謎多き街ネクタ
フィーネがどうして飛行機に乗っていたか、それを今考えても仕方がない。
フィーネ達が、どの仲間達を指していたとしても、フィーネが変態竜人さんとくっついていても。
そこは仕方がない話。
一人しか選べないのだ。
だが、今までの終わり方と大きく違う。
——そう、このエンドは勇者がビジネスマンになっている。
戦いが終われば無職という事態が見事に回避されている。
農家エンドのエミリエンドもそう言えるかもしれない。
だが、アルフレドにはひ孫の代まで遊んで暮らせる財力が転がり込んでいる。
例え話として、今まで一緒に頑張ってきた幼馴染のヒロインとポッとでの金持ちヒロインとどちらと結婚しますか?というゲームがあったとする。
そして、そのゲームでは幼馴染を捨てる所業について鬼畜扱いされてしまうのだが、マリアエンドはまさにそれに対する答えになっていると言える。
戦いが終われば力を持つのはお金であり、商売人である。
特にほとんどのRPGにおいて王族は何もしてくれない。
それどころか王族が悪役だったりする。
その後、待ち受けるのは革命のような民主化運動かもしれない。
その時に力を持つのも金融業だったりするわけだ。
そういう意味で、魔王を倒す前から逆たまを狙う勇者はクレバーと言えないだろうか。
(それでも幼馴染の金髪を選びたいですけれど!)
財閥に婿入りする勇者、戦うしか能がない勇者だ。
ある意味で、彼の戦いはこれからが本番とまで言える。
人生なんておじさん、おばさんと呼ばれる時期が一番長いのだ。
ただ、義理の父に頭が上がらない勇者という見方も出来る。
バッドエンド派とハッピーエンド派の壮大なレスバを引き起こしたエンディングでもある。
でも、それはあくまで第三者目線である。
マリアは幸せそうだし、アルフレドだってそれなりに人生を謳歌しているように見える。
だから考察が捗ったところで、二人が幸せになったのなら、これ以上他人がとやかく言うべきではない。
「——って、感じなんだけども! 実際、他のエンディングよりもアルフレドの毛が薄くなっている。やはりこれはバッドエンド?でも、働かなくていいんだから、グッドエンド?そして俺が導き出したのは、金髪の幼馴染……じゃなくて、水色髪の幼馴染の扱いだ。下衆な考え、幼馴染の方は僅かながら可能性を残している。だが、フィーネはゼノスとくっついている。どう考えても、そうなっている!つまりバッドエンド派だ‼」
レイは無人の部屋で一人、持論を展開していた。
そして即座に鏡に映る自分の頭皮をチェックしてみた。
銀の髪を掻き分けて、確認をする。
その銀の髪のことなど考えずに確認をする。
マリアエンドは世界観をぶち壊している。
どうして飛行機が登場するのか、ハネムーンで何処に向かったのか。
完全に後付けの適当なシーンかもしれないし、そうではないのかもしれない。
「ま、この世界だと、ゼノスはボロンさんの飼い竜人だ。それはそれで、なんだけど。」
勿論、楽しみはある。
エイタとビイタにまた会えるのだ。
街の中では変装をする必要はあるだろうが、屋敷内ではきっとマリアが上手いこと説明してくれる。
と、悶々と考え事をしていると、勢いよく扉が開かれた。
「レイ!私と一緒に帰省してくれるって本当!?」
そのマリアの笑顔にレイも笑顔で応える。
ただ、その瞬間後ろから寒気がした。
「閣下。私も同行するというのは一体……」
そういえばワットバーンも呼んでいた。
っていうかいつからいた?
