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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていた。  作者: 綿木絹
エンディング後の世界編
125/184

物流の重要さ

 暗闇、うっすらと見えるものさえない。

 真の暗闇だ。


 なのに、そこにあるものがなんとなく分かる。


 そして。


「ねぇ……、遊ぼうよ。一緒に……遊ぼうよ……」


 約束をした……気がする。


 だから彼は——


「旦那ぁ。こんなとこにいたんですかい?ラビが探してましたよー。」

「あ、あぁ。ちょっと考えることがあったんだ。ほら、見ろ。」


 魔王はアーマグ大陸の遥か上空から地上を見下ろしていた。

 下には活火山帯が動脈のように走っている。


「あー。確かに。ここで農業をするのはちょっとっすね。」 

「そうなんだ。……それにしても、何故王族はここに城を立てたんだ?確かにマガマガメルトは便利なんだが。」


 すると、地上から飛来する影が彼の視界の端に映り込んできた。

 無論、魔王の目を以ってすればそれが何なのかはすぐに分かる。


「ご主人!ここにいらしたんですかー? 魔王城にいないから探したじゃないですかぁ!」

「つーか、なんでラビはその姿のまま飛べるんすかねぇ。俺っちは久々にコウモリんになってるっていうのに。」

「あんた、ずっとそのままの方がモテるんじゃない? マスコットにしては大きすぎるけど、『人をだらけさせるクッション』代わりに重宝されるかもよー?」

「いやぁ。その道を考えたこともあるっすけど、それだと手がないからカジノいけないんすよねぇ。」


 と、相変わらずのトークを遥か上空で始める二人。

 そんな二人の会話はいつ聞いても元気が出る。

 ある意味でありがたい二人である。


「ギリー農場と契約して、食料問題は解決したんですよね? 他にも何かあるんですか、ご主人。」

「そっすよ。俺っちの臭い問題は解決の糸口さえ見つからないけれど、魔王様の悩みは解決したんじゃないっすか?」


 と、イーリが言う。

 隠し事が出来ない性格……、いや、借金は隠していたから、彼にとっての優先順位の問題というだけだろう。


「お前、マロンさんとこ行ったんじゃないのか? 」

「言ったっすよ。やっぱサキュバスバニーは臭いに手厳しいって話だったんでね。」

「ちょ! もしかして、ウチの同朋に何かするってこと⁉」

「いや、違うすよ。もしかしたら良いカード配ってくれるかも知れないじゃないっすか。」

「ほんと、その辺の発想がクズよね。今すぐ人型になって落下しすればいいのに。」


 ほんと、この二人はいつも掛け合いをしている。

 本当は仲が良いのではないだろうか。というよりもだ。


「なんで、臭いを治せなかったんだ? ドラグノフはちゃんと治してもらったんだろ?」


 こっちのが重大だ。

 魔王もこっそり通おうかと思っているのに。


「いやぁ。やっぱコウモリって性質上、どうしても雑菌の類は滅却できないっつーんすよ。俺っちの体ごと焼けばいけるかもーーって、俺っち殺されかけましたからね?」


 なるほど、それはコウモリん全体の悲報には違いないが、元々人型には関係ない話だ。

 だから全コウモリんには申し訳ないが、一気にどうでも良い話に成り下がった。


「運搬経路を考えていたんだ。俺たちの大陸での農作は絶望だ。先の件でせっかく魔族専用食糧庫を確保できたのに、それがこちらへ運べなければ意味がない。それに本来、金貨が重宝されていたのは、流通に不可欠だったからだ。物資の流通が始まれば、集落での物々交換に頼らなくても、金貨という形でとのやり取りが出来るようになる。魔王軍が持つ大量の金貨の重要性が増す。だから——」


 至って普通の考え方。

 今までは閉鎖された村でも金貨で買い物が出来た。

 だが、普通に考えれば、それは在り得ない。

 生活の根源、衣食住に黄金は本来必要ない。


 ただ、人々の往来が始まると、その事情も変わってくる。

 だから、当たり前すぎる返答をしたつもりだった。

 でも、ラビはムスッとしながら、顔を覗き込んでくる。


「聞きかじった程度の経済論を嬉しそうに話している所申し訳ありませんが、ご主人?次はネクタの街だって考えていただけですよねぇ?ウチにはぜーんぶお見通しなんですからね!」

