、ひとつだけ聞こえた単語がある。
「それだ、ラビ!ゲーム公式資料集にも、本編にも、考察にだって存在しない名前、『ザパン村』。これが関係していない筈がない。過去創造でも言っていただろう。アーマグは金と石油が採れると。王族はその存在を明るみにせず、この世界を発展させようとしていた……、あ、いや、ここは多分リディア編のところだから今はダメだ。だから、日本を連想させる村に話を戻そう!」
いきなり名指しされたラビの耳はぴーんと伸び切っていた。
イーリは魔王の覇気にコウモリんの姿に戻っていた。
「えと……、日本を連想させる村とお金の話がどう——」
「石油、そんなイメージはないだろう。だからあれと村は関係ない。無論、石油の出どころはマリアの父親、エクナベル家が王族と蜜月関係だと知らしめた存在ではある。だから、それじゃない。でもここに来て、過去創造はミス?いーや、ヒントをくれた。イーリ、日本は以前こんな呼ばれ方をされたことがある。——『黄金の国ジパング』と。」
何故名指しにされたのか分からないがイーリはふっくらとしたコウモリんになって床を転がっている。
だから、レイは今度はラビに目を付ける。
「『黄金の国ジパング』と!」
「え、いや、はい。分かりましたって、ご主人。二回もドヤ顔しないでくださいよ。この流れだと多分、前の回くらいには、みんな気づいてますって。流石に名前がそのまま過ぎましたから。でも、ウチもご主人が言いたいことは理解できました。ドラゴンステーション族は未開の地と思われたアーマグで大量の金を見つけた。そして滅びた村、ザパン。それがもしも黄金の国だったとしたら……」
「あぁ、あまり考えたくない過去になる。だからこそ、あらゆる疑念を振り切るためにもザパン村を見つける必要がある。」
「えっとぉ、過去創造がえらいことになりましたねぇ、旦那。人間が人間の村を滅ぼしたかもいれないなんて、大丈夫なんすか?」
ようやくイーリは人型に戻ったらしい。
そして心を抉る言葉をぬるりと吐いた。
「あぁ、分かっている。いろいろきな臭いんだ。女神が言っているのかも知れない。放り投げたんだから、世界を完成させろってな。」
「最初の頃、ものすごーい気楽な感じで言ってましたもんね。でも、最初からヘビーでしたよね。」
「存在しない筈の村を訪れる……か。それが一つのヒントになる。確かに俺は再スタートのきっかけとしてエピローグ作りを始めた。」
——すると、色々違っていた。
何が違っていたか、それは……
「そっすね。最近はどっちかっていうと、最初の頃の顔に近いっつーか……」
これは間違いなく……
「留守は任せたぞ、二人とも。今回はここから近い筈だ。村の跡探しから始める必要がある。当然だが、今回のヒロインはアイザだ。そしてエルザとゼノスも連れて行く!」
魔王はごくりと唾を飲んだ。
これはそういうことなのだ。
「まだ……、終わっていない。当たり前の話、つづくにしてしまったんだから、続いている。なら、闇のメビウスの正体にまで迫ってみせる。……そして、アイザの無実を必ず証明してみせる!」