ソフィアエンドとアズモデ
レイのエピローグ作りの旅も四回目に突入する。
ヒロインとしての同行者は『ソフィア』
魔族からは『アズモデ』が参加することになった。
この村でもスタト村やネクタ街の出来事とは全く異なる出来事が起きる。
だが、この時の魔王レイに知る由もない。
♡
金髪の美青年が全裸で四つん這いになっている。
そしてその上に修道服姿の緑の髪の少女が座っている。
彼らの視線の先では、邪神が今にも朽ち果てようとしていた。
デズモア「ガハッ……、こ、これが……、真の愛の力…………、なるほど、私にはない人間の力……か…………。どうして……光の勇者が光の勇者と呼ばれるのか……、これは私には……不可能……だ……」
そう言って、邪神は頭からチリとなって消えた。
今も全裸の男からは眩い光が照らされている。
神々しいまでの光で勇者はシルエットしか見えない。
そんな二人の愛の力に邪神はどうすることもできなかった。
金色の勇者とエメラルドグリーンの髪を靡かせた慈愛の少女は、邪神の儚い終わり方を寂しそうに眺めている。
少女の勇者への愛が集結した最終奥義にして究極の愛の形『放置プレイ』。
その時の興奮もあり、金色の勇者は頬を染めていた。
美しき少女はそっと四つん這いになった勇者椅子から身を起こし、彼に手を差し伸べた。
ソフィア「いつまでもその体勢じゃあ、格好つきませんよ? 勇者様。」
まさにその通りで、金色の勇者は彼女の手を取り立とうとした。
けれど、その細枝のような真っ白い腕にその力はなく、今度は勇者の代わりに少女が倒れてしまう。
なんとか勇者が彼女を受け止めるも、少女の息は止まっていた。
勇者「え……、ソフィア? ソフィアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
少女はあの日助けられた勇者の為に、文字通り身を削っていた。
修道女見習いの彼女が、この世界を救うなんて誰が想像できただろうか。
普通に考えれば分かることだ。
彼女は全ての命の炎を無理やり燃やしていたからこそ、こんな最前線で戦ってこれたのだ。
少女は常に無理をしていた。
でも、彼女は微塵もそれを感じさせなかった。
それほどに彼女の愛は強かった。
愛する勇者の為に文字通り『命』を削っていたのだ。
自己犠牲という、究極の愛の姿を突き通した彼女は、まさに聖職者に相応しいと言えよう。
勇者「そんな……、俺は……、ソフィア、お前のことを……」
悲痛な勇者の言葉。
そして目から流れ出て、頬の血と混じった赤っぽい水滴が彼の顎を伝って、少女の額にこぼれ落ちた。
ソフィア「ダメ……ですよ。貴方は世界を救った方……。貴方が……そんな顔を……見せては……」
彼女の体は徐々に冷たくなっている。
息を吹き返した、というよりは彼女の肺に残った最後の空気で声を発したのだろう。
勇者は少女を抱き抱えているので、そんな残酷な事実も肌を通して伝わってしまう。
勇者「ダメだ!ダメなんだ! 世界を救ったって……………………、俺はお前がいない世界なんて……欲しく……ないん……だよ。愛してるんだ……。俺は、お前を心の底から愛しているんだ!」
その瞬間、奇跡が起きた。
光の勇者の体が黄金に輝き始めたのだ。
彼もそれが何なのか分かっていないし、自分が光っていることにさえ気がついていない。
勇者が光の女神メビウスの使いというのなら、その力は間違いなく、メビウスの光だろう。
勇者「頼む……。頼むから……、俺は世界に平和をもたらした! だから、ご褒美をくれたって……、おまけくらいくれたっていいだろ?ソフィアを……。ソフィアを返して……くれ」
黄金に輝く彼、その瞳からは絶え間なく涙が流れ続けている。
そして赤く染まった涙も、彼の黄金色の魔力に触れて金色の液体へと変わっていった。
ピチョン!
