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ソフィアだけのハッピーエンド

          ???


レイ「ソフィア、お前にはマーサという厳しくあるが、しっかりと面倒を見てくれた先輩がいたんじゃないか?あの真面目なアルフレドだ、寄り道なんてしてくれなかっただろ。 だからソフィアも戦いが続く中でここには戻ってきていないんじゃないか? あれだけお世話になっておきながら、ここに来てからも一度だってマーサ(・・・)さんのことを口にしないじゃないか。あれだけお世話になったんだから、ちゃんと挨拶しないとダメだぞ!この修道院で唯一お前の味方をしてくれた大切な方なんだろ。」


 レイはソフィアの過去を知っている。

 それは当然設定資料集を熟読しているからだ。

 ちなみに何度も言うが攻略サイトは断固見ていない。

 ネタバレが嫌とかじゃない。

 単純に自分の力だけで女の子を落としたいからだ。


 レイが過去を懐かしんでいると、ソフィアは少しだけ考える仕草をして、すぐに目を剥いた。


ソフィア「本当ですよ!私、どうして忘れていたんでしょうか。レイ、ごめんなさい。私、ちょっと行ってきますね!」


 少女はエメラルドグリーンの髪を振り乱しながら、瓦礫だらけの大部屋の奥へ走っていってしまった。


アズモデ「魔王殿。これはいったいどういうつもりですか? 確か、彼女は——」


レイ「お前こそ何を言っているんだ?記憶が曖昧で混乱しているんだろ。ソフィアはマーサに挨拶に行った。今だからこそ、俺はお前に言いたいことがある。」


アズモデ「ようやく……ですか。わざわざ僕を呼んだのです。必ず何かあるとは思っていましたがぁ……、このタイミングで、ですか。」


レイ「だな。お前にある筈の記憶がないのは、本当にこの世界線ではそれが起きなかったからだ。だからお前は何もしていない。」


アズモデ「これはこれは。僕を救済してくださると? でも、流石にそれは無理がありますよ。現にこの地で魔族と人間の殺し合いが起きている。魔王様の活躍でいささか人間の犠牲者は少なかったようですがね。」


レイ「そうだ。それは間違いなく起きた。それを否定すれば世界がおかしくなってしまう。でも、これだけは言える。この世界線ではあのイベントが起きず、そして自動的に人間と魔族が戦い始めた。分かるか?自動的にだ。」


アズモデ「それがなんだと仰る‼」


レイ「色々仰りたいんだよ‼ この世界の始まりは、俺が自我を持った瞬間だ。スタト村の件ですら、お前が命令を出したという設定があっただけで、自動的に蹂躙が行われた。それにずっと気になっていただろう。なぜエルザが生きているのかってさ。お前の考え通りだよ。あそこにいたのはエルザじゃなく俺だ。そして世界はあの時点で俺を殺すわけにはいかなかったし、お前もあそこで勇者と戦うわけにはいかなかった。だからエルザがちゃんと死んだかどうか、確認せずに立ち去った。すでに破って燃やしてしまったが、あの本に書かれていた通りの出来事が起きたんだ。あの時点では疑うことさえしなかった、だろ?」


 レイは捲し立てるように、今までの種明かしを始める。

 そしてそれをアズモデは受け入れられない。

 今まさに自分の功績が、全て無かったことにされようとしているのだ。


アズモデ「だから、それがなんだと仰る!確かにあの時の僕はまだプレイヤーは光の勇者だと思っていたさ。でも、それがどうした⁉ 僕が指示を出すように設定されていた。それだけで十分じゃないか‼」


 そう、そこは否定できない。

 アズモデが黒幕、それはこのゲームの設定そのものだ。

 ただ、レイが言いたいことはソレじゃない。


レイ「だが、今回のお前は自分の意志で人殺しをしていない。リディアの時もそうだ。結局誰にも致命傷を与えなかった。っていうか、俺が死にイベントに入れば元に戻ると分かっていた訳だから、お前はゲームシステムを利用した偽装殺人をしていたってことだ。」


