キラリのエピローグ
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黒髪の少女はデズモアを睨みつけていた。
激しい戦いのせいで、メガネは既にどこかに飛んでしまっている。
一進一退の攻防……
でも彼女にとっては別の意味での戦いであった。
彼女の瞳は金色と黒に明滅しており、魔力がほとんど尽きているのだと分かる。
黒髪の少女「あと少し……、あと少しで僕は!」
そう言って彼女は、その小さな体に詰まった魔力を全て右手に篭めた。
ただ、その魔力が集まって光り輝いていた細腕は、突然その力を失ってしまう。
そこには彼女の腕を握る勇者の姿があった。
光の勇者「キラリ、もういい。十分だ。俺がお前の気持ちを全部受け止めてやる……。だから……、もう復讐なんて考えないでくれ。」
キラリ「でも!勇者様だって、復讐するためにここに来たんでしょう!」
その言葉に勇者は言葉を詰まらせる。
今でこそ、勇者として戦っているが最初はひどいものだった。
でも……、それでも彼女を止めたいのだ。
だから彼は無言で、少女に断りもなく、デズモアにとどめを刺した。
キラリ「あ……」
光の勇者「復讐心は全部俺が抱えてやる。キラリに復讐心は似合わない。だって、俺はお前の笑顔を見てしまったから……。この笑顔を一生かけても守りたいって思ってしまったから……。」
そう言って、光の勇者は邪神の体からゆっくりと剣を引き抜いた。
デズモア「ガハッ……、こ、これが……、真の愛の力…………、なるほど、私にはない人間の力……か…………」
邪神は頭からチリとなって消えた。
まだ、お互いに確認しあっていない二人、でも確実に育まれた二人の愛の力に邪神はどうすることもできなかった。
そして金色の勇者は黒髪の少女の腕を引き、自身に引き寄せた。
光の勇者「終わったんだ。全てが……。だからキラリはもう、そんな顔をするな。俺はお前の笑顔が大好きだから……。よく分からない機械をキラキラした目で見せつけている姿もすきだし、意味不明な発言をしている時の顔も好きだけどな。」
彼の言葉に少女の金色の目は、次第に普段の暗いトーンの黒色に戻っていく。
そして唇を尖らせてこう言った。
キラリ「それ、褒めているんですか? 僕を変人扱いしてません?でも、こんな変人がお好きなんですね、嬉しいです。」
彼女は頬を染め、彼に寄りかかった。
そして彼は彼女を抱きしめた。
彼女が魔族を憎んでいるのは知っている。
でも、その理由は知らない。
勇者「あぁ。好きだ。誰にも渡したくない。他の誰も見てほしくない。たとえそれが復讐の目だとしても、俺はその悪魔に嫉妬してしまうんだぞ。」
ただ、今はそれでいい。
愛する女性がこんなにも愛おしいのだから。
キラリ「ほんと……、物好きもいいところですよ、勇者様。僕は他のみんなみたいに可愛くないですし、それにスタイルだって……。あ、アイザちゃんには負けませんけどね!」
アイザ「ちょっと!どうしてアイザの話が出てくるのら? アイザはまだせいちょうとちゅーなのら!!妾はいつかばくぬーになるのらー!」
その掛け合いに勇者のみならず、周りのヒロインは驚きが隠せなかった。
キラリは口数が少ないが、特にアイザと話そうとしていなかったように見えたからだ。
キラリ「んーー。魔族でも1007歳ってすでに成長終わってると思うんだけど。でも、ごめんなさい。今まで、僕は魔族に囚われすぎてたみたいだ。でも今は……」
その言葉に嫌な予感を感じたアイザは、トタトタとゼノスの後ろに隠れてしまう。
ゼノス「あー、確かに俺とも目を合わせてくれなかったよなぁ。ま、別に俺は気にしなかったけどな。人間が悪魔を憎む……、当然じゃねぇか。ま、でも俺の姫さんが怯えているんだ。キラリさんよぉ、今はどう思ってんだ?」
ゼノスも悪魔には違いない。
厳密には竜人族というどちらともとれる存在だが、竜人族そのものは魔王軍に協力していたので、魔族と言われても文句はない。
ただ、後ろでくいくい引っ張ってくる、すごーーくかわいい存在。
目に入れても痛くない存在。