そんな彼がこぼす神聖な涙がぐったりとしたソフィアの頬できらきらと弾ける。
すると、その部分から少しずつ、彼女は色を取り戻していく。
そして、彼女の瞼がうっすらと開き始めた。
ソフィア「ゆう……しゃ……さま? 私、一体……」
彼女の乾き切った唇がはっキリとそんな言葉を紡ぎ始めた。そして……
ソフィア「もしかして、また私は勇者様に命を……?それに……、うれ……しいです。勇者様の声、薄れゆく意識の中でもはっキリと聞こえましたよ?」
気がつけば彼女の顔色は生気を失った青色から、健康的な薄ピンク色に変わっていた。
いや、彼女の肌は本来、雪のような白さだから、薄ピンク色に頬を染めていると言った方が良い。
そんな彼女の顔を見て、勇者の耳は薄ピンクを超えて真っ赤に色化粧をする。
勇者「ち、ち、ち、ちが……」
ソフィア「違うんですか?」
勇者「いや、違わない……。けど、こんな形で気持ちを伝えるなんて思ってなかった……から。なんていうか、その……」
そんな慌てふためく少年の顔を少女は下から包み込む。
ソフィア「では、私から。ずっとお慕いしていましたよ、勇者様」
そして少女は勇者にキスをした。
——その時、女神が祝福の鐘を鳴らした。
パラパラと拍手が二人に浴びせられる。
フィーネ「良かったぁぁ。ソフィア、死んじゃったと思った。あんな華奢な体ですごい魔法使うんだもん。ずっと無理をさせていたのね、私たち……」
エミリ「うふふ。いいんじゃない? 結局、ソフィアちゃんも助かったんだし、それになんかあたしまでときめいちゃった。もうこれはあたしの完敗だなー。」
ゼノス「おし、次は俺だな。ええっとそうだなぁ……。さぁ、アイザ姫、俺の血と汗と涙を飲むんだ」
リディア「 こんなところに変質者が!アイザちゃん、一緒にこの人燃やそうねー。」
マリア「ってか、やっぱ光の勇者様だね。メビウス様も粋なことをするものねー。もうもうもうー!ほんとハラハラしちゃったじゃなーい。ってか、アイザちゃん、ゼノス死にかけてるけど、アイザちゃんの血と汗と涙を飲ませてみる?」
キラリ「医学的に考えても……、うん、僕の作ったでろでろオイルでもいけそうだよ。ほら、ゼノス。これを飲んでみて。」
ゼノス「って、まだ死んでねぇよ! それくらいで竜人がくたばるかよ。てか、お前たちもそろそろ二人のところに行ってやったらどうだ?」
みんな「ゼノスがまともに喋ってるーー‼」
勇者「みんな、ありがとう。俺もソフィアも家族はいない。だから、ここにいるみんなが俺の家族だ。なんていうか、恥ずかしいところ見せてしまったけど、俺、ソフィアと結婚するよ。」
ソフィア「はい。戒律にも結婚してはいけないとはありませんし……。何よりメビウス様が祝福してくださったのです。これからも苦難が続くかもしれませんが、私は一生勇者様の元を離れません!女神様、本当に感謝いたします。」
そして数ヶ月後……
という言葉がこの後に現れる。
ソフィアは評判の悪かった修道士長と和解を申し出るも、信徒たちが猛反対をした。
つまり信徒はソフィアを担ぎ上げたのだ。
ソフィアこそが修道士長に相応しいと。
そしてその後、ソフィアはメビウス教初めての女修道院長に就任。
全ての大陸の信徒に分け隔てなく慈愛の心を普及させることになる。
そして、その傍らにはいつも、眼光鋭い金髪の専属兵がついていたという。
彼は信徒の前では一切口を開くことはないが、信徒の誰しもが鉄仮面をした彼が誰なのかを知っていた。
でも、彼はメビウス教を広めるべきは『ソフィア』しかいないと思い、生涯彼女の守り人の道を選んだという。
♡
