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ゴールドドロップ


          ♤


 あれから5年、研究施設は王族の監視を逃れて研究を続けていた。


 ヘルガヌスが辿り着いた結論は至極簡単だった。

 光と闇のメビウス、そのどちらも神であり、どちらも創造神ということ。

 アーマグ大陸は闇のメビウスの力で生まれたということ。

 そしてドラゴニアが辿り着く前から人間が住んでいたということ。


 ——そして何より、全てのものは光と闇のメビウスのカケラで作られていること


 それを踏まえて考えると、黄金石の分量、ダークマターの分量の比率が間違っていたことに気がついた。

 まず、黒曜石のような漆黒の石。

 石油と呼ばれているダークマターだが、あれも認識が違っていた。

 漆黒の石こそダークメタル、闇の欠片であり、そこから溶け出したものが石油と呼ばれて、無駄に重宝されていただけだった。


ポリーン「だから当然、できそこないしか出来なかったってわけですね。それにしても、隠れながら研究って辛いですね。月に一回くらいしかエクレアにも王都にも行けない生活は肌に悪くて……」


カリーナ「ほーんとにそれ!ってか、どんどんおばさんになっていってる気がする。で、純度はほぼ100%。でも、100%じゃないんだよねー。それに、動物実験をバンバンやりたいけど、肝心の黄金を王族に抑えられているからなぁ……。でも、マリーネちゃんって嫁入り一歩前だったのよね。司祭の嫁の座を断れたのって、あいつの力ってことよね。一体どんな手を使ったのかしら。」


マリーネ「あのじじいのおかげみたいに聞こえるからやめてよ。ちゃんと別の後ろ盾があっただけ。それに修道院連中も王族からの介入は嫌だったみたいよ。それにしても、あいつ、エルザちゃんに何をさせるつもりかしら。」


 王アーノルドの弟デズモアがマリーネの修道院行きを阻止してくれた。

 無論、デズモアとヘルガヌスが裏で何か画策しているのは知っている。

 デズモアはマリーネにとって叔父にあたる為、親戚の後ろ盾があったと言えないこともない。


 エルザは————、————。だから———、————。


 つまり—————————。


 よってヘルガヌスの言うことには逆らえない。


(なんだ? 今、ナレーションがおかしかったよな? ここまであからさまに『埋まっていない七並べ』を演出するようになってきたのかよ。つまり、彼女については『手作りのアイザエンド』で見ろっていうことか。そんなとこまで空気読むの、これ?……っていうか、全くもって意味不明な能力になってきたな。サイコメトラーとでも呼ぶべきなのか?でも、これはゲームだぞ?)



 だからエルザは基本彼女たちと一緒にはいない。

 時々ふらっとヘルガヌスが顔を出した時に、ついてくる彼女と挨拶をする程度だ。

 そして、呼びもしないのに、今日も再び彼は現れた。

 彼は何を思ったか、テーブルの上に大量の金貨をばら撒いた。


カリーナ「ちょっと、辺境王?私たちのテーブルを散らかさないでくださいよ。ってか、何?これ。金貨? もしかして、これで私たちを買うつもり……?変態だとは思っていたけれど、やっぱり変態だったのね。」


マリーネ「カリーナ、ちょっと待って。これ……、今までの通貨とデザインが違う……。ほら、ドラゴニア王の横顔じゃなくて、女性の顔……、たぶん女神メビウスを象っているのかしら。いつのまにか、金貨のデザインが変わっている? それに……、なるほど。」


 マリーネはその金貨を入念に調べ始め、一人でうんうんと頷き始めた。


ポリーン「マリーネ様。一人で納得されないで、私たちにも説明してください。何か、おかしな点でもあるのでしょうか?金貨のデザインの変更なら今までも行われていたような気がしますが……」


 マリーネはそんな不平をいうポリーンにピンと指で弾いて金貨を渡した。

 そしてポリーンも彼女が感じた異和に気が付くことになる。


ヘルガヌス「いやはや、デズモア殿はよほどアーノルド王のご機嫌取りがお上手でいらっしゃる。よもや、このような施策を王にとらせようとは。」


 自分以外の皆が金貨の話で盛り上がっているので、カリーナは頬を膨らませてテーブルにある金貨をむしり取った。

 そして彼女もやはり気が付く。


カリーナ「これ、とんでもない純度じゃん。魔力の伝導率も尋常じゃない。そんな金貨がこんなに?」


ヘルガヌス「デズモア殿はこう仰った。女神のカケラを用いた研究を、今も辺境では行っている。だが、王もご存知の通り行き詰まっている。ならば金庫に大切にしまっておくなど勿体ない。金は流動させてこそ価値がある。アーマグのみならずエステリア大陸の最西端にまで行き渡らせるべきだ。人は信仰心や忠誠心よりも、金に心を踊らせるものだ、とな。」


マリーネ「へー。そりゃ、うちの現状の報告どうも。確かに行き詰まっているわね。でも、そんなことをすれば黄金の価値が薄れてしまうわ。国民には王が莫大な量を抱え込んでいるなんて、教えていないもの。下手をすれば王家の権威が失われてしまうし、下手をしなくてもハイパーインフレを引き起こすんじゃなくて?」