舐め回してやりたいお姫様がいるので、今日はキラリに突っかかった。
すると、キラリはゼノスにこう言った。
キラリ「僕は勇者様しか見えない。だから、君たち、いや他の仲間達も勇者様以外の人としか思えないかな。でも、ありがとう。僕も前を向いて歩けそうだよ。勇者様のおかげで。」
アルフレド「あぁ。その前にはいつも俺がいてやる。俺以外を見るなよ。好きだぜ、キラリ。」
キラリ「うん。僕も生物学的に勇者様の遺伝子が欲し……
——その瞬間、女神が祝福の鐘を鳴らした。
そしてパラパラと拍手が二人に浴びせられる。
フィーネ「良かったぁぁ。キラリ、今すごいこと言おうとしたわよ? ちゃんと自覚あるのかしら。科学的に言っても下ネタは下ネタなの!それに、私だって復讐のために旅立ったのよ。キラリと同じようにね。だから私もキラリの気持ちをなんとかしたいとは思ってたの。でも、やっぱ勇者様には勝てないわね。おめでとう、二人とも!」
エミリ「え⁉え⁉おめでとうって、今の鐘ってそういうことなの? アタシはてっきり、ただ女神様が祝福しただけかと思ったけど……。うーん、アタシもキラリと同じだったもんね。そしてアタシが立ち直れたのも勇者様のおかげだし。いいよなー、悲しいようなー」
ゼノス「まぁ、あれだ。俺たちも人間を憎むべしと押し付けられていたのも事実だったし、実害が出ていたのも事実だ。だから、仕方ないことだとは思っていたが、これで少しはキラリの笑顔が見れるようになりそうだな。キラリのちょっと慎ましいスタイル、俺はきら——」
アイザ「ぎゃーー!やっぱぜのすはろりこんだったのら!あいざの魅力じゃなくて、ただの変態だったのら!」
マリア「アイザちゃーん。ゼノスは最初から変態だよー。ってか、ここって教会だったのね。うーん……、ってことは、今、女神様の前で愛を誓い合ったってこと⁉」
リディア「そうですよ。ここは本来、式場だったのです。多くの人々に見守ってもらえるよう、とんでもなく大きく作られたとか……。ですが、今は私たちだけですね。せっかくだから他の方々も……」
キラリ「リディア、僕には家族はいないから。それに……、ね。」
勇者「あぁ。俺もキラリと同様に家族はいない。でも、みんなのことを家族だと思っている。だから、これでいいんだよ。勿論、キラリが1番の家族ってことになるけどな。そこは許して欲しい。」
キラリ「アルフレド、家族という呼び方もいいけど、僕は別の呼び方がいいかな。」
勇者「あ、そう、そうだな。これからもよろしくな。我が妻、キラリ。」
そして数ヶ月後……
という言葉がこの後に現れる。
キラリの姿はデスモンドの自宅にあった。
そこでドラゴンステーションワゴンの研究をするのだという。
自動化できていたのは魔族の魔道の力だった為、人間ならではの方法を模索しなければならなかった。
キラリ「うーん、誰でしたっけ。この三つのスイッチを器用に扱ってたの……。」
勇者「いや、俺もよく覚えていないんだ。そもそも運転席側は見たこともないし。」
キラリ「そうでした、そうでした。旦那どのはいつもいつもいつも、ソファに座って女をはべらせていたのでした。そして僕は隅っこに座っていたのでした。」
勇者「違うって!ほら、すぐ隣よりも遠くの方がよく見えるじゃないか。俺はいつだってキラリを見てたよ。ところでなんで二本しか足がないのに三つもスイッチがあるんだ?」
キラリ「そう!そうなのですよ。一体、どういう構造なのやら。——って、まーた、はぐらかしましたか。僕の人間破壊爆弾が爆発しないように心がけるべきですね。」
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「そしてこのあとがスタッフロール。ちなみに最後の一枚絵は以前も話したと思うが、カギッコホネッコらしきロボットが背景に映り込んでいる奴だ。勿論メインはステーションワゴンの前に立つ勇者とキラリと仲間達。その時のキラリはいつもの仏頂面をやめ、屈託のない笑顔になっている。キラリはどうにも俺の世界線だと目立たなかったけど、実際は結構人気なんだよなぁ。僕っこだし、ちょっと電波だし、子供っぽいところとか、その他諸々あるしで——」