「そしてこのあとスタッフロールだ。なんていうか、ソフィアエンドは賛否両論だったんだよなぁ。それは置いといて、この後登場する絵は素晴らしいものだった。」
そう、Finの文字が刻印される最後の一枚絵
『ソフィアに添い寝をして貰っている主人公』
という情景の一枚絵は、何某かの事後を想定させるようなエロさがあり、普段では一度も見せたことのないほどに艶っぽいソフィアの表情が描かれていた。
「普段は民衆に慈愛の笑顔を向けているソフィアが二人だけになった時に見せる顔……、背徳の極みなんだよなぁ。」
「何か……?背徳的なことでもありましたですか?」
急に背後からソフィアの声がした。
そして、その瞬間にレイは直立不動で止まってしまった。
子供部屋でエロ漫画を読んでいる時に母親に部屋のドアを開けられた心境に似ている……、とレイが思ってしまうほどに妄想を捗らせていた。
本編で、何度も言ったが、レイの推しはソフィアなのだ。
乙つけ難いヒロイン達だったと今は分かる。
でも、プレイヤーだった時は間違いなくソフィア狙いだった。
そして、何よりエンディングシーンがとても良い。
これはリメイク前から描かれていたものだ。
力尽きたソフィアを相手に涙ながらにアルフレドが愛の告白をする。
そしてソフィアが生き返るわけだが、その時の表情がとても良い!
うっすらと目を開けながら、頬を染めているシーンなど、なんとも蠱惑的ではないか。
やっぱ、修道女が艶っぽく描かれるシーンは色々と————
(って、ベタ褒めすると思ったか!? なんでムービーシーンに新要素入れやがった⁉実はドSってここにぶっ込まなくて良かったじゃん!圧倒的に賛否の否が勝つの、分かんねぇかなぁ!もう、この際ついでに言っとくぞ! 全裸椅子プレイは別に放置プレイじゃないからね? 放置プレイっていうのは………、ってそこはもう良いけれども!本編でさえそこにはツッコマなかったんだしー!ってか、デズモア倒した後の光って見せられない光線だよね⁉リメイク前はそのまま力を使い果たして倒れ込むソフィアって感じだったじゃん!あんな主人公の情けない姿の後にお涙頂戴シーンが入っても、全然頭に入ってこないからね? 暗転後のエミリエンドと比じゃないくらいの壮大なガッカリ感なんだよ!っていうか、アルフレドがずっと全裸で話進んでんだぞ‼だから字幕もずっと『勇者』だったってこと⁉)
と、ソフィアがいる手前、心の中で全力でツッコミを入れるレイ。
ただ彼の背後から、気味の悪い魔力を感じ、やっとのこと我に戻ることが出来た。
「本当に、僕を外に出して良かったのかい、 魔王様?」
そう、今回は問題児を連れて行く。
「あぁ、良いも何も。俺は最初から監禁には反対だったんだ。多数決でお前が危険って判断されただけだからな。俺としては問題ない。」
すでに彼はピエロの装いをやめ、全身黒づくめの喪服のようなスーツで身を固めている。
これが彼なりの抵抗か、それともこれが自分の役のつもりか。
彼が死ぬことで世界は完成する筈だった。
だから、今の彼は裏の世界の住民、そう思わせるほどに彼の周りだけ、やけに暗い。
「私も構いませんよ。レイがいれば貴方は暴走なんて出来ませんもの。それに——」
「聞きたいことが山ほどあるって顔だねぇ。魔王殿が魔族を連れて世界を回っていると聞いた時、僕が呼ばれるならネクタだと思っていたけれどね。僕はあそこで初めて、この『ゲーム』の世界に登場したわけだし。」
流石に一筋縄ではいかない相手らしい。
それでもレイは彼を太陽の下に連れ出したかった。
それに、彼がいることで分かることもきっとある。
——それほどに、大修道院は闇深い、とされている。