「キラリのパパとママ」エンド
ポリーンの体に『邪神』になる為の液体が一気に流された。
通常の液体であれば、血圧や内圧の関係で液が入らなかったり、局所破壊が起きる。
でも、この世界は全てがこれらの組み合わせで出来ているのだ。
だから容易に浸透していく。
そしてポリーンの体は金と銀のマーブル模様に光り輝き始めた。
その光が収まり始め、彼女の肢体が顕になる。
ただ、その結果は想像していなかったものだった。
実験は大成功。
あの頃のような……、一番美しかった頃と相違ない彼女。
頭部に2本のツノとコウモリの羽は生えていたけれども。
だからマリーネは心の中で喜んだ。
成功した!どろどろスラドンになることも、あんな化け物になることもなかった。
何より若さが戻っている。
——でも、それだけではなかった。
ピンっと何かが弾けたかと思うと、彼女の腰の白衣が破け、尖った尻尾が露わになった。
そして彼女はこう言った。
ポリーンだった何か「あらあら。この状況はなぁに? 化け物一体とおじいさん二人。それにおばさんが一人と……、あ、化け物のとこにもう一人おばさんがいるぅぅぅ。」
その言葉にヘルガヌスはがっくりと項垂れた。
そしてマリーネは凍りついた。
化け物がルキフェという時点で、彼が記憶がないことに気づけた筈だった。
なにしろ顔見知りだ。
でも、ポリーンはある意味で、ルキフェより成功しているように思える。
だが、彼女も記憶を失った。
人語を話す時点で基本的な思考回路は持っているのだろうが、大切な思い出を失っているようにしか見えない。
——だから、絶望なのだ。
多分、今までだったら大成功とまでは行かずとも、成功と思ったかもしれない。
でも、今は違う。今は絶望。
もしもアレをされたら、たとえ生き残れても、キラリとの大切な記憶を失ってしまう。
キラリを忘れてしまう。
ヘルガヌス「マリーネ、諦めるな。もう一体被験体がおるじゃろ。もっと綿密に調整をしろ。」
ポリーンはもうポリーンではないかのように、楽しそうに実験室をパタパタと動き回っている。
ポリーンだった何か「ねぇ、ねぇ、これ、面白いわよぉ。オレンジのおばさんもやってみなよー!」
今度はデズモアも参加し、カリーナを押さえつける。
この様子を見ると、化け物もある意味で協力的な様子だった。
つまり何がしかの心は残っているのだろう。
カリーナ「マリーネ、頑張って調整しなさい。私で実験して、貴女だけでも助かるのよ。命って意味でも、記憶って意味でもね!そうすれば——」
マリーネの精神状態はめちゃくちゃだった。
記憶障害。
それを除けば成功なのだ。
ポリーンだったものは、あんなにも楽しそうにしている。
ならば、ほんの少しミスをしただけなのだ。
欲しかった若さが手に入る。
肌にハリも戻り、皺も消える。
当時のはち切れんばかりのポリーンの胸も、羨ましいほどに若さを取り戻している。
マリーネ「分かった。絶対に記憶を無くさせない。カギッコホネッコ———」
彼女は綿密に計算した。
事前に採取した血液から成分を逆算する。
でも、ポリーンの配合から大きくズラしてはならない。
カリーナは西の大陸の血の分量が多い。
従兄弟であるルキフェとある意味で同じだ。
ミスればああなってしまう。
知性の理性も感じさせない化け物に……
マリーネ「カリーナ、ごめん‼」
勢いよく、正しいはずの配分を彼女に注入する。
すると彼女も美しいマーブル柄に染まった。
だが。
カリーナだった何か「おや?私……、何をして……。あら、貴女のそれ、美しいわね。それに羨ましいほどの胸。もうボロンって飛び出しちゃいそうだから、ボロンって呼んでいい?」
ボロン「いいよー。じゃあ、貴女はえっと……、さっき、『カ』なんとかって言ってた気がするから、カロンね!」
ヘルガヌス「やはり……、記憶が……。マリーネ、分かっているな?」
もう、マリーネに考える意志はない。
どうでも良くなってきた。
だって、目的は達成しているのだから。
大成功だ。
人類の新たな歴史が始まるのだ。
だから、自分が最後の被験者になろうとも構わない。
ただ、さっきから頭から離れない笑顔がある。
でも……
マリーネ「ごめんね。そしてさようなら
——キラリ」
マロン「きゃはははは。へー、カロンとボロンっていうのねぇ。うーん、ロンがついて可愛い名前ぇぇぇ。うーーん、マロン!私、マロンにするぅぅぅぅ!!」
後にエルダーヴァンパイアという種族名がつけられる三体の悪魔。
彼女たちは楽しそうに研究室の中を飛び回る。
まるで、これが正しい結末だったかのように。