「ドラグノフっちからも聞いてますぜぇ、旦那ぁ。エミリっちとそれはそれは仲睦まじ良いやりとりがあったってねぇ。『我も嫁に、いやヒロインになりたかっ……た』って嘆いてたっすよ。」


 おい、ドラグノフ。

 お前は最強の武人になりたかったんじゃあなかったのか。

 なんてツッコミは出来なかった。

 というより、今や相棒である二人をしても、レイの本当の感情を言い当てることは出来ていない。


 何より、彼自身もいろんな感情がないまぜとなった、本当の感情に気付けていない。


 だから、目の前のことを考えていただけだ。


 だから、二人の訴えが正しく聞こえてしまうので、複雑な苦笑いを浮かべた。


「それだけじゃないって。マリアの実家がネクタを仕切っているのは周知の事実だ。それに設定上、マリアの父親は娘のためなら豪華客船を作らせるくらいの大富豪でもある。さらに言えば、あの車が手に入ったのも、今の世界線だと演出カットされているが、あれもマリアの父親のおかげだ。」


 もはや、マリアの為に行くことを隠す必要はない。

 だからレイは彼女の名前をしっかりと口にした。

 そして、白兎はそれが気に入らなかったのか、赤い瞳がほとんど見えなくなるくらいの薄目でレイを睨みつけている。

 ただ、ここで思わぬ助け舟が、いや助けコウモリが登場した。


「いやいや、ラビっち。今の話聞いてたっすか? デスモンドの闇という名のカジノを知り尽くしている俺っちでも、マリアっちの実家の設定が異常ってことくらい分かるっすよ。しかもデスモンドの財のほとんどは魔王軍と繋がっているっすけど、ネクタに魔族はほとんどいない。これは脅威になりかねないっすよ。その……、『ごうかきゃくせん』ってやつもとんでもない代物なんじゃないっすか?それだけに財力があれば、マリアんちだけで世界を救えた可能性もあるっつーこと。」


 このコウモリ、意外と鋭いところをつく。

 もしかしたら、このコウモリは良いコウモリなのかもしれない。

 事実として、マリアとキラリは鈴木Pによって無理矢理ぶち込まれたキャラクターだ。

 ただ、キラリに関しては色んなキーワードが登場するので、かなりの考察がされている人物でもある。

 それに引き換えマリアはお金持ち令嬢というありきたり設定が故に、ユーザー目線では別の妄想が膨らみすぎて、おそらく、この世界では語られない。


 キラリはカギッコホネッコの件があるので、彼女の設定はある程度見当がつく。

 勿論、今はそれを語るべき時ではない。

 ただ、マリアの件は今考えなければならない。


「あの過去が作られる現象……、あれがなければ何も心配しなくてもいいんだけどなぁ。この世界と場違いな世界観を持つマリアの家で何かが起きる。正直そこが一番不安なんだよなぁ。」


 ついつい本音が出てしまうレイ。

 でも、ギリー農園との契約を取り付けた今、作物を運ぶ拠点としてのネクタとの和平が最重要項目になったことは事実だった。

 だからこそ、あそこにもドラグノフのような特使を派遣しておきたい。


 勿論、マリアの為にエピローグを作る。

 それこそが一番大事なのは変わらない。

 でも、二度あることは三度ある。

 だから何が起きるのか、そしてそれが今までのように、今と違和感なく繋げられる過去なのか、皆目見当がつかない。


 そしてこのコウモリはやはり出来るコウモリのようで、レイの考えなど容易く見透かすことが出来るらしい。


「魔王様。俺っちこそが……、特使として適任かと。理由は簡単です。スロットという聖遺物を使いこなせるのは俺しかいない。つまり俺っちなら莫大な資産を持つ名家といえど、湯水の如く金を吸い上げることが————」

「あー、マロン様? あのー、うちのコウモリ、やっぱり臭いんでぇ、一回全身焼いて貰っていいですか?」

「ちょちょちょ!!ラビっち、何言ってるんすか!え? 予約? いや、俺っちが焼死する予約とか取る訳ないじゃないっすか!切って!今すぐ切って!マロン様、結構ガチの人だから!」