アズモデ「な……、貴方はそうやっていつもいつも僕の計画を邪魔ばかりして……。僕はこれほどに貴方に——」


少女の声「すとーーーーーっぷ!!ストップ、ストップぅぅ!それから、えっとアズモデさん! アズモデさんは一体なぁに?」


 少女の声、それは勿論、エメラルドグリーンの彼女の声。

 そして金髪の悪魔は彼女の声にこう答えた。


あずぼで「ぶひ、卑しい卑しい豚にございます…………ぶひ。」


女王様「あらあらあら、そんなことを言うのねぇ。全く……。豚に謝んなぁ」


あずぼで「べひぃぃ。ぶだざんごべんだざーい。卑しい卑しいうじ虫でじだぁぁぁ」


女王様「ケッ、ようやく分かったかい。それでぇ?卑しいうじ虫はどんな声で泣くんだろうねぇ……」



(十数分後……)



あずぼで「女王様、この卑しいうじ虫めにお優しき罰を与えてくださり、ありがとうございました」


ソフィア「はーい。お時間でーす。ごめんなさいねぇ。今日はもうここで終わりなのぉ。…………って、ごめんなさい! これ、レイ以外にはやらないって約束してたのに……」


(いや、戦いの時何回も使ってたよね。そういう技なんだからありだけど、アズモデの卑しい豚?うじ虫姿見たく無かったわぁ。っていうか、何これ? 流石にこれは予定外なんだけど⁉)


ソフィア「アズモデさんはアズモデさんで努力していた。けど、レイもすっごく頑張ったんだよ。だから、いつまでも酸っぱい葡萄してないで、前を向きなさいってこと!わかった?」


アズモデ「はい!女王様の仰ることに間違いはありません!」



         ???


(おいぃぃぃぃ!アズモデ!そこは間違い無いんかい!さっきのどっかで聞いたゲームばりの「それがなんだと仰る!」はどこ行った? っていうか、ソフィアはソフィアでまーた酸っぱい葡萄の使い方を………、って、今回は間違ってない……だと?)


 と、レイは心の中でツッコミを入れてはいたが、心の中はずっとモヤモヤしていた。

 寝取られ的なことをされたから?

 いや、それもあるかもしれないが、そうではない。

 ソフィアは戻ってから、ずっと目から涙を流していた。

 アズモデとの会話が白熱しすぎた。


 そのせいで結局うまくいかなかった、彼女が傷ついてしまった、やり方を間違えてしまった、そう思ったからだ。


 ——でも、そうではない涙だってある。


「レイ!ありがと!大好き!愛してます!」


 エメラルドの乙女は魔王の顔目掛けて飛び上がり、首に手を回してそのまま魔王の唇を奪った。

 こんなに元気な乙女になることは珍しい。

 彼女は濡れた頬のまま魔王の唇を奪い続けた。


 魔王はその出来事に目を閉じるべきなのかと迷ったが、エメラルドの絹糸の隙間から手を振る初老の女性を見つけ、「あぁ、そうか。本当によかった」という言葉の代わりに、彼もまた彼女の唇を奪い返して、金色の瞳を閉じた。


 そして彼女が耳元で囁く。


「私、設定を思い出したの。それにレイの考えていることはもう大体分かる。だから、貴方がしてくれたこと、そしてしないでくれたこと、ちゃんと分かってる。だから、私、はっキリ言うわね。一生、貴方のことを愛し続けます、レイ。」


