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誰が神なのか

 レイはソフィアとアズモデを引き連れて山の頂上を目指す。


 昔は大聖堂と言っていたらしいが、今は大修道院と呼ばれる建物がそこにはある。

 ハトムギ回想が終わるとオオムギーが消えていたのだから、彼からも情報を引き出さなければならない。

 彼らの身体能力を使えば、一瞬で到達できるが、今はそれが出来ない。


「邪魔です。燃やしてしまいましょう。」

「ダメだ。何かが分かるまでは大人しくしておけ。」


 村長ハトムギは自宅に引き篭ってしまった。


 只ならぬ雰囲気に、修道士達はどうしようかと、皆で山を登っている。

 彼らを追い抜くことは簡単だが、あまり目立ちたくはない。

 この村も時間が止まっていた。

 彼らの中では魔王だし、指名手配の銀髪の大男でもある。

 だから変装しているし目立ちたくない。

 それにアズモデを大人しくさせる必要がある。


「ソフィア様!」

「わぁ!手を振って下さっている‼」


(んで、ソフィア人気のせいで強引には話を進められない)


 ソフィアを一眼見ようと村人がワラワラと集まって、進行の邪魔になっている。

 村長と修道院長の手の者によって、戒厳令か外出禁止令でも布かれていたのだろう。

 その二人が青い顔になり、一人は引き篭もった。

 村人および信徒の下っ端連中がその様子を見て飛び出してきた。

 今の状況をゲーム風に言えば、行きたい細道に信徒が詰まっていて、後ろにはソフィアファンが詰まっている状態だ。


「ソフィアちゃん!こっち見て!」

「はい。皆さん、お元気ですか?」

「元気でーす!」


 ソフィアも「無事でしたか?」とか「お父様のこと、お気の毒でした」など一人一人に声掛けをしている。

 分け隔てなく愛を振りまける素敵な女性なのだ。


 ソフィアを置いて先に行くわけにはいかないので、しばらくは牛歩に付き合ってみる。

 その暇な時間が彼に考える時間を与えた。


 この世界にはエスタルテ大陸とアーマグ大陸という二つの大陸がありました。

 そして時空の女神メビウスが光と闇に分かれました。

 そして光を担ったメビウスがみんなが良く知っている女神メビウス様なのです。

 そして闇のメビウスは邪神として怖れられ、アーマグ大陸の東に封じられました。

 最初の人間が誕生した場所はこの村から遥か東。

 そう、ミッドバレー村です。

 ミッドバレーに最初の人間が現れました。

 最初、人々はそこで暮らしていました。

 でも、平和すぎる世界を人間はすぐに飽きてしまいました。

 それに子供が沢山生まれ、沢山に増えた人々はそこが狭いと思いました。

 人々は新天地を求めたのです。

 自然を愛し、森と共に暮らす者は西へ。

 人間の可能性を求めた者は東へ。

 そして神の救いを求める者はその場にとどまりました。

 東へ向かった民は、自分達を魔法や科学を発展させながら東へと進む者という意味を込め、ドラゴンステーションと呼ばれるようになりました。

 そしてその中のリーダーが、この国を統べる者と意味を持つドラゴニアと名乗り始めました。

 彼こそが後の世で王族となるドラゴニアの祖先という訳です。


「もっと東へ行きたい。この地の果てに何があるのかを知りたい。」


 ドラゴニア王はそう思いました。

 そして彼らはついに大陸の一番東に辿り着いたのです。

 そこで彼らは都市を築いたのです。

 最果ての地であることから、終わりを意味する『デス』という言葉を頭につけて、その地を『デスモンド』としました。

 ドラゴンステーションを名乗って東へ向かった民とは違い、人口増加によって土地を求めて西に向かった民である。

 そして西へ向かった民は肥沃な大地を見つけました。

 彼らはそこに住み、村の名をここから始まる地、としてスタトと名付けました。



 彼は何気なく、自分が考えたこの世界の歴史を口にしていた。

 そしてその内容に最も驚愕したアズモデだろう。

 彼はレイがプレイヤーだと知っているし、プレイヤーがどういうものか、彼が持っていた本には詳細に書かれていた。