 と、思っていたら、あのコウモリはただの金目当ての最低のコウモリだったらしい。


 けれど、彼らの痴話喧嘩の間に、レイはニイジマとして過ごした日々を思い出していた。

 なるほど、確かに。

 そう思わせるほどに相応しい魔族が配下にいる。

 無論それはイーリではなく……


「ワットバーンだな。スーツに眼鏡。これほどの適任者はいない。ラビ、イーリ。マリアとワットバーンをここに」


          ♡


デズモア「ガハッ……、こ、これが……、真の愛の力…………、なるほど、私にはない人間の力……か…………」


 そう言って、邪神は頭からチリとなって消えた。

 二人の愛の力に邪神はどうすることもできなかった。


 金色の勇者と桃色の踊り姫は邪神の虚しい結末をじっと見つめていた。

 最終奥義『桃色の少女の恋心』を放った手前、二人はほぼ抱き合う形で佇んでいた。

 そして邪神の姿が完全に消えた瞬間に我に返って、お互いに顔を赤らめた。

 ただ、今までのように照れて、すぐに離れたりはしない。

 勇者としてではなく、男として彼女の温もりを感じていたかった。

 そして桃色の少女もまた同じ気持ちで彼に体を預けている。


 少女は少し背が高いので彼と彼女の顔はかなり近い。

 だから今吐かれた吐息もどちらのものか分からない。


 そんな中、少女は唐突に彼の頬にキスをした。


 勇者は彼女達と色んな触れ合いをしてきたが、この場でいきなりキスをされるとは思っていなかったのだろう。

 流石にびっくりして、先ほどの疲れも忘れて直立不動になってしまった。


マリア「え……? ご、ごめん。どうしても私、キスしたくなっちゃって。嫌……だったよね?」


 桃色の少女は顔に影を落とした。

 その顔を見て、勇者はやれやれと頭を掻いた。

 マリア、彼女は普段は元気一杯の強気な女の子、でも時々不安そう顔をする臆病な女の子。

 どちらが本当の彼女なのか、そんなことは愚問だった。


 確かに彼女との出会いは奇妙奇天烈なものだった。

 この世界に『ステーションワゴン』という訳の分からない存在を教えてくれた彼女。

 そして彼女は戦う理由も不確かなまま、大きな屋敷を飛び出して危険な冒険についてきた。

 彼女のその我が儘っぷりに振り回されたことで、パーティ内で揉め事が起きたこともあった。

 でも、それは彼女なりに焦っていたのだと今なら分かる。


 だから愚問なのだ。

 天真爛漫でわがまま少女、突然影を落としたように暗くなる少女。

 どちらも彼女だし、どちらも彼にとっては尊い存在なのだ。


 でも、どっちが好きかと聞かれれば。

 どちらも大切なマリアと答えるに決まっている。


勇者「マリア、嫌な筈ないだろ。俺は驚いただけだよ。しかもあまりにも嬉しすぎて驚いたんだ。」


 元結婚式場で抱きしめ合う二人の姿は、花嫁と花婿にしか見えない。

 月明かりでさえ彼らを祝福しているのか、二人だけを華麗に照らす。


 ただ、その照らされていないところに、他の仲間がいることも忘れてはならない。

 結婚式、披露宴、その大切なお客様であり、苦楽を共にした仲間でもある。

 そして、そんな仲間からの声が不意に聞こえた。


フィーネ「もうー。焦ったいわね。男なら男らしくなさい。それに今やるべきことがあるでしょう?マリアに先を越れてどうするのよ!」


アイザ「そーゆーのアイザ知ってる。お姉たまが言ってた。勇者たまは、タマな…………」


リディア「アイザちゃーん! ちょっとこっち行ってようかー」


 女性陣からの大ブーイングの意味を勇者も理解している。

 彼女は今までだってずっとアピールをし続けてきた。


勇者「あぁ、皆の言う通りだ。これでは勇者失格だな。マリア、俺はマリアを愛している。だから——」


 そして今度は勇者の方から少女に、少女の唇にキスをした。


マリア「嬉しいよ、アルフレド。本当に、本当に私の気持ちが届いたんだ。本当にありがとう、女神様!」



 その時、女神が祝福の鐘を鳴らした。



 そしてパラパラと拍手が二人に浴びせられる。



エミリ「あぁー。アピールならアタシもずーーっとしてたのにな。でも、マリア。今、最高に綺麗だよ!二人とも、おめでとう!」


ソフィア「うふふ。本当にそのまま逃げ切られてしまったって感じですね。だからちゃんと幸せにならないと私と女神メビウス様から罰がありますよ。勿論、勇者様なら全部幸せに出来ちゃうんでしょうけどね。世界も平和になったことですし。」