ヘルガヌス「当然王も同じように反論された。流石、王の姪でございますな、マリーナ嬢。だが、一歩足りない。デズモア殿はその反論に明快なお答えをなさいました。未だに西では物々交換が当たり前。それでは物流が滞って当然。経済とは、国の成長とは人が動いてこそなのだ。このままでは椅子に座ったまま未来を夢見る少女になってしまうぞ。と、えらく強気に発言をされておったな。そしてこうも仰っておられたな。偽物を作る輩がいる可能性がある。特にヘルガヌスが怪しい。だから最高純度で作る方が良いだろう。紛い物の金属が入っていれば、魔力で直ぐに偽物だと気付けるからな、とまぁ、私まで悪者にしてしまう始末です。いやはや恐れ入る。」


カリーナ「でも、価値が下がることには違いないじゃん。経済とか人が動くとか意味わからないんだけどぉ。それで王様が首を縦に振るとは思えないよー。」


 カリーナそう言いながら、こっそりと金貨をポケットにしまおうとした。

 が、それをポリーンに見られて、そっとテーブルの上に戻した。

 ただ、その様子を見ていたヘルガヌスはこう言った。


ヘルガヌス「どうぞ、お持ちください。それは貴女方に差し上げます。デズモア公、彼は天才ですな。一時的に大量に金貨を配ることで、大陸本土の経済スタイルを金貨一色に染めてしまう。そして人々は金貨を使った新たな商売、それこそ大量受注に大量発送といった今まで出来なかったことが可能になるでしょう。そして人々は金貨なしでは生活もままならなくなる。」


 ヘルガヌスは朗々とマリーネの叔父の素晴らしさを語る。

 そして三人の女性もヘルガヌスの真の目的に少しずつ気づき始める。

 そんな中、ヘルガヌスは言った。


ヘルガヌス「ただし、金脈を持っているのも、濃縮技術を持っているのも王家のみ。一度民に金貨のある暮らしをさせた後に価値を引き上げれば良い。それが出来るのは王しかいないわけですから、永遠にアーマグも西の大陸も支配できるというわけです。つまり……、この施策は飴を大量に配った結果、金貨中毒にさせるという長期的な計画というわけですな。」


 王家のみが巨大な金鉱を持っているからこそ出来る遅効性の毒。

 彼の言いたいことは理解できる。

 王が頷いた理由も理解できる。

 本来、資産としての金はさほど貴重ではない。

 それは王家が独占しているから。


 ただ、それをこの場で朗々と語る理由が、そもそも一つもないのだ。



 ——つまりこれは


マリーネ「私たちが大量に純度の高い金貨を持っていても、全く問題がないということ。全く、手の込んだやり方を。叔父様がこんなに不老不死を望まれていたなんてね。」


ヘルガヌス「そうですなぁ。でも、この計画の立案者は息子のルキフェだそうですよ。末恐ろしいですなぁ。」


 なんて言いながらも、彼の顔は怯えていない。

 当然だろう、全て計画通りに進んだ証拠が、目の前の金貨なのだから。

 そして彼は続けてこう言った。


ヘルガヌス「先日のモルモットはまだ使えない状況になりました。どうやらそれなりの血筋だったらしく、失敗があり得るうちは使わないことにしました。でも、ご安心ください。ちゃんと代わりを用意していますから。まだ、その時ではないでしょうが、私も忙しい身ゆえ、こちらで面倒をみてやってください。あぁ、心配ないですよ。まだ一歳にも満たない赤子ですが、しっかりと闇の遺伝子を引いています。最初の人体実験としてはちょうど良いでしょう?」


 そう言って彼は漆黒のような黒い髪の赤子を残して消えた。


 マリーネもカリーナもポリーンも、彼の言葉『人体実験』という言葉に震えていた。

 いつかはしなければならないと思っている。

 でも、失敗すれば、確実に死ぬ。

 ヘタをするとスラドンのようなデロデロな何かになってしまう。

 その時、果たして意識があるのかないのか……。


 そしてアレが消えたのを確認してから、マリーネは赤子を抱きながら呟いた。


マリーネ「闇の配分が多いから、黄金の配分を多めにする……。だから実験体の中でもやりやすい方ってこと?……でも、そんなのまだほとんど動物実験もできていないのに。私はこの子にそんな真似をすることになるの?」