 アズモデは突然目を剥いて、魔王に詰問した。


「魔王殿、それは一体何の話なんだい? 僕が持っていた本にそのような記述はない。もしかして君はそれがこの世界の公式の歴史だとでも言うつもりかな? だとしたらどうかと思うよ。この僕は、いや、過去の僕はずっと君に協力してきた筈だ。それこそ何百回も何千回も。まだ隠していたことがあったのかなぁ?」


 アズモデが知る筈がない、レイにも分からないのだ。

 適当に作った歴史が本当の歴史になるなんて、口で言っても誰も納得しない。

 どう答えても、それはないと一蹴されてしまいそうだ。

 だから、ここは正直に答える&話題逸らしが一番だろうと考えた。


「俺にも分からないよ。俺がプレイヤーになったことで動き出した世界が、今になって歴史を求め始めた。本当ならブツ切れエンドだったものが、そのまま続くようになったんだ。だから世界も継続性を求め始めたんじゃないか? それよりアズモデ。お前は未だに自分が何故呼ばれたのか、本当のところ分かっていないんじゃないか?」


 レイの言葉にアズモデは明らかに不服な顔をした。


「僕を呼んだ理由なんて決まっているじゃないか。この村の半数を殺したのはこの僕だ。混乱を扇情し、エルザを仕向けたのも全て僕の計画だ。だから魔王殿は僕をこの村に連れてきた。君は呆れるほどお人好しだが、世界の民はそうではない。そのケジメをつけさせる為に僕をここに呼んだ。そして、僕という生贄の上に友好的な関係となる。それくらいプレイヤーじゃない僕にだって分かる。」


(なるほど、やっぱりアズモデもその認識なのか。ってことは……、ていうかソフィアも多分気がついていない。気付ける訳もないか。)


「大修道院についたら理由を説明してやるよ。少なくとも今の答えじゃあ30点くらいだ。ソフィア!全員と挨拶してたら日が暮れてしまうぞ。そしたらソフィアの為のエンディングが尻切れで終わってしまうけど、それでもいいのかー?」

「ええええ!それはダメですぅ!」


 と、その言葉を聞いたソフィアは信者をそっちのけにした。

 そして数段跳びにふわりと飛び上がって、レイに抱きついた。


     ◇


 レイは黙々と山道を上がる。


 ソフィアはレイに抱えられているので歩く心配はない。

 ついでに言うと、アズモデも渋々ついてきている。

 明らかに三人のペースが早いため、前を行く信徒諸君は早々に力尽きてしまった。


「レイ、私は気にしていませんよ。最初にフィーネちゃん、次にエミリちゃん、そしてマリアちゃんと破廉恥な行為をし——」

「違うから!そういうのしてないから! 今回の世界はそういうのがない、健全な恋愛RPGゲームの筈だから!そういう世界の設定をしているから!一夜明かしたとしても何もない世界だから!」

「おやおや、本当に仲がよろしいですねぇ。僕はいつの間に知らない世界に迷い込んでしまったのか……」


 知らない世界、確かにその通りで。

 このエピローグ編に入ってから、色々不可思議なことが起きている。

 ただ、マリアエンドでは過去創造が起きなかった。

 その理由をレイは一つの当たりをつけていた。

 この過去想像はやはり過去創造であり、それに相応しいパーツと手順がある。


 ただ、レイが知っている設定や考察をも越えた「きっかけ」が必要となる。

 この村が意図的にレイモンドを阻害していたのは、アルフレドを演じていたとしても分かることだ。

 レイモンドを孤立させ、彼を魔族へと引き渡そうとしていたのだろう、という考察は、どの考察掲示板を覗いても書かれている、一般常識といえるほどの考察である。


 そのレベルの考察なら、例えゲーム内設定になくとも、この世界には反映される。

 その次元を超えているから、過去創造なのだ。


 そのきっかけの一部を掴みたい。

 だからレイはそのことについて彼に聞いてみた。


「アズモデ、俺たちはまだまだ知っている世界にいるよ。ゲーム内設定はファンの考えや製作者の意図にまで影響を及ぼしている。だから今から修道院に押し入るんだよ。アズモデはよく分かっているんじゃないのか?今の修道院は女神メビウスを崇めていないってことを。」