 その言葉に魔王は照れてちょっとだけ初老の女性の顔色を窺った。

 だが、「やれやれ」と言わんばかりの優しい眼差しを向けるだけだった。

 そう、彼女だけは少女の味方だった。

 そんな女性が出てきて、そのまま死んでしまうイベントだった。


 その都合の良い部分だけを抜き取ったのは、本当にワガママすぎる行為だろう。

 まさにゲームにも女神にも歯牙をかける行為。


 ただ、その行為さえも、メビウスの輪の中にいるように思えてならなかった。


     ◇


 ソフィアは大修道院のテラスから村民を見下ろしていた。


 オオムギー・ビアは全てを投げ出して村から出て行った。

 彼が信者の亡骸をゾンビに変えて、それを対峙することで私服を肥やしてきたことは、考察サイトの常套句のように出てくるほどの一般常識だ。

 レイにとっては気にすることないのに、だった。

 だが、彼が罪悪感に負けてしまったのも、歴史創造の影響だろう。


 彼の先祖は後の世の為、大真面目に修道院長になっていた。

 だが、彼はモンスターがゴールドを産むと知って、魔族と手を組んだ。

 あの過去を見させられては、彼の良心のHPはすでに0かマイナスになってしまった。


 だが、結局のところ、これも強制力なのかもしれない。

 ソフィアエンドの一枚絵と同様に、彼女が信徒に演説する姿がそこにあった。


 でも、ネクタの街のように日が急に暮れてくることはない。

 それは当然のことで、彼女の傍らにいるのは元勇者ではなく、彼女にとって母親にも近い存在であるマーサなのだ。

 アンデッドではない、生きているマーサが映り込んでいるのだから、決して同じにはならない。


 ただ、そんな朗報とは裏腹にレイは一人悩んでいた。

 同じエンドではない以上、彼女がこのまま司祭長になったとしても問題はない。

 ハーレムエンド過ぎる展開だけに、彼女はこのまま司祭長に留まった方が、人々のヘイトを買わなくて済むかもしれない。


 でも、絶対に嫌。

 魔王はソフィア推しなのだ。

 ソフィアが側にいないなんて……、いやフィーネもエミリもマリアもキラリもアイザもリディアも全部欲しいけれども!

 いやいや、どんだけハーレムにしたいんだよ、と異世界から突っ込まれるかもしれないが……


 と、その時、隣にいる卑しいうじ虫がぽつりと呟いた。


「なるほど、そうか……。勇者様の7割がソフィアエンドに辿り着いた理由、不思議に思っていたのです。でも、なるほど。さすがプレイヤーです。彼女のハイヒールであんなとこやこんなとこを踏まれると快感という電流が走る……。これで僕もプレイヤーに一歩近づけましたね。」


 と、うじ虫はうじ虫なりにソフィアの良さに気がついたようである。


「って、違うから‼」


 なんて、魔族二人がごにょごにょ言っていると、エメラルドの美少女の優しく、そして良く通る声が村中に響き渡った。


「ですので、これからはマーサ様に全てをお任せします。なぜかというと、あの日、銀髪の男に連れ去られた少女がハッピーエンドを迎えたからです。つまり私は魔王様の妻になりました!皆様もラブアンドピースの人生を!」


 という爆弾発言をして少女は台から飛び降りた。


 その言葉に女性は歓声をあげ、男性は悔しそうに雄叫びをあげた。


 なるほど、確かに村人にしてみれば、あの日以来のソフィアだったわけで、当然そうなることも想定内だったらしい。


 そして彼女はレイの胸に飛び込んで、やはりこう言うのだ。


「レイ、あの、ふわぁぁぁぁってなるやつやって!」



 イツノマニマゾクを使えば、一瞬で移動できるのだが、彼女がそう言うのだ。



 銀髪の男はそれに応える義務がある。



 だから、銀髪の男はあの日と同じように



 少女をお姫様だっこして大跳躍をした。



 そして歓声と嗚咽の中、金髪の悪魔はニヤリと笑った。



「なるほど。つまり、そういうことですか。ゼノスのように医学研究所に全裸で行く、だったかな。僕はそっちの道(・・・・・)を進めばいいだけ。ここに来て……、本当に良かった。」


 そんな彼の言葉を聞いた者は残念ながら誰一人いなかった。

 皆、銀髪の男と村の乙女の行方を追ってしまったことが、尚のこと残念でならない。

 興奮が収まった後、村の中央広場に男性用の喪服一式と下着がなぜか落ちていたらしい。



「レイ。本当に、本当にお慕いしております!ソフィアは幸せです!」

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