レイはキラリを迎えに行く途中、ドラゴンステーションワゴンを見かけて、そんな思い出話な独り言を語っていた。
ただ、そこまで話したところで、ふぅとため息をついた。
「この世界を俯瞰しているプレイヤーがいたとすれば、今話したエンディングに違和感しか感じないだろう。事実、この世界でのアルフレドとキラリの好感度はそれほど高くない。どっちかと言えば、強制力でついてきたようなものだ。無論、公式に明かされていない魔族に対する激しい憎悪もあったんだろうけどな。でなきゃ魔物破壊兵器なんて物騒な名前をロケットランチャーにつけない訳だし、実際に酷いほどに爆散するし……」
彼は車のボンネットに肘をかけて、どうしたものかと考え込んだ。
「彼女が魔族を恨んでいる様子は、キラリルートに入らなければ分からない。だから他のルートだと、彼女はただのサイコパス電波娘だ。ちなみにキラリの尊厳を守るために言っておくと、彼女とアルフレドのラブコミュニケーション技は全然下ネタじゃないからなぁ。キラリはキラリルート後半になると、瞳の色が金色になって魔力は倍増する。そして二人で共に『愛のためにわがままに!!』っていう、結構アウトな限定魔法を唱える。」
そう、彼女も魔法が使える。
スキル技だけが彼女の武器じゃない。
ただ、今回の世界ではその力が解放されなかった。
「っていうか、ラブコミュニケーションそのものはプリレンダリングされていないから、ほとんど全員が俺の時とは違うモーションだったわけだけど……、あれ、ソフィアさんだけ、ほとんど一緒じゃね? ぬー、ソフィアぁ……、俺以外に何人もの勇者と……。いや、前の世界線の俺だったわけだし、俺もやってもらったし、今は置いておこう。とにかく、この世界線だと、キラリはかなり歪んだ状態だったろうなぁ。そして、その歪みを解消するためにも、彼女についてのバックボーンを紐解かないとな。」
そしてレイは、ガシャンガシャン動くカギッコホネッコの上でぼーっとしているキラリに話しかけた。
「おーい、キラリ。今からデスモンドに向かうぞ。」
「デスモンド? 僕の家に一緒に行ってくれるの? てっキリ魔王様は僕に興味がないんじゃないかって思ってたけど。きっと魔王様なら僕が魔族を恨んでいることを知ってるんだろうなーって思ってたから。」
そう言いながら、キラリはカギッコホネッコのスイッチを切り、5mくらいの高さから飛び降りてきた。
「そんなことはない。俺はキラリのことをちゃんと好きだぞ。だから、プロポーズイベントにキラリもいたわけだし。ラブコミュニケーションもガチの下ネタだったができた訳だ。っていうか、寧ろ魔族嫌いのキラリとラブコミュニケーション出来たことに俺が驚いていたんだけどな。」
それは本当にそうだ。
キラリとは残念ながらほとんど接点がなかった。
ちょうどレイが死ぬタイミング。
レイと入れ替わりでキラリはパーティに参加する。
そしてレイはその後すぐにアイザのイベントに突入した。
だから、キラリとレイの好感度が上がっていた、という方が不思議だった。
「それは、その。僕にはレイしかいなかったから。ほら、あの時。えっと……エクレアの街でレイは僕のことを全部知っているって言ってくれたから。その上で優しい顔で……その……、微笑んでくれて……。僕、本当にあの時辛くて……、それに全部知ってるってことも嘘じゃないってスコープ見たら分かって……。それでもレイは僕に優しくて……。だからレイだけは魔族でも人間でもどっちでもよくて……。だから、僕はここまで頑張れた。ちゃんと我慢できた。全部、全部、レイが本当の僕を知っててくれたから……だよ?」
憶測が本当の世界になるのなら、彼女にとってこの世界は辛すぎる。
彼女ともっと一緒にいられたらどれだけ良かっただろうかと、今更ながら思う。
けれど、結局あのルートしか世界を守れなかった。
だからってこれくらいで彼女へのお詫びになるとは思わない。
それでも、レイは泣きながら話すキラリを抱きしめた。
「そっか。だからこそ、デスモンドに行くんだ。キラリも知らないキラリを知るために!」