そして、その一部始終を見ていた化け物が、『お注射』を自らに刺してレバーを引いた。
その化け物の形がみるみる変化していく。
元化け物「なーるほど。記憶は戻りませんが、こっちの方がずいぶんマシですね。っと、でもなんでしたっけ。僕は何をしようとして、それに彼女たちのように名前があった方が……。であずもー、うーん。かっこよくない。ずもあで?いやいや、あずもで……。そうですね。僕はアズモデってことにしましょうか。それに、先の状態にも戻れそうな……。ふふふ。何やら楽しいことになってきましたねぇ。」
ルキフェも若かりし頃の体に戻り、不気味な笑みを浮かべている。
そんなアズモデをヘルガヌスは驚愕して見ていた。
彼は順番を間違えたのだ。
というより、ルキフェ。
知性を失った筈なのに、反射的にマリーネと同じ配分量のものを注入し直した。
かろうじて知性が残っていたのか、それとも本能か。
アーノルドの甥と姪だ。
配分が近いことは明らかだった。
だから、化け物から理知的な進化体へと生まれ変わった。
ただ、記憶はやはり失われているようで、ヘルガヌスとしても迷うところだった。
もっと研究し、そして完璧な状態で臨むべきだろう。
実験はほとんど成功したようなものなのだ。
だから一旦出直す
……筈だった。
マロン「これ、なんかすごい機械ね。えーっと、これをこうして……」
カロン「ええええ、マロン。すごい!もう、それが何かわかっちゃったの?」
ボロン「あらあらぁ。マロンは優秀なのね。じゃあ、マロンがお姉さんってことにしましょ?」
ヘルガヌスは青ざめた。
極太の針が自分の背中に突き刺さっているのだ。
しかも配分が違う。
このままでは……、と、助けを求めようとしたが、そこにはもう誰もいなかった。
マロン「えい!」
そしてヘルガヌスの体もマーブル模様になる。
ただ、彼も元は王家の人間である。
だからある程度配分は合っている。
それがすこーしだけズレただけ。
だから彼のみ老人の姿のままではあったが、それは決して失敗ではなかった。
アズモデ「なるほど。これはこのような生物を、僕たちのようにする機械なのですね。ふふふ、色々使えそうじゃあないですか。それにしても……、貴方は僕たちよりも偉い方、のように見えますね。もしかして王様?」
ボロン「うーん、ヘルガヌスって服に書いてない?じゃあ、ヘルガヌス王ってことかなぁ。」
ヘルガヌス「ふむ。そうなのか……。そうだったような気もするのぉ。よし、何やらよく分からないが、皆の頂点に立たなければならない気がしてきたぞ。まずは……」
キラリの姿はチョリソー漁港にあった。
そして隣にはヘンテコなマシーンがウィンウィン言いながら周りを見回している。
キラリ「へぇ、僕はキラリっていう名前なんだ。んで、君は誰?」
DSW-01「DSW-01。掃除、洗濯、家事ニ教育。ナンデモゴザレノ万能ロボ、デス!」
キラリ「ふーん。よくわかんない。で、この船に乗ればいいの?おじいちゃん!」
DSW-01「ソウ。海ノムコウ。デスモンドガ適切。ロボノメンテナンスノドウグモテニハイル。大丈夫。オ金ハアル。…………チガウ、オジイチャンジャナイ。」
キラリ「うーん。つまりは僕のお世話をしてくれるんだよね?君。そういうのって、お父さんかお母さんって気がするけどぉ、なんか、お母さんって言っちゃいけないきがするんだよね。」
DSW-01「ナラ、オトウサン!」
キラリ「おじいちゃんだよ。なんとなく、そういう気がするからぁ。あ、船が来たよー!」
♧
レイは体に物凄い衝撃を喰らっていた。
しかも額をどこかに強打したらしく、とてつもなく痛い。
どうやら盛大にベッドにダイブしていたらしいが、その時額に何か……。
いや、キラリのメガネが割れているから、キラリの顔がぶつかったのだろう。
彼女の顔に痕が残っては不味いと瞬時に回復魔法を施す。
施しているのだが、さっきから圧迫感がすごい。
レイを挟んでマロン、カロン、ボロンがキラリに抱きついている。
四人がレイを挟んで抱き合おうとしているのだから、押しつぶされて当然だ。
どうやらMKBは最古参。
それにキラリは半分魔族にして、勇者パーティ。
魔王でなければミンチになった方がマシまである。
で、さっきからガラス片が額に刺さって痛痒いのだが、あんなのを見せられて動けるはずもない。
「ごめんね……。本当にごめんね、キラリ。私、なんで忘れてたのかなぁ。大好きなキラリなのに……」
「ほんとだよー。キラリー!私、バカでごめんー!」
「私も!私も!キラリー!大好きだよー!」
おや?おやおや?