 そして彼女たちの研究は始まった。

 ダークメタルはエクナベル家長男の姪であるカリーネが、いくらでも調達出来る。

 そして女神の欠片こと黄金は既にどの町に行っても手に入る状況になった。

 だから、いくらでも

 いくらでも……


マリーネ「なんてことはない。これだけの純度があれば。液化したダークメタルを容器に満たすだけで十分。それだけで『神』に近い存在になれる。見てよ、これ……」


 そう言って彼女はコウモリの体に注射針を刺した。

 ダークメタルは金属と液体、両方の性質を持っている。

 その中にぽちゃりと金貨を入れる。

 すると一度金貨はダークメタルに溶け込み、『全』となる。

 それをコウモリに注入すれば……


カリーナ「簡単に別の生き物に変わっちゃう。でも、これがコウモリの神なの?ぷかぷか浮かんだ風船みたいにしか見えないけどぉ?」


ポリーン「私が開発したカギッコホネッコ、大活躍です。遠心分離と抽出を同時に行える。それに鍵番にもなってくれる。」


カリーナ「鍵番の意味ある? いや、あるわよね。結局、内緒でここまで来ちゃった訳だし。そういえばポリーンって王様にも何か献上したんだっけ?」


ポリーン「はい。一応、王族に忠誠を誓っている立場ですから。ただのフリですけど。」


 そして、マリーネは後にコウモリんと名付けられる個体にナイフを刺した。

 すると不思議なことに、そこにはコウモリの残骸と『金貨』だけが残った。


カリーナ「あれ、ダークメタルは? 私が調達したダークメタルが消えちゃったんだけどぉ」


マリーネ「そう。闇の力はどこかへ消えてしまう。やっぱりこの世界は闇のメビウスより光のメビウスの方が主導権を握っているってことかしら……」


 その時、どこかでガラスが割れた音がして、数秒後に赤子の泣き声が聞こえた。

 泣き声と同時に、マリーネは持っていた資料を全て投げ出した。

 そして、泣き声の持ち主のところへ駆け寄った。


マリーネ「キラリ!大丈夫⁉ 怪我は……、うん。これなら回復魔法で……。ってダメでしょ?ここは危ないから来ちゃダメって……」


キラリ「だってぇ。でぃーえすだううーが、いぢわるずるんだもん。」


 DSW-001、マリーネたちが開発した家事専用ロボである。

 それに、ある程度人語も理解できるように設定しているため、キラリの面倒見ロボでもある。


マリーネ「そう、DSWがまた暴走したのね。一緒に仕返しにいきましょう!」


キラリ「ほんとぉ?ありがとぉ、ままぁ!オレンジのママもブルーのママもいっしょ?」


カリーナ「うん、後からいくからー」


 とカリーナが言った頃には、マリーネとキラリの姿はなかった。


ポリーン「確かに、子供がいてもおかしくない年齢ですもんね。私たち。むしろ遅いくらい……」


カリーナ「あれ、ポリーン。もしかして家庭的なの夢見てる?」


ポリーン「ええ。いつか旦那様とぬるぬるしっぽりプレイがしたいですし。って、何言わせているんですか。それにしても、マリーネちゃん、どーしてあの子のこと、キラリって呼ぶのかしら。」


カリーナ「さぁね。おし、それじゃあ私たちもキラリと母娘ごっこしにいこっか!」



 キラリとの生活は悪くなかった。

 彼女たちは研究者としての時間があまりにも長すぎた。

 だから、キラリのことを実の娘のように可愛がっていた。



 その時ばかりは、彼女が人型被験体第一号だということを忘れて……


          ♤


(あの……、ちょっといいっすか? 完全に別小説になってますよね? っていうか、バカ丁寧か?RPGの敵がコイン落とす演出を懇切丁寧に説明すんのな!都合良すぎませんか? ってか、やっとキラリ登場って、何話目だと思ってるんですかねぇ!それにしても——)


「ま、魔王様!さすがに、魔王様の力だとちょっと痛いっていうか……。いえ、決して激しいプレイが嫌いなどと申しているわけでは……」


(ですよねーー!俺もなんか握ってるって思ってましたー!しかも感覚残ってないのも同じ!なんで今回も俺はノーリターンのセクハラしてるんだっつーの!)


「レイ、先ほど僕を押し倒しておいて、別の女の胸を弄るとは失望しました。やはり僕の胸では満足できないということですね。あーあ、やっぱり僕には魅力がないんだ。」

「違うから!ってか、俺、なんで毎回胸揉んでんの? 回想入る前、そんな描写なかったよね⁉」

「はぁ……。無意識に女性の胸を揉むとか、今後の新婚生活が心配でなりません。あ、これ、嘘です。単純にレイを介さないと、その過去創造ってやつができないだけです。マロンお母さんにそのつもりがあったかは分かりませんが。あれ?これレイが好きなやつじゃないですか? 親子——」

「キラリさん⁉ ちょーーーっと待った! なーーんで、俺の前世の記憶知ってんのかなぁ?って、違うからね!この世界には、ぜんっぜんそういうのないんだから!」


 そう言っていると、マロンがへたりと座り込んだ。


「すみません。これ以上進むと、胸が締め付けられそうで……、実際に魔王様に締め付けられていましたけど……」


 するとカロンが……


「じゃあ、今度は私の胸を」


 さらにボロンが……


「やはり一番大きな胸の方が」


 そしてキラリが……


「お母様方、いくら母娘といえど、僕の家で僕の旦那を誘惑しないで頂きたいです。……だから、ほら。お母様方には負けますが、僕のをどうぞ。」


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