転送魔法で来たのだろうけれど、もしかしてマリアエンドについて一人熱弁を奮っている時から居たのではなかろうか。
魔王とはいえ、あれだけ熱が入れば周囲へ観察力は鈍ってしまう。
「わ、ワットバーンか。お前、いつからいた?」
「えーーっと、そうですね。閣下が逆た——」
「おーっと、それ以上喋るとお前、モブに降格だぞ。今の話は世界に関わる秘密事項だからな。」
「えー、何々? 逆たま? あ、そうかー! パパがなんでも買ってくれるって言ってたの!レイも遠慮することないわよ!お金は湧いて出て来るほどあるんだからぁ!」
マリアは特に気にすることもなく、お金の話をした。
彼女からすればそれが日常なのだから、自慢しているわけではない。
本編のエンディングに描かれていたマリアも、その辺はかなり寛容に表現されている。
彼女は本当に勇者と楽しく暮らしたいだけなのだ。
ちなみに作中での勇者は冒険中にお店で値切ろうとしたり、どうにかして金儲けが出来ないかと考える素振りは見せない。
それどころか全てのお店において、言い値でしか買い物をしないし、売るときも言われるがままにお金を受け取る。
コマンド選択式で、『ねぎる』、『交渉する』という選択肢がないのだから、それは当たり前かもしれないが、あまりにも馬鹿正直すぎる。
プレイヤーによっては買値と売値が逆転するようなバグを見つけて錬金術を生み出す者もいるだろうし、そういう交渉が出来るゲームが存在しているのも確かだ。
——でも、今はこのゲームの話。
魔物を殺すという方法、ダンジョンで誰かの宝箱を勝手に開けるという方法、誰か分かっているお城の宝箱、民家の棚を漁る方法くらいしか、お金を稼ぐ手段がない。
考えても進まないのでレイはマリアを抱え、ワットバーンにはついて来るように命じて、ニイジマとして過ごしたネクタを目指す。
「レイー、ワープするんでしょ?だっこしてー! 」
アルフレド、フィーネ、エミリと彼女がどこまで通じているのか、レイは考えないようにしている。
けれど、間違いなくフィーネとエミリはあの件を境に変わった。
はっキリ言って、憧れの好きから、大恋愛の好きに変わってしまった気がするが、それを見抜けないマリアではない。
だから今日はいつもよりも積極的に、彼女は彼に飛びついた。
そしてレイもマリアのその態度に、本当は寂しがり屋の彼女を見てしまい、彼女の甘えを享受する。
「じゃあ、しっかりと掴まってろよ。転送魔法‼」
◇
久しぶりの街、ネクタ。
ここでレイは一度死にかけている。
そして彼を救ったのは、今お姫様抱っこをしてもらって、絶賛甘え中のマリアだ。
今日はピンクの髪をツインテールにしているので、綺麗というよりは可愛らしく見える。
「そうそう、ここでレイは酔っ払って……、じゃなくて死にかけてたのよね。」
「マリアに助けられたんだったな。その後、結局死んで魔族の仲間入りした訳だけど、とにかくあそこで死んでいたら、リスタートだった訳だし、俺が再びレイモンドを選んでいた可能性は低い。だから、あの時のマリアの行動が世界を救ったとも言えるな。」
「えへへ、すごいじゃん。私! でも、この時期の私はなんていうか、辛い思い出しかないかな。だって、パーティを抜けようかって思ってたくらいだしね。」
スタト村と違い、ここはあの時のまま、活気のある街であり続けている。
ゲームの都合上、この辺りのモンスターはずっと弱いままだったからだろう。
けれど、やはり街の人間の様子はあの時のままだ。
つまり、ここの街もレイの『放り投げエンド』の犠牲になっているというわけだ。
そして例の大豪邸は今も街の景観を大きく損ねている。
マリアとキラリのエンディング作りが怖いのは、この二人がリメイク後に登場したキャラだからだ。
この二人だけ世界観をぶち壊す設定がされている。
「そういえば、この世界は本来王族しかセカンドネームを持っていないって設定だったのに、マリアにはエクナベルって姓があるんだよな。そういえば、サブキャラなのに名前がついているのもずいぶん珍しい……」