今までと流れが違う。
でも、この方が絶対に良い。
っていうか、自分がいない方が良いのでは?感さえある。
「僕もだよ。こんなに大好きなお母さんが三人もいたのに……、僕はずっと一人きりって思ってた。でも……、こうやって思い出せた。それに……」
レイはさすがにお邪魔虫。
これは抜け出すに限る。
幸い、物凄い圧力がかかっているので、その勢いでポンっと抜け出せそうだ。
でも、なぜか抜け出せない。
何故かっていうと、キラリがレイの服を握りしめているからだったりする。
「僕には三人のお母さんがいて、……不本意ですがお母さんとレイは結婚している。つまり、レイは僕の旦那さんであり、お父さんってことになります。でもこの際不本意は取り消します。僕は今、すっごく幸せです!」
その言葉でようやく、レイは圧力から解放されて、全員で座り込む。
だが、キラリとMKBが不思議そうな顔でレイを覗き込んでいる。
「ん?」
レイは気付けない。
いや、過去創造が長すぎて忘れている。
そしてカロンがにやぁーーっとした顔で、その訳を話してくれた。
「もぅぅぅ、魔王様ぁぁぁ。演出が憎い!憎すぎですよぉぉぉ!いつから用意してたんですか⁉そんなことされたら、もっと好きになっちゃいますぅぅぅ!」
「ぼ、僕としては不本意ですが、不本意以上に嬉しくもあります。そういう展開、レイ、好きですもんね。」
なんて言われるものだから、やはりレイは首を傾げる。
するとボロンがボロンと鏡を取り出して、レイに手渡した。
そして彼は手鏡を見るのだが、この展開……、何か見覚えが……
確か。
あの時、焼き土下座をして。
Mと焼きごてされた時に手鏡を。
でも、ラビが言っていた。
魔王だから旅の終わりには戻る。
それは確かにその通りだが、まだ終わっていない。
終わっていないが終わりそうだから、それはほとんど治っていて
傷の部分の端が消えかけて「ハハ」に見えなくもなく
さらに先ほど割れたキラリのメガネのガラスが、レイの鏡でみるとそれぞれの「ハ」の左上にあるわけで。
そしてそれは鏡に映っているのだから、左右反転した結果。
「パパ……?」
(え⁉ あの焼き土下座の茶番、ここで回収すんの⁉……いや、待て。キラリ、さっきなんて言った?そういう展開も好き? 違うから!それはあれだから!フィクションのやつだけだから!いや、そういう意味じゃなくて、日本の法律では——)
と、心の中で盛大にツッコもうとした時には既に遅く、マロンもカロンもボロンもキラリも再びレイに抱きついていた。
そしてキラリがこう言うのだ。
「僕、レイしかいないって思っていたから、ラブなんとかが使えたんだと思います。でも、今は違います。僕にはDSW-01がいて、仲間もいて、そしてお母さんもいて……。今思えば、人か魔族かは置いといて、とにかく結構います。でも、ぜーーーーんぶ合わせても、……レイが世界で一番好きです。」
というのがキラリエンドの顛末。
兎にも角にもとんでもない展開になったものである。
ゲームの後付けが?こじつけが?
いやいや、とにかくお気づきの方も多いと存じますが、主人公のレイにはまだまだやるべきことが沢山残っています。
その真実がどうにも危うい。
「不味い!それだけは不味い!今のがこの世界の歴史創造だったとして、真実になったのだとしたら相当不味い!次回、マジで不味いことになるじゃん!」
でも、今はまだキラリの回。
「レイ、僕の前で他の女の話、しないでもらえます?」