ゼノス「おし、次は俺だな。ええっとそうだなぁ……。ガクッ! な、なんだぁ?」


フィーネ「ごめん。つい、足を蹴っちゃった。今はそんなこといいから、ちゃんと二人を祝福しましょうね、ゼノスも!」


勇者「うん、ありがとう。ここにいるみんなは俺の家族だ。みんなに見守られて俺は幸せだ。」


マリア「うん!そうだね。でも、この格好じゃ私が納得いかないかも。だからー、後日盛大な披露宴を開くから。全員絶対参加だからね!」


          ♡


 そして後日本当に盛大な披露宴がマリアの豪邸で開催され、街のみならず国を挙げてのパレードが行われた。


 その一枚絵が描かれる。

 その中には硬っ苦しいスーツ姿でガチガチに緊張している勇者の姿と美しいドレスではしゃぎすぎて、大切な何かをポロリしてしまいそうなマリアの姿があった。

 慣れないドレスに戸惑う仲間たち、マリアの家族一同までもが映り込んでいる。

 ちなみにゼノスが何故かフィーネの隣にいたりするのが、後の世の考察を捗らせることになったという。


「まだ続くんだっけ。えっとここからそして数日後……って感じか」


 更に続く。


          ♡


 勇者はスーツを着て、ひたすら新聞を読んでいる。

 その隣には楽しそうに窓から外を見ているマリアの姿。

 ここは飛行機の中、勇者が持つ新聞は残念ながら上下逆向きだ。


マリア「無理にパパと張り合わなくてもいいのよー!ほら、今日から1週間のハネムーンなんだから。まぁ、みんなも連れて行きたかったから、二人っきりじゃないけどね。」


勇者「いや、諦めるのは早計だぞ。俺は勇者だ。だからコンプリケイテッドなアジェンダだって、シナジーを考えてアサイン出来る筈なんだ。だから、えっとその…………、あああ!」


 勇者が持つ新聞は呆気なく、後ろから伸ばされた細長い手によって奪われてしまう。

 勇者の似合わない行為にフィーネがお節介に来ていたようで、彼女が彼から新聞を取り上げてしまったのだ。

 そしてフィーネは親友マリアの為に彼にそっとアドバイスをした。


フィーネ「折角のハネムーンなんだから、今日はマリアちゃんだけを見ていなさい。勿論、私たちは私たちで楽しむけどね。」


マリア「ありがと、フィーネちゃん。フィーネちゃんたちが来てくれて良かったぁ。ってことでーー、ほら!もうすぐ目的の島だよ! うちが所有している島だからやりたい放題できるの!それにー、パパだけは絶対について来るなって言ってあるからいっぱいラブラブしようね!」


アルフレド「お、お義父さんはいない……のか。よし!それじゃあ今日は羽を伸ばせるな。マリア、愛しているよ。」


マリア「うん。あたしも愛している。これからはずーっと一緒ね。私、いろんなところを見て回りたいの!アルフレド(あなた)がいれば、世界を救ったあたしのヒーローがいれば何処へだっていけるもん!」


          ♡


「さらに、数年後……」


 数人の子供たちとマリアが庭で遊び、そしてロッキングチェアに座ってにこやかに家族を見守る勇者アルフレドが描かれる一枚絵で締め括られる。

 これが2番目か3番目に辿り着きやすいと言われる『逆たま・マリア・エンド』。

 そして、フィーネエンド、エミリエンドと同様に、そこからしばらく待つとオープニング画面に戻る。


 ——どうだろう、これこそが真のハッピーエンドと呼べるのではないだろうか?


 魔王は瞑目した。


(ここのフィーネって絶対にゼノスとくっついてるよね⁉だから、マリアエンドは喜べないんだよ‼これは神視点だけれども‼)


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