正確にはエクナベル家だけではない。
だが、魔王は今は割愛した。
その相手はどうも胡散臭い野郎。
つまり、ミッドバレーの修道院関連。
ただ、その話は後述することになるので、ここでは割愛する。
「えー? そんなの考えたことなかったよー。ってか、レイだって持っているでしょう?レイ・レイモンドっていつも言ってるじゃん!」
「あ、いや……、それは違うんだけど。レイモンドって俺が勝手に言っているだけで、俺はレイだからね? この街ではニイジマを名乗ってたこともあったけど。あ、そう言えば、俺は結局マリアの両親に会ったことないよな。えっと、マハージさんとイザベラさんだっけ。えっと確かなんで金持ちなのかっていうと……」
(それこそマジでありえない……。マハージさんの職業は————)
「パパ? せきゆおーって言っていたかなぁ?」
(馬鹿なの? 剣と魔法のファンタジー世界に石油王が爆誕? ガバガバ設定やないかい!確かに大富豪っていう設定で安易に思いつく言葉ではあるけれども! ……っていうか、ステーションワゴンの件で俺、散々この車はエコでガソリン要らずって言ってきたよね⁉確かに謎エネルギーで電気なんかが存在はしていたけれども。絶対に需要と供給に見合ってないだろう! いや、恋愛メインのRPGの小ネタにツッコミを入れるのもどうかと思うけれど、俺はその世界に生きているからね⁉今からそのネタに踏み込むかもって心臓バクバクだからね⁉)
「あ、あの……。閣下。私はいつまでこの姿になっていればよいのでしょうか?」
そういえば、ワットバーンの存在を忘れていた。
ついさっき話したばかりなのに、石油王ネタで全部吹き飛んでいた。
因みに、彼にはカナリアに変化してもらっている。
レイのコウモリの羽は何故か収納可能だが、彼の羽はそうも行かないらしい。
だから久しぶりにアノ魔法の杖を使って彼には変身してもらっている。
「まだだよ。まずはエクナベル家に言って事情を説明するところからだな。まぁ、名付けはこの地の実質的な支配者のエクナベルに頼むとして……。問題は……」
「えー、うちのパパとママに何か問題でもあるのー? 私とレイが一緒になる!これだけでぜーんぶ解決するじゃんー。」
「あ、あぁ。それは俺とエクナベル家っていう意味では問題はないんだけど——」
1番の目的はマリアのCパートを作ることだ。
でも、エピローグを迎えたからといって、世界は変わらず続いていく。
アーマグは自領だからどうにでもなる。
それにデスモンドは昔から魔族との繋がりがある街だ。
だから問題になるのは大修道院のあるミッドバレー村と、この街ネクタ。
ただ、ミッドバレーは山の麓を抜ける手があるが、ここは街を通過しないと通れない設定になっている。
それに石油王マハージ・エクナベル家には湯水の如く溢れるオイルマネーがある。
しかも、どこにあるのか分からないところが厄介なのだ。
そういった意味で、今後脅威になるべき一番の存在は、この街ネクタである。
「俺は魔王軍とも仲良くしてもらいたいんだよな」
どれだけお金があっても、パンがなければ人間は生きていけない。
多種多様の魔族を抱えるアーマグとしては、食料の確保が最重要課題。
だから、後の脅威であるエクナベル家と魔族は良好な関係でなければならない。
「そっかぁ。私たちは魔王城で魔族にいろんな人たちがいるって知ってるけど、こっちの人たちにとって魔族は魔族だもんねぇ。」
「あぁ。だからマリアには申し訳ないけど、ワットバーンを引き連れて来たんだよ。それに……」
「うん。分かってるよ。レイはある意味、エクナベルの家族みたいなもんだし、エイタやビイタとも会いたいよね。うーん、それじゃあ……」
この後のマリアの言葉により、レイはこの世界はやっぱりゲームの設定で成り立っていると思い知らされることになる。
「この街の人たちを呼んで、私とレイの披露宴をしましょうよ‼」