 あと数mも歩けば修道院の大きな門にたどり着く。

 その僅かな時間でアズモデから、どんな情報が得られるかを探ってみた。

 普段の彼ならば、この程度の質問は飄々と躱してくるだろう。

 でも、今日の彼は違っていた。


「それくらいはプレイヤー様には分かって当然だよね。だって僕たちNPCにとっての君は神と変わらない存在だからね。勿論、僕や他の魔族とこの修道院は繋がっていたさ。ちゃんとwin-winの関係を確立していたくらいだよ。」


 プレイヤーが神、言い得て妙だ。

 NPCがどれだけすごくても、この世界を変えていくのはプレイヤーだ。

 では、プレイヤーにとっての神とは誰だろうか。

 勿論、本当の意味の神様の話ではないし、「このプレイヤー、神!」という意味でもない。

 ゲーム会社?

 それともデザイナー?

 それとも家庭用ゲーム機?

 はたまた開発費?

 本編からずっと回想で出てくる鈴木Pが、神の一人であることは揺るぎない事実だろう。


 勿論、彼だって会社に所属しているわけだし、ゲームを作る技能があれば、こんな箱庭世界を好きにできる存在は山ほどいるだろう。

 でも、一応ここは既に異世界。


 そんな浮世とは隔絶された存在である。

 それに神はちゃんといる。

 メビウスという女神がいる。


「残念ながらそこまで俺は万能じゃない。そもそもこの世界は俺がアルフレドだった世界線、それからレイモンドというキャラだった世界線、更にはエンディングを迎えた後の世界線とエンディングを無視した世界線がごちゃごちゃになっている状態だ。しかも基礎となっているのはお前の言う通りゲーム。もう、わけわかめなんだっての。俺だけが凄いわけじゃない。ソフィアなんて、俺でさえ不可能だと思っていた収録されたムービーを変えてみせた。って、いうのを今のお前に期待している訳ではないが、とにかく今は修道院長だ。修道院長にも話を聞くぞ。」


 アズモデのここに呼んだ理由は二つある。

 一つは彼がそのことについてどう思うか分からないので、伏せておく。

 そして、もう一つこそが今まで散々話された『お金』についての話。

 その事実確認の為に彼に同行してもらっている。


「黄金時代か。当たり前に聞こえる話だが、ここまで来ると全てが胡散臭い。あと、ソフィア。多分、修道院のベランダから皆に演説をしてくれるように頼まれるだろうけど、それは少しだけ待ってくれ。ソフィアのことだ。演説で人々を安心させたいと思っているだろうから、それを止めるつもりはない。でも、手順が大事なんだ。」


 復興ままならない修道院内を歩きながら、瓦礫をひょいと飛び越えていたソフィアに告げた。

 ここの復興がままならないことも『例のお金』と関係している。

 彼が到達した結論だけ言おう。


『この世界は女神の力を使って、ゲームを再現した世界である』


 なにそれ?

 当たり前のことを今更?

 と思うかもしれない。

 それはそうだ。

 いままでだって、ゲームに即した攻略をしてきたのだから。

 でも、重要なのは前半部分である。


 女神メビウスは現実では再現不可能な現象、例えばお金が無限に湧いてしまう現象を再現している。

 つまり、女神の力が作用していることが重要なのだ。


「レイ、どうして修道院の修復がままならないのでしょうか……。勿論、今の今まで戦争が終わったことを知らなかった、というのはあると思いますが……」


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